ぺかー。
目の前で光り輝くラピスラズリのような青い宝石をぼけっと見つめて、二人は押し黙っていた。
グレッグルが相変わらずの嫌な笑みを浮かべたまま、それを差し出した。
「ぐへへ、やったなお前たち。ほらよ、みずのオーブだ」
「・・・おおー」
「これがみずのオーブ・・・なんか神々しいねー」
「相棒って安上がりだねぇ。その場の気分で物が輝いて見えるなんて」
「安・・・。・・・ショウはもう少し夢とロマンを持った方が良いとおもうよ・・・探険家として・・・」
げっそりと態度の冷めた相棒、ピカチュウのショウに言ってみるものの、
ショウが自分の言う事を取り入れてくれたことなど一度もないので、特に期待はせずオーブを受け取った。
本当にとことん、探検家には向いて居ない相棒だ。いや、本当に。
見目美しいオーブを陽光に掲げたりして、手に入れたのだという実感を楽しむ。苦労しただけあって、感激も一入だ。
「ショウのかみなりのオーブとで、レアアイテムは二つ目だねー」
「まぁ一つになるけど」
「あはは。じゃあ、広場に行こうか」
でも、グレッグルの店で交換する、あの時のドキドキよりも楽しみなのは・・・。
広場に行くと、二人がレアアイテムを手に入れたという噂で持ちきりになっており、普段はアイテムショップを開いているカクレオン兄弟までが、入り口近くで右往左往していた。
頭の後ろで腕を組んでいたショウが嫌そうな顔をしたものの、何とか背中を押して連れて行く。
「みずのオーブを手に入れたって、本当なのか?ヘイヘイ!」
「うん。ほら!」
「へえ、これが!」
「やりましたわね二人とも!」
「うん、沢山探検した甲斐はあったかな」
えへへと得意げに笑うソラリスとは違って、ショウは木の枝で耳の穴を掃除していた。
相変わらず下品な・・・。ショウの、色気・・・いや、ポケモンにそんなものがあっても仕方がないのかもしれないけど、それを置いても女の子らしさの欠片も無い様子にはほとほと呆れ返る。
ソラリスは汗を垂らしながら彼女を一瞥し、それからマリル兄弟を探した。
「ソラさん!みずのオーブを手に入れたって聞きました!おめでとうございます!」
「おめでとう、ソラさん!」
「あ、マリル、ルリリ!良かった、探してたんだ」
「え?」
ソラリスは周りの視線を気遣って、面倒臭そうにあぐらをかいていたショウの首根っこを掴むと、マリル達を連れてサメハダ岩の家まで引きずって行った。
人気が無いのを確認して、二人に差し出す。
ラピスラズリのように澄んだ、青いオーブを。
「はいこれ」
「・・・え?」
にっこりと屈託なく笑う姿に暫く言われている事が理解できなかったのか、マリルが叫んだ。
「え・・・えぇえええええ!?」
「うわ、びっくりした・・」
「ご、ごめんなさい・・・ってそうじゃなくて!これを、ぼく達に!?」
「ええ!?本当なの、ソラさん、ショウさん」
「いーのいーの。こいつヘタレだから、俺の放電でひんしにならなくなったらつまらねーじゃんなー」
「あの脇掻いてるオヤジ臭いピカチュウは無視してね 無 視 。ルリリ、将来は探検家になりたいんでしょ?」
えー。ソラリスのいけずー。
オヤジのように寝転んで豆をつまむピカチュウを綺麗に流して、マリル達に引き攣った笑顔を向ける。
兄弟の背後に汗が伝ったが、見えなかった事にした。
「う、うん」
「ダンジョンには電気タイプのポケモンも多いんだ。ルリリみたいに身体の小さなポケモンは、こういう珍しい道具で少しでも弱点を克服しておかないと辛いんじゃないかって」
「じゃあ、最近ずっとダンジョンに潜ってたのは・・・」
「平気だよ、僕達結構強いんだ」
「あ、ありがとう・・・。・・・ありがとう!ソラさん、ショウさん!」
「良かったなルリリ」
「うん!」
そう、この顔だ。この嬉しそうな笑顔が見たかった!
ソラリスは満足げに笑って、ルリリを撫でた。
その夜、兄弟を誘って泊まり会を開いて、サメハダ岩から天体観測をした。
きらきらと星が瞬いている。自分があの時消えていたら、見る事が出来なかったもの。
そうだ。ショウが願ってくれたから、僕は此処に居るんだ。消えずに居られた。それは間違いない。
オーブを大切そうに抱えたルリリが、ショウに凭れてうたた寝しているのを眺めて小さく笑った。
ショウは何をするでもなく、星座を見つけて感動するマリルの隣で、ただぼんやりと星を眺めている。・・・時折、ルリリに掛けられた毛布を整えてやりながら。
そういえば、ショウは。
ショウは、何処から来たのだろう。
ソラリスはふと、疑問に思った。
浜辺で自分を見付けてくれた時からそうだったけれど、
ショウは自分がいつからトレジャータウンに住み着いているのか、話してくれた事は無い。
お父さんやお母さんはどうしたのだろう。
時々、ショウが酷く孤独に見えることがあって、ソラリスは言い知れない不安を感じた。
何の感情も見せず、星をただ淡々と眺めている姿が、何故か。
何故か、とても・・・
「ショウ・・・」
「・・・ん?」
どれくらい時間が経ったのか、ソラリスは徐に聞いた。
はしゃいでいたマリルは、今やすっかり小さくなって眠りこけていた。
振り向いたショウの目は黒く、何も映って居ない。
そこに、自分は。
「ショウはどうして・・・僕といてくれるの・・・?」
「・・・、ソラは、」
いなかったんだ。
「何で俺といたいの?」
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ああ、滅びるものは滅びよ。崩れるものは崩れよ。
そして運命に壊されぬ確かなものだけ残ってくれ。私はそれをひしとつかんで墓場に行きたいのだ。
by倉田百三
最終更新:2008年02月06日 20:26