アットウィキロゴ

酒3-204

 ギラギラと照りつける熱い日差し。
 海辺特有の、塩の香りを含む強い風。
 真っ白な砂浜と、その先に広がる真っ青な海。
 シンプルな二色に統一された視界に、心も広々と晴れ渡る。

「わっは~~――う~~み~~だ~~!」
「待って、ラブちゃん。先にテント作っちゃおう」
「いきなり脱いでるんじゃないわよ、ラブ……」

 海開きの日に合わせて、圭太郎とあゆみが四人を海水浴に誘ったのだ。
 混むといけないから、ということで先にラブたちが場所取りとテントの準備なんかをす
ませる手はずだった。

「できた~! じゃ、泳ごっ、はやく、はやく」
「落ち着いてラブちゃん。まずは準備運動しないと」
「一番大事なこと忘れてるわよ。ほら来なさい、クリーム塗ってあげるから」

 美希は、掌に染み込ませたUVカットのクリームを慣れた手つきで滑らせて広げていく。
 顔は慎重に。首や肩は念入りに。わき腹やお腹や、ちょっと水着をめくってその中にも
手を忍ばせる。

「あはは、美希たんくすぐったいよ」
「美希ちゃん、わたしは自分で塗れるから」
「ダメよ。一人じゃ届かない場所も多いわ。塗り残すと大変なのよ」

「なんだか美希、楽しそうね」
「そうそう、これが楽しみで来てるんだから。って何言わせるのよ!」

 塗りムラもなく、塗り残しもなく。完璧な仕上がりで満足そうな美希。
 塗り終わったら、すぐにパーカーを着こんで奥に引っ込むせつな。
 ラブとブッキーは柔軟体操を始めた。髪を解いたラブとブッキーの交わる姿は、まるで
双子のようだ。

「じゃ、ほんとに行こうよ。せつなは海水浴は初めてだよね」
「前に来た時はダンスだけだったものね。でも、私は後にするわ。先に泳いできて」
「アタシも後にするわ。ブッキーと泳いでらっしゃい」
「そっか、じゃあ後でちゃんと来てね。ブッキー、行こう」

 まぶしい光の中を駆け出していくラブとブッキー。
 日陰のテントの中で静かに見送る美希とせつな。

 しばらく沈黙が続いた。

「せつなはどうして泳がないの? 真っ先にラブと飛び込んでいくと思ってたけど」
「――水着が……恥ずかしいからよ。美希こそ泳いできたらいいじゃない」
「アタシは……日に焼けると困るからよ。他に理由なんてないんだから」

「言い訳するのが怪しいわね。――って、美希! 美希の後ろに赤くて柔らかいものが!」
「きっっ――いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「なんてね、浮き輪よ。やっぱり怖いからだったのね」
「……まさか、ラブとブッキーにバラすつもりじゃないでしょうね」

「そんなことしないわ。実は、私も他にも怖いものがあるの」
「せつなの――怖いもの?」
「水――よ。どういうわけか、水泳だけは苦手なの」

 二人で情けない顔を見合わせて、そして吹き出した。
 意地っぱり。負けず嫌い。素直じゃない似たもの同士。

「しょうがない、じゃあ完璧なアタシがコーチしてあげるわ。感謝しなさい」
「臆病な美希のために、変な生き物が近づかないか見張っててあげるわ。感謝してよね」

『すぐ戻るから心配しないで。(美希・せつな)』

 書き置きをして、少し離れたビーチに駆け出した。
 しっかりと手を繋いで。お日様にも負けないくらいに、生き生きと輝いた表情で。
最終更新:2010年07月19日 12:58