み-344

ここは私立白詰草女子学院中等部。少女は今日も祈りを捧げていた。
静まり返った礼拝堂の中。一人の世界。信じる心は何を導き出すのか。

(がんばってねラブちゃん―――)

「中々上手くはいかないもんだよね」
「考えすぎだと思うけど?」
「でもさぁそろそろ許してくれてもいいんじゃない?」
「お付き合いして結構経ってるもんねぇ」
「うん。おまけに同棲してもーすぐ一年だよ」
「そっかぁ…」
一線を越えられないもどかしさ。ラブの顔からは焦りも感じ取れていた。
散歩がてらに祈里を誘い、どんぐり王国までやって来た二人。ここへ来れば
少しは落ち着けると思った。それだけ今のラブはせつなの事で頭が一杯だったのである。

聞き上手な祈里はラブの意見を少しでも汲んで上げようとしていた。
いつも前向きで明るい彼女を尊重したい。そんな彼女にせつなも想いを寄せてるに違いないのだから。
時々吹く風が二人の髪を靡かせる。暑くも無く寒くも無い。秋の気配が心地良く感じられた。

「あのねラブちゃん」
難しい言葉は必要無いと思った。無論焦る必要が無い事も。お互いがお互いを好いているのなら。
今のラブを見ていると、何だか自分を重ね合わせてしまう。誰もが通る道、親友だって通る道。


「せつなちゃんの事大好き?」
「うん!大大大大だーーーーいすっき!!!」
「うふふ。」
「ちょっとブッキー!真面目に答えてよー」
ほっぺを膨らませ怒った態度を示すラブに祈里はこくりこくりと頷く。
「それでいいのよラブちゃん」
「はぃ???」
思った通りに進まないのなら態度で示してもいいのでは。ラブは優しすぎる傾向がある。ちょっとした事で
すぐに引いてしまう癖がある。幼馴染みの彼女だからこそ読み取れた心情。だったら―――

大事に想えば想うほど慎重になっちゃうよね。別に悪い事をしてる訳じゃないんだけど謝っちゃったり。
せつなってさ、あたしにしてみたらお姫様なんだよ。か弱いお姫様だったりこわーいお姫様だったり。
もうさ全部全部大好きなんだよ。抱きしめてちゅっちゅちゅっちゅしたいんだよ。でもさ…
「ガラス細工みたいに繊細だと思うんだ」
そう呟くとラブは遠くを見詰めた。

「ラブちゃんの心も繊細だよ?せつなちゃんの事真剣に考えてる。大切な存在なんだよね」
祈里はその優しすぎる彼女の心をとても愛おしく思った。後もう少しの所なのに苦しんでいる。
その姿はやっぱり自分を見ているかのようで。
「でもね、最後は自分でがんばるの。自分を信じて。勇気を振り絞るのはとっても大変だけど…」


あの時。
祈里は目一杯の言葉で愛を伝えた。
その言葉を受け取った美希は持てる愛全てを祈里に注ぎ込んだ。
戸惑いの中で得られた物。夢のような時間はあっという間だった。
その日を境に新たなスタートが切れたのだと祈里は今でも実感している。
その経験を今、幼馴染みの彼女がしようとしている。

「あたし幸せゲット出来る…かな」
「もうラブちゃんたら。あたしたちでしょ?」
「言うようになったねーブッキーも」
「くすくす。ま、美希ちゃんのおかげかもね」

人を愛する事。愛し合う事。愛される事。
全てが折り重なった時、それはきっと真実の愛となるのだろう。

念ずれば花開く
あなたの想いはきっと届くはずなのだから

おしまい
最終更新:2010年10月31日 23:34