「もうだめぇ…」
あれからさらにホラー映画が好きになってしまったせつな。
思えばあたしの下心が災いしちゃったんだけどさ。
何だかんだでここまで良く耐えたと思うもん.....
それにしてもこの娘は変な物に興味を持つんだよね。
「ラブ?ちょっとラブってば!今度の映画、「過去最大のホラー」だって!」
ほらね。すっかり流行先取りしてるよ。宿題もそっちのけ。
(とほほ…)
あたしの心が嘆いてる。せつなの好奇心がまた、あたしを襲ってきた。
相変わらず目をウルウルさせちゃってさ。そんなに好きなの?
あ・た・し・のこ・と
夕焼け綺麗だな.....
妙な孤独感がラブを包んだ一瞬だった。
いっそ、プリキュアに変身してから見に行けば怖くないかも。
大丈夫?せつな。ううん、パッション!あたしがいるからもう怖くないよ!!!
リアルな話ね。やっぱりせつなは女の子なんだよ。怖くない訳ないんだ。
こんな物に興味を持ったのも実は。
実は!
…アピールだ。
我ながら冴えてる。
今日のラブちゃん完璧。
いや―――幸せゲットしたね
夕暮れに負けず劣らず輝く愛戦士レジェンド。
燃える炎、心の決意、ホラー映画なんてぶっ飛ばせ。
人間はそうも単純に変われません。
そもそも、そんな理由で変身しちゃダメですね。
せつな、チラシ見てニヤニヤしないでおくれ…。
「新しい凶器……今までにない発想を期待したいわ……」
あなたはノーザですか!あたしのせつなはどこ行っちゃったんだよぉ~
「3Dをフルに使って撮影。緊張かつ怒涛の恐怖があなたを襲う」
声に出して読むもんじゃなーい!!!
焦るな。焦るなラブ!
……。
飲まれた。完璧に。信じてたのに。精一杯頑張ったのに。
なっ!リンクルン取り出したよ。
あっ!…予約してる。2押した。
2枚だ.........
お腹痛くなれ当日!違う、もう完売してて!あ、それじゃ後日行く事になるじゃん!!!
〝トントン〟
……っな、ぎゃあぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい.....
「どしたのラブ?」
不思議そうに汗だく顔面蒼白のラブを見つめるせつな。
純粋無垢。
見慣れた顔が、恐怖におののく少女を覗き込む。
3Dより遥かにリアルで、それはそれは画面アップでも大歓迎な笑顔がそこに。
……気が付いたら、あたしはまたせつなを抱きしめていた。
もう何度目なんだろ?時や場所なんてお構いなしでさ。
はあぁ……あたしはいつまでたっても子供だよ。
すっかり腰が引けちゃって、映画館でもないのにこの有様。
おまけに...半べそ
せつなをぎゅっと抱きしめたまま離れられない。
離したくない。
離したくないんだ。
せつな。
せつなせつなせつな………
「ふふ。私が傍にいてあげるから。ね?」
優しい声。
あたしの心に響いてくる。
―――落ち着く―――
ようやく我に帰った時。
抱きしめていた手をゆっくり離して。
「ごめんなさい。怖い思いをさせてしまって」
輝いていた顔はどこか寂しげな表情に変わっていた。
「うぅん。あたしこそいっつも…ゴメン」
恥ずかしいな。また涙声だ。もう何度目だろう。
「私、ラブと一緒にデートがしたいだけなのよ?」
そうだよね。
せつなはまだまだこっちの事を知らない。
たまたま、好きになってしまったのが〝ホラー映画〟だったんだ。
それなのに。
せつなはあたしを心配してくれた。
傍にいてくれるって言ってくれた。
嬉しいな。
―――――ありがとう
あたたかい何かが、あたしの中を駆け巡る。
胸をぎゅっと締め付けられるこの―――思いと。
……もーちょっとだけ、根性出しますか。
変な決意だなーと思いながらも、せつなに感謝。
大感謝かな。
が、しかし。
あたしはせつなに当日抱きついちゃうのは目に見えていた。
始まりから終わりまでずっと。
間違いないね………うん。
凛々しいせつながそこにはいるの。
あたしにはにこっと微笑んで。
でも。
スクリーンを見つめる眼光は鋭いんだな。
終始、握り続けてくれた手。
あたしはやる事ないからポップコーンばっかり食べちゃうんだ。
はたから見ればラブラブなカップルにも見える。
それはそれで.....アリでしょ。
んまぁ、せつなはあたしの王子様な訳ですし。
なーんにも問題無い訳ですよ。
ああ!!!でもやっぱホラー映画はやですよ、せつなさぁぁぁん!
あ。
いいの?これで。本当に。毎度毎度同じパターンじゃないか。
「今回の映画、最高の技術力だったね。せつなは楽しめた?
学園祭の出し物の参考になったよ。だから、一緒の担当になろうね!」
わはー!
完 璧 だ ね 。
せつなは頬を赤く染めてさ、「お願い。一緒にやらせて…」そう呟くんだよ。
どうしたあたし。
いつも以上に冴えてるじゃん。
基本、あたしのお願いは何でも聞いちゃう節のあるせつな。
とってもかわいい子。
何を今更状態ですがね。
妄想ノンストップ超特急。
今のあたしに終着駅はないんだなー。
「映画館では私を安心させてね?」
せつなが確かめるようにあたしに微笑む。
寒気がした。
これが理想と現実。
裏を返せば期待されてる証拠なんだけどね。
……。
プレッシャーなんですけど?
恋人検定ですか?試されてますか?あたし。
「もっ、もっちろんですよぉぉぉ…」
2オクターブあがっちゃったよ。カッコわるい.....
あたし。
桃園ラブ。
キュアピーチ。
満場一致で自信無いです。
何とかなりませんかね。
なりませんよね。
〝デート〟なんですから。
「なんて冗談よ。私だって怖いんだから。」
…。
……。
………。
あたしで遊ばないでよっ!
ちょっとふくれっ面。ぶぅー
でも何か楽しくて。
こうやってじゃれあうのもカップルの特権だし。
飴とムチだっけ、こーゆーの。
飴だらけじゃお腹いっぱいだもんね。
むはー、せつなとデートは奥が深いのだ!
あ…。
律儀にカレンダーに赤丸付けてるよこの子.....
もーちょっと余韻を楽しみましょうよぉ~
どうせ当日は赤っ恥な訳だし、ラブちゃんは………。
映画終わった頃には疲労困憊。絶対衰弱。赤目だよ。間違いない。
でもさ、遠足と一緒なんだろうな、今のせつなは。
一日一日のカウントダウンが楽しみで楽しみでしょうがないんだ。
その気持ち、あたしにはわかるよ。
せつなの思い出はあたしの思い出。
せつなが楽しければあたしも楽しい。
せつなが笑顔ならあたしも笑顔。
恐怖なんてどこ吹く風さ。
愛ある印でねじ伏せちゃうぞーーー!!!
足しびれちった。あはっ
~END~
最終更新:2010年05月23日 00:04