暗闇の中で繰り広げられる、温かな心のやり取り。
それは同時に、ラブの今までが報われた一瞬でもあった。
過去は過去。今はこうして一緒にいられる。
そう。
ずっと一緒に―――
さり気なく。
手を握ってみた。
すると、彼女はそっと握り返してくれた。
外は大雨。強風が吹きすさみ、軋む家。
一人だったら寝むれなかっただろう。
怖さのあまり、両親の部屋を訪れていたはず。
そんな事を考えていたら、少し恥ずかしくなった自分がいた。
(あったかいな…)
それは高騰してしまった気持ちがそうさせたのか。
あるいは幼き心が蘇ってしまったがゆえの現れなのか。
「あ、忘れてた」
「ん?」
「おやすみなさい―――ラブ」
「うん。おやすみ、せつな」
(暗くてわからなかったよね?)
ラブは自分の顔が赤くなってるのに気付いていた。
やっぱり恥ずかしくて。今はこうして、一緒に寝れる喜びだけをひしひしと感じていたかったから。
茶々を入れられたらせつなの事。ちょっといじわるされそうでね。何か幸せな悩みだったり。
(私―――眠れるかしら…)
せつなの気持ち。ラブと一緒に眠れる喜び。伝わる鼓動と体温に、嬉しさと不思議な感覚と。
今はただただ、目を瞑って心を落ち着かせるのだった。
以前の自分だったら。
こんな嵐に何も感じなかっただろう。
孤独を受け入れ、自分を追い詰めた。
苦しみも、悲しみも、絶望も。
人間は生まれ変われる。
だから成長する。
生きるとは。
生きるとは…
「あの子たち眠れているかしら?」
「心配かい?見てこようか?」
「ううん。私たちがいるから大丈夫だと思う」
「そうだね。僕たちが守っているから。安心してくれてるんじゃないかな」
「ええ。おやすみなさい、あなた」
「―――おやすみ」
我が子への愛情。父の強さと母の優しさ。
同じ屋根の下で一緒に暮らす事。それはかけがえのない事。
幸せ。
嵐は時を重ねる毎に強さを増していった。
そのスピードは想像を遥かに越し、四ツ葉町全体を通り過ぎていった。
傷跡は後々、明らかになっていく。これもまた自然の摂理。逆らう事は出来ない現実。
夜が明け、朝日が降り注ぐ。
今日もまた、一日が始まろうとしている。
あなたにも幸せが訪れるようにと。
「ひどいな、これは」
「片付け大変そうね…」
圭太郎が玄関を開けた瞬間、飛び込んできたのは枯葉や枝、様々な物が散らばってしまった情景だった。
「凄いですね…」
「大丈夫。僕たちがしっかり片付けとくよ」
「さ、朝ごはんにしましょ。ってラブはまだ寝てるの?」
「えっと…」
その時。
〝ダダダダダダダダ〟
「せつなっ!せつなっ!!!」
「ちょっとラブっ、どうしたの!」
「いいからいいからっ!早くっ!」
「えっ」
「どうしたんだラブ?」
「あとであとでっ」
勢い良く飛び込んできたラブ。せつなを強引に連れて行くと、二階のベランダへ連れ込む。
「みてみてせつな!」
「これって…」
「虹だよ、虹っ!なかなか見れないんだよっ!」
「どして?」
「…どーしてだろ?」
それは不思議な現象。自然が織り成す綺麗なアーチ。
朝日と共にやってきた奇跡。四ツ葉町に嵐が残していった物がここにも。
様々な想いが芽生えた昨日。ドキドキした夜。みんなが寝付けなかったかもしれない。
でも、今日と言う一日がやってきた。みんなが笑顔でおはようと朝日を出迎えていれば。
―――幸せ。
「学校で調べてみるわ」
「あ…」
「どしたの?」
「宿題やってないや…。あは」
「しーらない」
「そんなぁ」
「私、おかあさんのお手伝いしなくちゃ」
「待ってぇ~」
これから家族で美味しい朝食を。せつなは満面の笑みで台所へ向かう。
今日は何だかハッピーな一日になりそうな気がした。
(せつな、幸せ一緒にゲットだよ)
グイっと背伸びして、ラブもリフレッシュ。
彼女にもまた幸せが訪れた一瞬。レインボーシャワーは彼女にも降り注ぐ。
「おとーさーん!ご飯出来たよー」
「待ってましたっ!」
「せっちゃん、上手くなったわね」
「ありがとうおかあさん」
〝いただきます〟
これからもみんな一緒に。
これからもみんなで幸せに。
~END~
最終更新:2010年12月20日 23:40