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己の道26~50

己の道

大砲の様な見た目通り、ボウガンの物とは到底思えない轟音のような発砲音が響き渡る。

音が響いた直後、1頭のランポスの頭が飛び散った。

凄まじい威力だが剛弾のためにに反動も大きい。ゆえに繊細な破壊は難しいはずだが、拳動だけでランポスの頭を撃ち砕くレイの腕は大したものである。

続けてかなり遠くにいる4匹のランポスのいずれも頭を撃ち抜き、葬り去った。

「(さて……見せて貰おうか)」

残ったのはクロノスとアークの正面に2匹ずつの計4匹。

アースイーターの銃口は既に地に向けられている。レイはあえてこれらのランポスを残し彼らの腕の一端を見る事にした。

クロノスは正面のランポスに駆け寄るとランポスが後ろに飛び退くより早くゴーレムブレイドを抜きざまに振り下ろし、これを叩き斬る。

続いて左の死角から飛び掛かってきたランポスに即座に反応し、地面に半分埋まったゴーレムブレイドを強引に地面ごと薙ぎ払い、これも叩き斬った。

反動を殺し切れずゴーレムブレイドはクロノスの背後で再び地にめり込んでいる。

「(速度と力、反射能力は申し分ないが……雑だな。だが筋はいい。)」

今回は2匹だけだったから良いものの、あの状態から再びゴーレムブレイドを第3の敵に振り抜く事は到底無理がある。

一方アークはといえば、突進の加速を乗せ十分な勢いをもってランポスの心臓を見事に貫いた。

右手から噛み付こうとするランポスにボーンランス改に串刺しになっているランポスを投げつけ、怯んだランポスの眼球から脳を一突きにした。

「(上手い……何故ここまでの腕を持つ者がくすぶっている?……何か裏があるのか?)」

この相手で判断するのは早いかもしれないが、アークのその場に応じた判断と正確な突きはとても新人とは思えない。

「おわったぞ!にしてもやっぱスゲーなお前!」

ゴーレムブレイドを背に担いだクロノスが意気揚々とレイの後ろからこちらに向かって歩いてくる。ランポスの素材に興味は無いらしく、剥ぎ取ることはしない。

アークもランポスの素材は必要な無いようだ。武器をしまうとまっすぐにレイの正面まで来た。

「試したな?」

「よくわかったな。まあ、それは良いとしてもう少し作戦ってもんを……ん?」

「何だ?」

急にレイが話を切り目を細め、前方の斜め上空を凝視している。

一拍置いてレイの目が驚愕に見開かれる。それと同時に背後のクロノスを蹴り飛ばし、正面のアークを押し倒した。

「って!何しやが……」

クロノスが文句を言い終わるよりも早く、寸前まで3人がいた所に巨大な炎弾が撃ち込まれた。

地は抉られ大きく窪み、周囲を高温の熱波が吹き抜ける。

「くあっ!」

不運な事に炎弾の端がレイの左足を焼く。

「どうしたレイ!?」

爆煙が辺りを包み、クロノスはレイに何があったか詳しく理解出来ていない。

「構うな!それより此処から早く飛び退け!次が来る!」

レイは痛む足を無理矢理動かし、アークの上から退くと横っ飛びに爆煙から離脱した。

アークもクロノスも左右に大きく回避行動を取る。

直後、爆煙を割って何かが高速で3人の隙間を通り抜けた。
通った所には数本の大きか爪跡が残っている。

その何かは一旦急上昇し、舞い降りた。

他を圧倒する瞳。強靭な翼。槍の様な尾。そして深い海を映した様な体。

美しいとさえとれるそれは蒼の火竜リオソウル。

「来た……」

クロノスの声が僅かに震えているように感じる。

「こいつが」

アークは立ち上がり、ボーンランス改を構える。

「蒼火竜リオソウル」

レイの呼び名に反応するようにリオソウルが咆哮を上げた。

「行くぞ!」

レイにとってあれから初めての誰かと組んでの戦い。

咆哮直後、リオソウルはレイに向かって真っ直ぐに突進する。

レイはそれを側転でかわし、背後から弾丸を撃ち込む。

だが右足の痛みに反動を押さえきれず片膝を着く。弾丸はリオソウルの僅かに右を逸れた。

「ぐっ…アーク!クロノス!暫く頼む!」

「分かった!」

2人同時に返事を返し、アークは真っ直ぐに、クロノスは大きく弧を描いてリオソウルに走り込んだ。

その間にレイは少し離れた場所で応急薬を右足にぶちまける。まだ痛みはあるが、幾分は引いた。

「糞が見てろ……」

そう吐き捨てるとLv.3通常弾のマガジンを廃棄し、別のそれを装填する。

込められているのは僅か2発の大型の弾。

アークがリオソウルに張り付き、頭、翼、尻尾と鋭利な鎗をやはり適所に正確に突き刺している。

リオソウルは振り払おうと無闇やたらに棘付きの鞭のような尾を振り回すが、それは巨大な盾の前に弾き返されるか華麗なステップに寸前でかわされ、アーク自身に当たることは無い。

「どきやがれ!アーク!」

クロノスの叫び声に応え、アークが瞬時に後ろに飛び退く。それを逃げたと見たリオソウルの体がアークを向く。

それと反対にクロノスに向けられたのは完全に無防備な尻尾。

うるああ!」

渾身の力を込めたゴーレムブレイドが尻尾の中程に振り下ろされる。
ブツンと嫌な音がしてリオソウルの尾が宙を舞った。

「ギィャアア!」

リオソウルは悲痛な悲鳴と共に前のめりに倒れ込み、暫くもがいている。

「もう一発!」

もがくリオソウルの頭を再びゴーレムブレイドが狙う。剣筋は多少ずれたものの、リオソウルの鼻っ柱に命中。甲殻を突き破って辺りの野原を鮮血が染め上げる。

だが、静かに燃える蒼いリオソウルの瞳は今やごうごうと燃え盛っていた。

かなりの重量がある上に肉を切り裂いているゴーレムブレイドを首の力だけで押し退けると一気に立ち上がり、2度目の咆哮が上がる。

出会ったときの咆哮とは比べ物にならない怒りの籠った咆哮。

周囲の空気が激しく震度し、至近にいる2人は武器を取り落としてしゃがみ込み、両手で耳を塞いでいる。

ああしなければ鼓膜は一瞬のうちに弾け飛ぶだろう。その咆哮に負けずとも劣らない銃声が響き渡る。

アースイーターから放たれた弾丸が咆哮の嵐のなか螺旋を描いて空気を切り裂き、一直線にリオソウルに向かって飛んで行く。

弾丸はリオソウルの背に当たると同時に砕け、飛び散ったように見えた。

3つに砕けたそれは再びリオソウルの体に落ちる。
2度目の衝撃が引き金となってそれぞれが爆発を引き起こす。

拡散弾と呼ばれる弾である。対象に命中すると複数に分裂し、爆発。大きな手傷を負わせる事ができるが、並みの反動ではない。

「グオオオ!」

轟音と共に翼、首、背中の甲殻が爆発によって千切り飛ばされ、激痛にリオソウルは大きくのけぞり、後ずさる。

その間に咆哮の拘束から解かれたアークとクロノスは追撃をかけようと武器を取り直す。

体制を立て直したリオソウルは近づく2人を短くなった尾で牽制し、翼を広げて高く飛び上がった。巻き起こる風にアークとクロノスは後退する。

飛び上がったリオソウルにレイの容赦無い追撃の拡散弾が襲う。

無論、体制を崩したリオソウルは墜落するが、それよりも早くレイに向かって火球が撃ち出された。

「つあっ!」

発射の反動と足首の火傷で速く動けないレイはアースイーターの盾の"ような"部分でかろうじて火球を受ける。

アースイーターは弾き飛ばされ、レイの後方で地面に激突し、煙をあげている。

「おい!大丈夫か!?」

クロノスは墜落したリオソウルを斬りつけつつ、レイを向き直った。

アークはリオソウルの背後に、背後にと移動しつつ、槍をむける。

(新人に心配されるとは……どうしたものか)

「俺はいい、敵を見ろ!」

「お……おう!引き付けるから早く!」

全くレイらしくない。本来モレクを補佐し、パーティの策士を担ってきた彼が、咄嗟に攻撃をかわせず、攻撃は単調で直線的。

クロノスの言葉を信じ、急いでアースイーターのもとに走るレイ。

(……異常なし。流石は岩竜の堅殻を使っているだけはあるな。)

幸い、素材が非常に頑強なために、アースイーターに傷らしき傷は無かった。

「うおっ!?」

クロノスの軽い叫びに振り向くと、リオソウルの火球が彼の背後に着弾していた。

レイからはクロノスが炎に包まれたように見える。

その瞬間、脳裏にイヤルンカとティスの最期が重なった。

(っ!?何で……?今更に……!)

レイは激しく首を振り、過去を振り払った。

ふと頭に浮かんだのはフェニスの手紙。

(囚われるな……か。そうか……俺は囚われてたのか。)

すっと自然に褐色の瞳が閉じられる。

(ありがとうございます。フェニスさん)

自分を理解し、導いてくれていた友人。

(奴は俺がこの手で止めを刺す)

そして、理解する。

(囚われては、目の前の石ころにも、一輪の花にも、気付くことは出来ない)

静かに開かれた瞳。

(今は、今在るものだけを……)

その瞳に曇りは

(見る)

無い。

しかし、これが独りでの狩りなら気付く前に死んでいたかもしれない。

その感謝がクロノスとアークにはあるが、それは行動で示す。

空になったマガジンを廃棄すると、再びLv.3通常弾を装填し、リロードを行う。

この一連の動作を一瞬の内に終わらせると、瞬時にトリガーを引いた。

発砲音と同時にリオソウルの左目から噴水の様に血が噴き出す。

悲痛な叫び声があがり、首が暴れるが、片目が潰れて引くリオソウルではない。

傷を負わせた者を殺すためにリオソウルの首がレイを向く。

(引き付けた!)
「頭だ!突っ込めクロノス!」

「おおお!」

指示を受け、何故このタイミングなのか理解したクロノスは、リオソウル目駆けてゴーレムブレイドを振りかざし走り出す。

次の動作が何だとしても、クロノスの一撃が当たらない筈はない。

「りゃあああ!」

彼はリオソウルの左側にいるのだから。

リオソウルの首が持ち上がる。喉の奥からは炎が漏れだしている。

地をうがつ程の火球をまともに受ければ、いかに堅固な防具といえど、中の人が衝撃と熱波に耐えられるとは思えない。

だが、それを放つ事はクロノスが許さなかった。

振り下ろされたゴーレムブレイドの刃がリオソウルの首を抉り、リオソウルに反撃をさせない。

しかし、首の上部では動きを止めても、大したダメージにはなり得ない。

自分を邪魔した相手は殺す。開かれた口に覗く唾液の糸を引く無数の牙が、その奥に広がる底無しにも見える喉が、クロノスを飲み込もうとする。

大剣の大きな動作の技後硬直に動けないクロノスはこれをかわす事は出来ない。

かわすつもりもない。

リオソウルの牙がクロノスに届く寸前、その首は苦し気な、そして痛々しい叫び声と共に宙を泳いだ。

直後、グラリと傾き、横倒しに地響きを立てて倒れ込んだ。

下敷きになった翼から、不気味な、間違いなく骨の折れた音が響く。

その脇を、ボーンランス改を抱えたアークが、武器の重量を思わせない速さで駆け抜ける。

彼は、通り抜けざまに尾の甲殻を弾き飛ばし、腹下の皮膚を肉ごと引き千切り、足を貫き、首を抉って、制動の勢いを乗せて、喉元を一閃していた。

ランスは素材による差はあれど、巨大な槍と盾が相まって、大剣をも凌ぐ重量になる。

それ故に機動力は皆無。武器が邪魔にり、回転しての大幅な回避は不可という欠点がある。

だが、防御においては鉄壁を誇り、攻撃においては他の武器とは比べ物にならないリーチと、一点集中による攻撃で肉質の影響を受けず、正確な攻撃を仕掛けることが出来る。

その重量と鋭利な矛先を利用して、アークはリオソウルの甲殻を内側から押し剥がすように、"突進"したのだ。

だがアークも走り抜けたあとは肩で息をしている。あれだけの重量の武器を担いで、更に走ったのだから当然だろう。

倒れたリオソウルの翼に、追い討ちをかけるようにクロノスのゴーレムブレイドが牙を剥く。

翼膜が切り裂され、叩き折られた翼爪が地面に刺さる。
宙を舞う様は、蒼い火の粉にも似て、この戦場においても美しく映える。

だが、リオソウルはこれでもまだ終わらない。彼は空の王。そして、その亜種。王たるプライドが彼を突き動かすのか、瞳の炎は未だに燃えている。

たとえ、彼の命が風前の灯火だとしても、動く力さえあれば戦う。王を傷付けた者は殺す。

そして、彼は己の命を削って最後の反撃を仕掛ける。その体が動く限り。

周囲一帯を熱風と轟音が包み込み、リオソウルの姿がその場から消えた。

「うおお!?」

クロノスは爆風を至近で受け、地を数メートル転がった。

「無事か!?」

「危ねーギリだ!」

同じく至近で爆風を受けたものの、巨大な盾で受け切ったアークがクロノスの安否を気遣う。

クロノスは防御までは至らなかったものの、ゴーレムブレイドを正面に出す事に成功し、起き上がった彼は怪我らしい怪我をしていなかった。

「話してる暇はないぞ2人共!あと一息だ!ケリをつけるぞ!」

先程のリオソウルはひれ伏した状態から火球を吐いた反動と翼の力だけで上空に舞い上がっていた。
間違いなく翼は折れている筈なのに。

レイは撃ち尽くしたLv.3通常弾のマガジンを廃棄し、これまた大型の弾が込められたマガジンを装填する。

装填すると同時に空中のリオソウルを狙撃する。

大気を揺るがす程の発砲音、地を削って後ずさる程の反動とは裏腹に、撃ち出された弾はリオソウルの腹のど真ん中に突き刺さっただけだった。

リオソウルの首が持ち上がる。口から零れる火の粉。次に来るのは灼熱の火球。目線からして狙っているのはアーク。

本人も感じ取ったらしく、アークの盾を持つ手に力が籠る。

と、突然の爆発音と共に、リオソウルの腹の中心の肉が弾け飛び、血の雨が降る。

傷の位置からして、爆発したのは先程のレイの放った弾丸。

だが、腹の肉が削げ落ちても、リオソウルの動きは止まらない。

リオソウルの放った火球はアークの盾の真っ向から衝突。鈍い重低音を響かせ、地を抉って大きく後退した。

「ぐぅ……っ!」

「なんだあいつ!痛みを感じてないのか!?」

アークは予想を遥かに上回った衝撃に苦悶の声を漏らし、レイは自身の放った弾丸で堕ちないリオソウルに素直に驚嘆した。

レイの放った弾は徹甲榴弾と呼ばれる弾丸。その最上位のLv.3だ。

徹甲榴弾は対象に命中すると、貫通せず中に留まり、内部から肉体を破壊する強力な弾丸である。

Lv.3ともなると、中型のモンスターでさえ、一撃で軽く死に至らしめる。

それを受けてなお墜落せず、さらにはランスの防御能力でさえあれだけ後退するほどの威力の火球を撃ちだしてきた。

ここまでの傷をおってなお、この戦闘能力。全力とはまさにこの事を言うのだろうか。

直後、リオソウルの血走った目がレイを向く。映るのは憤怒の感情か。

「……」

レイは動かない。自信に火球が来ると理解してなお、リオソウルに静かに、真っ直ぐアースイーターの銃口を向ける。

「なにやってる!逃げろよレイ!」

クロノスがレイの奇行に気付き、声を荒げて促す。

「黙ってろ……。悪いが、止めは貰った」

レイは今回初めて可変倍率スコープを通してリオソウルを覗いてる。それ程に外せないのであろう。

リオソウルの首が持ち上がる。喉の奥からせり上がる炎。そして振り下ろされる寸前、2度目の大気を揺るがす砲音が響いた。

リオソウル潰れていない目で確実にレイを捉え、火球を発射しようとする。

「ギャッ!グゥ……!」

だが、レイの放った弾丸は振り下ろされる首から火球が放たれる一瞬。正に一瞬前にリオソウルの喉の奥に深々と突き刺さった。

首を押し返す衝撃、気持ち悪い異物感に襲われたリオソウルは喉まででかかった火球を止めてしまった。

今、喉にあるのは火薬をたっぷりで含んだ小型爆弾。
時限式の弾も、膨大な熱量に中の火薬は引火し、爆発を引き起こす。

爆発した弾は、延髄を砕き、頸動脈を引き千切り、生命の維持に最重要な器官を一瞬のうちに破壊した。

リオソウルは口から大量の吐血を流し、生気の無くなった瞳は裏返り、翼の動きをとめ地に叩き付けられると、最後の執念の様にもがき、そのまま動かなくなった。

訪れる静寂。一瞬の疑問。

「っ!……しゃあああ!やった!倒したんだ!」

静寂を突き破ってクロノスの歓喜の雄叫びがあがる。

「終わったな……いや、やったな」

「そうだな」

レイは静かに笑い、アークのポーカーフェイスにも僅かながら表情が浮かんだ。
2人は各自、自分の剥ぎ取り用のナイフを取り出し、リオソウルの死体に歩み寄る。

「お~い!剥ぎ取りしないのか~?」

レイが未だに叫び、飛び跳ねているクロノスを現実に引き戻し、我に還ったクロノスは慌て走って来た。

「ぶち壊すなよ」

「帰ったら存分にはしゃげ」

アークは既に背中の甲殻に刃を突き立て、剥ぎ取りを始めている。手順は理解しているようだが、切り口が雑だ。不器用なのだろうか。

レイがアークを見ている間にクロノスむ剥ぎ取りを始めていた。無傷な翼を肩から綺麗に切り落としている。

(本当に対称的だなぁ……)

「剥ぎ取り……しないのか?」

「えっ……あ……ああ、ぼ~っとしてた。今から」

2人を見比べていると、急にアークから声を掛けられ、レイもそそくさと剥ぎ取りを始めた。

(とは言うものの……)

レイにはリオソウルの素材は必要性がない。岩竜の武具を作るのに必要だと言うなら話は別だが。

(まあ、取っといても良いかな?)

とりあえず甲殻と鱗を数枚、剥ぎ取っておいた。
その間にアークもクロノスも剥ぎ取りを終えていた。

各自、必要な分だけ取り、リュックに詰めている。残りはリオソウルと自然に敬意を払い、地に還す。

例えそれがランポスでも同じこと。殺した命をぞんざいに扱ってはいけない。それがハンターの心得の1つ。

流石にクロノスのもっている蒼火竜の翼は大きすぎるので肩に担いでいるが。

「ああ、そうだアーク。」
「あ?」

「そのお前のランスは強化して行けば火竜の尾を模した強力な炎の槍になる。尻尾は持って帰ったらどうだ?」

現時点で必要としていなくても後に重要となるものは多々ある。それが自分の決めた道に関係があるのなら持っておいて損は無い。むしろ得だろう。

「……そうだな」

アークは落ちていた尻尾を担ぎ、リュックに押し込んだ。

「よっしゃ帰るか!」

2人もクロノスの意見に賛同し、レイは伝令用の花火を打ち上げると、ベースキャンプ向かって横一列に歩き出した。

「お疲れさん!疲れたろ、早く乗りな!」

ベースキャンプに着くと既に地竜車が到着しており、景気の良い男2人がキャンプを片付けてくれていた。

「ありがとうございます」

「どういたしまして!さあ乗った乗った!」

レイが頭を下げて礼を言うと、快活に返してくれた。3人が乗り込んだのを確認すると、彼はアプトノスに軽く鞭を打った。

アプトノスが走る早さは人のそれに比べると遥かに速い。地面の凹凸から伝わる揺れと、ヘルムを外した顔を撫でる風が汗を乾かせる感覚が心地よい。

「いや~それにしても助かった!俺達2人で行った時は一向に降りて来ないもんだから苦労したよ!」

クロノスの話はリオソウルの事だろう。確かに、大空を戦闘区域とする空の王に剣士で対抗するには、まず相手が地面に降りて来なくては始まらない。

「そうだな……。俺もまさかここまで速くカタがつくとは思っていなかった。お前達が結構出来たからな。」

この2人は実力者に依頼したからといって、それに依存はせず、全力でぶつかっていった。それは称賛に値する。

「お!?やっぱそう思う?いや~さっすが……」

「調子に乗るな。ふざけてると死ぬぞ」

「誉めるとすぐこれだからお前は」

「う……」

だが、実力の過信は死を招く。気分を良くしたクロノスをレイが厳しく諭し、アークが追い討ちをかけて、一瞬の内に鎮めた。

その後は特に話す事も無く、レイは何故この2人と狩りをする事になったのかぼんやりと考えていた。

契約のきっかけはトーメイの村長との約束。

(村長は今頃どうしているだろうか?元気でしているかな?)

などと考えていると急に眠気が差してきた。疲れているのだろうか。まだアレッシイまでは距離がある。瞼の沈み行くまま、意識の遠退くままに任せる事にしか出来なかった。

(やっぱまだ……病み上がり……かな……?)

「あ……そうだレイ。報酬の話だが……って、ありゃ?」

「どうした?」

「寝ちまったよコイツ」

「……寝かせてやれ」

「お前にしちゃ優しいな。それにしても……くっくっくっ!まだ子供の寝顔だな!」

「ふっ……」

クロノスの声は既にレイには届かなかった。レイは椅子の背に深くもたれ掛かり、口を半開きにして、スースーと寝息を立てて眠っていた。

名のあるハンターと言えど、中身は歳相応のようだ。可愛らしいと言うか、正に子供らしい寝顔だった。

森と丘を離れてからさほど経っていないというのに日は傾きかけている。

いつの間にやらアークも眠っている。だが、レイとは違い、軽く座席にもたれ、腕を組み、口は結ばれていた。端から見れば瞑想のようにも見える。

クロノスは1人、起きていた。というより、眠れなかった。

彼の身体は"空の王"を倒したという、勝利の余韻が支配していた。例えそれがレイの助力あってこそのものだとしても――。

辺りが夕日に赤く染められた頃、3人はアレッシイに帰り付いた。

地竜車はギルドの酒場の裏手で急激に停車し、その反動でアークは目を覚ましたが、深い眠りについていたレイは座席に倒れ込み、待ち構えていたバサルUヘルムに側頭部を打ち付け、声にならない悲鳴を上げ、頭を抱えてうずくまり、涙目で悶絶していた。

ようやく痛みから解放されたレイを連れて、車から降りると、クロノスは走って、アークはため息をついて歩き、レイは1番後ろで頭を押さえながら、ギルドの酒場へ入っていった。

レイが酒場に入った時、既にクロノスが依頼完遂の報告をしていた。

話しているのはあの受付嬢。

何を話しているのは聞き取れなかったが、受付嬢がクロノスに微笑んでいた事から、依頼の完遂が認められたのだと理解出来た。

そして、僅かに褐色の頬が赤くなっているクロノスから、別の事も理解出来た。

奥の方に、恐らく報酬を精算しに行ってしまった受付嬢を名残惜しそうに眺めているクロノスの肩を、後ろから歩いてきたアークが軽く叩いた。

「どうだった?」

「クエストクリア!報酬の精算に少し時間かかるから、食事でもしといたら?ってさ」

「じゃあ、腹も減ったし飯にすっか」

意気揚々とアークに報告しているクロノスの話を聞いていたレイが持ちかけた。

とりあえず、通りかかった給仕を呼び止め、空いているテーブルに案内して貰った。

ついでに注文したのはビール3杯(今回はレイも飲むらしい)と、ギガントミートとシモフリトマトを使った豪快なシチュー3人前である。

程なくして並々と注がれた3杯のビールが叩き付けられた。
そこに3本のアームを付けた手が伸びてきて、それぞれ1杯づつを"奪い取った"。

3人同時にジョッキを傾け、ビールを煽った。全員が無言となる。

「っくはぁ!」

一瞬の静寂の後、そんなクロノスの親父臭い声が漏れる。アークとクロノスの軽いため息はそれに完全に掻き消された。

ビールの、渇いた喉を貫く程の爽快感は今までの疲れが全て吹き飛んだ様な清々しい感覚を覚える。

全員が一息ついた所で、クロノスが恐る恐る切り出した。

「なあレイ。ところで……報酬の話なんだが?」

「ん?リオソウルの件か?3等分でいいだろ」

報酬の意味が良く理解できなかったレイは、報酬金の分け前だろうとあたりを付けて、適当に返事をした。

「お前のだ」

「俺の?」

「ああ。その、何だ?お前をお前を雇った代金みたいな?」

誰かと契約を結んだ場合、それに伴う代価を必ず必要とする。金であれ、物であれ、安くでは収まらない。中には足元を見る者もいる。

それに、レイは高名なハンターである。レイは何故クロノスの声が恐る恐るだったのかをようやく理解した。

「どんなもんだろうか?」

「う~ん……」

再びクロノスが聞いてくる。声の調子は変わっていない。レイは困ったような顔で頭をポリポリと掻いていた。

そうこうしている間に注文した料理がテーブルの半分以上を占拠した。

テーブルの表面積の半分を占拠した深めの大皿。その中央を陣取る巨大な肉の塊。そして肉の周りを取り囲む野菜たっぷりのシチュー。

辺りを包む食欲をそそる香り。狩りで疲れた上に昼間から何も食べていないためか、胃は抗議の悲鳴をあげ、口の中は受け入れ体制万全とでも言うように唾液がとめどなく流れてくる。

一旦会話を打ち切り、各自取り皿にナイフで肉を豪快に切り分け、シチューを十分に注いだ。

誰しもが無言のままに一口すする。

「うめぇっ!」

一際よく響くクロノスの歓声。それと対称的にレイとアークは喋る時間も勿体無いように黙々と食べ続けている。

それも当然である。使われた食材はいずれも一級品。しっかりと煮込まれ、味が染み込んだ、口に入れれば溶ける程の柔らかな肉。コクのある深い味わいのシチュー。トマトの酸味が程よく、後を引かない味に仕上がっている。

単品で食べて美味い。絡めて食べて美味い。パンに挟んで美味い。ビールと合わせて美味い。美味い、美味い、美味い。とにかく美味い。

ここまで素材の味を引き出す事が出来るのも、やはり一流の料理人があっての事だろう。

当然並みの値段ではないが、狩りの成功を祝うにはこれ位なくてはつまらない。
一息(といっても数分で半分以上を軽く平らげた)ついたレイはスプーンを置くと、まだ食べ続けている2人に向かい直った。

「それで報酬の件だが……」

話し出した矢先、クロノスの手がピタリと止まる。
自分はがめついと思われているのかと感じ、レイは少し傷付いたが、表には出さずに続ける。

「これも村長との約束で、飯をおごってくれればそれでいい」

「うむ、良く覚えておった!そして久し振りだなレイ!」

唐突に聞こえた声と、肩に手を置かれた感触にレイは椅子に座ったまま振り返った。

しかし、レイの背後には誰も居ない。とは言え、レイには大体の見当はついていた。

少しだけ枯れた声。中途半端な爺さん口調。そして背後から突然の挨拶。

「お久し振りです。スコット村長」

レイが見ているのは下。スコット村長と呼ばれた中年の男性は椅子の側にしゃがみこんで悔しげに笑っていた。

「もう通じんか~」

「そりゃあ、会う度にされてれば学習しますよ」

褐色の肌、それに深く刻まれた皺と白銀の短髪の細身の男性。彼は『スコット・オースン』村長。

村長と言っても、ここアレッシイではなく、トーメイの村長である。

つまり彼こそが、レイとアークとクロノスの師匠に当たる人物なのだ。

「とりあえず隣にどうぞ」

「おう、悪いな」

「いえ……すいませ~ん!」

レイはスコット村長を隣に招くと、声を上げて給仕を呼び止め、彼の好みである焼酎のロックを注文した。

「お久し振りです師匠」

クロノスとアークもそれぞれ、村長にしっかりと挨拶をしている。

まあ、師匠である人物に挨拶も無しという無礼者もないだろうが。

「うむ、久し振り……といっても1月経っとらんがの」

「はは……」

1月経たないということは、ここに来ての飛竜討伐は今回が初めてだったのだろう。新人にはそうそう飛竜討伐の依頼は来ない。

「どうぞ」

隣にいたレイが取り皿に大きく切り分けた肉とシチューを盛り付けて、スコット村長に手渡した。タイミング良く焼酎も届いた。

「おっ、サンキュー」

子供のように目を輝かせ、フォークを手に取ると、一口で食べるには大きすぎる肉にかぶり付いた。

口の周りが思いっきり汚れるが、本人は全く気にしない。というより、そもそもフォークの持ち方が間違っている。彼はフォークをグーの手で握っていた。

「う~ん、美味い。ステアのせいであんまり油っこいもんは食べさせて貰えんから余計だ」

「はは、お気の毒に……でも、お陰で健康でしょうに」

「でもやっぱ美味いもん食いたいじゃん」

ステア。ステア・エンフォードは彼のお付きの護衛で、双剣使いの若い女性だ。

腕は一級だが、やたらお節介な上に岩よりも頑固で、スコット村長が常に健康であるために、彼の身の回りの世話まで務めるようになってしまったのである。

「おっと、そうだレイよ。明日この村の工房にきてくれんか?重要な話がある」

「ここでは駄目なのですか?」

「駄目だ。何人にも聞かれてはならん」

「……分かりました」

唐突に険しくなるスコット村長の表情。普段の子供っぽさからは全く想像出来ない真剣な眼差し。

釣られてレイの表情も固いものに変わっていた。

「でも今日は飲むぞ!」

だがそれも一瞬で解けた。真剣な表情から一変。一気に無邪気な顔にもどる。レイはいつもこのギャップには付いて行けなかった。

「おっしゃ!」

今まで蚊帳の外で武器の手入れなどしていたアークとクロノス(特にクロノス)は今こそ、といった感じで話に割り込んできた。

何の話かは気になったが、スコット村長が真剣になるのはただ事ではないと察し、閉口しておいた。

それからは飲んだり食ったり騒いだり。レイとアークは最初の1杯から先はミルクを飲んでいた。妙な所で気の合う2人であった。

だがそれも長続きはしなかった。中央の料理が見るも無惨な残骸に成り果てた頃、既にクロノスはビール10杯、スコット村長は焼酎20杯を飲み干している。

クロノスは机に突っ伏して鼾をかいていたが、酔い潰れたスコット村長は質が悪い。

別段暴れる訳ではないが、始まるのは昔話。語り酒とでも言うのだろうか。とはいえ元は超がつくほど有名なハンター。聞いて損などあるはずが無いのだが、それもはじめのうち。

不定期で昔話はリピートされる。しかもエンドレス。レイは既に彼の昔話は暗記してしまった。

その後、レイとアークは真夜中過ぎまで昔話を延々と聞き続け、ようやく停止したスコット村長をレイが、机に涎を垂らしているクロノスをアークが担いでゲストハウスに放り込み、やっと狩りで疲れた体を休める事が出来た。

日も昇らぬ夜明け前、スコット村長はベッドの隣で目を覚ました。飲み過ぎた事を後悔するのはいつもの事。

「さて、下準備に移るか」

酔いは残っていない。スコット村長はゲストハウスの周囲に誰も居ない事を確認し、誰にも見つからないように工房へと急いだ。

日も完全に昇り切った昼過ぎ、レイはようやく目を覚ました。いくら昨日遅かったとはいえ寝過ぎた。
酒場に行くのも面倒だったので、倉庫にあった食材で適当な朝食を作り、バサルU剣士防具を着込むと、オデッセイブレイドを腰に下げ、盾を左腕に装着すると、工房へと急いだ。

工房からはいつもの威勢の良い掛け声が聞こえない。恐らくは休みなのだろう。故にスコット村長が私用で呼び出したのだろうが。

扉を潜り抜け、火の入っていない炉の傍らを通り過ぎ、別室に続く扉を開いた時、スコット村長が何かをいじっているのが見えた。

レイが部屋に入り切った時、彼はそれを瞬きの間に傍らの大型バッグに隠してしまい、何をいじっていたのかは分からなかった。

「すいません」

レイは幾つかの意味を込めた謝罪をスコット村長に投げ掛けた。

「構わんよ。俺も今丁度終わった所だ。オデッセイブレイドは……持って来たようだな。では始めよう。まずはお前のその剣についてだ」

それを理解してスコット村長も返す。持ちかけたのはオデッセイブレイドについて。この時レイは彼の言葉の意味が全く分からなかった。ただ、彼に誘われるがまま、工房の書斎へと歩を進めて行った。

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最終更新:2013年02月21日 02:23
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