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「髪の毛だいぶ痛んでるわよ。ちゃんと手入れしてる?」

「ごめ~ん。手抜き全開です…。」

口実にしてはあまりにも完璧すぎたかな…。
いつか告白しようと考えてはいたものの、なかなか言え出せなくて。

「今日はママも仕事でいないし、お店いらっしゃい。トリートメント
してあげるから。」

「うぉ~!超助かるよ美希た~ん!」
そう言うと、ラブははしゃいでアタシに抱き付いて来た。

ラブはホント、いつまでたっても無邪気。アタシはそんなラブが大好きで。

「じゃあ15時ぐらいにお店に来て。待ってるから。」

「うん!あ、美希たん。」
「何?」

「タダだよね?」

「くすくす。当たり前よ。」
こんなやり取りですらアタシには恋人同士のように感じた。
ラブと一緒にいると不思議と落ち着く。

15:00
「さ、どうぞ。」
「お邪魔しま~す。」

ラブのチャームポイント、ツインテールをまずは梳かしていく。
こうして見ると、ラブってお人形さんみたいだなって思う。


次にトリートメント剤でヘアケアーをしていく。アタシには
二人きりの時間が物凄く幸せに感じて。

「あ、美希たん。和君の具合どう…?」

「そーだった。言うの忘れてたわね。体調も安定してるから、
一時退院出来るらしいの。ようやく落ち着けるわ。」

「ほんと~!良かったぁ!」

「ラブは暇さえあればお見舞い来てくれたもんね。和喜も喜んでたよ。」




「和君も入院辛かったと思う。美希たんのママも元気無かったし。美希たんだっ
て寂しかったと思うから…」



「ラブ…」
どうしてこの子は他人のために、ここまで優しくなれるのだろう。ラブの魅力の
一つに、底無しの優しさがある事を再確認した。この先、このような子はアタシの前
には現われないだろう。

「さ、濯ぐから椅子倒すわよ。」
「は~い。」

シャワーが掛からないようにラブの顔にそっとタオルを掛ける。
目を閉じるラブはまるでお姫様のよう。思わずタオルを掛けるのを
ためらってしまい・・・。

「ん?」
「あっ…」
目と目が合い、お互い見つめ合う。

「あ、熱かったら教えてね!」
アタシって情けない。普通ならキスの一つもするんだろうな。


どこが完璧なのか。
ため息すら出なかった。


「美希たん上手だね~。モデルと美容師さん両方出来ちゃうじゃん。」
「お世辞なんか言ってもドーナツあげないわよ。食べ過ぎは禁物なんだから。」
「ぶぅ~」
ホント仕草が子供。無垢な表情もまた可愛い。

「ね、美希たん。」
「何?」

「あたしが男の子だったら付き合ってくれる?」
頭が真っ白になった。もちろん濯いでた手の動作も止まり、
鏡に写るアタシの顔は固まってた。

「な、何よイキナリ。ビックリするじゃない…」
「だよね。ビックリしちゃうよね。」
「でも告白はすると思う。」
今でも思い出すとドキドキする。

(今しかない。言わないで後悔するより言って後悔しよう!)
「アタシは…、女の子のラブが好き。」
決して大きな声じゃないけど、アタシは頑張った。悔いが残らないように。

「ずっとラブが好きだった。ホントは今日告白しようと思ったんだけど…。」


「叶わない恋があってもイイよね。これも私らしくてカッコいいし。」
何もカッコ良くないのに。決め台詞になんかなってないのにね。

「ごめんねー、何か一人で盛り上が…」

zzzzz

(寝ちゃったか…)

物凄い恥ずかしさが襲って来たと同時に、どこかスッキリした感じで。

眠ってる彼女を起こさないよう、タオルで濡れた髪の毛を吹き、ブローを始める。

「終わったわよ。起きて。」

「ふわぁぁぁ~」
涙目をこすり彼女は呟く。

「寝ちゃった…。あはっ」

「ふふ。ありがとうございました、お客様。」

「こちらこそ助かりました~。ありがと!美希たん。」

時計は17時を回り、窓からは夕日が差し込む。

「また明日ね。髪の毛は女の命なんだからしっかりケアするのよ。」
「うん。わかった。」


お互い手を振って別れる。

「さーて、後片付けするか!」
店内の掃除をしようとした瞬間だった。ラブが勢い良くドアを開け。

「美希たん!忘れ物した!!!」

「え?」
振り向くアタシにラブは唇を重ねた。

「返事してなかったよ~。ごめんごめん。」

「ラブ…」

「あんな大事なトコで眠る程鈍感じゃないよ~。」
そう言ってアタシの手を握り。

「あたしも美希たんの事だーい好きっ!」
「ありがとラブ。・・・嬉しい。」

眩しい夕日が差し込む店内に、それ以上の明るい笑顔の天使が
幸せを運ん で来てくれた。
最終更新:2010年01月24日 09:52