「いやあぁぁぁぁ!!」
いい加減美希のタコ嫌い治らないのかしら。
美希のお母さんが旅行に行ってしまったので、私は泊まりに来ていた。
ご飯を食べ二人でリビングのソファーでまったりとしていた時、大画面テレビでタコが映った瞬間美希は体を震わせ叫び声をあげた。
「ちょっと美希、うるさいわよ」
「だ、だってタコだよ。ぬるぬるだよ。グロテスクだよ」
よく意味がわからないがあまりにもうるさいので、今だ震える体をそっと抱きしめ背中を撫でてあげる。
泣くほど嫌いなのね……
「あー、落ち着く」
しばらくしてスースーと規則正しい寝息が聞こえてきた。
私は目尻に残っていた涙をそっと拭いてあげ、美希の枕になっていた膝を抜いて空いたスペースにクッションを入れた。
「アカルン」
呼ぶとキィーという声とともに相棒が駆け付けてきた。
「あなた過去にいけたりしない?」
「キィ……」
「無理かしら。頑張ってみて」
駄目元で美希がタコを嫌いになった日と考えながらアカルンを作動させた。
理由がわかれば、何か改善できないだろうか。
すやすやと眠る美希に行ってきますと囁いた。
ザザー、ザザー
気持ち悪い……。
乗り物酔い?みたいな感覚。
そして多分、砂の上にいるんだと思う。
「……ぇ、………るの……」
頭上から声が聞こえる。
誰……?
「……ねぇ、おねぇさん大丈夫?
目を開けると、目の前に5才くらいの女の子がいて私を覗き込んでいた。
私は上半身を起こしてしっかりと女の子を見る。
水玉のワンピースに麦わらぼうし、青い長い髪に、透き通るような白い肌。
幼いながらも美少女という言葉がしっくりくる。
「あなたは……?」
「美希だよ」
やっぱり!
アカルンはどうやら過去にくることに成功したらしい。
じろじろ見てしまっていたらしく、幼い美希が綺麗な眉を寄せて私を見る。
「おねぇさん何でこんなとこでねてたの?」
言われて私はここが砂浜だということに気づいた。先の方には海が広がっている。
「あ、えっとね。砂浜が気持ち良かったから」
我ながらなんてキツイ言い訳かと思ったが、今はこれ以上何も思いつかない。
「ふーん」
「美希は何してたの?」
癖で呼び捨てで呼んでしまったが、少女は別段気にしていないようだった。
「あのね、海を見にきたの。近くのホテルにとまっててね、まどから海が見えたから」
キレイだよねと美希はにぱっと笑った。
可愛い……
私の胸はきゅうんと高鳴った。
「おねぇさん、ひまなら一緒に遊んで」
「え、ええ」
美希は私の手を掴むと、ぐいぐい引っ張る。
私は立ち上がり、砂をはらった。
「なんで冬物の服なの?でもデザインは好きよ」
「あはは……」
彼女の服装を見て季節は見当がついていた。
改めて自分の服装を見ると私は寝巻きのまま来てしまっている。
これは美希に選んでもらったものなので、幼くてもお洒落な彼女が好きなはずだ。
「あたしはね、しょうらいトップモデルになるのが夢なの」
広々とした砂浜を歩きながら、隣の美希はさっきからずっとしゃべっている。
今の美希より当たり前だが、ほんとに子供らしく無邪気で私は微笑ましくなった。
「おねぇさんもすごくかわいいね」
「いや、そんなことは……」
私の顔多分真っ赤よね。
今も過去も美希には翻弄される運命らしい。
そういえば私何しに来たんだっけ……?
「あーー!」
いきなり美希が走り出した。何事かと私も追いかける。
「タコさんだぁ」
少女は楽しそうに真っ赤な物体を見ている。
あ、そうだタコ。
見たところ別にタコを嫌っている気配はない。
むしろ喜んでいる。
ぴょんぴょん跳びはねていた美希がいきなりがしっとタコを持ち上げた。
時間にして5秒ほど、タコと美少女が見つめ合う。
なぜか異様な空気に私も黙って見守ってしまっている。
にゅるにゅるにゅる
動き出したのはタコだった。
美少女の白い腕にいきなり巻き付く。
「ひあっ、あ、いーやああああああああぁぁぁぁぁ」
「み、美希落ち着いて」
「タコさん、にゅるにゅるが……にゅるにゅるが」
騒いでいた美希をなんとかなだめて、すべすべの肌が傷つかないよう慎重にタコを剥がしていく。
震えて私に必死でしがみつく美希は、まさしく未来の美希と一緒だった。
タコを外しても美希はひしっと私に抱き着いている。
安心させるようにぎゅっと体ごと腕に包んであげた。
「うー、ひくっ、んく」
「大丈夫よ。もう海に帰したわ」
涙を目にいっぱいためて怖かったよぉと嘆く美希は、私じゃなくてもころっと落とされると思う。
美希が落ち着いた頃、辺りは薄暗くなってきていた。
「もう大丈夫?
「うん」
小さい体は私の足の上に乗せてもほとんど重さを感じない。
結局私は美希のタコ嫌いを治すことはできなかった。
それでもすごく貴重な体験が出来た気がする。
「おねぇさん、名前はなんていうの?」
「せつな」
「せつなさん、タコがこわくなったらまたこうやってぎゅってしてくれる?」
私はおでこをくっつけて微笑む。
「うん。美希が泣き止むまでずっと抱きしめてあげる」
そう告げると美希はくすぐったそうに笑ってありがとうと言った。
「ね、目をつむって」
「?」
「はぁやく」
言われるまま私は目を閉じる。頬に小さな手がそえられた。
んちゅ
「なっ!?」
「えへへ、やくそくね」
びっくりして私が目を開けると、美少女は頬を染めて、ぱちんとウィンクをしてきた。
「美希ちゃーん、帰るわよー」
「ママだ。あたし帰るね。ばいばーい」
小さい美希はぎゅっと一度抱き着いたかと思うと、パタパタと走っていった。
私はしばらく呆然としていた。
キィキィとアカルンが飛びまわっている。
私もそろそろ帰らないとよね……
ぱぁ
「あ、やっと帰ってきた。何処行ってたの?顔真っ赤だよ」
「美希のとこ……」
私はそれだけ答えると、ソファに倒れ込んだ。
どうしたのと美希が心配してくるので笑って大丈夫と返事をした。美希は私の笑顔に安心したのか、クッションを抱いて床に座る。
「あたしね懐かしいこと思いだしたよ。いや、違うか。微妙に思いだせないし……」
「何が?」
「あたしがタコを嫌いになった理由。あの時綺麗なお姉さんがずっと側にいた気がするんだけど……冬服を着てたことしか思いだせないのよね」
「安心して。確実に美希のファーストキスは私のままよ」
美希はきょとんとして意味がわからないと言った。
私は起き上がり、足をぽんぽんと叩いて美希に来るように促した。素直に美希は太ももの上に乗る。
「重い」
「な!失礼な。あたしは身長のわりに痩せてるんだからね!!」
「そういうことじゃないわ。大きくなったなぁと思って」
私は腰に手を回して、私の発言で逃げ腰気味の美希を引き寄せた。
視線が絡み、見つめ合う。美希が私の首に手を回し、自然とお互い顔を近づける。
「ん……」
触れ合うだけのキスをして、離れ、引き寄せられるようにもう一度唇を重ね深く深く口づける。
舌を絡ませ、息をつくことすら許さない。
ようやく離れた時、つーっと銀の糸がお互いの口を繋いだ。
「美希がエロくなって……お姉さんはなんか悲しいわ」
「どうしたのよさっきから」
「私は美希にべた惚れってこと」
小さい頃の美希も今の美希も私は全部大好き。
「タコじゃなくても怖くなった時はいつでもぎゅってしてあげる」
「うん?ありがとう。ていうかアカルンも誇らしげに飛びまわってるし、ほんと何処いってたのよ」
美希は覚えていないみたいだし、なんとなく……私と小さい美希だけの秘密にしようと思った。
また会いたいかも……
なんてね。
END
最終更新:2010年12月08日 22:23