「美希は『私』を抱いてはくれないのね」
吸い寄せられるようにあたしは触ろうとして、一瞬だけ止まる。白くてキメの細かい、イースの肌。
本当に綺麗で、いつも言葉を失ってしまう。
「そんなにじろじろ見ないで……」
「綺麗だよ。イース」
軽く窘められると、あたしはクスクス笑いながら、イースの首筋に顔を埋めていく。 唇で刻印を刻み付ける。強く、痕が残るほど強く。
やがてイースの口から零れる吐息が、甘く艶やかなものに変わっていく。
ゆっくりと、あたしは欲望のまま彼女を求めていく。
あたしの欲望に呼応するように、イースの透き通るような肌はほんのりと紅く火照っていく。
「んんっ……!」
イースの声が漏れる度に、蕩けそうな快感と罪悪感が入り混じる。
「美希、私は……んぅ」
声をふさぐように唇をふさぐ。軽く吸い付いてから舌を入れると、とまどいながらもイースは舌をからめてくる。今は何も聞きたくなかった。
あたしはせつなが好きだった。ラブもせつなが好きであふれんばかりの愛情を笑顔やハグでせつなに伝える姿を見て、あたしはせつなから距離をとるようになった。せつなもラブに好意を寄せてると思う。
必死で押し殺していた気持ちは抑圧のせいで逆流し、せつなをアカルンで自室に呼び寄せ押し倒すまでに至った。抱いている最中声を押し殺して泣いて耐えるせつなに悪魔のように囁いた。
「皆との関係壊したくなかったら、今度からあたしの言う通りにして」
「っ……ひく、美希……なんで」
「せつな……愛してるよ」
皆せつなを好きになると思ってるの?イースのころのあなたを許せるわけないじゃない。あたしは違うよ。せつなを愛してる……
動揺しているせつなを利用して心を侵食していく。
どんな形でもせつなの中にいたかった。
二回目からせつなにイースになってもらった。せつなを抱くことは自分にも負担が大きかったから。中身はせつなでもイースのするどい瞳は敵だった頃の存在を思いださせてくれて気がまぎれた。不可抗力でせつなには『イースの姿でも愛してくれる』あたしを植え付けることができたみたいだった。
あたしの欲望を、イースは全て受け止めてくれる。最初は抵抗を示した体も最近では欲望に濡れた瞳を隠そうともしない。ただ愛してると囁く時、せつなはいつも目をつむって嬉しそうに笑う。最初はその行為が何をしめしているのかわからなかった。
そのうち気づいてしまった。せつなは愛してると言う言葉が欲しいのだ。あたしじゃなくてもいい。愛をくれる存在が……。
体だけ手に入っても心が手に入らない。満たされない気持ちはいつもあたしに付き纏っていた。 その思いに気づかないようにせつなを抱いた。
「愛してるよ」
行為が終わるといつも口にした。耳元で囁いて、いつからかイースの顔を見ないように言うようになった。
「ねぇ美希」
顔を引くと、イースが声をかけてくる。
「もうやめよう」
イースは複雑な表情をしてあたしを見ていた。
「私はどうなってもいい。美希が辛そうなのは見てられない」
「なに……言って」
「美希が傷つくのは嫌だよ」
真っすぐにあたしを見つめる瞳が恐かった。そんな目で見ないで欲しい。
「私は美希が好きよ」
イースはせつなに戻ってあたしを抱きしめた。
「最初はね、恐かった。美希が何を考えてるのかわからなかったから。目をつむって愛してるって言葉だけを私は求めてた。でもねこの間初めて美希の顔を見てわかったの。私のことを見ないように悲痛な顔で囁いてた。私が向き合わなかったからここまで美希を傷つけてしまったってわかったわ」
「……ちが……う。あたしがせつなを傷つけて」
せつなはふにゃっと笑って口づけてきた。
「私はずっと美希が好きだったよ」
嘘だと思った。でも目の前のせつなは照れ臭そうに笑っていて。
「私達はさ、お互いが逃げてたんだよ」
向き合って初めて心が通じた気がする。
あたしはせつなを真っすぐ見つめた。
私が今欲しい言葉は愛してるじゃないよ。もっとフランクでいい。美希と最初からはじめたいから――
せつなはゆっくり真剣に言葉を紡いだ。
もう満たされない思いに苦しむことはない。だからあたしも真摯にこたえよう。
気持ちを素直に伝えるのは大切なことだから。
「せつな……ずっと好きだったの」
END
最終更新:2010年11月19日 23:56