自室に戻って写真立てを手に取る。
おとうさん。おかあさん。ラブ。そして、シフォン。タルト。
私の――大切な家族。
何度見ても変わらない笑顔。当然よね、写真なんだもの。
そして、どこか寂しげな笑顔。それも――変わらない、ずっと――。
四ツ葉町を離れて一月が過ぎた。
ようやく、自分の部屋で寝られる程度には仕事も落ち着いてきたの。
毎日少しづつ、日記を書こうと思うの。
その最後を綴る言葉。
それは――――あなたへの“おやすみなさい”
せつなが居なくなって、今日で一ヶ月になる。
さっきね、おかあさんが初めてせつなの名前を口にしたの。
「元気にしてるかしら」って。
ほんの少しだけ、せつなが居ないって事に向き合えるようになったんだね。
“居る”ことに慣れるのは一瞬なのに、“居ない”ことに慣れるのはすっごく時間がかかるの。
不思議だよね。
写真立てを手に取る。少し寂しそうなせつなの笑顔。
今のせつなは、どんな風に笑ってるのかな? 笑ってるよね、大丈夫だよね?
あたしは毎日笑ってたね。うん、今でも笑ってるよ。
でも、部屋の中で笑うことは無くなっちゃった。
笑顔って、好きな人と一緒に居る時にだけ生まれるものなんだよね。一人では――なれないよ。
静かになっちゃった部屋。たっぷり余る夜の時間。
毎日少しづつ、日記を書こうと思うの。
その最後を綴る言葉。
それは――――あなたへの“おやすみなさい”
ちょっと自信がない時も。
少し落ち込んだりした時も。
困って泣きそうになった時も。
いつも側に居て助けてくれる。
すっごく美人なのに、どんな男の人よりかっこいい。
それでいてどこか可愛くて、ちょっぴりあわてんぼ。
クールなふりして人情深くて、ほんとはとっても優しい。
アタシ完璧なんて言いながら。
頭の中はいつも家族や友達の心配ばかり。
わたしは美希ちゃんが好き。
なんてね、日記でならこんなに簡単に言えるのにね。
その最後を綴る言葉。
それは――――あなたへの“おやすみなさい”
パジャマパーティーを思い出す。
賑やかな夜――アタシには普段は縁の無い団欒。
とても楽しみで待ち遠しくて、そしてあっという間に過ぎてしまう。
一人の部屋に戻った時の静けさが怖い。
なんて――ね。
嘘よ。
アタシには怖いものなんてないもの。
赤いアレは別だけど。ああ、せつなのことじゃないわよ。
でも、大好きな人におやすみなさいって言える生活。
とても素敵ね。
いつか、毎日言える日が来る。そんな夢を見ながら日記を書くの。
その最後を綴る言葉。
それは――――あなたへの“おやすみなさい”
最終更新:2010年05月26日 05:32