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み-30

 ♪~~♪~~♪



 うとうとしかけた意識が覚醒する。
 早鐘のように打ち続ける鼓動は、無理な目覚めによるもの。
 収まらないのは……きっと、期待と不安のため。

 そっと、リンクルンを開く。

 ラブ――か。


「もしも~し。美希たん? 今日はお休みなんだよね。久しぶりに声聞きたくなっちゃって。
 あたしはせつなとおとうさんとおかあさんで、恒例の外食デーなんだ」

「もしもし、美希? 普段はお仕事とかで忙しいと思って、連絡できなかったの。
 また今度ゆっくりお話しましょう」


 交互に変わるラブとせつなと、しばらくおしゃべりを楽しんだ。
 一瞬、がっかりして――ごめん。

 嬉しかった。

 また、なんて待てない。本当は――すぐにでも会いたい。

 アタシは……こんなに弱かったのかしらね。

 嬉しくて、楽しい時間はすぐに終わる。これから家族水入らずのお食事会だ。長くは申し訳ない。

 取り残された気持ちになる。

 スケジュール表より大きな――――アタシの心の空白。



 ベッドに体を打ちつけるようにして横になる。

 どうして――――こんな気持ちになるんだろう……。モデルのお仕事は、以前よりもずっと順調なのに。

 どうして――――こんなにも満たされないのだろう……。願っていた平和と自由が戻ったというのに。


 わかってる。
 ほんとはわかってる。
 これはアタシが決めた道。


 同じ夢を追いかけていた自分はもう居ない。
 それぞれの道だから。一人で歩いていかなくっちゃいけないんだってこと。


 余裕ありすぎ――なんて嘘だ。
 あるのは空白――心の隙間――寂しさなんだってこと。


 ♪~~♪~~♪



 そんな。まさか。――――もう、こんな時間だし。
 震える手でそっと開く。

 ブッキー……。



「もしもし、美希ちゃん。今、時間大丈夫?」

 聞きなれた声――誰よりも馴染みのある声――なのに、なんでこんなに緊張してるんだろう。

「平気よ」とだけ、震える声で返事した。

「レミおばさん、今日はお留守だって聞いてね。美希ちゃん、良かったら家にご飯食べに来ない?」

 今から迎えに行くね。そう言って切れちゃった。



 急がなくっちゃ。
 乱れてしまった髪。少し腫れ上がった目。
 主張しすぎず、地味でもない手ごろな洋服は――。

 下着も替えなくっちゃ。え? 見せるわけじゃないわ。身だしなみよ。
 食事の後でブッキーの部屋には行くわ。やましいことなんて無いんだから。

 鏡に向かって自分に話しかける。顔が笑ってる。ゲンキンね。自分でも可笑しくなる。

 アタシのスケジュールと心の空白がブッキーで満たされていく。

 なんだ……やっぱり、余裕ありすぎなんじゃない。
 いつでも会えるのに、一歩踏み出す勇気が無かった――イジケていた完璧じゃないアタシ。

 満たされていると、人はどこまでも欲張りになるのかもしれないわね。



 なんとか間に合った。2階からブッキーが駆けて来るのが見えた。
 余裕を持って降りて迎えてあげよう。そして、感謝の気持ちを伝えるの。

 アタシの――――完璧な笑顔で。

 大好きよ、ブッキー。
最終更新:2010年04月27日 17:59