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「ちょ、ちょっとソレ…」
「何?変かしら?」


四ツ葉町にも海開きの季節がやってきた。
七月中旬の、それはそれは日差し厳しい日に起きた出来事。


「ちょっと胸が苦しいかも」
「で、でしょうねぇ.....」

頭を抱える美希。
自身はその磨かれたプロポーションを武器に、砂浜を歩く人々を虜にしている。

一方。

見慣れた水着。
明らかにそれは…ラブが去年まで着ていた水着だ。


(おさがり…って)
まさかの展開に唖然としてしまう美希。
呆然とその姿を見詰めるせつな。


自由よね。何を着たって。
何度も自分に言い聞かせ、我に返る完璧少女。

「さっきから変よ美希」
「はっ!?あ、えっと…」

海開き初日。ある意味、記念すべき日。
せつなにはもっともっと、たくさんの経験や思い出をと思い誘ってみた。


自分でどんどん突き進む少女と、一歩引いて冷静に物事を見詰める少女。
思い起こせば、本当に仲良しになった二人。距離も縮まり、会話も弾むようになった。

あの頃の思い出は薄れて、今は積み重ねていく時間の方が多くなっていた。


「歩きましょ、美希」
「えぇ」

ナチュラルスタイリッシュ。
せつなは隣で颯爽と歩き続ける美希を横目で見ながら、少し嫉妬してみせる。
神様はどうしてこんなに差を付けるのと。

「羨ましいわ、美希が」
「どうかした?」

じっと自分を見詰めるせつなを見て、美希はすぐに察知する。
そして思う。

気合入れすぎちゃったかな…と。





持参したパラソルの下で、二人の少女は寄り添う。

冷えたストレートティーとラムネ。
サングラスと麦わら帽子。

雲一つない青空と、大きな海。キラキラ輝く水面と心地よい風。


「ソレってラブの水着でしょ」
「怒ってるの?」

顔に出てしまって思わず赤面する美希。
作戦成功と心で呟くせつな。



泳いでカッコイイ所を見せようと考えていたけれど。
いつも通り、自然体のまま。成り行きのまま、おしゃべりしてるのも悪くないかなって。

何かこう、そばにいるだけでイイ。

うん。
アタシ、幸せ感じてるかも。





いつになったら泳ぎ教えてくれるのかしら?
水着だって恥ずかしいのに…。ラブのだから着れるのよ?
そもそも、私が泳ぐの苦手って伝えるのも何か嫌…。

美希、笑うかもしれないし。



もう少し、こうしていようかしら。






互いのバッグには日焼け止めのクリームと、トリニティのチケットが二枚。
チャンスが来るのは何時になることやら。







「美希、ちょっとくびれすぎじゃない?」
「せつなこそバランス良すぎ」




~END~
最終更新:2010年07月15日 01:06