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酒3-107

自室に戻って写真立てを手に取る。
おとうさん。おかあさん。ラブ。そして、シフォン。タルト。
私の――大切な家族。

何度見ても変わらない笑顔。当然よね、写真なんだもの。
そして、どこか寂しげな笑顔。それも――変わらない、ずっと――。


四ツ葉町を離れて一月が過ぎた。
ようやく、自分の部屋で寝られる程度には仕事も落ち着いてきたの。

毎日少しづつ、日記を書こうと思うの。
その最後を綴る言葉。

それは――――あなたへの“おやすみなさい”






せつなが居なくなって、今日で一ヶ月になる。

さっきね、おかあさんが初めてせつなの名前を口にしたの。
「元気にしてるかしら」って。

ほんの少しだけ、せつなが居ないって事に向き合えるようになったんだね。

“居る”ことに慣れるのは一瞬なのに、“居ない”ことに慣れるのはすっごく時間がかかるの。
不思議だよね。

写真立てを手に取る。少し寂しそうなせつなの笑顔。
今のせつなは、どんな風に笑ってるのかな? 笑ってるよね、大丈夫だよね?

あたしは毎日笑ってたね。うん、今でも笑ってるよ。
でも、部屋の中で笑うことは無くなっちゃった。
笑顔って、好きな人と一緒に居る時にだけ生まれるものなんだよね。一人では――なれないよ。

静かになっちゃった部屋。たっぷり余る夜の時間。
毎日少しづつ、日記を書こうと思うの。
その最後を綴る言葉。

それは――――あなたへの“おやすみなさい”






ちょっと自信がない時も。

少し落ち込んだりした時も。

困って泣きそうになった時も。

いつも側に居て助けてくれる。


すっごく美人なのに、どんな男の人よりかっこいい。

それでいてどこか可愛くて、ちょっぴりあわてんぼ。

クールなふりして人情深くて、ほんとはとっても優しい。


アタシ完璧なんて言いながら。

頭の中はいつも家族や友達の心配ばかり。


わたしは美希ちゃんが好き。

なんてね、日記でならこんなに簡単に言えるのにね。

その最後を綴る言葉。

それは――――あなたへの“おやすみなさい”






パジャマパーティーを思い出す。

賑やかな夜――アタシには普段は縁の無い団欒。

とても楽しみで待ち遠しくて、そしてあっという間に過ぎてしまう。

一人の部屋に戻った時の静けさが怖い。


なんて――ね。

嘘よ。

アタシには怖いものなんてないもの。

赤いアレは別だけど。ああ、せつなのことじゃないわよ。


でも、大好きな人におやすみなさいって言える生活。

とても素敵ね。

いつか、毎日言える日が来る。そんな夢を見ながら日記を書くの。

その最後を綴る言葉。

それは――――あなたへの“おやすみなさい”
最終更新:2010年05月26日 05:32