「せつな」
彼女が私の髪をといた。
いつもはクールな眼差しがこの時ばかりは優しく垂れ下がる。
衣服を纏っていない身体を隠すのは薄いシーツ一枚。生暖かいぬかるみをさ迷っていた頭が急に冴えて、彼女と同じ格好、すなわち裸だったことを思い出し私はシーツを掻き寄せた。
「今さら……」
不満げに小さく呟いた彼女は、シーツを無視して私の身体を細い腕に包み込んだ。彼女の体温がダイレクトに伝わり私の身体をドクドクと凄まじい早さで血液が駆け巡る。
「しばらく離してあげない」
ふわりとまった匂いは彼女のそれではなく、知らない匂いに私の心がざわついた。
なのに、それはすぐにすっと私の中に入り込んできて
今度は囁くように彼女が口を開いた―――
初夏の暖かい日。
予定も立てず朝から美希の部屋にいた。二人で雑誌を読んだり話しをしたり。
きっかけというものは別にないと思う。
ただ蒼いワンピースから生える白い手足が綺麗だなぁとか。髪をかきあげる仕草が色っぽいなとかそんなことを思っていたぐらい。
ベッドに腰かけていた美希の脚が、ベッドにもたれ掛かって座っていた私の肩から現れる。そして器用にお腹の上を這う。ぞくぞくと身体に妙な高揚感。
顔を横に向ければ白いキメの細かい太股が視界に入った。
雰囲気に誘われるままかぷっと甘がみをしてみる。
「こら」
くすくすと笑いながら注意されれば怒られたとは感じない。視線を上げれば蒼い瞳がじっと見つめている。
にやっと綺麗な顔が悪戯に笑い、上がってと腕をとられ、私はベッドに身体をのせた。
「中学生なんてお金ないし、休日にできることって少ないかも」
「そうね」
「今日はママ帰り遅いの」
せつなちゃんは天然だねとか動物好きな友達に言われたりもするが、ここまで言われてわからないほど鈍くはないつもり。
顔を近づけ、彼女の唇を塞いだ。
「下行って?」
唇が離れた時、美希が私の肩を押して身体ごとベッドに沈ませた。そして眉を寄せて私の顔を覗き込む。
「ねぇ、今日露出多くない?」
Tシャツから出ている肩を美希がツーッとなぞった。私はくすぐったくなって身をよじる。
「こんな姿で外歩かないで」
「美希の方が露出多いじゃない」
「あたしはいいの」
少し頬を膨らませた彼女は、わかったと人差し指で私の鼻を押す。
適当に返事をすると
もうっとますます子供っぽい表情になった。
二人の親友にもこんな表情を見せたりするのだろうか。
私だけのモノにしたいと思うのはきっとわがまま。それでも願わずにはいられない。
美希の身体が私の身体をゆっくりと跨いだ。私はそっと目を閉じて密かに心躍らせる。
期待とは裏腹に一向に彼女が近づく気配はない。
「押し倒したのはいいんだけど………先にシャワー浴びてい?」
苦笑いしながら美希が額の汗を拭った。ごめんと謝りながら私の上からどこうとする。
その細い腕を私はがしっと掴んだ。
「やっぱり……駄目?」
「駄目」
「ええー……」
今回に限っては私は悪くないと思う。誘惑してきてその気にさせたのは彼女なのだから。
「中学生だから我慢できるほど人間できてないの」
「……あたし汗かいてるし」
「私もよ」
にっこり笑って言い返すとようやく観念したらしく力を抜いた。
鏡台を見れば沢山のアロマ、香水。自分で調合するぐらいそれらが好きな彼女からしてみたら匂いは大事なことなのだろう。
事実美希からはいつもいい匂いがする。
「そのくらいの汗なんて皆かいてるわ」
「気分の問題なの。だってせつなもベタベタなあたしと綺麗なあたしだったらどっちがいいか明白でしょ?」
「どっちも美希じゃない」
本音を言えばコレの時は飾っていない美希がいい。アロマで覆われていない彼女自身が。
溜息一つはいて、美希が私の首筋に顔をうめた。
ゆっくりと彼女の舌が私を濡らしていく。
ふわふわとどこかに飛んでいきそうな意識を彼女の声が呼び戻す。
大きく深呼吸をして
しっとりと汗ばむ彼女の肌に手をそえた。
キメの細かい綺麗な身体がだんだんと
白から薄い桃色に変わる。
涙を溜める蒼の瞳をうつしているのは、愛欲に溺れる私の瞳。
彼女と一つになりたくて
私は距離を零にする。
「せつなの香りがする」
彼女が囁いた言葉に私は驚いた。
これが私の香りだっただろうか?
「どちらかといえば美希だと思ったけど……」
私の言葉を聞いた彼女は、同じようにキョトンと首を傾げた。
美希は目を閉じて、しばらくしてからもう一度口を開く。
そして私は微笑んだ。
一つになれたことを確認して。
「せつなと……あたしの匂い」
END
最終更新:2011年05月27日 00:53