ザクザクザクザク……
くちゅん
寒い。
朝早くから庭でスコップ片手に雪をすくう私を、ウエスターとサウラーは興味深げに見ていた。
「イース、メリークリスマス!!」
来るとは思っていたがまさか真っ赤な服装で現れるとは予想外だった。美希サンタだよ、といわれようやくサンタクロースの衣装をモチーフにしたものだと理解した時には、反応の悪い私に対して彼女は少しむくれていた。
胸元は開いていて、白く長い脚など8割以上肌をさらしていて……サンタクロースすらつい最近まで知らなかった私にわかれという方が難しい。
「クリスマスイベントの仕事でこんな時間になってごめんね」
「別に待ってないわ」
「そうよね。寂しかったよね」
私の皮肉など慣れたのかスルーしまくる美希を部屋に招き入れると、ケーキ持ってきたからとスタスタとキッチンへ向かう。
ナイフを出したり、皿を用意したり今では彼女の方が私よりこの家のことが詳しいのではないかと思えるほど手際がいい。
私はやることもないので大人しくリビングに行きソファーに座った。
イースのことが好きなの、付き合ってくれませんか。
美希に告白された時のことを私は今でも覚えている。
私の記憶が正しければ
嫌だ。お前のことなんか私は嫌いだ。
そう返した。
私が睨みつけると彼女はわかったと言って私を抱きしめた。
そして今に至る。
どう考えてもおかしい……。
私の理解する限り恋人とはお互い好きで初めて成り立つ関係ではないのか。
「お待たせー。食べよ」
私の考えは美希が白いケーキを目の前に出したことで中断された。フォークで刺してもふわりとした感触が伝わってきて、なぜか少し嬉しい。
「あーんして」
彼女のフォークの上のケーキを私は黙って口に入れる。甘い味が口に広がり、咀嚼している時彼女を見ると目を細めて微笑んでいた。
美希は綺麗な指でケーキに乗っていた苺を持つと、ヘタを取り半分ほど唇で挟んだ。
彼女が目を閉じたのを確認して、私は頬に手をそえ顔を近づける。
「ん……」
唇が触れない程度の所で歯をたてるとぐちゅっと苺が潰れ汁が滴る。苺は噛み切らず今度は深く唇ごと貪りつく。
苺の香りが鼻につき、甘ったるさが増す。
唾液と苺が混ざり合いお互いを行き来して、口の中の存在が相手の舌だけになったとき、どちらからともなく口を離した。
美味しかった?と目で訴える彼女にもう一度キスをすることでこたえる。
二人を纏う空気が濃厚なものに変わり、私と美希は自然と私の部屋へ向かった。
ベットへ押し倒すと、欲望に濡れる蒼い瞳を隠そうともせず私を見る。
「相変わらず殺風景な部屋よね」
「寝るためだけのような場所だから」
白い肌に舌を這わせようとしたとき、色のつながりであることを思い出した私はぴたりと動きを止めた。
美希の非難を背中に受け部屋を出る。
まったく……これを忘れたらあの努力が水の泡だ。
戻ってきた私をジト目で見る美希だったが、私の手の上のモノを見てぱあっと顔を輝かせた。
「雪だるま!作ったのコレ?」
予想以上に喜ぶ彼女を見て自然と私の頬も緩む。
外で待たせていたのでふて腐れているかと思ったが、雪だるまは朝と変わらず美希の手におさまった。
本で見た絵を参考に、お菓子や枝で装飾した手のひらサイズの粗末なモノだがそれでもありがとう!うれしい!と美希は喜んでくれた。
「かわいい。でもこの部屋だと溶けちゃわない?」
「いいのよ。クリスマス用だから」
美希が雪だるまをベットサイドに置いたのと同時に私は後ろから抱きしめた。
ふわりと彼女の匂いに包まれ目を閉じる。
「あたしのこと好き?」
「……嫌い」
「そう、あたしも好きよ」
くすくすと笑い声が聞こえ、なぜか恥ずかしくなったので彼女の耳を甘噛みするとこつんと頭をぶつけられた。
私の手が彼女の服にかかり二人でベットに倒れ込む。
私は馬鹿だと思うがこんな私を好きな彼女は更に上をいく馬鹿だと思う。
好きだといってくれなくてもいい、あたしのことを信じてくれたらそれだけで嬉しい。
初めて身体を重ねた時そんなことを言われた。
欲に流され、意識が途切れそうになる瞬間私が強く握りしめたのは、シーツではなく彼女の細い指だった。
「なーに考えてるの」
「なんでもないわ」
私がそうとこたえるとむすっとなって、頬っぺたをむにーと引っ張られた。
「痛いわよ、離して」
「好きって言ってくれたら」
「言わなくてもいいんでしょう?」
それはそうだが言われたら嬉しいよと美希は抗議してくる。
駄々をこねる子供みたいだと微笑ましくなった。普段全てを見透かしているかのように大人っぽい彼女が見せる一面。蒼い髪をぐしゃぐしゃ掻き混ぜるとお返しとばかりに肩に噛みつかれた。
「いいわよ。この関係でも満足してるし……もし、イースに好きな人ができたら、あたしは諦めるし……」
震えながら言う彼女は私より身長も高いはずなのにとても小さく思えた。
「……ずるいことしてるのはわかってるから」
「そうでもないんじゃない」
「え?」
美希の続くはずだった言葉は私の口に吸い込まれた。
―――――――――
「これって……?」
シャツ一枚でも美希が震えていないのは、この部屋がエアコンと情事の後の熱気で暖かいから。
熱にさらされた雪だるまは今や溶けて、液体と小さく透明な袋だけを残している。
美希は袋を手にすると中に入っていたネックレスと白い紙を取り出した。
「ネックレスだけど……指輪?」「クリスマスプレゼント。今はまだ首につけていて欲しいの」
トパーズがはめ込まれたそれを美希の首にかけると、彼女は頬を染めて微笑んだ。
「ねぇイース、知ってる?トパーズは幸福、希望って意味があるのよ」
教えてもらった石の意味を聞いて、あの時直感で買ったのは必然だったのかと思って苦笑した。
美希はリングを指にちょこんとひっかけ全体を見る。
魅力的な笑顔でありがとうとほんとに嬉しそうに言うから、私は素直によかったと思った。
「こっちは、紙だよね?……何か書いてある」
かさかさと小さい紙が開かれていく。
「うそ……」
美希が目を見開いて書かれた文字を読んでいくのを私は不思議な気持ちで眺めていた。
首にかけた指輪も手紙に書かれた言葉も気持ちを伝えるのには曖昧で、完璧には程遠い。
「うっ、ひく、うわーん」
「どうして泣くのよ!」
「ぐすっ、嬉しいからよ」
悲しいときも泣くくせに、嬉しいときまで泣くなんて……。
私はそっと手を伸ばし美希の涙を拭う。
沢山の人を傷つけたこの汚れた手でも、美希はいつも優しく握って綺麗だねと言ってくれた。
改めて私は彼女から沢山のモノを貰うばかりだったことに気づく。朱い太陽の下で話をして、蒼い空の下を散歩する。
穏やかな毎日も、楽しい出来事ももたらしてくれたのは美希だから。
美希以上にこの関係を利用していた、私からのはじめてのプレゼント。
「私は今幸せだから」
緊張しながら口にした言葉は、紙を胸に抱いてぼろぼろと涙を流している彼女に聞こえただろうか。
END
おまけ
「イース、僕が提案したラブレターはどうだった?」
「俺のテレビで見た雪だるま作戦もよかっただろ?」
次の日、リビングで顔を合わせた同居人たちはにやにやと笑いながらイースを問い詰める。
ソファで本を読んでいたイースはちらっと二人を見ると、がばっと服を胸元までさげた。
「とっても役に立ったわ」
キスマークが尋常なほど散らばる肌を見て囃し立てようとした二人は、イースの顔を見て息をのんだ。
いつもの何倍も人を見下すような冷たい顔をしている。
「上手くいったんだよ……な」
「ええ、あなたたちのおかげで発情したメス猫の相手をしただけよ」
最終更新:2010年12月24日 22:41