「もう11月か…」
壁に掛かったカレンダーを見詰め、溜息混じりな呟きをしてみる。
思えば、今年も忙しすぎた感じがして。学校もダンスも仕事も全部、全部。
―――アタシ完璧―――
そんな言葉が自分を励ましてくれるようで。
本当は励まして欲しい人がいるのだけど。
ベッドに横たわると、ふと窓から月の光が射していて。
美希は導かれるように、ベランダへと歩を進める。
「…寒いな」
パジャマだけでは夜風が冷たく感じる。もう冬が近付いてるなと実感する。
羽織る物を取りに部屋へ戻ろうとすると。
「これでしょ?」
「ひぃぃぃ」
「うるさい」
「あ、あんたねぇ…」
アカルン、あなた使い方間違われてるわよ?たまには怒ってもイイのよ?
大体、人の家に急に現れるとか犯罪行為なの。わかる???
「何ぶつぶつ言ってるの?」
「だからアタシはねぇ」
「キ…キィ…」
「アカルンありがとう。戻っていいわよ」
「待ちなさい!話はまだ…」
逃げるようにアカルンはその場を立ち去る。それを確認したせつなは開口一番。
「本当は嬉しいんでしょ」
「なっ!そ、そんな事…」
「美希が月を見詰めるなんて大よそ、寂しい時しか」
「はいはいもうわかったわよ、その通りその通り」
両肩をポンポンと叩くと、座るように促してみる。
せっかく着たんだし、ゆっくりしていって欲しい。それが美希の本音だったりする。
「少しはリフレッシュ出来てるの?」
「ぜーんぜん。何かと忙しいから、アタシは」
「ちょっと羨ましいかも」
「そう?」
「私の部屋からはお月様―――見えないから」
せつなは窓から覗き込む月を見てそう呟いた。
その表情からはまだ、言葉の真意を掴み取る事は出来なかった。
「復興手間取ってるの?」
「うぅん。順調すぎるぐらい。みんな輝いてるわよ」
「で、せつなはどうなの?」
「どうって?」
本当は寂しいくせに。
アタシと一緒なの、せつなも。
正直になれないトコ、そっくりなんだから。
「話したくないならイイけどね。それよりもほら」
再びベランダへ出ると、月は流れる夜雲で見え隠れしながらこちらを照らしていて。
「バナナみたいね」
「何それ。ロマンティックなムードが台無しじゃないの」
「くすっ」
「もう―――」
後ろから抱きしめる。ギュっと、優しい愛で。温もりで。
「お月様が見てるわよ」
「イイじゃない。見せ付けてやるわ」
「さっきとはえらい違いよね、美希」
「せつなが急に来なければこんな事してないわよーだ」
月夜が照らし出した道標。
それは、想いと想いが繋がり合った証拠。
不器用な二人だけど。
満月ではなく、三日月。まだ二人は素直になれないから。
「なんでアタシが下で寝るのよ」
「私ベッドじゃないと寝れないから」
「だったら一緒に…」
~END~
最終更新:2010年11月09日 23:10