思い出?
私には、戻りたい思い出なんて、ない。
Memories of Love
「はぁぁぁぁっ」
力を溜め、一気に跳躍する。その鋭い視線の先には、一眼の怪物の姿。
「ハイ、チーズ!!」
クルクルと回る三脚の一本にしがみつき、鉄棒の要領で体を回転させて蹴りを
浴びせるが、
「くっ!!」
瞬間移動のように消えるナケワメーケに、空振りに終わってしまった。
タタッ、と着地するキュアパッション。その隣に、ベリーとパインも降り立って。
「強い......!!」
「――――でも」
「負けられない!!」
ボロボロに傷付きながらも、少女達は立ち上がる。ナケワメーケの攻撃によっ
て思い出の世界に送られたピーチ。彼女の目覚めを信じて。
「愚かだな。もう目覚めることなど無い仲間を待ち続けるとは」
「いいえ!! ピーチは絶対に、帰ってくるわ!!」
「ええ!! わたし、信じてる!!」
サウラーの言葉に、肩で息をつきながらも、ベリーとパインは力強く返す。そ
の様に、苛立たしげに眉を顰めた彼は、
「ふん、愚かな。やれ、ナケワメーケ」
「ハイチーズ!!」
再び突進してくる巨体に、三人は大地を蹴って飛び退った。ドン、と怪物の足
がアスファルトに大きな穴を開ける。
「――――!? ピーチ!!」
衝撃に崩れるビル、飛び散る瓦礫。その一つが一直線に向かう先を見て、パッ
ションは凍りつく。
「あわわわわ」
「プ、プリプー!!」
タルトとシフォン、そして眠っているかのように目を閉じているピーチ。この
まま行けば、あの瓦礫は彼女達を押し潰してしまう。
「――――くっ!!」
空中で強引に体を捻り、ビルの壁を蹴って、パッションは勢い良く飛んだ。
「も、もうあかん~」
迫り来る巨大な物体に、ガバッとタルトがうずくまってしまった瞬間、
「はぁぁぁぁ!!」
彼女はその瓦礫に体ごとぶつかっていった。ドン、と大きな音と共に、瓦礫は
方向を変える。そしてピーチ、タルト、シフォンの誰にも傷を付けず、地面に
落ちて大きな土ぼこりをあげた。
「パッション~」
危なかった。思いながら着地したパッションは、シフォンの可愛らしい声に微
笑を返そうとして、
「――――うっ」
脇腹を抑える。空中で急に体勢を変えたから、痛めてしまったらしい。無論、
耐えられないという程ではない。事実、彼女が顔を歪めていたのは、ほんの一瞬
のこと。
だがその一瞬の隙を、ナケワメーケは見逃さなかった。
「ハイ、チーズ!!」
「えっ!?」
動きが止まった瞬間を、狙われて。
目の前に閃光が走ったと思った瞬間、キュアパッションは意識を失ってしまっ
たのだった。
「スイッチ・オーバー!!」
イースの姿から、彼女は東せつなへと変わる。
「――――え?」
それを見たピーチの顔に、驚愕の表情が浮かんで。
「せつな――――? どうして、せつなが......?」
「ピーチ!! 彼女は敵よ!! せつなは、ラビリンスだったのよ!!」
「そんな......」
駆けつけたベリーの言葉に、ピーチは体を震わせる。
「嘘......だって、せつなは、アタシの友達で......」
彼女の脳裏を過ぎる、数多の記憶。せつなと過ごした時間が、その光景が、心
に浮かび上がって。
「嘘......」
信じたくない。思いと共に溢れた言葉は、あまりにか弱く。
イースは、暗い目で、ピーチを見つめる。
「私の目的はただ一つ」
言いながら、彼女は首にかけていたペンダントを地面に落とす。
「お前達を倒すことだ」
そして四葉のクローバーをヒールで踏み割ろうとした瞬間。
「――――!?」
彼女の動きが止まった。呆然としたまま、自分の両の手を見つめるせつな。不
可思議な彼女の行動に、戸惑うプリキュア達。
「ピーチ、ベリー、パイン――――ここ、は?」
言いながら、せつなはあたりを見回す。目の前に広がるのは、破壊されたスタ
ジアム。すでに主のいないステージは、がらんとしてどこか物悲しい。
そこでようやく気付く。そうだ。私はナケワメーケの攻撃を受けて、思い出の
世界に飛ばされたんだ。でもどうして――――
「――――!!」
慌てて彼女は、足をどかしてかがみこんだ。
「良かった。壊れてない」
まだ体重をかける前だったからだろう。四葉のクローバーのペンダントは、少
し汚れてはいるものの、割れてはいなかった。
ホッとして、胸にそれを抱きしめるせつなの姿に、ピーチ達は呆然とする。つ
い先程――――ほんの一瞬前までは、憎悪の黒いオーラを放っていた彼女が、
今は穏やかな顔をしている。あまつさえ、自分で踏み潰そうとしていたペンダ
ントが壊れていなかったと、涙ぐんでさえいるのだから。
「せつ、な?」
変身を解き、ゆっくりと近付いてくるラブに、せつなはニッコリと微笑んで見せた。
「壊れてないよ。四葉の、クローバー」
そう言った瞬間。
ナキサケーベを操っていた体が限界を迎えて。彼女はふらり、と前のめりに倒
れ込む。
「せつな!? せつな!!」
心配そうに駆け寄ってくる、ラブの声を聞きながら、せつなは思う。
これが――――私の、戻りたい思い出?
心の中でそう呟きながら、ゆっくりと彼女は意識を失ってしまったのだった。
「――――!?」
かけられていたタオルケットを跳ね除けながら、せつなはガバッ、と体を起こす。
「あ。起きた? せつな」
タオルを絞っていたラブが、振り向いて笑いかけてくる。半分、朦朧とした意
識で辺りを見回す。ここは――――ラブの部屋だ。
「急に倒れこんじゃったから、ビックリしたよ。やっぱり、あの怪物を操るので、
消耗しちゃってたんだね。それで、うちにつれてきたんだけど、目が覚めて良かった」
言いながらラブは、机の上の皿を手に取り、せつなに差し出す。その上には、
皮をむかれて切られた、瑞々しい白桃。
「よく冷えてて、とってもジューシーだよ。食べて、元気を出してね」
「――――うん」
言われるがままに、彼女はフォークでそれを一つ、口に運ぶ。噛んだ瞬間に、
口の中に広がる果汁。その甘みに思わず、
「美味しい」
せつなはそう呟いた。その顔を見て、ラブはニコニコと笑う。
「良かった。せつな、元気になったみたいで」
「――――ありがと、ラブ」
言って、せつなは食べ終えた皿を机の上に戻そうとして、
「あ......」
そこに置かれたものに気付く。それは、彼女がいつも首からかけていた、四葉
のクローバーを模した、緑の綺麗なペンダント。
せつなはそれを手に取って、マジマジと見つめる。
壊れてない。綺麗なまま。私と、ラブとの間を結んでいた、絆。
「せつな――――?」
不思議そうに見つめてくるラブに、彼女は誤魔化すように笑いながら、ベッド
から起き上がる。
「あ、せつな。まだ寝てなくちゃダメだよ」
「トイレに行きたいだけよ」
「なんだ、そっか。トイレならね」
「大丈夫、知ってるわ」
「え? なんで? せつな、うちに来たことあったっけ?」
怪訝そうな彼女に微笑を返してから、せつなは一人、廊下に出た。
トイレから戻ってくる時に、もう一つの部屋の扉が目に入った。現実の世界で
は、せつなのものになった部屋だ。『せつな/SETSUNA』と書かれたプレートは、
しかしこのドアには、かかっていない。そっとノブを開いて中を覗くが、そこに
は彼女の机も、彼女のベッドもない。だいたい、今、自分が着ているパジャマだ
って、ラブのピンクのパジャマだ。
やっぱり、違うのね。
思いながら扉を閉めると、階段を上ってくる足音が二つ。
そちらを振り向くと、色々な荷物を抱えた美希と祈里、そしてタルトとシフォ
ンの姿がそこにあった。
「せつな」
「せつなさん......」
体を強張らせる二人。そのどこかよそよそしい態度に、せつなは苦笑する。本
当に、違う。
「そんなに心配しないで、美希、ブッキー。私はもう、イースじゃないわ」
「へ?」
「せつなさん、今、ブッキーって呼んだ?」
驚きに目をパチクリとさせる美希と祈里に笑いかけながら、せつなはタルトの
背中からシフォンを抱え上げる。
「ああ、なにするんや!!」
慌てるタルトをよそに、彼女はシフォンを抱え上げた。不思議そうな顔をして
いたシフォンだったが、せつなの見せた笑みに、キャッキャと喜びの声を上げ出して。
「どうなってんの?」
「さぁ......」
「ほんまに、イースやないんか?」
口々に戸惑いを現す彼女達に、シフォンを抱きかかえたまま、せつなは真剣な
表情になって言った。
「詳しいことは、これから話すわ。ひとまず、ラブの部屋に戻りましょう」
言って背中を向けるせつなに、美希達は結局、最後まで唖然として顔を見合わ
せていたのだった。
「思い出の、世界......?」
「せつなが、四人目のプリキュア?」
「キュア、パッション?」
「ええ、そう。私はキュアパッションとして生まれ変わって、皆と一緒に戦ってる。
けれど、ナケワメーケの力によって、この思い出の世界に送られてきてしまった」
ベッドに腰掛けて話すせつなの言葉に、少女達三人は戸惑いを隠そうとはしな
かった。無理もない、とせつなは思う。一体どういう原理でこの世界が成り立っ
ているかはわからないが、彼女達の言動はいたって普通だ。普通だからこそ、言
われてもにわかに受け入れられるものではないだろう。
「アタシ、信じるよ!!」
そう思っていたせつなだったが、しばしの沈黙の後に、ラブは突然、勢い込ん
で言った。
「せつなが言うことだもん。嘘じゃないって、アタシ、信じるよ」
「でもせつなは、自分がイースだってことを隠してたのよ?」
ラブの言葉に、美希は冷静な一言を浴びせた。思わず、せつなは目を伏せる。
向けられているのは、疑いの眼。仕方のないことだとわかっていても、辛い。
現実の美希を知っているから、なおさらに。
「けど、美希タン......」
「ラブ、貴方の信じたい気持ちはわかる。けれどね――――」
「プリプー!!」
ラブの言葉を遮り、言い募ろうとした美希。だが突然に、シフォンの額のマー
クが光り、ラブの部屋の窓を照らし出す。
「な、なに?」
驚きの声を上げる少女達の前で、窓ガラスの向こうの空が消える。そこに映し
出されたのは、
『ピーチ!! パッション!!』
『お願い、目を覚まして!!』
ピーチとパッションの体にすがりつく、キュアベリーとキュアパインの姿だった。
「これで、後は二人」
ほくそえむサウラーを、ベリーとパインはキッと睨みつける。
「よくもピーチとパッションを!!」
「許さないんだから!!」
飛び掛る二人だったが、ナケワメーケが彼らの間に割り込んで襲い掛かってくる。
「ハイ、チーズ!!」
「!!」
咄嗟に二人は、互いの掌を押し合い、ナケワメーケの放つ光をかわした。その
まま別々のビルの屋上に降り立ち、再び構えを取る。その体は、何度も跳ね飛ば
されたせいか、すでにボロボロで埃まみれだ。
それでも、彼女達は立ち上がる。
「往生際が悪いね。もう諦めたらどうだい?」
「誰が諦めるもんですか!!」
「ピーチもパッションも、必ず戻ってくるって、わたし信じてる!!」
言葉と共に駆ける二人。三人でも厳しかったのに、二人になってしまっては勝
てる気がしなかった。
だがベリーもパインも、決して心が折れることはなかった。それは、仲間が帰
ってくることを信じているから。
「あれは......あたし達?」
「あそこにいる赤い人が、キュアパッション?」
美希と祈里の言葉に、せつなは頷く。シフォンの力が働いているのだろう。だ
からこうして、現実の世界を垣間見ることが出来た。
「やっぱり、せつなが言ってることはホントだったんだ!! ね、美希タン」
「はいはい、どうやらそうみたいね」
顔を輝かせながら言うラブに、美希は苦笑しながら頷いた。そして彼女は、せ
つなに目を向ける。
「せつな、一つだけ教えて?」
「なに?」
「どうしてせつなは、この時間にきたの?」
同じことを、ラブも祈里も思っていたのだろう。向けられる三人の視線に、せ
つなは首からペンダントを外して手に持った。
「多分、これのせい」
「幸せの、四葉のクローバー?」
「ええ。ラブからもらった、私の宝物――――だけど、私はこれを壊してしまった」
東せつなにとって、思い出と呼べる程のものは多くない。何故なら、ラビリン
スにいた頃の、イースであった自分に、戻りたいと思える記憶はなかったから。
生まれ変わってからのほんの一月ほどこそが、何よりも大切な時間だった。
だがそれは、思い出と呼ぶ程、色あせているわけではなくて。
だから、ナケワメーケの攻撃を受けても大丈夫だと思っていた。しかし実際には。
「戻りたい思い出の世界に送り込めば、そこから帰ってこれなくなる――――サ
ウラーはそう言ってたわ。私には戻りたいと思える記憶はないと思ってたけれど、
一つだけ、あったみたい。多分それは、すごく、後悔してたから」
「ペンダントを、壊したことを?」
ラブの言葉に頷いたせつなは、穏やかな目で彼女を見つめた。
「でも、やっぱり違った。たとえペンダントを守れたとしても、私はこの世界に
ずっとはいられない」
だってこの世界には、私の部屋はないから。私の机も、私のベッドも、私のパ
ジャマもないから。
ラブと戦って、寿命が来て、生まれ変わって、桃園家の家族となって。
その全ての記憶は、確かに愛おしい。けれども、その過去よりも、これから先
の未来への希望の方が愛おしい。
ペンダントを壊したことは、これから先もずっと、後悔するだろう。けれどそ
れよりももっと大切なものを、私は手に入れた。
「それに、私には待ってくれてる人がいる。だから――――私、帰るわ」
窓ガラスには、戦い続けるベリーとパインが写っている。彼女達の為にも、自
分は、戻らなくてはいけない。
せつなが強く決意すると共に、彼女の体が光に包まれていく。その手に持って
いたペンダントは、ゆっくりと粉々に砕けていった。いつか、彼女が踏み潰した
時の姿に戻ったのだろう。
その様を見て、少しだけ彼女は寂しそうな顔をする。決めたこととはいえ、や
っぱり。
「待って、せつな!!」
「え?」
ラブが声と共に、せつなの手を掴み、美希と祈里を見た。目で語り、頷きあう
三人の少女達。そして重なる、四人の手。
「ペンダントは、もうないかもしれないけれど」
「見えなくてもきっと、あたし達との絆があるから」
「わたし達四人で、四葉のクローバーだよ」
「みんな......」
彼女達の笑顔に、せつなは目をうるませる。
そうだ。これもまた。
手に入れた大切なものの一つ。
『きゃぁぁぁっ』
「あわわわわ、こらあかん!! ピーチはーん、パッションはーん、目ぇ覚まして
ぇな」
吹き飛ばされるベリーとパインに慌てながら、タルトは必死に二人に声をかける。
「何度も言うようだけれど、無駄だよ。甘美な思い出の世界から、戻って来たい
と思う人がいるかい? 時間の無駄だから、早く諦めてくれたまえ」
「そうはいかない」
「――――なに?」
言葉と同時に立ち上がるキュアパッションに、サウラーは驚きの声を上げる。
「パッションはん!!」
「キュアキュアー♪」
驚くタルトと嬉しそうなシフォンに笑いかけてから、パッションは再び宙を舞う。
「やっ!!」
サウラーの動揺が伝わったのか、動きの止まったナケワメーケに、パッション
は蹴りを叩き込んだ。ずんっ、と地響きを立てて倒れる怪物の前に、パッション
は立ちはだかる。
「パッション!!」
「良かった......本当に......」
「ベリー、パイン、お待たせ!!」
歓喜の声をあげて駆け寄ってくる二人に、パッションはもう大丈夫とばかりに
微笑む。
「これであとはピーチだけね」
「きっと、すぐに戻ってくるわ」
「うん!! わたし、信じてる!!」
漲る力で三人は。
「えぇい、やってしまえ、ナケワメーケ」
「ハイ、チーズ!!」
再び怪物へと飛び掛っていったのだった。
「そっかー。せつなはそんなことがあったんだ?」
「ええ。ラブはおじいちゃんに会えて、良かったわね」
「うん。そうだね。おじいちゃんのこと、思い出せて、本当に良かった」
写真館からの帰り道、ラブとせつなは互いに、思い出の世界のことを語り合ってい
た。
祖父と出会えたという彼女の顔は、とても嬉しそうで、せつなの心も暖かくなる。
話を聞いただけでも、素敵な人だったんだろう、そう思えるのだから。
「いいわね、家族って」
「ホンマやなー」
何気なく呟いたせつなの一言に、彼女が抱えていたタルトも頷きながら答えた。
と、唐突に、シフォンを抱えたラブが立ち止まる。
「ラブ? どうかした?」
「二人とも、わかってないっ!!」
珍しく怒った顔を見せるラブに、シフォンもキュアキュアーと眉を上げてしかめ面
を見せた。せつなとタルトは、急な二人の態度に目を白黒させるしかなく。
「ど、どうしたのよ、ラブ」
「なんや、わいら悪いこと、言うたか?」
「あー。やっぱりわかってないんだ!!」
「キュアキュア、プリプー!!」
唇を尖らせて顔を近づけてくるラブに、せつなは思わず後ずさりをしながら問いか
けた。
「わかってないって――――なにを?」
「あのねぇ。せつなもタルトも他人事みたいに言うけれど、二人だって家族の一員な
んだよ?」
もちろんシフォンも。しっかりと名前を挙げられたことに、シフォンは満足そうに
はしゃぐ。
「か、家族・・・・・・」
「わいらもか?」
「そう。桃園家の一員という自覚が、二人には足りなーい!!」
ビシッ、と指差されて、思わずせつなとタルトは、
「ご、ごめんなさい」
「堪忍したってや」
謝るが、ラブは不機嫌そうなまま腕を組み、何かを考え込んでいる。そして、
「やっぱりこれは、ちゃんと証拠を残しておかないとダメだよね。自覚を促すという
意味でも!!」
「え? 証拠?」
一体何を言い出すのか。首を傾げるせつなの手を取り、ラブは急に駆け出した。
「ちょ、ちょっと、ラブ」
「証拠といったら、やっぱり写真だよね!!」
「ええ? どういうこと?」
「お父さんにお願いしてみる!! 家族でまた写真を撮りに行こうって!! お父さん
とお母さんと私、それらせつなとタルトとシフォン、皆で写真館で撮ってもらおう!!」
出来上がったらおじいちゃんの写真の下に飾ってもらうんだー。そう言いながら、
さっきまでの表情が嘘のように、晴れ晴れとした顔を見せるラブ。手を握られ、後を
追うせつなは、彼女の言葉に心を揺り動かされて。
「ピーチはん、ホンマ、 ええ子やなぁ」
「うん。ホントに」
振り落とされないようにしがみついてるタルトの言葉に、せつなは。
ニッコリと笑って頷いたのだった。
そして、数日後。
クローバータウンストリートの写真館に、また新しい一枚の写真が飾られた。
圭太郎とあゆみ、そしてシフォンを抱えたラブと、タルトを抱えたせつな。皆並ん
で、微笑みながら映っている。もちろん、その上に飾られた写真は、ラブの祖父が写
されたもの。
少女達の、花を咲かす直前のつぼみのような美しさが切り取られたその写真は。
桃園家にとっても、いつまでもいつまでも、大切なものとなったのだった。
最終更新:2010年01月24日 09:14