公立四つ葉中学校、お昼休みの図書室のこと。
生徒もまばらで見られる心配もないのに、一人の少女がコソコソと隠れるように本を読んでいた。
「せーつなっ! なに読んでるの?」
「きゃあぁ! 驚かさないでよラブ」
「驚くようなことしてたんだ? なになに見せて」
「なんでもない。授業が始まるわ、もう戻りましょう」
「うん、そうだね。と、見せかけて~……え~~~!!」
「やだっ! ダメだって言ったのに……」
「東さん、桃園さん、図書室ではお静かにね。お昼も終わりです、貸し出しますね」
「いえっ、そんなに読みたいわけじゃなくて!」
追い出されるように、廊下に出たせつなの腕には一冊の本。
「借りちゃった……。もう、ラブのせいよ。こんなの返しに行くのも恥ずかしいじゃない!」
「ごめ~ん、でもせっかくだから読んでみようか」
~~~~~~
放課後、ドーナツカフェのテーブルには先ほどの本が置かれている。
一見すると難しそうなタイトルだが、その表紙にはヒーローやお姫様がケバケバしく、痛々しそうに描かれていた。
興味津々のラブと困った顔のせつな、不思議そうな顔をしている祈里と、白い目で二人を見る美希がいた。
「タイトルは~『中二病とその症例』だって、ブッキー中二病って何かな?」
「わたしに聞かれても……動物さんに中二とかないし……」
「アタシたちくらいの年頃にありがちな、妄想や思い込みを揶揄する言葉だったかしらね」
「なんとなくクラスの会話に出てきたから調べてただけよ。それなのにラブが邪魔するから……」
ともかく読んでみようってことになった。
女の子の中二病
症例、その①
男子を名前呼び捨する。自分を人気者だと思い込む。
「ガーン――――!!」
「ラブは女子も全員呼び捨てだから」
「ほんとに人気者だから大丈夫よ!」
「次行ってみましょ」
症例、その②
たいして練習もせずにプロを目指してる。
「ひどい! あたしたちは一生懸命練習してるよ!」
「落ち着いてラブちゃん、わたしたちに言ってるわけじゃないから……」
「目標は高いほどいいはずよ」
「でも、ちょっと考えが甘いのかも……」
症例、その③
植物に向かって話しかける。
「植物にも心はあるって、お父さんが言ってたの……」
「私も時々してるわ」
「あたしも……」
「アタシだけしてないのが逆に気になるわね……」
症例、その④
両手を口に当ててブリッコする。
「わたし……してる……」
「私も……」
「大丈夫だよ! 二人とも似合ってるし」
症例、その⑤
鏡と会話して、「うん、可愛い!」とか言う。
「うん、完璧! もダメよね……」
「わたし、毎日言ってるかも……」
「毎日言ってるんだ……」
「えっ? いま何て? ラブちゃん」
「ううん! なんでもない!」
「私も……」
「せつながっ!」
「せつな言ってるんだ!?」
「せつなちゃんも? びっくり!」
「もう、恥ずかしいからそんなに驚かないで」
症例、その⑥
しあわせとか、やたら口にする。
「なぁ~にぃ~がぁ~悪いのよぉぉおお!!!!!」
「ちょっと、ラブちゃん落ちついて!」
「もう! 学校の本なのに破れたら大変よ」
「口にしない方が問題だと思いたいけど……」
~~~~~~
ひとしきり暴れた後、ぐったりとテーブルに突っ伏すラブと落ち込む三人。
該当例はその後も延々と続いた。それは、狙い撃ちしたかのようなクローバー全否定の本だった。
「はい、お待たせ。カオルちゃん特製スペシャルドーナツセットだよん」
「えっ、あたしたち頼んでないよ?」
「いいのいいの、悩める若人におじさんからの差し入れ!」
「クスッ、その言い方はホントにおじさんぽいわよ」
「ねえカオルちゃん、あたしたちって変なのかな?」
「気にしない方がいいんじゃない? 恋は病にして病気にはあらずって言うしね」
「なにそれ?」
「恋の病は治す必要がない。それと一緒ってこと」
「そう言えば、恋することは恥ずかしいことじゃないものね」
「そうそう、できなくなった者が、若い子を羨んで揶揄してるだけってこと」
「あたしらしくなかったよね。ありがとうカオルちゃん、元気出たよ」
「そうそう、いっそ大声で叫んだらスッキリするんじゃない?」
「よ~し! みんなで幸せゲットだよ!」
「アタシ、完璧!」
「わたし、信じてる!」
「精一杯、がんばるわ!」
そして、巻き起こる笑い声。タルトがたくさんのお客さんを連れてテーブルまで来ていた。
『ええ~~!!』
「お嬢ちゃんたち、これで吹っ切れたんじゃない?」
「なるほど、毒を食らわば皿までちゅうわけやな。さすがはカオルはんや」
『はめられた……』
恥ずかしくなって小さくなるクローバーの様子がおかしくて、さらに笑いの渦が広がる。
そのうちラブたちも可笑しくなって一緒に笑いだした。
いくつになっても、自分たちは変わらず今の気持ちを大切にしようって。
ささやかな――――約束と共に。
最終更新:2011年05月05日 21:25