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桜前線の到来、街が桃色に染まっていく。クローバータウンに最も似合う季節の訪れ。

「おとうさ~ん、おかあさ~ん、こっちこっち~」
「もう、ラブったら恥ずかしいから大声出さないで」
「張り切ってるね。ラブちゃん」
「綺麗ね。見ているだけで、こんなに幸せな気持ちになれるなんて」

ラブと先に場所取りを兼ねて四葉公園にやってきていた。ようやく合流して本格的に花見を楽
しむ。
おとうさんにお酒を注いでから、もっと近くで桜を見ようと近寄った。



「あっ……これは……」
「昨年の春に、ここで怪物が暴れたらしいのよ。その時に枝が折れちゃったのね」

お母さんが後にきていた。

よく見れば、他にも無残に枝が折れたり、無くなったりしてる樹が何本かあった。
戦いが終わっても傷跡は残る。悲しい気持ちで樹皮に手を当て、謝ろうとした。

「見て、せっちゃん。あそこ」
「折れた枝に――あれは、蕾?」

少し他より成長が遅れてはいるが、折れて曲がった枝の先にはちゃんと蕾が付いていた。
やがて花も咲くのだろう。

「ごめんね。ごめんなさい。がんばって! そして立派な花を咲かせてね」

樹に語りかけ、そっと頬を寄せた。



サーっと春風が吹きぬける。

風に舞った桜の花びらが、踊るようにみんなのもとに降りてくる。まるで幸せの嵐。
沢山の樹と無数の桜の花。それを楽しむ大勢の人。見渡す限りの笑顔は、桜にも負けないくら
いに魅力的に感じられた。

「ねえ、せっちゃん。どうしてこんなに沢山の人で楽しむのかわかるかしら」
「みんなと一緒に見たほうが楽しいから?」

正解よ。そう言って私をそっと抱き寄せて、優しく髪の毛を撫でてくれた。
一輪の花びらはとても小さいのに、集まって大きな花になる。そして、儚き短い間でも、精一
杯咲き誇る。そんな姿に人々は感動を覚えるのだろう。

「覚えておいてね。喜びも楽しみも、人はそれを伝え合い、分かち合うことで、その感動をよ
り大きなものに出来るの」

うん。わかってるわ。
ラブやおとうさんやおかあさんや、美希やブッキーから教わったもの。
だから、私も伝えていこう。分かち合っていこう。広げていこう。

笑顔と幸せで世界を満たすために。

「私、精一杯頑張るわ」
最終更新:2010年04月13日 20:37