避2-380

「もう11月か…」
壁に掛かったカレンダーを見詰め、溜息混じりな呟きをしてみる。
思えば、今年も忙しすぎた感じがして。学校もダンスも仕事も全部、全部。

―――アタシ完璧―――

そんな言葉が自分を励ましてくれるようで。
本当は励まして欲しい人がいるのだけど。

ベッドに横たわると、ふと窓から月の光が射していて。
美希は導かれるように、ベランダへと歩を進める。

「…寒いな」
パジャマだけでは夜風が冷たく感じる。もう冬が近付いてるなと実感する。
羽織る物を取りに部屋へ戻ろうとすると。

「これでしょ?」
「ひぃぃぃ」
「うるさい」
「あ、あんたねぇ…」

アカルン、あなた使い方間違われてるわよ?たまには怒ってもイイのよ?
大体、人の家に急に現れるとか犯罪行為なの。わかる???
「何ぶつぶつ言ってるの?」
「だからアタシはねぇ」
「キ…キィ…」
「アカルンありがとう。戻っていいわよ」
「待ちなさい!話はまだ…」
逃げるようにアカルンはその場を立ち去る。それを確認したせつなは開口一番。

「本当は嬉しいんでしょ」
「なっ!そ、そんな事…」
「美希が月を見詰めるなんて大よそ、寂しい時しか」
「はいはいもうわかったわよ、その通りその通り」
両肩をポンポンと叩くと、座るように促してみる。

せっかく着たんだし、ゆっくりしていって欲しい。それが美希の本音だったりする。

「少しはリフレッシュ出来てるの?」
「ぜーんぜん。何かと忙しいから、アタシは」
「ちょっと羨ましいかも」
「そう?」

「私の部屋からはお月様―――見えないから」
せつなは窓から覗き込む月を見てそう呟いた。
その表情からはまだ、言葉の真意を掴み取る事は出来なかった。

「復興手間取ってるの?」
「うぅん。順調すぎるぐらい。みんな輝いてるわよ」
「で、せつなはどうなの?」
「どうって?」


本当は寂しいくせに。
アタシと一緒なの、せつなも。
正直になれないトコ、そっくりなんだから。


「話したくないならイイけどね。それよりもほら」
再びベランダへ出ると、月は流れる夜雲で見え隠れしながらこちらを照らしていて。
「バナナみたいね」
「何それ。ロマンティックなムードが台無しじゃないの」
「くすっ」
「もう―――」
後ろから抱きしめる。ギュっと、優しい愛で。温もりで。

「お月様が見てるわよ」
「イイじゃない。見せ付けてやるわ」
「さっきとはえらい違いよね、美希」
「せつなが急に来なければこんな事してないわよーだ」


月夜が照らし出した道標。
それは、想いと想いが繋がり合った証拠。

不器用な二人だけど。

満月ではなく、三日月。まだ二人は素直になれないから。


「なんでアタシが下で寝るのよ」
「私ベッドじゃないと寝れないから」






「だったら一緒に…」

~END~
最終更新:2010年11月09日 23:10