避2-69

せつなの声。

せつなの仕草。

せつなの笑顔。

そして、せつなの涙。

あたしが失ってしまったもの―――――大切にしていたもの。

せつなと過ごす時間。それは温かくて、愛しくて、儚いもの。

これ以上ないと思っていた、あたしの幸せの価値観を塗り替えてしまったもの。



チュン――チュン――チュン

小鳥のさえずりに耳を澄ます。今朝は目覚ましのお世話にならなかった。

軽く背伸びをして元気に飛び起きた。

軽やかに身支度を整えて、朝食を済ませ、学校に向かう。

「おはよう、せつな。今日も頑張ろうね」

せつなの写真に向かって語りかける。

「おっはよ~~美希たん、ブッキー。まったね~」

最近張り切ってるねって?
また明るくなったねって?

そりゃそうだよ。いいことがあったんだもの。

もう、あたしの胸につけられた印は消えちゃった。
理想すら超えた未来のせつなも、鮮明には思い出せなくなってきている。

唇の跡、写真に撮れば良かったかな。絵が書けたなら、せつなの姿を残したかったな。

でも、いいんだ。

もう、あたしは明日に希望が持てるから。
明日に繋がる未来に、再び会える日が来ることを信じられるから。

ねえ、せつな。せつなは今、何をしているの?
きっと、誰かのために、精一杯頑張ってるんだよね。
ときどき、寂しくて泣いてるのかな。あたしもそうなんだ。

でも、今なら思えるよ。
引き裂かれた日々だって、宝物にできるって。
会えない時間が、二人の想いを育てられるって。

だから今は貯めようね。
寂しい気持ち。会いたい気持ち。大好きだって気持ち。

大人になったせつなは、とても綺麗だったよ。優しかったよ。素敵だったよ。

だから、あたしも魅力的な女性になるんだ。

せつなが大人になったあたしと出会った時、想像以上だって思ってもらえるように。
せつなの明日と未来に、希望を持ってもらえるように。

大人になったせつなと、共に歩めるあたしであるために。

あたし、精一杯がんばるよ。
最終更新:2010年05月05日 19:53