アットウィキロゴ

み-49

夜の帳が静かに降りる。



朝は友達。昼は仲間。夕方は家族。夜は――最愛の人。

心とカラダを満たしあう。そうなってから、まだ幾月。

生まれたままの姿になる。そして始まりの口付け。

大好きな髪。大好きな肌。大好きな温もり。大好きな匂い。

大好きな――――ひと。

これで――最後。わかってる。そんなのわかってる。

忘れない。忘れたくない。忘れないんだからっ!

記憶に、カラダに刻み付ける。



せつなの孤独――せつなの苦しみ――せつなの後悔。

ねえ、せつな。あたしは受け止めてあげられたのかな。

せつなの心に、何か残してあげられたのかな。

これで本当に、幸せになれるんだよね?



あたしはずっと幸せだと思ってた。

でもね、せつなと出会って本当の幸せを知ったんだよ。

せつなは立派だったよ。

あたしを。おとうさんとおかあさんを。美希たんとブッキーを。

この街のみんなを幸せにしてくれた。

そして、今度はラビリンスのみんなを幸せにしていくんだよね。



何度目か達して、ゆるやかな眠りにつく。

せつなの寝息。せつなの鼓動。せつなの体温。最後の温かい夜。

その温もりが失われていく。肌にふれる、ひんやり冷たい空気。

「ん……せつな……」

離れたくない。離したくない。そんなわがままを寝言に変えて飲み込んだ。



「ごめんなさい」

枕元で囁かれる、せつなの声。やさしく心に響く。

迷惑をかけてごめんなさい。

ダンスを続けられなくてごめんなさい。

寂しい思いをさせてごめんなさい。

他にもあるのかな――――きっと、いろんな想いの込められたごめんなさい。

謝らなくていいんだよ、せつな。

だって、あたしは感謝してるもの。

せつなと出会えたこと。せつなと過ごせた時間。せつなの存在の――全てに。



そのまま寝ているふりをした。

もう――限界だもの。言葉を交わしたら、きっと隠している想いが零れてしまう。

唇に温かいものが触れる。

別れの挨拶? 再会の誓い? それとも――。

ひとつだけ、確かなこと。

たった今から、せつなはもう居ない。この世界の、どこにも居なくなるってこと。



眩いばかりの赤い光が瞬いた。そして、すぐに消え去る。

静寂に包まれる部屋。それはこれからも――ずっと、続くんだ。

目尻から一粒の滴がすっ、と流れて落ちた。

もう、いいよね?

布団にくるまって涙を隠す。泣き顔なんて、誰よりも――自分に見せたくないから。



やがては薄くなり、色あせていく記憶。

でも、これだけは忘れない。

せつなはこの世界を、この街を、心から愛していたってこと。

人々の笑顔と幸せを、誰よりも強い想いで守ろうとしたってこと。

そして、あたしはせつなが大好きだってこと。

どこに居たって、ずっと――ずっと!



あたしたち、精一杯頑張ろうね、せつな。

約束はしないよ。でも――信じているから。いつかまた一緒になれるって。

だから、みんなで幸せゲットだよ。
最終更新:2010年05月15日 09:52