み-372

気付いた時には、あたし一人だった。
ふとした瞬間に訪れる寂しさが、あたしを苦しめる。

わからない。
わからないんだ。自分の気持ちが。
あの時、確かに笑顔で送り出した。互いに幸せゲットしようねって。

離れていても繋がってる。
話したい時には話せるし、会おうと思えばすぐに会えた。

毎日欠かさなかったメール。
おはようからおやすみまで。どんな些細な事も、お互い教えあって。

でも。
それはあたしのわがままだって気付いたんだ。
せつなの旅立ちを、今後を応援するって決めたのに。
いつしか自分の寂しさを紛らわすために利用してたんだ。

あたしはそんなに強くない。

せつなの部屋の前を通る度に思い出す、あの頃の記憶。
ネームプレートは今も色褪せていない。
扉を開ければせつながそこにいるんだ。笑顔であたしを見てる。

いや。
怒ってるかな。
夢はどうしたのって。


すっかり、ダンスレッスンは疎かになっていた。
それぞれの夢に進むべき中で、一人あたしは蚊帳の外。
飽きたわけじゃなかった。ただ、力が沸かないんだ。

至って普通。
学校でも、家でも、遊びでも。
決して無理してる訳じゃない。だけど何か足りなかった。

心の底から笑顔にはなれなかったんだ。



せつな…

ベランダから夜空を見上げる事が多くなった。
あの星空の向こう側には何があるんだろう?
そう思うと不思議とあたしはリラックス出来た。

そして鳴るリンクルン。
今日もせつなは、あたしに電話を掛けてくれる。
嬉しい。とっても嬉しい時間。

だけど。
時々出なかったりする。寝たふり。
意気地無し…
あたしの意気地無し。

毎日のように聞きたい声も、時にはあたしを苦しめるんだ。
素直だったあたしはもういないよ。
せつながいなくなってから、本当に自分は弱くなってしまった。
心にぽっかり、穴が開いちゃったんだよ。

決まってそんな日は泣いちゃう。
枕に顔を押し潰してさ。大泣きだったりするんだよ。
翌朝なんて目が腫れちゃって、まっかっかになっちゃってさ。

思うんだ。
あたしにはせつなが必要なんだなって。まだまだ。

でも言わない。
何か負けたみたいですっごく嫌なんだよ。意地っ張り?そうだろね、きっと。

眠れない日が多くなった。
頭の中はあなたでいっぱい。
せつなでいっぱい。
今何してる?明日は何をする?週末は?今度いつ会おうか?



一人になるのがこんなに悲しいだなんて、想像もしなかった。
まだそんなに経ってないのにね。
それだけせつなの存在が大きかったって事なんだろうな。

いつも一緒だったもんね…

冗談で、この壁壊しちゃおうかって言ったの覚えてるかな。
そしたらせつなもやってみる?とか言っちゃって。おかしいよね。
そんな事言う割には、肝心な時にお互い緊張しちゃってさ。




暗闇の中で空間に指で書く文字。東せつな。
そこにハートマークでデコレーション。そっと口付け。
おやすみ、せつな。

悲しみの中で得られる物。得られた物。
せつなの存在。ラブの孤独。失いつつある夢の矛先。

まだ始まったばかりだと思っていた恋道。奇しくもそれを邪魔したのが夢。
見る事も願う事も叶える事も出来る。なのに今は、それが一人の少女を苦しめていた。

救い出す事が出来るのは、やはりせつなの存在なのだろう。
そして、今一度、ラブ自身が素直になる事。想いを伝える事。

真っ直ぐに。
ただ、正直に。



愛よ―――もう一度


~END~
最終更新:2010年10月22日 00:28