始まり
ここはポッケ村付近にある密林のすぐ近くにある小さな村、コース村。
そこは小さいながらも武器、防具、アイテム屋も充実しており、狩人達の活気溢れる村である。
朝早くから村長の大きな声が村中に響き渡る。
「まったく、カイト、カイト・ヴィセスはどうしたのじゃ!?」
隣にいた青年、クレル・サラース━━カイトの幼なじみで、冷静でリーダー的な面もある━━は耳を塞いでいた。と、村長が叫び終わると同時に耳から手を離した。
「あいつの事です。また寝坊でもしてるんじゃないですか?…今日は初めての
飛竜種の狩りに出ると言うのに…」
と皮肉混じりでクレルが言った。
「…ふ、しょうがないやつ……」
と村長の言葉が途切れた。村長は顔を右に向けた。
「噂をすれば来おったわい。」
第一章
向こうから息を鳴らしながら物凄い勢いで走ってくる青年。彼の名はカイト・ヴィセス。やんちゃ、かつ、脳天気でどうしようもない性格だが、剣の腕はなかなかのもの。太刀使いである。
カイトが村長らの前で一息ついた。
「す、すまねぇ、村長、クレル。つい…」
「寝坊したんだろ?」
とクレルが間髪を入れずにピシっと言った。
「へへ、分かってるじゃねぇか。さすが俺の相棒だぜ!」
カイトは苦笑しながらクレルの肩を叩いた。
「何年付き合ってると思ってるんだよ…」
クレルは呆れたように言ったが、どこか笑っているようにも見えた。
すると今まで黙っていた村長がやっと口を開いた。
「そろそろよいか?今回のクエストについて話させてもらうぞぃ。」
「今回のクエストについてだが、イャンクック討伐をしてもらう。」
クレルとカイトはその言葉を聞いて目を輝かせている。
「おぬしらにとってこの手の
モンスターは初めてじゃろ。イャンクックは鳥竜種とはいえ、小型の飛竜種と考えても良い。慎重に戦えば勝てぬ相手ではないじゃろ。」
カイトは初めての飛竜種狩りだったので、体を震わせながらうずうずしていた。
「よっしゃあぁ!じゃあ早速行こうぜ!」
そんなカイトをクレルが、ちょっと待て、とカイトをとめる。それもそのはず。カイトは武具をまった身につけていなかったからだ。
「お前…武具なしでどうやって戦うつもりだ?…はは。」
クレルは笑いながらカイトに問い掛けた。
「ん?…な、何言ってるんだよクレル。男なら『素手』で勝負だろ…?」
カイトの発言にクレルは呆れてしまった。
「……本当だな?なら…」
クレルの思いがけない言葉にカイトは慌てて返答した。
「じょ、冗談だよ、冗談!今から装備整えてくるから待っててくれよ!」
カイトはその場から時速40キロ………ではなく、目にも見えない早さ………なはずもなく、まぁ実際のところ早さなど分からなかったが、それなりの早さで自宅方面に走って行った。
クレルと村長は、やれやれ、と思いながら彼の後ろ姿を見ていた。
その間にクレルは武器の手入れをしていた。彼の装備は全身バトルシリーズにハンターカリンガである。 それから5分程経ってカイトは村長らの所に戻ってきた。彼は全身バトルシリーズに鉄刀を背負っている。
「はぁ、はぁ…ホントすまねぇ。準備…はぁ…完了したぜ!」
「まったく…お前はいつもこうだな。まぁ、変に緊張するよりかはましか。」
カイトの様子を見てクレルが呟いていた。
「そろそろ時間じゃの。カイト、クレル。くれぐれも無理はするんじゃないぞ。」
カイトもクレルも村長ににこっと笑って背を向け、馬車のほうへ歩いて行った。そして馬車の手前まで着き、彼らは後ろを振り返り村長に手を振り、馬車に乗り込んだ。
馬車の向かう先は今回の狩りの場となる「密林」。ジャングルだけあって迷ってしまうハンターも少なくない。この密林の中心には竜の巣があり、左側には巨大湖がある。この巨大湖には『水竜、ガノトトス』が生息しているらしいが詳細は不明。
15分23秒後、馬車は密林に着いたらしく動きを止めた。
間もなく二人とも馬車から降り、馬車の人に礼を言い、ベースキャンプがある所まで歩きだした。密林は狩りの場になることも多いのでベースキャンプは建てっぱなしになっているらしい。
間もなくして、カイトが地図を広げて、口を開いた。
「なぁ、クレル。俺達、今何処に居るんだ?」
地図を指差しながらポツリと言った。
VSイャンクック〈密林〉
「おいおい、密林に来るのは初めてじゃないだろ?…ちょっと貸してみろよ」
クレルは無理矢理、カイトが持っていた地図を取り上げて、注意深く地図を見始めた。
「って、これジャングルの地図じゃないか!………って、密林もジャングルも同じだよな…」
クレルの意味不明な発言にカイトは「(また始まったよ…)」と心の中でつぶやいた。
クレルは普段は真面目なのだが、クエストに出るとテンションが上がるのか、意味不明なボケをしてしまうことがあるのだ。
「気を取り直して……俺達が今居るのが、2番だ。そして今向かってるのが、このキャンプマークの場所。ここまではいいか?」
「おぅ。何となくな。」
と、ここまでは良かったのだが、徐々にカイトに変化が起き出した。
「そして5番は小さな洞窟となっていて、3番は湖、6番には………」
「ZZzzzz」
「はぁ…歩きながら寝るなんて、どこまで器用なんだか。まぁ、いい。あれを使うか。」
クレルは何やら"小さな玉"らしき物を取り出して、少し笑いながらその"小さな玉"をカイト目掛けて投げ付けた。
その玉はカイトに当たる寸前で『キーン!』と大きな音を起てて破裂した。
「…!!?…み、耳鳴りがぁぁぁ…!!」
そう、クレルが投げた物は音爆弾。しかし、人専用に改良したクレルオリジナルの音爆弾だ。
『クレル…てんめぇ、こんなとこまでそれを持ってきてたのかよ……』
カイトはまだ耳を触っている。まだ耳鳴りがするのだろう。それだけ、あの音爆弾は強力なのだ。
『当たり前だろ?持ってくるのが常識だ。…お前と狩りをするときには、な。』
と、クレルは半笑いで言った。カイトも、そうかよ、と言ってため息をついた。
そんな事をしながらも、無事キャンプに着いた。
『さて、これからどうすっかな~。なぁ、クレル。少し休んでこうぜ?俺、疲れたからよ。』
『確かに。なら、少し休むか。だが゚少し゚だからな。』
『わぁってるって。』
カイトはクレルの念押しも気にしていないようだ。
カイトが休もうとテントの中に入ろうとした瞬間…
『っ!?』
それに気付いたクレルがカイトのほうを見ると、カイトはクレルを手引きした。
クレルがテントの中を見るなり、間もなく2人が口を揃えて言った。
『……誰?』
約40歳くらいのヒゲもじゃの男がふて寝をしてるではないか。
と、こちらに気付いたのか、男は目を開け、ゆっくり起き上がった。
すると男が喋り出した。
『バトル一式が2人…、ということは、お前等がカイトにクレルだな。』
2人は驚いて口がポカーンと開いてしまっている。それもそのはずだろう。知らない人に名前で呼ばれたからだ。教えてもいないのに。
少しの沈黙のあと、クレルが口を開く。
『…何故?俺たちの名前を?』
『うぬ。お前達の村長さんに頼まれてな、護衛役をしてくれって。あの村長さんも心配性なんだよな。』
意味が分からなかった。何故この男がここに居るのか、何故村長がこの男に頼んだのか。カイトとクレルは2人だけでイャンクックと戦うのは初めてとはいえ、村長と一緒にイャンクック狩りをしたことがある。もちろん、村長は見ていただけ。なら今の現状とさほど変わらないはず。
だが、今そんなことを考えても仕方ない。
『というわけでよろしくな!カイトにクレルよ!』
こちらの様子を気にしていないらしく、男は大声をあげた。
急な展開に2人共まだ理解しきれていないらしく、ぽか~んとしている、が、ずっとそうしてるわけにもいかない。
『…あ、よろしくお願いします』
やはり先に口を開いたのはクレルだった。
と、それに続いてカイトも口を開いた。
『よ、よろしく、゚おじさん゚』
『ははは。゚おじさん゚はよしてくれよな?俺の名はキーンズ。キーンズ・ケレイヤーだ』
『改めて、よろしく(お願いします)キーンズ(さん)』
キーンズはよっこらせと言って立った。
『さて、自己紹介も済んだ事だし、目的のやつでも狩りに行くか。』
キーンズの言葉にカイトが口を挟む。
『ちょ、まだ休憩が…』
『そうですね。行きましょうか。でも何処に居るのか分からないんじゃ?』
しかしクレルが間髪を入れずに喋った。
カイトが舌打ちする音が聞こえたような気がしたが、スルーした。
『な~に、゚これ゚があるから大丈夫だろ。』
と言って、キーンズは何かが入ったビンのような物を取り出した。
『それは?』
『千里眼の薬だ。』
すると、さっきまでしかめっつらをしていたカイトが話に入ってきた。
『あ、それ聞いた事あるぜ。確か特定のモンスターの居場所が少しだけ分かるってやつだろ?』
キーンズは、あぁ、そうだ、と言って薬のビンを開けた。
『なら、飲むからよ、少し静かにしといてくれ』
キーンズはそう言い、薬を飲んだ。
少しの沈黙が流れた。
『……よし!゚やつ゚はちょうど、このエリアの隣に居るようだな』
そう言い、キーンズぱやつ゚の居るエリアへと行く道へクレルとカイトを案内した。
『ちょっと、待っててくれ』
そう言い、キーンズはテントの中から
ライトボウガンを持ってきた。
『それは…?』
クレルが問いかける。カイトは唖然としている。
『これは鬼ヶ島。あまり見かけた事ないかもしれないな』
と、次の瞬間、キーンズはカイトとクレルに銃口を向けた。
『…っ!?』
キーンズはうっすらと笑みを浮かべているように見えた。
『…あばよ』
と、キーンズは何のためらいもなく発砲した。
ドン!
カイトもクレルも反射的に目をぎゅっとつぶった。
……ピキーン
………
『……ん?』
確かに弾は当たったはず。だが何故か生きている。
と、キーンズがこちらに歩み寄って来ているのが見えた。
『ふ、ふふ…ははは!どうした!?ビビったか!?ははは!さすが、俺の演技力は凄いな!』
2人共、何が起こっているのか分からず、アポーンとしている様子だ。カイトが動揺している様子で
『な、何なんだ…?』
と言った。それもそのはず。何せ゚こんな状況゚なのだから。
『ははは。今、俺が撃ったのは「回復弾」だ。今から戦うからな。準備はばっちりと、な!』
キーンズの様子を見て、カイトが虫のような声で言った。
『………こ、殺す』
もちろん、キーンズには聞こえなかったようだ。
一行はイャンクックが居るエリアへと歩いていた。
『さて、…着いたぞ』
キーンズのこの言葉に2人は反応した。
『へ、いよいよだな』
『まぁ、無理はするなよ』
カイトは、余計なお世話だ、とクレルに言いながら持ち物の確認をした。
しばらく時間が経ち、クレルとカイトが話をしていると、
『……静かに』
何かに気付いたのか、キーンズは辺りを見回し始めた。
『ふ…やつのお出ましだぞ。気ぃ引き締めろよ!』
その瞬間、何やら遠くに黒い陰が見え始め、羽をばたつけさせながら、やつが降りてきた。
カイトが目をこらして見てみると
『な、あれ…!?』
カイトの様子が気になったのか、クレルも目をこらして見た。
『………青い、イャンクック!?』
最終更新:2013年02月19日 21:13