避2-124

もう。
いつまで待てばいいのよ。
アタシはそんなにヒマじゃないの。
大体、なんで買い物に行くだけなのにそんなにおめかししちゃってる訳!?

そりゃね。
アタシが完璧すぎるから気負っちゃうのはわかるわよ。
隣にいるだけで幸せなハズだし。

あなたにとってはさぞかし、大切な日なんだろうけど。



「ごめんねぇ~、もう少しだから~」
「全然!ゆっくり準備していいわよ。アタシいくらでも待っちゃう!」



…。
何…、コレ。

アタシもう一時間も待ってるのよ。
せめてお部屋で待たせてよね.....


左手の時計を覗き込むと、自然とため息が出た。

勿体無い。
過ぎて行く一分、一秒。
こうしている間にも、時は進んで行く。


「ねぇ?ブッキー」
「ん~?」





「寂しいんだけど…」

彼女にとっての本音が出た瞬間だった。
彼女しか聞き取れない程の―――声で





気がつくと、アタシは祈里の部屋の前に立っていた。
ドアは開いていたので、祈里はすぐにアタシの気配に振り向く。

「あ~ごめんね美希ちゃん」
「ブッキー…」

一生懸命おめかしをする彼女。
トレードマークのリボンは今日も健在で。
いつもより大き目のかわいい、祈里ならではアクセント。

鏡にむかってにっこり微笑む彼女。
〝ちょん〟とリボンにタッチしてアタシの方へ振り向く。

「おまたせしましたぁ~」





不思議とアタシも笑顔になってて。
イライラしたし、ずっと待ちぼうけだったのに。
玄関にいた事が何だか遠い過去みたいな感じ。

「念入りだったわね」

「だって美希ちゃんとデートだもん」
「デートって大袈裟よ。ただの買い物じゃない」
「えっ...」


「………」
「…」


デリカシーに欠けてた。
後悔。


「ま、まぁ行きましょうよ!ほらっ」
「美希ちゃん…」

俯いたまま動かない祈里。
手を引っ張っても力なくすり抜けてしまう。



「ゴメン」



「うぅん...」


祈里は今日ををずっと、待ってたのかな。
わくわくしてたのかな。
普段は決してオシャレをしない子。
どこか引っ込み思案で、妹のような存在だった。


今日の約束だって、アタシは妹のワガママに付き合うぐらいの気持ちだったのかもしれない。


アタシは―――――





「迷惑…だよね」
「違う!そんなんじゃ...」

「わたしね。美希ちゃんの事が好き。昔も、今も、この先も、ずっと、ずっと…」
「ブッキー…」




確かにあの時、アタシは寂しさを感じた。
近くにいるのに、会えない孤独。

待たされているのに、あなたの笑顔を見たら嫌な気持ちは消えて無くなった。

それよりも。
自然と足があなたの方へと進んだ事が―――不思議に思えた。



なのにアタシは。

抱きしめる事さえ、出来なかった。





ねえ、祈里。
もう少しだけ、待っててくれるかな。

アタシね。
気持ちの整理…、してくるから。

妹なんかじゃないよね。
ゴメン、本当に。




本当に.....ゴメンね。






「…いや。」
「え?」

「一人にしちゃ…」
「ブッキー?」



「一人にしないで.....」




アタシは祈里をそっと、ベッドの上に座らせた。
アタシもまた、横に座って。


言葉が出てこなかった。

言葉なんていらないかなとも思ったし。


ふと、かわいいリボンを見詰めると。
心の奥が凄く、痛くなった。


締め付けられる想い。
祈里の寂しそうな表情がより一層、アタシを苦しくさせる。




「祈里?」

「…なに?」



「愛しても………イイ?」
「!?」






心の整理、するはずだったのに。
もう少し、アタシが成長してからでも遅くないかなって思ったのに。


思った―――のに














悲痛な叫びがまだ、アタシの脳裏に焼き付いている。


でも。

でもね、祈里。
これでイイの。

これしか…




その代わり。

もう二度と―――あんな想いはさせない

孤独になんて――――させないから

だから。


だから.....












「美希ちゃん」
「何?祈里」

「また…買い物行ってくれるよね?」
「ふふ。当たり前でしょ」




~END~
最終更新:2010年06月16日 00:58