み-810

べちゃっ

ほんとにそんな擬音が聞こえてきそうなほどの勢いだった。
何もないところで、普段はきなれているはずのブーツで盛大にこけた。ヒールがついていればまだ、言い訳は出来たかもしれないのに………

「だ、大丈夫美希!?」

せつなは慌てた様子でしゃがみ、あたしに手を差し延べる。
あたしは引き攣った笑いを浮かべながらその手をとった。

「立てる?」
「うん、へーきぃいった!」

立ち上がろうとしてよろける。倒れることは免れたが、足首に強烈な痛みがはしった。

「足くじいた?」
「………そうみたい」

あたしが情けない声でそう答えると、せつなはいきなりしゃがみ込む。
いや、せつな、それはまさか……

「おんぶしてあげるわ」
「えぇ!?」

うれしい!

うれし過ぎるけど……

「あの、あたしとせつなじゃ体格差が」
「私なら平気よ。知ってるでしょ?」
「そうだけど……」

あたしが躊躇していると、せつなは拗ねたようで唇をとがらせた。

「もう、大丈夫だってば!」
「わかってるわよ。そうじゃなくて……人目が」

せつなは周りを見渡し溜息をついて立ち上がった。

ここは四つ葉町で一番大きい公園。今は桜の時期でお花見客でとても賑わっている。中心部から少し離れたここでも人通りは少なくない。
中学生のあたしが、しかも自分より小柄な少女におんぶされてるなんて恥ずかしいことこの上ない。

そして、
それがせつななら尚更……。

「歩けないでしょ?」
「うん……」
「美希が気にする人目もあるしアカルンは使えないわよ」
「……歩く!」
「無理よ」
「………」

ジト目でせつながあたしを見る。あたしが黙っているとまたしゃがみ込んだ。



「ほら」

「………お願いします」

あたしに選択肢はない……。

恥ずかしいのを堪えて渋々せつなの肩に手を置くと、ゆっくりあたしの脚を抱え立ち上がった。
視界がいつもより低くなる。それだけで知らない場所にいるような気になった。

「ごめんね」
「素直じゃないところがね」

くすくすとせつなが笑うから、おでこでこつんと頭突きをすると、ぴょんとジャンプされあたしは情けない声を上げた。
この小さな身体のどこにそれだけの力があるんだろう。

「安全に運んで」
「我が儘なお姫様ね」


そよそよと心地好い風が吹き、せつなは楽しそうにステップを踏む。

桜が見たいと言った彼女に相手として指名されたときは飛び上るほど嬉しかった。

「ラブとブッキーと四人でまた来ましょう」
「じゃあ明日でもよかったんじゃないの?」

せつなは何故かラブとブッキーが用事がある今日を指定した。だからあたしと二人で来ることになったのだ。四人で見たいのなら明日なら全員空いているにもかかわらず。

「今日がよかったの」

にっこり笑ってせつなはわからない?と言った。

その時

ざあっと強い風が吹いた。

「キレイ……。桜の道ね」

枝から散った桜が辺り一面に舞い、幻想的で、あたしとせつなはくぎ付けになる。

「ゆっくり、帰りましょ」
「うん」


小さな背中にあたしはきゅっと抱き着く。

「さっきから美希の鼓動が聞こえてる。どしたの?」
「うっ、わかるでしょ」
「言ってくれなきゃわからないわ」


意地悪。

そう耳元で囁くとせつなは微笑んだ。そしてもう一度あの可愛い聞き方でどして?と、


「だから、あたしは、せつなのことが―――」



終わり
最終更新:2011年04月04日 21:11