欲望を満たすためだけに

オーダー

夜の砂漠に少年が一人立っている。
少年は何も覚えていない、何故此処にいるのか、此処が何処なのか、自分が誰なのかさえ覚えていない。
今少年にあるのは空腹、飢えだけだった。
自分の腕から流れる血を舐めてみるが、とても食べられるものではない。
辺りを見回すと三人のハンターの亡骸、それと相討ちになったであろう角竜の死体。
ハンターの持ちものをあさるが、食糧はなにもなかった。
少年の飢えは限界に近づいていく。
その時少年は目の前の死体が肉であることに気が付く。人間は先程不味くて食えないことを理解した。では竜は?
なんの躊躇いもなく角竜にかぶりつく少年、
「グチャリ」
嫌な音が砂漠に響く。それと共に鮮血を浴びた少年の顔が歓喜に歪む。
「うまい。」
それが、記憶を無くした少年の飢え以外に最初に感じた感情だった。
その夜、砂漠には嫌な音が響き続けた。
【プロローグより約10年後】
密林の中にある村、そこに駆け出しハンターの少女が一人。背中には入門用の弓であるハンターボウを背負っている。
彼女の名前はルディ・ロッタ、村での一通りの訓練を終えて今集会所に向かっている。片手には何かの包みを持っている。
「村長が言うにはコレを持って行けばイイッて言うんだけど、コレって一体なんだろう?誰に渡せとも聞いてないし・・・。」
彼女が悶々としている内に集会所に着いたしまった。
一つ深呼吸をして彼女は、集会所のドアを開く。
集会所のドアを開けると中には赤い髪をしたハンター、それと少し離れた場所に三人組のハンター達が各々にくつろいでいた。キッチンからはひっきりなしに調理をする音がきこえる。
「嬢ちゃんがルディかい?」
いつのまに近付いて来たのか赤い髪をしたハンターが、話かけてきた。
「へぁ!?は、はい」
驚いたルディは変な声をあげつつ返事をする。
「じゃあ村長にもらった土産を渡してくれるかな?」
ルディが返事をする前に、赤い髪のハンターは包みを手にとりキッチンにほおり投げると、
「ムサシー、これもよろしく。」
と言った。
呆気にとられているルディに赤い髪のハンターがさらに続ける。
「初めまして、私が村長に頼まれて嬢ちゃんの面倒をみるハンターです。」
「よ、ヨロシクお願いします。えーっと、貴方の名前は?」
一瞬赤い髪のハンターが困った様な顔をする。
「んー、名前ねぇ、外ど・・いやゲドいいよ嬢ちゃん。」
「よろしくゲドさん。
あと私は嬢ちゃんじゃなくてルディ・ロッタです。」
彼女がやっとまともに話した言葉がそれだった。
二人でテーブルに着くゲドとルディ、ルディは16歳くらいで、黒いショートヘアー、装備は全身がガンナー用のランポスシリーズである。
ゲドは20歳前半くらいで赤い髪を後ろで束ねている。装備は全身バラバラで全く統一感がなかった。
「嬢ちゃんが今まで狩ったモンスターは?」
「ドスランポスとドスファンゴです。後嬢ちゃんじゃなくてルディ・ロッタです。」
ルディはよほど、嬢ちゃん扱いが嫌なようだ。
「弓使いでそれは凄いね嬢ちゃん。」
まるで聞いてなかったようにゲドが話す。
「・・・それで私の面倒をみてくれるって言うのは?」
どうやら否定するのは諦めたようである。
「それは村長が俺に報酬をくれるかわりに、嬢ちゃんをハンターとして鍛えるって意味。嬢ちゃんがそれを不必要と感じるまでね。」
しきりにキッチンを気にするゲド、構わずルディが喋る。
「そうなんですか、でも報酬って一体・・・?」
どうやらお金の心配をしているらしい、自分のために村長がお金を払っていると思ったのだろう。
「心配しなくてもココの村長にお金なんか要求しないよ、報酬っていうのは・・・あ、キター!!!」
子供の様な声をあげているゲドの視線はキッチンから出てくる食事に向けられていた。
キッチンから真っ赤な毛色のアイルーが料理を運んでくる。真っ赤なアイルーを見て驚くルディだったが、この後更に驚く事になる。
「お疲れ~ムサシ。これが村長から貰う報酬だよ、嬢ちゃん。」
と言い料理の蓋をあける。
が、中に入っていたのは料理と言うより惨殺死体といった盛り付けだった。
皿の上にはモスの頭が三つ並んでいる。調理されているが、そのグロテスクな見た目にルディは言葉を失った。
「メシアガレにゃ。」
「では、イタダキマ~ス♪」
目の前のモスの頭に、異常に大きいナイフとフォークを突き刺し躊躇いもなく食べるゲド。
「やっぱりモスは美味だな~♪」
あまりの満面の笑みに、ゲドの顔が歪んで見える。
その異様な光景を見つつ、村長に渡された土産がモスの頭だった事に気付き全身に鳥肌が立つルディ。
「嬢ちゃんはナカナカ優秀みたいだから、無難にイャンクックでも狩りに行くかい?」
構わず話すゲドだったが、ルディの意識はすでになかった。
「何で嬢ちゃん気絶してるんだ、ムサシ?」
食事を続けながら、問掛けるゲド、
「さぁニャ。」
ニヤニヤしながら、ムサシと呼ばれるアイルーは答える。

下拵え(鶏肉編)

ゴトゴトと揺れるアプトノスが引く車中、少女が目を覚ます。
(なんだか酷い悪夢を見た気がするなぁ)
と思いつつまどろんでいる少女を、男の声が現実に引き戻す。
「おはよう嬢ちゃん、気分はいかが?」
笑顔の男と赤毛のアイルーが少女を見ている、一瞬してから少女は悪夢が悪夢でなかったことを思い出し、また鳥肌が立った。
「おはようございますゲドさん、それと・・・?」
「ムサシにゃ。」
赤毛のアイルーがニヤツキながら答える。
「おはようございますムサシさん。で、今一体どうなっているんですか?」
「それは・・・」
ゲドが説明するには、今三人(二人と一匹)は、イャンクックを狩るために密林に向かっているとのこと。昨日の昼気絶したルディを起こすのが面倒だったので、そのままクエストに出発したということなんだそうだ。
「昨日のアレはなんだったんですか?」
説明を終えたあとのルディの第一声がそれだった。
「ナンダも何もあれは俺の食事だよ?」
質問の意味が判らないといった感じで、ゲドが答える。それを見たムサシが代わりに話す。
「ニャアが説明するニャ。コイツはモンスターを使った料理でしか満足できない悪食野郎なのニャ。」
とムサシが答える。
ルディの脳がフル回転する・・・つまりあの食事があたり前で、毎日アンナモノを食べていると。考えただけでまた気絶しそうなので、ルディは考えるのをやめた。
ルディは次の質問をすることにした。
ルディには、理解できないことがあった。それはゲドとムサシの装備である。
ルディ自身は昨日の集会所の装備のままなのだが、他二人も昨日の格好のままなのだ。
「お二人はその格好のまま狩りに行くんですか?」
思わずルディが訪ねる。
ゲドの装備は、昨日と同じバラバラの防具なのだが、背中にナイフとフォークを掛けている。
ムサシにいたってはエプロン姿で、鍋と包丁を持っているだけである。
ゲドはまた質問の意味が判らない、という顔をしている。
その状況を見てムサシは、
「ニャアとゲドの装備は、れっきとしたハンターの装備ニャ。
ゲドが持っているのは双剣で、生きた飛竜を食べるためにシエロって人が創った、シエロツールニャ。
ニャアの装備も、ビストロシリーズという防具なのニャ。この包丁も、千年包丁という武器なのニャ。」
と答える。
「でもわざわざそんな装備でなくても・・・。」
ルディはやはり腑に落ちないようである。
それを見てゲドが、
「この装備は俺たちの決まりというか、ポリシーみたいなものなんだよ、嬢ちゃん。」
と答える。
それを聞いて、一応納得したルディだったが、狩りへの不安が残るようだ。
「それに俺とムサシは上級ハンターなんだよ。」
ゲドの言葉に、ルディは耳を疑った。
上位ハンターとは?
ギルドから受注できる様々なクエストをこなし、数多くのモンスター達を倒すことのできた数少ないハンターだけが、手にすることのできる称号のこと。
この資格を持つハンターはギルドから依頼がきたり、難度の高い特別なクエストを受けることができる。
そんな数少ないハンターが、目の前のふざけた格好をした二人だというのだ。
ルディは開いた口が塞がらない。そんなルディを見ているムサシは、明らかに笑いを堪えている。
「まぁこの話が本当かどうかは、クエストに行けばわかるよ、嬢ちゃん。それよりムサシ食事は?」
ゲドのその言葉を聞いた瞬間ルディは、固まった。
(確に昨日から何も食べてないけど、マサカあれじゃないよね。)
昨日の惨劇を思いだし不安になるルディ。
それを見て、またも笑いを堪えながら、ムサシが包みを取り出す。
「では、イタダキマ~ス♪」
そういってゲドが、包みを開く。
ルディは恐る恐る中を見ると・・・中には普通の肉を挟んだサンドウィッチが入っていた。
「嬢ちゃんも食べなよ。」
ゲドに言われるままにサンドウィッチに手を延ばすルディ、まだ笑いを堪えているムサシが気になるが構わず一口食べる、
「・・・!、おいしい。」
そのまま食べきると2つ目に手を伸ばす、が、
「モスの肉はおいしいだろ?嬢ちゃん。」
ゲドの一言で脳がフル回転するルディ、
(モスの肉→昨日の惨殺体の残り→それが今食べたサンドウィッチに使用されている→即ち私はモスの頭を食べた)
その結論にたどり着いた瞬間に、ルディの思考回路は完全にストップする。
「ニャッハハハハハ、ヒィッヒヒィッ、ゲッホォニャッッホォ。」
それを見たムサシが笑いすぎで呼吸困難を起こしている。
そして何もなかったの様に食事を続けるゲド。
        • このパーティは間もなく密林に到着する。

食事の結果
パーティ全員のスタミナと攻撃力が上がった。
ルディのみ防御力が下がった。
確実なトラウマが残った。

前菜(鶏肉編)

どうにか密林に着いたパーティ。
キャンプに着くと今回のクエストについての話になる。(ムサシはいつの間にか居なかった。)
「今回のクエストに必要そうな物は、昨日嬢ちゃんが気絶している内に準備しておいたよ。」
とゲドが話かけるが、上の空なルディ、まだ彼女の頭の中ではモスの惨殺体が小踊りをしているようだ。
「嬢ちゃん、聞いてる?」
少し大きな声でゲドが言う。
「は、はい大丈夫れす。」
やっと正気を取り戻すルディ、だがロレツが回っていない。
彼女がポーチの中を見ると、回復薬や薬草、強撃ビンそれに緑の玉が入っていた。ルディはその緑の玉が何なのかが判らなかった。
「ゲドさんこれは・・・?」
と言いつつ緑の玉を取り出すと、
「あぁ、それはモドリ玉って言うもので、地面とかに投げつけて破裂させると緑の煙幕がでて、いつの間にか此処に戻ってこれるという不思議な道具だよ。」
淡々と説明するゲド、
「そうなんですか、で何故それが私のポーチに?」
「それは村長に頼まれたのに、嬢ちゃんに死なれると困るからニャ。」
いつの間に帰って来たのか、ムサシが答える。
死という言葉を言われてムッとなるルディ、からかわれている気がしたのだろう、
「ところで、ムサシさんは何処へいってたんですか?」
「この密林のアイルー達に状況を聞きに行ってたんだよ。」
ゲドが答える。
「ゲドは人間以外なら沢山友達が居るのニャ。」
それを聞いて苦笑いをするゲド、どうやらムサシは誰に対しても毒舌なようだ。
その後二人は少し話すとこう続けた。
「今からイャンクックを狩る訳だけど、その前に嬢ちゃんをテストしようと思う。」
「テスト?」
ゲドに言われたことをオウム返しするルディ。
テストとは一体何なのだろう?
ゲドがテストについての説明を始める。
「テストといっても簡単だよ、浜辺にいるヤオザミを倒してもらう、ただそれだけだよ。狩りの邪魔だからね。」
ヤオザミとは蟹の様なモンスターで、主に砂がある所に生息している。
「じゃあそれを一人で倒せたら、嬢ちゃんは止めてくださいね。」
よほど嬢ちゃんが嫌なのだろう、
「考えておくよ、嬢ちゃん。」
ニヤニヤしながらゲドは答える。
「じゃあ早速行くのニャ。」
ムサシが言うと共にパーティはキャンプを後にする。
(何故ムサシが仕切って要るのだろう?)
と思うルディだった。
浜辺に着くと早速ルディは、弓に強撃ビンをセットする。
(強撃ビンとは弓の攻撃力を格段に上げる薬品が入ったビンのことである。他にも数種類のビンが存在する。)
「じゃあテスト開始ね。」
ゲドがパンと手を叩く、それと同時に駆け出すルディ。
ゲドが手を叩いたため、ヤオザミがコチラに気が付き両手を上げ威嚇のポーズをとる。
(ヤオザミの数は計二匹、的確に狙えば近付かれる前に倒せる。)
弓を力強く引くルディ、
「いけぇ!!!」
十分の力で打ち出された矢が二本に分かれて近くに居たヤオザミに突き刺さる。
(竜人族が造る弓は特殊で、力の溜め具合いにより矢が拡散したり、貫通の能力を持ったりする造りになっている。種類によって矢の飛びかたや力の溜め具合いは異なる。彼女の持つハンターボウの能力は連射である。)
一匹目のヤオザミは急所を射抜かれたらしく、ピクリとも動かない。二匹目のヤオザミにも同様に狙いをつける。
「これで・・終わり!!」
別れた二本の矢がヤオザミの息の根を止める。
「へぇ、やるね~。だがまだ甘いな。」
感嘆の声漏らすゲドだが、それと共に走りだす。
ルディは勝誇った顔でコチラを振り返るが、砂の中から出てきたもう一匹のヤオザミに気付いていなかった。
勝誇った顔のルディのスグ隣を凄まじい勢いでゲドが駆け抜けた瞬間、ルディの後ろから“スパッ”と音がする。
ルディが振り返ると、両手に持ったシエロツールを舐めるゲドと、真ッ二つに切り裂かれたヤオザミの姿があった。その切れ口はあまりにも綺麗で、始めからその形であったのでは?と錯覚する程であった。
「弓の腕はかなりイイね。近付かれる前に急所を狙って倒せるあたり、かなり素晴らしいよ。だが、最後に確認せずに油断したのはいけないね。少しの油断でも死に繋がるからね。」
ナイフを舐めながらゲドが話す。どうやらナイフに付いたザザミソを舐めているようだ。
ゲドに初めてマトモに説教をされたルディは、軽くヘコンでいるようだ。
「と、言うわけで呼び名は嬢ちゃんで決まりだね。」
ニヤリ、と笑いながらゲドが言う。
その一言でほっとしたルディだったが、あだ名が確定してしまい、またヘコム。
そのあいだムサシは、ヤオザミの死体を捌いていた。
捌いたヤオザミとザザミソを千年包丁の盾である鍋にいれ、肉焼きセットの火で料理を始めるムサシ、それを横で待つゲド。
ルディにはこの状況が理解できない。
なぜなら此処はキャンプではなく、狩場のど真ん中なのだ。先ほどヤオザミを倒して何もいないにしても、この二人の行動は異常である。肉を焼くだけならともかく、本格的な調理をしている。
「何してるんですか!?」
思わず大きな声になるルディ、
「何って?食事のための調理だけど。」
普通に答えるゲド、辺りに美味しそうな匂いが漂う、
「料理って、イャンクックを狩りに来たんじゃ・・・・」
言葉を失うルディ、そこへ調理の完成した鍋を持ってくるムサシ、ゲドは既に食事を始めている。
「とりあえず、嬢ちゃんも食べるニャ。」
そう言ってフォークを渡すムサシ、目の前のご馳走の誘惑に勝てずルディも食べ始める。
「!おいしぃ~・・・じゃなくて私達は狩りに来たんじゃないんですか?いいんですかこんな事していて?」
食べながら話すルディ、食事のせいか顔が緩んでいる。
「そんな顔で言われても、ップ・・・」
笑いを堪えながらムサシが続ける、
「ここのアイルーの話によると、そろそろイャンクックが食事をする時間らしいニャ。そこでニャアが特別強い香りがする料理をつくるニャ。すると、どうなるかニャ?」
やっとこの行動の意味を理解するルディ、
「ご馳走様~♪うまかったよムサシ。」
いつの間にか鍋を空っぽにしたゲドが言う。
「そろそろ頃合いニャ。」
鍋を洗いながらムサシがいうと、風と共に大きな影が表れた。
「今日のメニューは鶏肉か~、悪くないね。」
口が裂けているのでは?と、いうほどにニヤリと笑うゲド。
ルディは弓を構えつつ、高鳴る鼓動を抑えようと深呼吸をする。
「さぁ、本日のメインと行きますか。」
パーティの前に飛竜、イャンクックが現われた。

メインディッシュ(鶏肉編)

イャンクック、飛竜の中では比較的小柄、攻撃力、体力共にあまり高くなく、駆け出しハンターの腕試し等の標的にされる。
しかし弱いと言っても飛竜にかわりはない。少しの油断が命取りになる。
「嬢ちゃんは、飛竜初討伐だからサポートだけしてくれたらいいよ。あと奴の正面には立たないようにね。」
そう言うと、ゲドとムサシはイャンクックに向かって突っ込んで行った。
イャンクックがコチラに気付くまえにゲドがイャンクックの脚にフォークを突き刺し、ナイフで肉を切り取った。イャンクックは突然の痛みの訳を理解出来ない。
その肉をそのまま口に運ぶゲド、そして歪んだ歓喜の表情を浮かべた。
「やはり、モンスターの肉はイイナ。」
歪んだ表情のまま鬼人化の構えをとる。
鬼人化、独特な構えをとることにより身体能力を向上させ、堅さを無視した凄まじい攻撃である乱舞や、風圧を無効にしたりできる、双剣使いのみが使用できる必殺の構えである。
その反面、常に全力疾走をするのと同等の体力を消耗する両刃の剣でもある。
鬼人化の構えをしたゲドが、イャンクックの足下で乱舞をくりだす。
激痛を振り払うかのごとく体ごと尾を振るイャンクック。しかし足下にいるゲドに当たる訳もない。
「ニャッッホォー!!!!」
イャンクックの眼前にムサシが飛び上がり、アッサリと耳を切り取る。
乱舞を放ち続けるゲド、そして一撃離脱を繰り返すムサシ。
瞬くまに肉を削ぎおとされていくイャンクック。
足下にいるゲドは大量の血を浴び全身が真っ赤に染まっているが、その顔は口が裂けたような笑いを浮かべたままだった。
サポートを任されたルディだったが、異様な光景を目の前にして動けなくなっていた。
いくら弱いイャンクックとはいえ、本来自然界のトップに君臨するはずの飛竜が、人間相手に一方的に攻撃を受けている。
しかもその攻撃をしている人間は、笑っているのである。そうその姿はまるで、
「鬼・・・。」
ルディの口からポツリと漏れる。
痛みに悶えるイャンクックが、その痛みから逃れるべく低く飛び上がりルディに向かって突っ込んで来た。
「キャッ!!?」
直撃はしなかったモノの、風圧により地面をころげるルディ。
イャンクックは既にルディに狙いを定めている。
「世話の係る嬢ちゃんだね~、ったく。」
小さく舌打ちをすると駆け出すゲド。
イャンクックがルディに向かって突っ込んで行く。
その巨体を持ってすれば、少女の命など簡単に奪うことが出来るであろう。
もう駄目だと思い頭を伏せるルディ、次の瞬間少女の体が宙に舞い、そして地面に叩きつけられる。
が、あまりにも衝撃が少ない、少なすぎる。
ルディが目を開けるとさっきまで自分のいた場所に滑り込むイャンクック、そしてそれに吹っ飛ばされるゲドの姿があった。
ルディをかばい、イャンクックの攻撃を受け倒れるゲド、
「ゲドさん!?」
叫びながらゲドに駆け寄るルディ、
「大丈夫、嬢ちゃん?」
何事もなかったかの様にムクリと起き上がるゲド。しかし全身は血まみれだった。
「ゲドさん、血が、血がそんなに・・・。」
もはやルディは半泣きである。
「それはイャンクックの血ニャ。あの程度の攻撃でソイツは死ねないニャ。」
笑いながらそう言うと、イャンクックに突っ込んで行くムサシ。
え!?という顔のルディをニヤニヤしながら見るゲド。
「次はしっかりとサポートしてね、お嬢ちゃん。あとこれ。」
と言って亀裂の入ったハンターボウを渡すゲド。
風圧を受けた時にとりおとし、イャンクックの攻撃を受けたのだろう。
「次は翼を狙ってね、お嬢ちゃん。」
そう言ってイャンクックの足止めをしているムサシの所へ向かうゲド。
自分のミスのせいで攻撃を受けたゲド、そして壊れかけたハンターボウ。その責任は全て彼女にある。
が、今は目の前の敵を倒すことに集中しなくてはならない。
ルディは自分の顔を叩くと、奥歯を噛み締め、壊れかけたハンターボウ構える。
今、ようやく少女の狩りが始まる。
口から炎の塊を吹き出すイャンクック、それをアッサリとかわし突っ込んで行くゲド。まるでヒトコマ先の動きが見えるかの様だった。
あっというまにイャンクックに接近しムサシと共に張り付くように動き、切りつける。
並のハンターではない二人の動きを見てもルディは驚く事もなく、二人の隙間を針に糸を通すがごとくゆっくりと、だが確実に矢を放つ。
「これを狙う・・・・ニャアッ!!!」
そう言って大樽爆弾をほり投げるムサシ。
ハンターボウが少しずつ限界に近付く、しかし構わずに大樽爆弾を撃ち抜くルディ。
イャンクックの眼前で爆音をあげる大樽爆弾。あまりの爆音に、耳の大きなイャンクックはフラフラと頭をふる。
「グハァッ!!!!」
何故か人の声が聞こえる。ゲドが爆発に巻き込まれていた。
唖然とするルディ。
ムサシがハッとした顔をする。存在を忘れていたようだ。
「ム、ムサシィ~。そんなに今日の晩御飯になりたいかい?」
やはり何事もなかったかの様に起き上がるゲド。血まみれの次は黒コゲだが。
「ちょ、悪かったニャ、そんな事より後ろニャ。」
ごまかす様にいうムサシ、
「後ろ?」
振り返ると怒りに奮えるイャンクックが走りかかってくる。
「ゴッ!!!?」
三度宙にまうゲド、気を抜くとハンターにはこう言った末路が待っている。
ゲドをハネ跳ばしたイャンクックは逃走を計ろうと矢の刺さった翼を羽ばたかせる。
「撃ち落とせ、嬢ちゃん!!!!」
駆け寄ろうとするルディに叫ぶゲド。
その声に応え、破滅の音をあげるハンターボウに限界まで力をこめるルディ。
「ッッィケェ!!!!」
最大の力で矢が放たれる、そして矢を放つと共に力尽きグシャリとへし折れるハンターボウ。
放たれた矢は空を裂き宙に浮き上がるイャン
クックの翼に突き刺さる。バランスを崩しイャンクックは地面に墜ちて行く。
その落下点には飢えた鬼が待っている。
「では、イタダキマス♪」
鈍い音と共に地面に叩きつけられたイャンクックに、ゲドが乱舞を叩き込む。
小さくうめいた後、イャンクックは動かなくなった。
倒したイャンクックを捌いた後、異様にデカイ肉焼きセットで調理を始めるムサシ。
横ではニヤケ顔のゲドと、いつの間にか集まってきたアイルーやらメラルーやらが食事を待っている。
「やっぱり食べるんですね・・・じゃなくて何で狩り場のど真ん中で食事なんですか!?」
ルディが半分叫びながら言う。
「平気だよ嬢ちゃん、何か来ても晩御飯の品が増えるだけだからね~。さぁ座って。」
妙に説得力のあるゲドの一言で大人しくゲドの隣に座るルディ。
暫くして、ムサシがイャンクックのナンコツの唐揚げや、手羽先を持って来る。
「ではメシアガレにゃ。」
「では、イタダキマス(ニャー)♪」
「・・・頂きます。」
こうして二人の人間と、獣人族の宴が始まった。
「ウま~い♪」
一同が言う、この様な宴を毎度やっているので獣人族とも仲が良いのだろう。
おいしい食事を楽しむルディ、それをニヤツキながら見るムサシ。
それを見てルディは、肝心なことを思いだす。この食事の材料はイャンクックであること、そして捌かれて目も当てられなくなったイャンクックが後ろに居る事。
瞬間ルディの顔が少しヒキツル。それを見てよりいっそニヤツキが増すムサシ。
このままだと、後ろの惨殺体を見てまた気絶しかねないので話題を変えるルディ。
「ゲ、ゲドさんは何故ムサシさんと一緒にいるんですか?」
一瞬ムサシの舌打ちが聴こえた気がした。
「あぁ、それは俺が駆け出しの時に獣人族って美味しいのかな?って思ったんだ。」
ゲドの一言でその場の空気が氷つく。が構わず続けるゲド、
「でもギルドでは獣人族は殺してはイケナインだよね~。だから狩りに連れて行って、ソコで飛竜と戦って死んだ場合は食べてもいいと思ってね。」
笑いながら話すゲドだが、周りの皆はムサシ以外笑っていない。
「で、普通の飛竜より亜種の方が美味しいから亜種っぽいムサシを雇ったんだよ。」
「まぁニャントニャクこいつの腹黒さが判ったから、当時ただの料理猫だったニャアはニャンとしても生き残り
戦っているウチに、今みたいニャ名ハンターにニャッていたのニャ。」
淡々と言うムサシ。
そのせいで今の様な性格になったのかな?と思うルディ、そして更に疑問が浮かぶ、
「・・・ゲドさんは今でもムサシさんを食べるつもりで?」
恐る恐る尋ねるルディ、
「いや、今は大事な相棒だし、料理はムサシがいないと駄目だしね~。」
ムサシはこれをわかっていたので笑っていたのだろう。でも周りの獣人族の視線が冷たい。今それに気付いたゲドが付け足す、
「もちろん君達獣人族は良い友達だよ。あ、マタタビ食べる?」
そう言ってマタタビをほり投げるゲド、
「ニャッホーイ!!!!」
先程の空気が嘘の様に狂喜乱舞する獣人族達、ムサシもその中で踊っている。
獣人族って単純だな、と思いつつ、今度からはムサシ用にマタタビを持っておこうと思ったルディだった。
こうして少女の飛竜初討伐の宴は明け方まで続いた。

帰り道

夜が明け村へと帰る荷車にのる一同。
今回の狩りで弓が壊れていたことを思いだし一人落ち込むルディ、
「今回の狩りの報酬素材は全部嬢ちゃんにあげるよ。」
それを見てゲドが言う
「・・いいんですか?」
「そりゃあ横でそんなに暗い顔されたらね。
クック素材で造れる弓もあるから、足りない材料や金は俺がだすよ、嬢ちゃん。」
「そこまでしてもらうのは・・・。」
流石に遠慮するルディ
「イインダヨ。嬢ちゃんの弓が壊れたのは俺のせいでもあるんだしね。」
「ありがとうございます。」
ペコリと頭を下げるルディ、
「それに火属性の武器なら戦いつつ調理ができるからニャ。」
そういうことですか、と納得するルディ。
「それに嬢ちゃんは将来有望みたいだから、後々手伝って欲しいことがあるんだよ。」
「手伝って欲しい事?」
首を傾げるルディ、
「俺は大抵の飛竜は食べたんだけど、まだ満足しちゃいないんだよ。だからこの辺境の村で古龍やら新種の飛竜やらの情報を待っているんだよ。都じゃそんな化け物は出てこないからね。」
嬉しそうに言うゲド、
「ソコで嬢ちゃんに質問ニャ。」
「このまま俺達とパーティを組んでいてくれないかい?」
二人に言われて考えこむルディ。
あの村はハンターが少ないし、ルディの腕では飛竜討伐はおろか新しいパーティを組めるかどうかも怪しい。
それにルディは少しばかりこの二人に好意を持ってきていた。
「お願いします。ゲドさん、ムサシさん。」
深くお辞儀をするルディ、それを見て喜ぶ二人、
「じゃあ改めて自己紹介ニャ。ニャアはムサシ、称号は赤い料理人ニャ。」
ニヤツキながらムサシが言う、
「俺は外道の餓鬼、だからゲドなんだよ。本名は忘れた。」
笑いながら言うゲド、
「「よろしく嬢ちゃん。」」
二人が言う、
「よろしくお願いします。後嬢ちゃんじゃなくて、ルディ・ロッタです。」
その一言の後一同は笑い出した。
間もなくこの新しく生まれたパーティは、村に到着する。

特別オーダー

イャンクック討伐が終わり、村の工房にて鳥幣弓を生産し集会所へ向かうルディ。
集会所に付き扉を開けるルディ、中には三人組みのハンター、食事を待つゲド、その横に座り仲よさげに話す男のハンター、背中は砲台のような、ランスのような物をさげている。
近づくルディに気づき、その男が声をかける。
「ハジメマシテ、あなたがルディ嬢かい?」
いきなり名前を呼ばれ困惑するルディ、
「嬢ちゃん、こいつは俺の知り合いで、都で雇われている上位ハンターだよ。名前は・・・」
「カイン・キロウ。よろしく嬢ちゃん。」
ゲドの言葉に続けるカイン。
「よ、よろしくお願いします。」
挨拶をしてから嬢ちゃんと呼ばれたことに気付くが、否定するのは諦めたルディ。
カインの装備は全身シルバーのギザミ装備だった。髪は黒で短くカットしてある。見た目は30代後半といった感じだ。
しかし、ルディには彼の武器が何なのか判らなかった。
不思議そうに見ていると、
「これはガンランス、対飛竜用に造られた新武器で、必殺技もあるが・・それは実践でのお楽しみだ。」
楽しそうに語るカイン、武器名は討伐隊正式銃槍らしい。
「で、お前が来たからにはアレに関して話があるんだろうね?」
ニヤニヤしながら問うゲド。
アレとは一体なんなのか?とルディが考えていると、
「勿論だ。雪山にクシャルダオラが出たらしい。」
カインの言葉を聞くとゲドはニヤリと笑う。
ルディは二人の話に全くついて行けなかった。
古龍とは?
現在の飛竜種とは異なった進化形態を持つとされ、自然の力などを操ることができるとされる竜達のこと。
おもに現在の知識では説明出来ない力、姿等のモンスターの総称でもある。
その中でもクシャルダオラは風翔龍と呼ばれ風を操るとされる。
長い説明を聞くルディだったがあまり理解できてない様だ。
「でだ、そのクシャルダオラが雪山で目撃されたらしい。」
カインが語る。
「ん~、で確証は?」
ゲドが言う。
大抵の古龍は一つの場所に止まらずにいるため、目撃例さえ少ない。
「ヘッ、じゃあこれを見てみな。」
自慢げにカインがあるものを取り出す。何かの鱗の様だが・・・。
「何ですかコレ?」
ルディが口を挟む、
「これは鋼の龍鱗だ。雪山でこれが見付かった。」
カインがそういった瞬間ゲドが鱗にカジリツク、唖然とする一同、
「新しい味だね、流石古龍だ。いいよ行こうか雪山へ。」
ゲドがニヤリと笑う、その答えを聞きカインもニヤリと笑う。
そこえムサシが食事を持ってきた。ルディが後ずさる。
「さぁメシアガレにゃ。」
ムサシが言うと共に蓋を開ける。中には白い何かがうごめいていた。
「イタダキマス♪」
「頂こう。」
二人が言う。
ニヤツキながらルディにも食事を持ってくるムサシ、その時ルディがマタタビを放り投げる。
一目散にそれを追うムサシ、最早ただの猫である。
しかし、やはり食事が何なのか気になるルディ、
「で、何食べてるんですか?」
恐る恐る尋ねるルディ、
「フルフルベビーの生け造り。美味しいよ食べる?」
と言ってフルフルベビーの顔をルディの眼前につき出すゲド。首だけのフルフルベビーが微笑む。
「ヒッ!!!?」
とだけ声をあげ気絶するルディ。
「なんで気絶するのかな?うまいのに。」
ゲドが不思議そうな顔をする。
「いや、普通の反応だと思うが。でもコレいけるな~。グロイけど。」
笑いながら言うカイン。
少女は思った。(ハンターってみんなこんなんなのかな。それとも私がオカシイのかな?)
気絶する少女、食事を楽しむ二人の男、マタタビに酔う猫。彼等は明日古龍を求め雪山へ出発する。

夜道と昔話

ゴトゴト揺れる荷車の中で目を覚ます少女。
気絶をしていたルディは再び、勝手にクエストに参加させられた様だ。
外は暗く周りからは寝息が聞こえる。どうやら夜遅くに起きてしまったらしい。
「・・・寝よう。」
ボソッと呟くルディ、
「ん、嬢ちゃんは起きているのか?」
ゲドではない誰かの声がする。恐らくカインであろう。
「はい起きてますけど、・・・カインさん?」
寝惚けながら答えるルディ、
「あぁカインだ。少し聞きたいことがあるのだか、いいかな?」
カインの問にたいし、どうぞ、と答えるルディ、
「嬢ちゃんはこれからもずっと、あの餓鬼、ゲドとパーティを組むつもりなのか?」
「はい、そのつもりですけど。」
「それはアイツが好きだからか?」
「へ!?違いますよ!!!!ただ成り行きでそうなったというかその・・・・。」
思わず大声を出すルディ、その顔は暗闇の中でも判るほど真っ赤であった。
「冗談のつもりだったんだが、そうなのか?にしても面白い反応だな。」
笑いながらカインが言う。
「それだけならもう寝ますよ!?」
怒り気味でルディが言う、
「まぁ待て、そのつもりなら話さないといけないな。」
カインが言う。ルディは横になるが話だけは聞いているようだ。
「夜は長い、こんなオッサンの昔話を聞いてくれてもいいだろう?今から一人の少年の話をしよう。」
そう言って一人の熟練ハンターが語り出す。
聞き手は一人の少女と夜空に浮かぶ月と星だけだ。
今から長い夜が始まる。

ある貴族の話

ある所に一人の貴族がいた。
彼はハンターに憧れた。貴族は親の反対を押しきり狩りに出掛けた。
世間知らずな貴族は無謀にも飛竜に挑んだ。
当然敵う訳もなく、瞬く間に追い詰められた貴族。
死を覚悟し最後の突撃を仕掛ける貴族だが、彼の剣が届く前に地を頃げる飛竜。
貴族が辺りを見渡すと金色の鎧をきた女ハンターが弓を構えていた。次の瞬間飛竜は全身から血を吹き出し、そして絶命した。
歓喜に歪む女の表情、血まみれの金色の鎧が妖しく光る。
異様な風景の中の異様な女に貴族は心を奪われた。
貴族の愛に答える女、一目惚れだったのだろう。
女が婚姻のために出した条件は貴族はハンターを辞め、女がハンターを続けるのを認める事。
貴族は快くそれを認め二人は結ばれる。
しばらくして、二人の間には子供が産まれる。
貴族は家を守り、女は家族を守るために飛竜を狩った。二人は確に幸せだった。
しかし、幸せは長くは続かない。
しばらくすると街に古の龍が現れる。
人々を、家族を守るため武器をとる女。貴族も武器をとろうとするが、女がそれを停める。約束を思い出せと。
ニッコリと微笑み狩り
に向かう女。
そして街から古龍は退いた。しかし女が帰ってくることはなかった。
貴族は子供と共に何時までも女を待つ。
女の残した子供だけが貴族の支えだった。
しかし彼は神に愛されなかったのか。
彼の運命の歯車は無情にも狂いだす。
それから月日は経ち、貴族の子供は少年と呼べるまでに成長する。
貴族は少年に母がいないのを感じさせないほど良い父親になり、子供は素晴らしい少年になった。
女は帰って来なかったが、死の知らせがくる事もなかった。
貴族はそれでも幸せだった。女が帰ってくるまで家を、少年を守る。それが貴族の支えだった。
貴族の誕生日が近付き、少年はある計画をたてる。街へ足を運び食事が好きな父のためにナイフとフォークをプレゼントしようと。
父には気付かれぬよう馬車を引く少年、安全のため三人のハンターも雇い街へ向かう。
街でかなり上物のナイフとフォークを手に入れ、家へ帰る少年。
しかし不幸が少年を、否、貴族を襲う。
砂漠の中程で角竜に襲撃を受ける少年。
逃げ惑い気付けば道を見失い、三人のハンターが戦う前に馬車は宙を舞う。
馬車の外ではハンターと角竜の闘いが始まるも、少年が少年である記憶はそこで途切れた。
貴族は狂気した。
愛した女、そして息子までもが彼の前から消えたのだ。
日に日に衰弱する貴族、彼は最後に自分の遺産の半分を息子に、もう半分を息子を探すため、そして全てを奪った龍達を殺すためギルドへと寄付した。
彼は永久の眠りにつく。いつか愛した女に再び出会うこと、そして息子の幸せを願って。
彼があの日狩りに行かなければ、この様な不幸になる事はなかったのではないか?
しかし、そうなれば女と出会うこともなかっただろう。
彼は確にあの時は幸福だった。だからこそ彼は不幸になったのかもしれない。

ある男の話

ある街にギルドに雇われている男のハンターがいた。
彼はある日ギルドから指令を受ける。砂漠で消えた少年を探しだせと。
依頼者は貴族のギラン・グラン、だが依頼者は既に死亡している。
依頼者が死んでいるため本来は、この依頼自体破棄される訳だが大量の寄付により継続されているらしい。
正直面倒な話だと男は思った。狩り場で行方不明になった場合大半は死んでいるし、死体が見付かることすら稀だからだ。
万が一生きていたにしても、事の発生から一ヶ月ほどたっている。とうに飢え死にしているだろう。
この一ヶ月捜索隊は派遣されるもなんの手掛りも見付かっていない。
男は面倒臭そうに、書類に目を通す。
少年の名はサイ・グラン、特徴は真っ赤な髪ただそれだけ。
街に父のプレゼントを買いに行き帰り道の砂漠で消息を絶った。当時砂漠には角竜が出没していたらしいが、角竜すら姿を消した。
手掛りは無し、同行した三人のハンターどころか馬車の残骸すら見付かっていない。
この時男はある事に気が付く。ギルドに雇われた専門の探索隊ですら見付けられない場所、そして探索隊ではなくハンターである男が選ばれた訳・・・・
男は最期の資料を見る。
このクエストの内容は少年の探索、砂漠の秘境を探すことだった。
秘境とは?
一般のモンスターとは大きさも、強さも、格段に違う上位のモンスターが生息する上位の狩り場がある。
そこのどこかにある場所が秘境である。
上位の狩り場は踏みいる者すら少ない、そのためギルドすら秘境の場所は知らない。そのため地図にすら記されていない場所である。
上位ハンターである男でさえ、秘境には一度しかたどり着いたことがない。だからこそ男は選ばれたのだが・・・・
男は秘境を、少年を探すため上位の砂漠に足を踏み入れる。
上位の狩り場ではランポスすら脅威になる。
しかし砂漠にはほとんどモンスターが居なかった。
不信がる男、間もなくその訳を知ることになるが・・・・
男は流砂を見付けあえて其所へ入って行く。
地図にない秘境に行くには運に任せるしかないからだ。
流砂に呑まれしばらくして男は目を覚ます。そこは確に秘境であったが、彼の知る秘境ではなかった。
白骨化した角竜、恐らく報告にあったものだろう。その他にも肝だけを食われ腐敗臭を放つ無数のガレオス達、そして三人のハンターの亡骸。
男は目の前の光景に困惑していた。その時まだ新しいガレオスの死体が動く。男が近寄ると髪も、手も、足も、全身が赤黒く染まった少年がガレオスの肝をムサボっていた。
少年は人に会えて嬉しいのか男へすりよって来る。血まみれだが少年の顔は幼く、何より純粋だった。
男が少年の名を呼ぶも少年は首を傾げる。人違いなのか、それとも記憶を無くしているのか?
男は少年の身元が判りそうな物を調べる。少年の持つシエロツールの柄に何か文字が彫ってある。
『敬愛する我が父ギランへ、汝が息子サイより愛を込めて。』
これにより少年がサイ・グランであることが確定した。
男は少年を連れて街へ帰る。
しかし少年を待つ者は誰も居ない。
彼を愛した父も、母も、もう居ない。
もしかしたら記憶の無い少年はあのまま何も知らずに、あそこに居た方が幸せだったのでは?そんな考えが男の頭をよぎる。
少年はそれを知らずに男に微笑む。
それを見た男は一つの決意をする。少年をあの満たされた世界から引きずり出したのは自分だ、ならば少年を彼処に居たときより幸せにする義務が自分にはあるのだと。
少年の微笑みにギコチナイながらも微笑み返す男。
願わくばこの少年に父親の様な不幸がふりかからぬ様に。

夜道と昔話

その後男は少年にハンターの知識や、人としての礼儀を教えて少年のもとを去る。
しかし、ギルドの指令で密かに監視をし少年その後も見守り続けた。
「そして現在、少年は餓鬼や外道などのあだ名で呼ばれるほどの名ハンターになった。という話だ。」
長い話を終えカインが一息つく。
「そのハンターって・・・。」
「そう、そこで寝ているガキの事だ。そしてギルドの男は儂だ。」
ルディが言いきる前にカインが答える。
「この話をあのガキにしたが、まるで他人の話を聞く様だったがな。」
カインが溜め息をつきながらいう。
「でも、何で今もゲドさんと組んでいるんですか?もう一人でも大丈夫そうですが。」
ルディの問に対しゲドが更に大きな溜め息をつく。
「一つは現在俺がギルドから受けている指令は、古龍の調査及び討伐だ。今の奴はかなり使えるハンターだし、奴が古龍を求めているからだ。奴の望みはできる限り叶えてやりたいしな。」
その後カインの顔が厳しくなる。
「そしてもう一つ、奴は命を狙われている。」
「え!?何でですか??」
カインの言葉に過剰に反応するルディ。
「それは奴の財産だ。
奴の父の遺産は半分とはいえ莫大だ。奴が居なければ遺産が回ってくるであろう身内に奴は狙われている。」
「そ、そんな・・・」
言葉を失うルディ。
「街や村に居るときは儂やギルドの誰かが監視できるが、狩り場ではそうはいかない。あんな辺境の村に危険な依頼がいくのはそのせいだ。あわよくば狩りで死ぬことを望んでいるんだろうな。」
カインが憂鬱そうに言う。
「奴は俺にとって息子の様な物だ。できる限り側に居たいがギルドを捨てる訳にはいかない。そこでだ、奴には危険な依頼が回ってくる上奴はあんな性格だ。一緒に居れば命がいくらあっても足りないかもしれ無いが、奴と一緒に居てやってくれないか?」
「はい、もとからそのつもりですよ。」
ルディがアッサリと答えたのでカインは拍子抜けしている。
「いざとなったらゲドさんが守ってくれますしね。」
ルディが微笑みながら言う。
「・・・・奴と狩りに行った人間は普通は二度と奴とは狩りに行きたがらないのに、嬢ちゃんよほど惚れてるだな。」
「なっ・・・・・!!!!!」
笑いながらカインが言うと、ルディは顔真っ赤ににしたまま寝床に入った。
「まぁ奴を頼むよ嬢ちゃん。明日はよろしくな。」
カインも笑いながら寝床につく。
彼等は明日雪山に到着する。

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最終更新:2013年02月21日 19:02
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