み-602

暗闇の中で繰り広げられる、温かな心のやり取り。
それは同時に、ラブの今までが報われた一瞬でもあった。
過去は過去。今はこうして一緒にいられる。

そう。
ずっと一緒に―――



さり気なく。
手を握ってみた。
すると、彼女はそっと握り返してくれた。

外は大雨。強風が吹きすさみ、軋む家。
一人だったら寝むれなかっただろう。
怖さのあまり、両親の部屋を訪れていたはず。
そんな事を考えていたら、少し恥ずかしくなった自分がいた。
(あったかいな…)
それは高騰してしまった気持ちがそうさせたのか。
あるいは幼き心が蘇ってしまったがゆえの現れなのか。

「あ、忘れてた」
「ん?」
「おやすみなさい―――ラブ」
「うん。おやすみ、せつな」
(暗くてわからなかったよね?)
ラブは自分の顔が赤くなってるのに気付いていた。
やっぱり恥ずかしくて。今はこうして、一緒に寝れる喜びだけをひしひしと感じていたかったから。
茶々を入れられたらせつなの事。ちょっといじわるされそうでね。何か幸せな悩みだったり。


(私―――眠れるかしら…)
せつなの気持ち。ラブと一緒に眠れる喜び。伝わる鼓動と体温に、嬉しさと不思議な感覚と。
今はただただ、目を瞑って心を落ち着かせるのだった。

以前の自分だったら。
こんな嵐に何も感じなかっただろう。
孤独を受け入れ、自分を追い詰めた。
苦しみも、悲しみも、絶望も。

人間は生まれ変われる。
だから成長する。

生きるとは。

生きるとは…

「あの子たち眠れているかしら?」
「心配かい?見てこようか?」
「ううん。私たちがいるから大丈夫だと思う」

「そうだね。僕たちが守っているから。安心してくれてるんじゃないかな」
「ええ。おやすみなさい、あなた」
「―――おやすみ」
我が子への愛情。父の強さと母の優しさ。
同じ屋根の下で一緒に暮らす事。それはかけがえのない事。

幸せ。




嵐は時を重ねる毎に強さを増していった。
そのスピードは想像を遥かに越し、四ツ葉町全体を通り過ぎていった。
傷跡は後々、明らかになっていく。これもまた自然の摂理。逆らう事は出来ない現実。

夜が明け、朝日が降り注ぐ。
今日もまた、一日が始まろうとしている。
あなたにも幸せが訪れるようにと。

「ひどいな、これは」
「片付け大変そうね…」
圭太郎が玄関を開けた瞬間、飛び込んできたのは枯葉や枝、様々な物が散らばってしまった情景だった。
「凄いですね…」
「大丈夫。僕たちがしっかり片付けとくよ」
「さ、朝ごはんにしましょ。ってラブはまだ寝てるの?」
「えっと…」

その時。

〝ダダダダダダダダ〟

「せつなっ!せつなっ!!!」
「ちょっとラブっ、どうしたの!」
「いいからいいからっ!早くっ!」
「えっ」
「どうしたんだラブ?」
「あとであとでっ」
勢い良く飛び込んできたラブ。せつなを強引に連れて行くと、二階のベランダへ連れ込む。

「みてみてせつな!」
「これって…」
「虹だよ、虹っ!なかなか見れないんだよっ!」
「どして?」

「…どーしてだろ?」
それは不思議な現象。自然が織り成す綺麗なアーチ。
朝日と共にやってきた奇跡。四ツ葉町に嵐が残していった物がここにも。

様々な想いが芽生えた昨日。ドキドキした夜。みんなが寝付けなかったかもしれない。
でも、今日と言う一日がやってきた。みんなが笑顔でおはようと朝日を出迎えていれば。

―――幸せ。



「学校で調べてみるわ」
「あ…」
「どしたの?」

「宿題やってないや…。あは」
「しーらない」
「そんなぁ」
「私、おかあさんのお手伝いしなくちゃ」
「待ってぇ~」
これから家族で美味しい朝食を。せつなは満面の笑みで台所へ向かう。
今日は何だかハッピーな一日になりそうな気がした。

(せつな、幸せ一緒にゲットだよ)
グイっと背伸びして、ラブもリフレッシュ。
彼女にもまた幸せが訪れた一瞬。レインボーシャワーは彼女にも降り注ぐ。


「おとーさーん!ご飯出来たよー」
「待ってましたっ!」

「せっちゃん、上手くなったわね」
「ありがとうおかあさん」

〝いただきます〟

これからもみんな一緒に。
これからもみんなで幸せに。

~END~
最終更新:2010年12月20日 23:40