己の道
入院して1ヶ月と半月が経ち、レイの怪我は完治、退院した。
レイは、仲間の仇を“この手”で討つと誓い、シュレイドを後にした。
馬車に揺られること1時間、着いたのはレイの故郷
【アレッシイ】
温暖な気候の土地で、
モンスターや飛竜の生息数が異常に多く、ハンター稼業には持ってこいの村である。
レイはとりあえず自分のゲストハウスに戻る事にした。
黒龍討伐の時は出張みたいな物だったので登録はこちらのままになっている。
「…くそっ!」
レイはイライラしていた。周りの視線がうるさい。理由は見当が着く。
黒龍の事だろう、死にかけたとは言え黒龍を撃退したのだ。興味を持つのは分かる。
だが、その目も何やら哀れみが感じられる。それがレイは嫌だった。
足早にゲストハウスに逃げ込む。
荷物をベットに放り投げ、アイテムボックスをあさくり、取り出したのは蒼いバサルモスシリーズの防具。
だが、それは「剣士」防具だ。
レイはそれを手早く装備すると、ベットの荷物から剣を取り出した。
常に水気をもつ蒼い刀身。シンプルな丸い盾。
オデッセイブレイド
レイは文字通り、“この手”仇を討つ事を誓った。
─復讐─
それが自分に歩む事の出来る唯一の道、仲間のために出来る弔いだと考えた。
全ての荷物を片付けたレイは、部屋を出て酒場に向かった。
また視線が集まるのが嫌だったので、顔は隠して行く事にした。
途中でモレクとティス、イヤルンカのゲストハウスをチラと見たが既に別のハンターが使っていた。
彼らの所持品は処分されたか、墓に埋められたのだろう。
そうゆう決まりだ。
酒場に入ると扉の開く音に反応し、一斉にこちらに視線が集まる。
それは無視してカウンターに座った。何をするにもまずは腹ごしらえと、軽い食事とミルクを頼んだ。
それを聞いてかは知らないが、がたいの良い、いや、無駄に体のでかい男が絡んできた。
「よう餓鬼。良い装備してるが、ここはママのおっぱいが恋しいような奴が来るような所じゃねぇ。さっさとお家帰ってママに甘えてな。」
周りからは、はやしたてる者や、大笑いしている者がいる。
レイ顔を隠している。この男は自分が絡んだ“餓鬼”が何者か分かっていない。
まさかレイを『蒼逆鱗』と知って絡んで来る者はまずいない。
「…」
レイは男の挑発を物の見事にスルーし、もくもくと食事をしている。
「…っこの餓鬼!」
男は無視された事が気に食わなかったらしくレイに殴りかかった。
レイは男が殴りかかる一瞬前に立ち上がり、拳を内払いで受け流した。
「血の気の多い奴だな…」
レイは男の殴りかかった腕を掴むと素早く背後に回り込み、男に体重をかけつつ足を払ってうつ伏せに倒す。
男の背中に膝をつき、掴んでいる腕を捻り上げた。
「イテテ!このっ…!離しやがれ!」
男は必死に抜け出そうとするが抜けられず悪態をつく。
「降参するか?」
「誰が…テメェなんかに降参するか!」
それを聞いたレイは男の腕を更に捻り上げる。
「もう一度言う…降参するか?」
「ぐうっ!この餓鬼…!調子に…」
男は必死に悪態をついているが顔は真っ赤だ。自分より小さい奴にやられるのが余程くやしいのだろう。
レイは男の悪態を聞き終わる前に、躊躇無く腕を有らぬ角度まで捻り上げた。
鈍い音が響き、男がのたうつ。
「ぐああああ!俺の腕が!俺の腕がああ!!」
「うるさい!腕の一本位で喚くな!関節外しただけだ!」
周りが静まり返っているのをよそに、残ったミルクを飲み干すとカウンターに向かい、何かを探すように見ている。
見当たら無かったのか、諦めた様に溜め息をつくと、そこにいた受付嬢に話しかけた。
「すいません、こちらにフェニスと言う受付の方はいらっしゃいますか?」
「フェニスさんなら移転になりましたよ。詳しくは私は知りませんが、こちらにいた頃と同じく、何処かの村の給仕長をするそうです。…ご友人ですか?」
明るい返事が帰って来た。快活な性格のようで、人に良い印象を与えそうだ。
「は…、いや、ただの顔見知りです。しばらく入院していたので挨拶くらいはしておこうかとおもったのですが…」
酒場はざわつきを取り戻している。
さっきの男は仲間に外れた腕を填めて貰ったようだ。
だが、もう懲りたようで大人しくしている。
レイが酒場の様子を気にしていると、不意に再び受付嬢から声がかかった。
「あの、もしかしてレイ・ライサさんですか…?」
酒場がまた静まり返った。
憧憬の眼差しを向ける者、畏怖の眼差しを向ける者、捉え方様々であろう。だが、じろじろ見られるのは腹が立つ。
「…何で顔を隠してるのか察して下さいよ…」
少しイラついた声で話し返した。
「あ、す…すいません。あの、フェニスさんから手紙を預かっています。」
受付嬢は少し驚いたらしい。レイは僅かな罪悪感に駆られた。
レイは顔の覆いを外し、手紙を受け取った。
差し出されたのは小さな封筒。ひっくり返すと名前が書いてある。
『フェニス・アプトム』
独特な流れるような字。間違いなく彼女の筆跡だ。
「今は預かっていて貰えませんか?今から火山に出掛けたいのですが?」
レイは受け取った手紙を受付嬢に返した。
「分かりました、お預かりします。火山にはどの様なご用事で?」
「素材探索と言う事でお願いします。会いに行きたい奴がいるので…」
受付嬢はレイの真意を理解したようで、ポンっと手を打った。
「ああ!あの子に会いに行くんですね。あの子、商人の方々にはそりゃもう大人気で…。あ、ごめんなさい…少し待ってて下さいね」
受付嬢は少し興奮したようで、照れた様に頭を下げると、奥の方に何かを取りに行ってしまった。
レイがしばらくぼ~っとしているとさっきの受付嬢が帰って来た。
「許可がおりました。こちらが、極最近の火山地帯の情報になります。必要であれば目を通して下さい。」
手渡されたのはクリップで纏めた真新しい紙の束。
「そしてこれが先月の黒龍撃退の際の報酬の領収書になります。まだ受け取ってませんでしたよね?現金で渡すには額が大きすぎるので、書面での受け渡しになります。ギルドが責任を持って預かっていますので、必要な際はこちらで引き出して下さい」
受け取った領収書に書かれているのは
000000…
凄い額だ。0が陳列している。リオレウスを100匹狩ってもここまでは追いつかないだろう。
だがレイはあまり浮かない顔をしていた。
それを知ってか知らないでか、カウンターから明るい声がかかる。
「今すぐ火山に出発なさいますか?」
「はい。今すぐ…」
「では、あちらで地竜車が待機しています。幸運をお祈りしています。」
「…どうも」
領収書をゴミ箱に捨て、無愛想に返事を返し、ヘルムを掴むと扉を出ていった。
待っていたのはアプトノスの引く地竜車。レイが乗り込むのを確認すると、発進した。
地竜車に揺られる事15分。到着したのは火山地帯の入り口。
支給品ボックスとベースキャンプを降ろすと、地竜車は帰って行った。
支給品ボックスを確認すると、入っているのは伝令用の打ち上げ花火のみ。
素材探索は契約金も要らない代わりに支給品も無い。
レイはボックスを閉じるとキャンプを組み立て、ポーチから携帯食料を取り出した。
それをかじりながら簡易ベットに腰を下ろすと、火山地帯の情報書を取り出し、目を通した。
ザッと目を通した所、気になった事は1つ。
イーオスが群れを成し始めているらしいという事。
イーオスは毒を用いて襲って来る。かといって1匹、2匹程度なら大した事はない。
だが、群れを成して来れば多少の障害には成りうるだろう。
その上、群れには必ずリーダーがいる。
ドスイーオスと呼ばれるそれは、イーオスとは比べ物にならない能力を持つ。
上位の者ではイャンクックにも引けを取らない。
「面倒臭いな…」
書類の日付は1週間前。運が良ければ解体しているかも知れない。
だが、レイは性格上最悪の事態を最優先に考える。
レイは砥石を取り出すと、オデッセイブレイドに磨きをかけ、軽く1振りすると立ち上がり、歩き出した。
目指すは火口の入り口付近。そこにレイの探す者がいる。
途中にはイーオスが屯するには充分過ぎる広さのエリアが点々としている。
いつ襲い掛かられても良いように、神経を集中する。
レイの周りで殺気が起こり、空気がピンと張り詰める。
木に止まっていた鳥が恐怖し、飛び立って行く。
歩き出した矢先、見付けたのは5匹のイーオス。
「早速か…」
レイは剣を抜き、イーオスに向かって走り込み、一気に間合いを詰める。
レイは元はガンナー、だからと言って
片手剣を使えない訳ではない。
モレクに散々片手剣について語られ、いつの間にやら単身リオレウスを狩るまでになっていた。
このイーオス達は実際狩る必要は無い。
ハンターは本来無駄な狩りはしない。
だが、レイには1ヶ月のブランクがあるため、腕の確認と言うわけだ。
1匹のイーオスがレイに気付き、耳障りな声を上げる。
だが気付くのが遅すぎた。
声を上げたイーオスの首は既に体から離れ、宙を舞っていた。
さらに2匹のイーオスが攻撃を仕掛けてくる。
が、噛み付こうとした1匹は頭を縦に割られ、飛び掛かってきた1匹は自ら刃に噛み付き、死んだ。
「あと2匹!…ん?」
レイが振り向いたところ、イーオスは何故か逃げていた。
幾ばくかの不安と疑問はあったが、腕の確認は出来た。
もう、用は無い。
逃げる2匹のイーオス。
彼らは坂の頂上に着くと、振り返り、レイを見た。
その口元は笑っている様に見える。
レイはそれに気付く事が出来なかった。
その後レイはランゴスタを見かけただけで先程のイーオス以外には何もいなかった。
「静か過ぎるな…」
気にはなったが今は先にする事がある。
しばらく歩き続けると、火山の洞窟の入り口付近に辿り着いた。
洞窟からは時折ムッとした熱風が吹き掛けてくる。
この地点は比較的開けており、ベースキャンプから来た場合、入り口となる場所は3ヶ所あるが火山の影響で2ヶ所は塞がり、残りの1ヶ所もかなり通りづらい。
レイは辺りを見回すと、ポーチから小さな笛を取り出した。
その心地の良い笛の音と共にいつぞやの耳障りな声が響き渡った。恐らくはイーオス。
それと同時に岩が動き出し、飛び出した。
岩竜バサルモス
背中の甲殻は岩に似て擬態を得意とし、見た目と同様に非常に堅い甲殻を持つ飛竜。鎧竜グラビモスの幼態。
周囲の丘にはやはりイーオスがいた。
ざっと数えてその数20。加えてドスイーオス3匹。さらに加えてバサルモス。
完全に囲まれた。逃げ道はほぼ塞がっている。
先程逃げ出した2匹は仲間を呼びに行っていたようだ。
それにしても凄い数だ。まるでこの辺り一帯が赤に染まっているかのようだ。
イーオス達はドスイーオスを先頭に少しずつ距離を詰める。
この数は流石に厄介だろう。だがレイは全く動じない。
すると後方のバサルモスが胸を反り上げた。
喉の奥から炎がせり上がり、首を振り下ろすと同時に火炎を吐き出す。
それはレイの方向に向かって飛んで行く。
だがレイはそれに気付いていても、微動だにしない。
バサルモスの打ち出した火球はレイの頭上を通り越し、先頭のドスイーオスに直撃した。
着弾と同時に火球は爆発、周囲にいたイーオスを巻き込んで爆砕した。
辺りに焦げた匂いが広がり、肉片が飛び散る。
「もう…1ヶ月振りに会ったと思ったらイーオスなんか連れてきて…レイらしくないよ、いつもは慎重なのに」
レイでは無い者の話し声。だが、今ここにいる人はレイのみ。
話し声はレイの後ろから聞こえて来る。
「ごめん、アース。早く会いたくて少し慌ててた」
「僕も手伝うから早く片付けて話をしようよ」
「分かった」
なんと話しているのはバサルモス。
アースと呼ばれたバサルモスは、モレクとティスがグラビモスを狩った時に、たまたま見付けた鎧竜の卵を持ち帰り、生態研究の対象と言う名目でギルドの許可を得て、その後モレク一家に育てられた。
生まれた時から人に育てられたためか、人語を解し、特にレイと非常に仲が良く、人懐っこい。
商隊の護衛を務める事もあり、名のあるハンター並みに知られている。
先程の火球で一匹のドスイーオスがやられ、群れの間にかなりの動揺が走っている。
「じゃあアース、一気に行くよ」
「オッケー♪」
「そお…れっ!」
アースがもう一匹のドスイーオスに火球を吐き出す。
イーオスは何頭か巻き込まれたが、そこはドスイーオス。すんででかわした。
だが、巻き起こる爆煙までは避けきれない。
視界を奪われたドスイーオスの眼前に煙を割ってレイが飛び掛かる。
ドスイーオスが気付いた時には、体は既に二分されていた。
レイは駆け抜けざまイーオスを斬り伏せつつ、円を作っていたイーオスの背後を取った。
無防備なイーオス達を一気に斬り刻む。
アースを敵と見なしたイーオスは一斉にアースに群がる。
アースに噛み付き飛び掛かり毒を吐くが、全て頑強な甲殻の前に弾き返され、分厚い甲殻から毒が通る事はなかった。
アースは全身に力を込め、胸を反り上げる。それと同時に白い煙が周囲のイーオスを包み込んだ。
その場にいたイーオスが次々に倒れていく。だが、いずれも死んではいない。
催眠性の毒を含んだガスを吸い込み、眠っている。
アースはもう一度力を入れ、胸を反り上げる。
今度はアースの周りを焼けるような熱風が吹き抜け、辺りのイーオスは眠ったまま黒焦げになっていった。
「そういやアースもグラビモスらしい特徴出てきたね」
「そうだね。もう7歳だから、あと数年ででグラビモスになれると思うんだけどな」
「そうなったら火口まで会いに行かなくちゃならないのかぁ」
「それでも会いに来てよね」
「当たり前だ…ろっ!」
話しながら悠々とイーオスを駆除していくレイの正面からドスイーオスが飛び込みを仕掛けてくる。
それをギリギリでかわし、背後からそのドスイーオスに斬りつけたところ、脚力を活かしたステップにかわされた。
更に追撃をかけるが、真一文字の剣を一歩後ずさってかわし、縦に斬りつけたそれは頭を僅かにずらしてかわし、こちらに突っ込んで反撃をかけてきた。
それを盾で受け、ドスイーオスでは考えられないような衝撃にレイは唸った。
「こいつ…違うな。」
よく見ると全身に傷のあるそれは、かなりの場数を踏んできた事を容易に想像させる。
「コイツが頭か…。アース!周りの雑魚は任せた!俺はコイツを!」
「分かった、でも気を付けて!そいつ強い!」
「任せろ…!」
レイはオデッセイブレイドの剣尖をドスイーオスに向け静かに呟くと、鬼の、いや、それ以上の形相で睨み付けた。
ヘルムの奥から覗く、全てを飲み込む様な漆黒の眼。
それを覗き込んだドスイーオスは人のものとは思えない覇気に一瞬たじろいだ。
だがそれで引くようなドスイーオスではない。
姿勢を低くすると、一直線にレイに突進した。
レイは左腕を前に突き出し盾で突進を受け流すと、体勢を反転しドスイーオスの背に剣の切っ先を向けた。
体勢を反転した瞬間、レイの視界が振動した。
足首が変に曲がっている。見事に石につまづいてしまった。
ドスイーオスに向けた剣は空を斬り、完璧に体勢を崩したレイにドスイーオスの牙が迫る。
「(何て事だ!こんな盆ミスで…咬まれる!)」
狩りでは全てが一瞬の出来事。
嫌な汗が吹き出た。ドスイーオスが狙っているのはバサルシリーズの穴である首筋。
咬み切られたら終わりだ。
レイが死を悟った瞬間、眼の前が赤く染まった。
それはレイの鮮血でもなく、ドスイーオスの体色でもない。
吹き抜けたのは、灼熱の業火。
飲み込まれたドスイーオスは叫び声を上げる間も無く蒸発した。
何が起こったのかをだいたい理解したレイがアースを振り向くと。
「何ドジやってんだよ!レイ!」
衝撃波のような怒号がレイを襲った。
飛竜の放つ大声だ。咆哮では無いとはいえまともに聞いた為に鼓膜は破れんばかりに震え、頭はクラクラする。
靄のかかった視界に、アースが突っ込んで来るのが見えた。
「レイのバカー!」
多少吹き飛んだが、意外に軽い衝撃に再び意識がハッキリした。手加減してくれたようだ。
「何であんなバカみたいなミスをするんだよ!」
アースの声には微かに鼻声が混じっている。
「そんなにバカバカ言うなよ。生きてたんだらか良いじゃないか。」
「もし僕が助けなければレイは死んでたよ!何であんな…!僕の目の前で…!」
アースの首がレイの肩に軽く乗せられた。
「生きてて良かった…」
顔は見えないがアースは泣いているのだろうか。震えているように感じられる。
レイには大した事では無かったが、アースにはレイの死に際がかなり堪えたようだ。
唐突にシュレイド城での出来事が甦る。
「(そうだ。独りなる辛さは俺が一番知ってるのに…)」
レイはアースの首に手を回すと、強く抱き締めた。
「…落ち着いた?」
暫くして投げ掛けられたレイの声には僅かに動揺が感じ取れる。
自分がアースを不安にさせた事に罪悪感を覚えたのだろう。
「うん…レイこそ足は大丈夫?首は?」
「ん?ああ、足は捻ったけど挫いちゃいない、首も牙が届く前にアースが助けてくれたから大丈夫」
レイはアースから少し離れると足踏みをし、首もヘルムを外して見せた。
「…涙出てるぞ、にしてもアースが熱線使えたなんてなぁ、あれはグラビモスの特権じゃなかったのか?」
レイはアースの目元の涙を摘まみながら少し冗談混じりに話し始めた。
バサルモスの涙は他の飛竜の涙とは違い、岩竜の涙として区別される。
鉱石を主食としている為か大気に触れると即硬質化するそれは、鉱石にも似て非常に価値が高く、また武器や防具の素材としても重宝される。
「それあげるよ。昔から紅蓮石とか獄炎石とかホントなら僕が食べられないような発熱性の鉱石を沢山食べさせて貰ったからね。そのおかげで成長も早いし、熱が溜まるから排熱行為である熱線も出来るんだよ」
「ふ~ん。そんなもんなんだ。流石自分の事は良く分かるんだな」
その後、とりとめの無い雑談をしていると急にアースが黙りこんだ。
「ん?どうかした?」
疑問に思ったレイがいぶかしむような顔でアースに問いかける。
「うん…シュレイド城で何があったか大体はフェニスさんに聞いたよ。でもレイから詳しく聞きたいんだ」
アースの目線は僅かに下を向いている。
「いきなりだな。…話すよ、家族として」
レイはミラボレアスが実はまだ恐らくは不完全なミラバルカンであった事、ティスとイヤルンカが一瞬にしてやられた事、モレクが自分を庇い死んだ事を話した。
「まあ、こんなところだ…」
「皆…死んじゃったんだ…ううん、今更泣いても仕方ない。レイはこれからどうするの?」
アースは溢れそうになる涙を首を振って引っ込めた。
「あいつを殺す」
聞かれたレイは即座に返答する。
「この父さんの片手剣で、俺がこの手で、あいつを…殺す」
レイの眼は獲物を狩る獣のように鈍く輝き、周囲を取り巻く殺気は尋常ではない。
それを正面で見たアースは例えそれが自分に向けられてはいないものだと理解していても威圧感に恐怖した。
自分に向けてくれた優しい眼差しは消え失せ、今は怨みと憎しみが入り混じっている。
その目はおぼろ気に霞み、正面のアースは見ていないようにみえる。
見ているのはどこか遠く。そう、遠くを見ている。今はどこかで体を休めているであろうミラバルカンの姿を探すかのように。
「皆の仇を討つってこと?」
「…ああ」
この時アースは理解する事が出来なかった。
レイの濁った瞳が何を意味するのかを。
復讐に縛られたままでは遅かれ早かれその身を滅ぼすであろう事を。
「さて、辛気臭い話はここで終わりだ」
レイは両手をパンと打つとヘルムを外し、長い髪を結び直した。
「ところでレイ、今日は1日ここに居てくれるの?」
アースの口調が元に戻っている。どこか甘えるようにも見受けられる。
「ん?ああ、もちろん。今まで通り狩りの合間にちょくちょく来るよ。」
レイも先程までとは打って変わって優しい面持ちだ。しかし━━
「わ~い!やった~!」
「わぷ!くすぐっ…いや痛い!あだだだ!やめて!」
余程嬉しかったのかアースはレイの頬を舐めている。
だが、普段鉱石を食べるアースの舌は硬くざらざらしており、頬を砥石で研いでいるようでレイは笑いの混じった悲鳴を上げた。
その後2人は火山を散歩したり一緒に鉱石を採掘したりして1日中遊び、比較的涼しいところで夕食を食べ、レイはアースの翼膜の下に入って一緒に眠った。
これがレイとアースが幼い頃から続けてきた習慣。
レイが一番の笑顔を見せる場所。
翌朝レイはアースにしばらくの別れを告げ、街へと帰って来た。
ギルドの酒場に着くと、待っていたのはやはり静寂。
だがそれはあの受付嬢が手を打つと、すぐに解かれ騒がしくなった。
ただの若い新人かと思ったら、意外と存在感のある存在らしい。
レイは一人カウンターに座った。
「…悪いね」
「仕事ですから。はい、あの時の手紙です」
淡々と返事をして懐から手紙を取り出し、押し付けるようにレイに渡すと、慌ただしく行ってしまった。
どうにも忙しいらしい、レイは名前を聞けなかったのを後悔したがまた今度で良いか、と考え手紙の封を切った。
『元気にしていますか?今頃は怪我も治ってまたハンター生活を送っていることでしょう。私は転属になりましたが、また会う日を楽しみにしています。
その時はまた一緒に料理でもしましょうね。
追伸:囚われては駄目』
「(料理か…何と言うか…あの人らしいと言うか)」
文面は一般的な物だが柔らかな字で、心を込めて書いたのだとすぐにわかる。
レイの口元には僅かに笑みが浮かんでいる。こういう手紙を貰うのは嬉しいものである。
が、すぐに笑みは消え次の瞬間眉間にはシワが寄っていた。
「(囚われる?俺が?何に?)」
文章の意味が理解出来ずレイが考え込んでいると、突然横から一杯のビールが差し出された。
「ビールはあまり好きではないが…貰うよ。…用件は?」
レイは手紙を片付けるとしかめっ面のまま差し出された腕の持ち主に向き直った。
「話が早くて助かるよ。俺はクロノス・レイヤード。こっちはアーク・ウルト」
レイは話を聞きながら相手の装備をざっと見回した。新入り…という訳では無いらしい。
クロノスと名乗った男はガッシリとした体つきで短いボサボサの髪と無精髯にかくばった顎の豪快と言った感じではあるが、目付きはどこか優しい。
胴腰にはイーオスシリーズを、腕にはクックアーム、足にはハイメタグリーブを装備している。背には飛竜の頭骨をそのまま武器にしたような巨大な大剣『ゴーレムブレイド』を背負い、手にはイーオスヘルムを持っている。
一方アークと呼ばれた男は対象的にスラッとした体つきで髪は短く整えられ、髭は綺麗に剃られている。だが目付きは非常に鋭く、さながら暗殺者を思わせる。
防具は胴はスティールメイルで胴以外はハイメタシリーズを装備しているが、頭には何も装備していないらしい。左腕には赤と青のラインが美しい大きな盾を取り付け、背には細く針のような
ランス『ボーンランス改』を背負っている。
「…レイ・ライサだな?」
今度はアークが口を開いた。やけに静かな、そして暗い、だが何故か良く通る声だ。
「…そうだが?」
「貴方を高名なハンターと見込んで頼みがある。…リオレウス討伐に手を貸して欲しい」
「悪いが、今のあんた達の装備を見たところリオレウスは狩れない相手ではないだろう?」
確かにリオレウスは『空の王』とも呼ばれる恐ろしい相手ではある。それ故に一流となるための階段の1つとされている。
それをわざわざ知らない相手、まして高名なハンターに協力を依頼するのも変わった話だ。
「分かっている。俺達もそう思っていた…。だが、俺達が見たリオレウスは普通の奴とは違ったんだ」
クロノスの表情は悔しさの混じった苦々しいものに変わっている。
「違った?」
レイも違ったと言う言葉に興味を持ったのか、2人の顔を正面から見ている。
「ああ、深い…蒼だった」
重々しくアークが口を開いた。
「ふん、リオソウルか…」
一気に興味が失せたらしく、差し出されたビールを煽った。
元来、リオレウスは赤い甲殻を持った飛竜である。その中でも時折蒼い甲殻を持ったリオレウスを見ることが出来る。
そのリオレウスは原種である赤いリオレウスとは比べ物にならない力を持つ。そのため区別され、リオソウルと呼ばれる。
「知っているのか?」
クロノスはかなり驚いた顔をしている。アークはずっと無表情のままだが…。
「ここはモンスターの生息数で有名なことは知っているだろう?だから亜種の目撃数も非常に多い。…あんた達はここに来て間が無いな?」
「あ…ああ、元は辺境の村で狩りをしていたが、村長に腕を認められて街に出てくる事を許されたんだ」
クロノスの口調にはどこか自慢気な調子を受ける。
「どこの村だ?」
クロノスの口調に疑問を持ったレイが自慢気なクロノスをよそにアークに尋ねた。
「トーメイ」
「トーメイ?…はは!はははは!トーメイか!これは何という縁だ!良いだろう。この依頼受けた!」
「は?」
急激な事態の変化に追いつかず呆気に取られている2人を無視してレイは何故か肩を震わせて笑っている。
「どうした?もっと喜んだらどうだ?」
「嬉しいが…何故急に?」
当然の質問がアークから投げ掛けられる。
「その村の村長からは昔ボウガンの師事を受けたことがある。その時の村長との約束でな。破る訳にはいかない」
レイは一時期モレク達のパーティを離れ、ボウガンの修行に出た事がある。
その時拠点にしたのがトーメイと言う村で、そこの村長は元は有名なボウガン使いであり、レイはその弟子として修行を積んだのである。
「よし。前衛は大丈夫そうだから俺は後衛に回る。装備を変えてくるからその間に準備をしといてくれ」
レイはビールを飲み干し、パンッと腿を叩くと立ち上がって酒場を後にした。
残された2人は契約を取り付けにカウンターに向かった。
レイは自分のゲストハウスに着くとアイテムボックスを開き、ガンナー用のバサルUシリーズと巨大な盾付き大砲の様な
ヘヴィボウガン、アースイーターを取り出した。
「これで良し…っと」
今自分の装備している防具を手早く取り替えアースイーターを背に担ぐと、再びアイテムボックスをあさっている。
取り出したのはペイントボールと閃光玉、更には大量のボウガンの弾、弾の素材となる物。
「これだけあれば十分だな。1人でも討伐出来るだろう。…最悪の事態でも何とかなる」
レイの言う最悪の事態とは、2人が逃げ出した場合の事態である。
レイは素振りも見せなかったが、あの2人が自分をはめようとしているのではないかと疑っているのだ。
ハンター同士の駆け引きで用心するのに超した事はない。
それだけを取り出し、もう一度装備を確認すると再び酒場に戻って行く。
既に2人の準備は完璧な様で、合流した3人は早速今回の狩場であるという【森と丘】に向かい出発した。
森と丘に着き地竜車から降る。降りた場所は洞窟のようではあるが入口はモンスターが入り込めるような広さはなく、天井は空いているが飛竜が降りられるほど大きくはない。拠点にするには丁度良い場所だ。
ベースキャンプを組み立てるとアークが近場から調達してきた生肉をクロノスが上手に焼き上げていく。
意外と器用な様にも見受けられる。
全員がこんがりと焼けた肉を食べ終わり一段落着くと、アースイーターの状態を確認しLv.3通常弾を装填し終わったレイが切り出した。
「さて作戦についてだが、リオレウスの行動パターンは大体予測がつくから団体行動と行こう。ペイントをしたら戦闘開始だ。俺が全体への指示と雑魚の排除を含めての後方支援。アークが敵に張り付いて攻撃。クロノスが隙を見て一撃離脱…。これで行こう。異存は無いな?」
2人とも異論は無いようで首を縦に振って承諾の意を示した。
後の詳しい作戦はベースキャンプであーだこーだ言い合っても時間の無駄なので現場で臨機応変に、という事になった。
全員が自分の状態と装備を確認し、レイを先頭に歩き出した。
洞窟を抜けた瞬間、眩しく暖かな日差しが体を包み込む。これから飛竜との命をかけた闘いの緊張をほぐしてくれる。
右手には水を豊満に湛えた大きな川が流れ、アプノトス達の水飲み場になっており、肉食のモンスターが来る可能性が低い事を理解させる。
「レイ……さんよ」
「レイでいい」
「じゃあレイ、蒼逆鱗……あんたはそう呼ばれているんだよな?」
「そうだ。この呼び名では俺が暴れん坊みたいに思ってる奴もいるみたいだがな」
クロノスの話の蒼逆鱗とはレイの2つ名である。常に蒼い防具を纏い、飛竜との戦闘時に見せる普段からは想像もつかない爆発的な戦闘能力から付けられた名前。
「若いって聞いてたからもっとやんちゃなもんかと思ってたけど、意外と冷静みたいだな」
「確かに……だが初見では物静かと言うよりは人を寄せ付けない威圧感を感じたな」
「……」
クロノスとアークの言葉にレイは返事をしなかった。
確かにアークの言葉は正しい。今のレイからは常に、間違いなく威圧感を、殺気を放っている。
小高い坂を登りきり曲がり角に着いた時、レイが右手を地面と水平に伸ばして静止を促した。
レイは眼を閉じ、辺りの気配を伺っている。
アークとクロノスも反応してそれぞれの武器の手をかけた。
「リオソウルか?」
クロノスの問いかけにレイは眼を開け、首を振った。
「いや、ランポスだ」
耳を済ますと微かに音が聴こえてくる。小さな叫び声のような、鳴き声。
曲がり角から時折覗く青い色。額のとさかが特徴的な肉食竜。特殊な能力こそ持たないが、鋭い牙と爪は防具が無ければ肉をごっそり持って行かれる。
「どうする?」
クロノスは倒すべきだと言わんばかりにランポスを凝視している。
「……やるぞ」
ここは飛竜が着地するには十分過ぎる広さがある。万が一リオソウルがここに降りた場合ランポスとの混戦は避けたいところだ。
と、誰の合図もなくクロノスが武器に手をかけたまま走り出した。ランポスも此方に気付き、やかましい鳴き声で仲間に警告する。
遅れてアークもボーンランス改を展開し、構えると突進した。
2人ともリーダーであるレイの指示を待つつもりは無いらしい。
「協調性の無い奴だな……」
レイはため息をつき、アースイーターを組み立てるとスコープも覗かずに引き金を引いた。
最終更新:2013年02月21日 02:07