極寒の食卓
古龍を求めて
長い夜が明け雪山に着いた一同。
「今回のクエストは古龍の探索及び、それの討伐だ。」
カインを中心に会議をする一同、またムサシはいないが。
「嬢ちゃんはなるべく隠れていていいよ。今回は格が違うだろうからね。」
ゲドが言う。確にイャンクックしか狩った事がないルディに今回のクエストは厳しいものがある。
「言われなくてもそのつもりです。まぁ足だけは引っ張らないようにしますよ。」
ルディがアッサリ返す。
そこへムサシが帰ってくる。
「アイルー達の話だと、どうやら奴は雪山の山頂にいる様ニャ。」
ムサシが報告する。
「各自、準備はいいな?決して無理はするんじゃないぞ。」
「目の前に古龍がいたら無理しないとは言い切れないけどね。まぁ死なないように頑張ろうかな。」
ゲドは笑っているが、古龍との闘いを前に悦びを隠せない様だ。
「では、行くぞ!」
各自ホットドリンクを飲み、パーティは雪山の中へ入っていった。
・・・・雪山の山頂にてパーティを待つのはご馳走かそれ以外の何かか。
「今回は双剣なんですね、ムサシさん?」
ルディの言う通りムサシの背中には包丁ではなく、フライ返しとオタマが背負われていた。
「これは双剣ニールイタメールニャ、それにニャアに使えない調理器具はないニャ。だいたいニャアは大剣使いニャ。」
ムサシの答えに驚くルディ、大剣を使う姿がイメージ出来ないからだろう。
そうこうしている内に雪山の山頂付近へ到着したパーティ。
気付くとルディ以外のパーティは居なくなっていた。ルディがオロオロしていると、
「嬢ちゃん、こっちだよ~。」
横の小さい穴からゲドの声がする。人一人がやっと通れるほど小さい穴を抜けると、窪みのような地形になっていた。
「この上から古龍の臭いがするね。」
ニヤリとしながらゲドが言う。
崖を昇るパーティ、崖の上には確に古龍クシャルダオラが居た。しかし、それは抜け殻だった。
クシャルダオラは体表が錆び付いてくると脱皮をして新しい体になるのだ。
つまり此処には最近まで確にクシャルダオラが居たのだろう。しかし今居るかどうかは判らない。
「チッ、抜け殻か。少し待てよ。」
鞄から千里眼の薬を取り出しながらカインが言う。
千里眼の薬とは、一時的に使用者の感覚を上昇させ、飛竜などの場所を特定する事が出来るアイテムである。
カインが神経を研ぎ澄ましている時に、ゲドは抜け殻をあさっていた。
「・・・・ガリ、マズッ!!!」
抜け殻を一口カジルが朽た鱗がウマイ訳がなくはきだすゲド、
「・・・・?、なんだこれ?」
懲りずに抜け殻をあさっていると何かの塊の様な物を見つけたゲド、その小さな塊はドコか懐かしい感じがした。
「居た、この下だ!!!!」
カインの叫びを聞き、塊を鞄にしまい崖の下を見るゲド。崖の下にはクシャルダオラではない何かの影があった。
オーダー変更
崖の下に居たのはクシャルダオラではなく、ドドブランゴだった。
ドドブランゴ、雪山に生息する小型の猿の様な
モンスターのブランゴ、それを束ねるボスがドドブランゴである。
イャンクック等が
飛竜種と呼ばれるのに対して牙獣種と言われる。
「どうやら雪山に居るデカイのは奴だけのようだな・・・どうする?」
カインが言う。
「俺は腹が減ったから何でもいいや、今日は奴で我慢するよ。」
「じゃあさっさと料理するニャ。」
双剣の二人が言う、
「アイツは少し強いから、嬢ちゃんは此処で待っててね。」
ゲドが言うと共に崖から飛び降りる二名、
「考えなしに飛び降りやがったのか!!?あんの馬鹿ガキ共が!!!!!!」
言うと続けて飛び降りるカイン、
「・・・・頑張ってくださいね~。」
とりあえず声援だけ送るルディ。
当初の目的とは違うが、極寒の地での狩りが始まる。
サイドメニュー
「儂が正面で気をひく、その隙に両サイドに回れ!!!」
「わかったよカイン。」
「オーケイニャ。」
崖から飛び降りると共に、素早く打合せを済ませる三人。
それに気付いたドドブランゴが威嚇の雄叫びをあげる。
「さぁこっちだ猿野郎!!!!」
正面から
ガンランスを構えゆっくりと近付くカイン、そして鬼人化した二人が両サイドに回りこむ。
ドドブランゴがカインに拳撃をくりだすが、巨大な盾にアッサリと防がれる。
「これでも・・・喰らえ!!!!」
言うと共にガンランスの砲撃がドドブランゴの視界を奪う、
「こっちにもいるよ。」
「ゥニャアァー!!!!」
二人がドドブランゴの後ろ足に乱舞を同時に叩き込む。
堪らず地面を頃げのたうちまわるドドブランゴ、その眼前にガンランスの銃口が向けられる。
「先ずは一発だ・・・・ゥラアァ!!!!」
カインが叫ぶと共に、竜撃砲がドドブランゴを襲った。
竜撃砲、ガンランスの必殺技であり、火竜のブレスを元に開発された兵器。
大きな攻撃力を持つが使用後は放熱が必要で、連続しての使用は不可。
顔面に竜撃砲の直撃を受けたドドブランゴはさらに激しくもがく。その間も二人の乱舞は止まらない。
カインのガンランスは一部がパカリと開きそこから蒸気が立ち上る。
顔を黒く焦がし、血まみれになったドドブランゴは、怒りの咆哮をあげる。それと同時に無数のブランゴが雪の中から現れた。
双剣二人は堪らず耳を塞ぐ。
そこえドドブランゴのブレスが二人を雪だまに変える。
「ヌォ!!?」
そんな二人に多くのブランゴが襲いかかる。
それを崖の上から見ていたルディは何も考えず崖から飛び降りた。
「やあぁぁぁ!!!!」
弓を構え雄叫びをあげる少女の目に映るのは、巨大な敵ではなく危機に陥った仲間の姿だけだった。
雪ダルマ状態の二人の横に着地するルディ、そして弓を力いっぱいに引き絞る。
「ぃっけえぃ!!!」
限界まで力の込められた鳥幣弓から放たれた矢は、拡散し地面と水平に5本に分かれる。
「ボンッ!!」
ブランゴに突き刺さった矢は小さな爆発音と共に火をふきだす。そして黒くこげたブランゴが地面へ倒れて行く。
ブランゴは残り3体、再び矢を放つルディ。
再び響く爆発音、2体のブランゴは息絶えるも残りの1対がルディに飛び掛る。まだ矢の装填が終わっていないルディはどうする事もできない。
ドォォォン!!!
「ヒィアッ!!?」
突如響く轟音に悲鳴を上げるルディ、振り返るとガンランスを構えるカインと焼け焦げたブランゴの死体があった。
「いい判断だ嬢ちゃん、最後は危なかったがな。」
弾をリロードしながらカインが言う。
「早く助けろカイン!!」
「早くするニャ、オッサン!!」
「黙れガキどもがぁ!!!」
ドゴォォォン!!!
文句を言う二人にカインは砲撃を放った。ルディは唖然としている。
「・・・もう少し優しくしろよカイン。」
何事もなかったかの用に起き上がるゲドとムサシ、雪だるまではなくなったが少し焦げている。
「黙れもう一発喰らいたいか、ガキどもが。そんなことより奴は何所だ?」
ガンランスを構えながら言うカイン。気付けばドドブランゴは血痕だけ残し姿を消していた。
「皆、横に跳べぇ!!」
何かの気配を感じたゲドが叫びながら、ルディを抱えて横に飛び退く。
それに反応して他の2人も横へ跳ぶ。
「へぁ!!?なんですか!?」
一人状況のつかめないルディがゲドの腕の中で質問をした時、
さっきまで一同の居た地面が吹き飛んだ。
雪の中から血まみれのドドブランゴが飛び出してきた。あと少し気付くのが遅ければ、直撃を受けていたであろう。
「それだけ血ぃ流してると凄く旨そうな匂いがするんだよね。だからそろそろ喰われてくれないかい?」
歪んだ微笑を浮かべながらゲドが言う。
当然人の言葉がモンスターに通じる訳はなく、ドドブランゴは雪球を放り投げてきた。
「もう我慢できないや、イタダキマス♪」
雪球が落ちるより早くドドブランゴの側面に回りこんだゲドは、足の肉を切り取り口へと運ぶ、
「旨いが、古龍とはひかくにならないね。」
口から血を垂らしながらゲドがガッカリしたように言う。
そして鬼人化の構えを取り、ドドブランゴの足に乱舞を叩き込む。
「後はよろしくカイン。」
「任せておけ。」
ゲドの言葉にカインは答える。
足を切られノタウチ回るドドブランゴの頭に、三度目の銃口が向けられる。
「さよなら、糞猿君。」
カインが言い終わると共に二度目の竜撃砲がドドブランゴの顔面を吹き飛ばした。
「こいつはどうするニャ。」
「内臓だけ捌いて持って帰ろう。旨いから♪後はいらないや。」
ゲドの返事を聞き、ムサシがルディに禍々しい笑みを向ける。
それと同時にその意味を理解し逃げ出そうとするルディ、だがアッサリゲドに捕まる。
「まだ剥ぎ取りしてないだろ、嬢ちゃん?」
その光景を見てムサシはニヤリと笑った。
半ベソのルディが剥ぎ取りをしている横では、ムサシが「グチャグチャ」とわざとらしく嫌な音を立てながら内臓を捌いていた。
(私もガンランスだったらコイツを吹き飛ばしてやれるのに・・・)
泣きながらそう思うルディだった。
帰り道(拾い物)
雪山でクエストを終えたパーティは、村へ帰る荷車に乗っていた。
車の中では、マタタビに酔うムサシ(ルディが与えたのだろう)と、先ほどの内臓の悪夢でも見ているのか、明らかにうなされているルディ。
そして、それらをよそに隅の方で話をするゲドとカインがいた。
「カイン、これって何?」
ゲドはいいながら、クシャルダオラの抜け殻から見つけた塊を取り出し、カインに見せる。
「・・・太古や錆びた塊にしては、新しい気がするな・・・。
まぁ今回の報告でワシは街に帰るから、アッチの工房で調べてもらうことにしよう。」
いいながらカインは塊を自分の鞄へしまう。
「しかし珍しいな、お前が食以外に興味を持つなんて。」
笑いながらカインが言う。
「その塊からは、なんか・・こう・・懐かしい感じがするんだよね。」
自分でも不思議、といった感じでゲドが言う。
ゲドは砂漠で発見されるより前の記憶がなく、彼自身の話をカインがしたときも無反応だった。
その彼が記憶に無いはずの”懐かしさ”を感じるというのだ。
「よし判った。この塊はワシが責任を持って加工してお前に返そう。」
胸を張ってカインが言う。
「あぁたのむよ。」
「いつ街から帰って来るかは、手紙で連絡する。」
短い会話をする二人、
「イヤァ!!!こっち持って来ないでぇー!!!」
突如叫びながら目を覚ますルディ、一瞬間を置いてから爆笑するゲドとカイン。
それを見て今の状況を理解したルディ、
「お、ぉ、ぉおやすみなさぁい!!」
そういって真っ赤な顔を隠すように、毛布を被るルディ。
「俺たちもねますか。」
「そうだな。」
そしてゲドとカインも床に就いた。
ゲドが見つけた塊は何なのか?
それはまだ解らないが、彼の記憶にとって、何か大事な手がかりを持っているのかもしれない。
朝食(+会議)
雪山から帰ってきた次の朝。
ルディはいつものように集会所の扉をあける。
中には食事を始めようとしているゲドと、食事を運ぶムサシの姿があった。
「おはよう、嬢ちゃん。心なしかやつれてない?」
不安そうな顔をするゲドの横でムサシがニヤリと笑う。
「聞かないでください・・・。所で。カインさんは?」
昨日は結局悪夢を見続けたルディがいう。
「もう街へ帰ったよ、カインは雇われの身だからね。それより朝ごはんにシヨウ♪」
そう言って蓋を開けるゲド、恐る恐るルディが中を覗くと中には大きなウィンナーが入っていた。
「イタダキマス♪」
「じゃあ私も、いただきます。」
ゲドにつられルディが言う。
”パキッ”という音をたてて食べる二人。そしてニヤつくムサシ。
「オイシィ~♪」
「やっぱり、牙獣のウィンナーは旨いね~。」
この時ルディは思い出す。ウィンナーとは動物の腸に肉を詰めて作るということを。
そしてこれをつくったのは横で今にも噴出しそうな顔をしている猫であることを。
「オイシイ・ォィシィ・・・ハハハハハハ」
昨日の悪夢を思い出し壊れた様に笑うルディ、横ではムサシが爆笑している。
「で、嬢ちゃん?話があるんだけど。」
ゲドの一言で正気に戻るルディ、
「やっぱり食事の前や後、無論最中も騒音はいらないんだよ。」
ルディは自分が怒られるのかな、と思ったが次の一言でそれは無くなる。
「と、言うわけでリオソウルを狩りに行こう。」
「はい!?」
ゲドの言葉に声のひっくり返った返事をするルディだった。
リオソウル:空の王と言われるリオレウスの亜種。亜種は普通のモノより能力が全体的に高く体色も異なるモノをいう。ちなみリオソウルは全身が蒼色である。
ルディには騒音とリオソウルの関係がサッパリだった。
「なんでリオソウルなんですか?」
「ムサシ説明して。」
ルディの質問をムサシに任せ食事を再開するゲド。
「それはだニャ。モンスターの装備には防御以外にも能力があるのは知ってるニャ?」
ムサシの問いにルディが頷く。
装備には種類によってスキルがつく、それは毒を無効にしたり敵の居場所を感知したりと様々だ。
「その中でもリオソウルの防具には耳栓のスキルが付いているニャ。」
「耳栓?」
ルディが聞き返す。
「耳栓は咆哮とかから、装備者を守ってくれるスキルニャ。防御できない上、近接武器の双剣にはピッタリのスキルニャ。」
ムサシの説明を聞きルディは感心している。駆け出しのハンターである彼女はあまりスキルに詳しくないからだろう。
「ご馳走様でした♪だからリオソウルを狩にいこうって訳だよ、嬢ちゃん。」
食事を終えたゲドが言う。
「でも、そんな都合よくクエストがあるんですか?」
「それはカインに頼んでおいたから大丈夫。」
そういってクエストが書かれた紙を渡すゲド。
それを見てルディは驚いた。
「これ、レウスとレイアが同じ場所にいるみたいですけど!?」
飛竜は一体を相手にするだけでも大変なのだが、今回は2匹同時と来た。ルディが驚くのも当然である。
「大丈夫だよ。合流さえされなければ、俺とムサシで1体ずつ狩れるし。嬢ちゃんも何時までもランポス装備って訳にも行かないだろ?」
ゲドが言う。
つまり二人の装備を揃えるために2匹の竜を狩るというのだ。
「それに今回は捕獲するつもりだし、道具も揃えるから大丈夫だよ。」
「でも・・」
ゲドが言い終わっても不満そうなルディの頬に何かが触れる。
柔らかい何か・・振り返るとムサシがルディの頬にドドブランゴの腸を当てていた。
「ィアァァァァ!!!?」
昨日の悪夢を思い出し叫んだ後に失神するルディ、横で笑い転げるムサシ、それらを不思議そうに見つめるゲドだった。
移動(雑談)
またしても揺れる車の中で目をさますルディ、(彼女はもうこのループからは抜け出せないのだろうか?)
「おはようニャ。」
起きたルディの前にはムサシのニヤつき顔があった。
「おはようございます・・・どうしたんですかその格好?」
不機嫌気味に返事をするルディは、ムサシの姿が何時もと違うことに気が付く。
「今回は討伐ではなく捕獲だからね。食事仕様ではなく狩り仕様なんだよ。」
ゲドが答える。
捕獲とは:モンスターを殺さずに、十分弱らしてから専用の道具を使い生け捕りにすること。
討伐するよりも多くの報酬素材が手に入る。今回は装備の素材を集めるためなので捕獲の方が適していたのだろう。
「それにしても・・・・。」
そういってルディはムサシを見る。
全身はフルフル装備のようだが、獣人専用のサイズになっており尚且つ彼の毛色同様に真っ赤だった。
そしてなによりルディが気になったこと、それは、
「ムサシさん・・・大剣使えるんですか?」
ムサシの背中には自身の何倍もある様な大剣が背負われていた。
「獣人なめたらいけないニャ、少なくとも嬢ちゃんよりは上手に使えるニャ。」
そう言って笑うムサシ、
「う・・・、それとその剣スゴク変わってますね、猫の顔みたいですけど?」
図星を衝かれ話題を変えるルディ、
「これはニャアの村にあった剣を加工したキングオブキャットニャ。」
そう言って軽く剣を振るムサシ、何処にそんな力があるのだろう?
「(スゴッ!!!)・・・所でゲドさんはいつもの装備のままなんですね?」
ムサシに目を奪われながらゲドに話を振る。
「俺の武器は元から強いからね。それにこれはお守りみたいなものだし。」
どこか寂しげな顔をするゲド、記憶を無くした彼が始めから持っていた相棒であり、彼自身の唯一の持ち物とも言えるシエロツールを見ながら呟くゲド。
「・・しょ、食事にしましょう!」
気まずい空気を打破すべく発言したルディだがすぐ後悔することになる。
移動中の食事・・つまり昨日の残り=ドドブラウィンナーなのだから。
すぐ後に車からは小さな悲鳴がこだました。
食事の結果
パーティ全員のスタミナ・体力が上がりました。
ルディのみ悪夢が発動しました。
捕獲戦線
森丘にて
今回の狩場、森と丘に着いたパーティ。
森と丘;地形は平坦で見晴らしの良い丘と、木の生い茂る森の部分からなる狩場。
「さて、では今回の割り振りを説明するよ。俺と嬢ちゃんでリオソウル。ムサシは一人でリオハートね。早く終わったら残りを手伝うってことで。」
アッサリと言うゲド。
「解りました。・・・けど一人で大丈夫ですかムサシさん?」
「嬢ちゃんに心配されるほど弱くないニャ。それに大剣の時は一人の方がやりやすいニャ。」
ルディの不安をバッサリと切り捨てるムサシ。
「それに森のアイルーも友達だから、助けてくれるだろうしね。」
ゲドが言う。
とりあえずパーティは森丘の三番に移動する。
そこで千里眼の薬を飲むゲド、
「これはこれでおいしい♪・・・じゃなくてソウルは4番(丘)、ハートは10番(森)にいるみたいだね。」
そう言うゲド、ここでパーティは二手に分かれる。
「じゃあ嬢ちゃんにはこれ。」
そういって睡眠ビンを渡すゲド。
「咆哮を防ぐためにこれを使ってね。」
軽く言うゲド。
「でもそんなタイミング良くいきますか?」
ルディが不満そうに言う。
睡眠ビンは標的に眠りを与えるが、1発で眠る訳ではなく数撃ちこんで初めて効果が得られる。ルディの意見ももっともだ。
「大丈夫、そこら辺は考えがあるよ。それ以外にも道具はあるし。」
ゲドがルディを説得していたその時、遠くから爆音と飛竜の咆哮が聞こえてきた。
「!!私たちも行きましょう、ゲドさん!!!」
一瞬で決意を固めたルディ。
「いいね、そういう性格は好きだよ。じゃあ俺等も行こうか。」
と言いつつリオソウルの居るエリアへ走り出すゲド。
その後に続くルディの頬は朱に染まっていた。
対リオソウル
4番のマップに入る二人、中には全身から重い空気を放つ蒼い塊、リオソウルが居た。
経験の浅いルディはそのプレッシャーに思わず後ずさりをする。
「嬢ちゃん、怖いなら隠れていてもいいんだよ?奴は俺の獲物だしね。」
隣でゲドが言う。
獲物を目の前にした彼の目は獣の様にギラツイテいる。
「どうする、嬢ちゃん?」
元の顔に戻ったゲドが優しく言う。
ルディは自分の奥歯をギリリとかみ締め、気合を入れる。こんな所で恐怖心に負けていてはこの先ゲドとパーティを組んでは行けない。
「やります!!」
小さく、しかしハッキリとルディが答える。
「いい返事だ。じゃあ俺が気を引くからその隙にあの丘に登ってくれる?あそこなら奴の攻撃はある程度届かないからね。」
ゲドの言葉に頷くとルディは駆け出す。
リオソウルの後ろを通る走り抜ける際に、リオソウルに気付かれそうになるがその時、高らかに角笛の音が響く。
ルディに気付きかけたリオソウルは、ゲドの方を向き直り威嚇の咆哮をあげる。
が、距離が離れているため効果は無いようだ。
その時リオソウルの背中に数本の矢が突き刺さった。
ルディが丘の上から撃ったのだ。
「準備完了だね。じゃあ始めようか?」
そういってゲドはリオソウルに突っ込んで行った。
リオソウルが突っ込んで来るゲドにブレスを吐き出す。
人の命などアッサリと焼き尽くすであろう火球の僅か横をゲドは駆け抜ける。その顔は微かに笑っている。
駆け寄ったゲドはリオソウルに一閃を浴びせる、が・その一閃は空しく空を切り裂く。
「上か!!」
そう言ってゲドが上を見上げると其処には、空を舞うリオソウルの姿があった。その瞳は確実にゲドを捕らえている。
その間もルディが矢を放ち続けるが、リオソウルは微動だにしない。
「そのまま俺を見ておけよ。」
そんなゲドに空中からブレスを吐き出すリオソウル、火球は地面を焦がすもゲドにはかすりもしない。
リオソウルが次のブレスを放とうとした時、強烈な光が彼の視力を奪う。
ゲドが閃光玉を投げたのだ。
視力を失ったリオソウルはバランスを崩し地面に叩きつけられる。
視力を失くしたリオソウルの顔をゲドが斬り付け、血が付いたナイフを舐める。
「さぁ、一気に行こうか。」
そう言ってゲドは鬼人化の構えを取る。
目の見えないリオソウルは出鱈目に自身の尾を振り回す。
ゲドは地面を転がりそれをかわすと、即座に懐に入り込んだ。
いくらリオソウルが凶器である自身の尾を振っても、足元で乱舞をするゲドに当たる訳はない。
一振りする度に飛び散る鮮血は、リオソウルの蒼い体を、そしてゲド自身を朱に染め上げていく。
しかし、しばらくするとリオソウルに視力が戻る。そんな火竜を何時の間に離れたのかゲドが見ている。
リオソウルは躊躇うことなく、ゲドに突進してきた。
しかしゲドは数歩横に動いただけでそれをかわし、尚且つ翼を斬り付けた。
滑り込むリオソウルの後には血の痕が残り、翼からも血を垂れ流している。それでもリオソウルは空へと舞い上がった。
「翼だ、嬢ちゃん!!」
「言われなくと・・・も!!!!」
ゲドが叫ぶと同時に矢を放つルディ、その矢は切り裂かれた翼に突き刺さり再びリオソウルを地面に叩きつける。
「ヒャハハハハ!!いいね嬢ちゃん!!!!」
リオソウルの落下先には高笑いをするゲドが待ち受けていた。
もがくリオソウルの尾をゲドがアッサリと両断する。
その時リオソウルは瞳に怒りの色を浮かべ咆哮の構えをとった。
咆哮をせんとするリオソウルに睡眠薬の付いた矢を放つルディ、戦闘が始まってからそれなりの数を撃ちこんだが怒りに震えるリオソウルを止めることは出来なかった。
リオソウルが咆哮をあげる前に反射的に、耳を塞ぎしゃがみ込むルディ、その一瞬で彼女の思考はめまぐるしく働く。このまま咆哮を受けた場合丘の上に居る自分は平気だろう。しかし、至近距離にいるゲドはどうなるのか?
いくら強固な防具を付けたゲドでも、リオソウルとイャンクックでは訳が違う。ただでは済まされないだろう。一撃で済めばいいが連続して攻撃を受ければ死あるのみである。
悪い方ばかりに考えが回るルディ、だが一向に咆哮が聞こえてこない、恐る恐る目を開けるとリオソウルがイビキをかいていた。
ルディはこの状況が理解できなかった。彼女の放った矢ではリオソウルは眠らなかったはずなのに・・・。
「何したんですか、ゲドさん?」
ゲドに問いかけるルディ。
「いや~、ヤバカッタヨ。嬢ちゃんとコレが無かったらね。」
そういってナイフを見せるゲド、その刃には何かが塗ってあった。
ゲドは眠り投げナイフを使った様だ。
眠り投げナイフとは名のとうり睡眠作用をもつ投げナイフのこと。睡眠ビンより強力だが一発で眠らせれる物ではないし、持てる量が少ない。
あのタイミングでは一発投げるのがせいぜいだったが、その前にルディが眠りビンの着いた矢を放っていたので、リオソウルを眠らせる事が出来たのだ。
- そんな話をしながらゲドとルディはイソイソと眠るリオソウルの周りに、大樽爆弾を仕掛けていく。
「では嬢ちゃん、発火して♪」
笑いながらゲドが言う、不憫に思いながらルディは4つの爆弾に矢を放つ。
爆音をあげリオソウルを焦がす爆発、すでにボロボロとなりよろめくリオソウル。
そこへゲドが角笛を吹く。ヨロメキながらも無防備なゲドに最後の突進をするリオソウル。
もう少しで直撃すると言うところで彼の自由は奪われる。
「お疲れ~。そしてオヤスミ♪」
そう言ってゲドは捕獲用麻酔玉を投げつけた。
混沌へ落ちていくリオソウルが最後に見たのは目の前で高笑いをする人間と足元に仕掛けられたシビレ罠だった。
油断
シビレ罠;ギルドで入手できるトラップツールとゲネポスの麻痺牙を調合すると出来る。
地面に設置すると一定時間そこに罠を張ることが可能。
標的を麻痺状態に出来る。どんな地形でも使用できるが短時間しか効果はない。
似たような物で落とし穴も存在する。
戦闘が終わり一息を着くゲドとルディ。ゲドは疲労の色が濃く肩で息をしている。
「大丈夫ですか、ゲドさん?」
不安そうに駆け寄るルディ、彼女はさほど疲れては居ない様だ。
「ちょっと・・鬼人化・・しすぎた・・・ね・・。腹・・減った。」
笑いながらゲドが言う。
それを見て安心するルディ、彼らの横では、リオソウルがイビキをかいている。
「・・・本当にこんなので起きないんですか?」
不安そうにルディが言う。確かに傍から見たら、ただ単に寝ているだけである。
「それは・・・スゥー・ハァ~・・。それは大丈夫だよ、眠っているんじゃないから傷は回復しないし、攻撃しても死ぬことはあっても起きることはないよ、昔試したから。」
息を整えつつゲドが言う。
何を試したのか途中まで考えて怖くなったので、ルディは考えるのを止めた。
そんな会話をしている二人のすぐ横を影が通る、が、狩りを終えた油断からゲドはそれに気付かなかった。
不意に聞こえる風の音と着地音、ゲドがそれに気付くのはあまりにも遅すぎた。
「チッ、嬢ちゃん!!!」
「ふぇ!!?」
舌打ちをしてゲドがルディを丘の上へ、放り投げた。
次の瞬間、至近距離からの咆哮がゲドの体の自由を奪った!
桜火竜、リオハートの姿がそこにはあった。
危機
頭の中で反響する爆音を振り払い、目を開くゲド。
眼前には桜色の何かが迫っていたが、直ぐにその何かが何か気付く。リオハートの・・・、
「ぅぐぉぁ!!!?」
理解するよりも早く、ゲドの体は地面と水平に飛び崖に叩きつけられた。
その音を聞きルディも目を覚ます。
「ゲドさん!?」
そう叫びゲドの姿を探すルディ。彼女が見た彼の姿はモンスターの血ではなく、彼自身の血で染まっていた。
「大丈夫ですか!?早く逃げて!!」
叫ぶ彼女の声が聞こえていないのか、回復薬を飲み、立ち上がるゲド。
「サマーソルトか、ふざけやがって。人間舐めるなよ?このトカゲがぁ!!!!」
いつもの彼からは考えられない言葉を叫び、駆け出すゲド。
ゲドに対しブレスを吐き出すリオハート、しかしゲドはそれアッサリかわし尚且つ加速する。
リオハートが再びブレスを吐き出すも既にゲドの姿はない。リオハートは激痛と共に、ゲドの居場所を知ることになる。
「ラアァァァァァ!!!!!」
雄叫びと共に尻尾を切り裂くゲド。
尻尾を失くし、バランスを崩してノタウチ回るリオハートの頭をこれでもかと切り裂き続ける。
リオハートの血と自身の流血で、ゲドはますます朱に染まっていく。
その状態を見るルディは声すら出せない。もし今自分が出て行ったら、ゲドに殺されるのではないだろうか?そんな恐怖すら覚えるほどの光景。
いくらリオハートが身を捩り、ゲドを殺そうとしてもそれは空をきり、自身に迫る死を振り払えはしない。
だが、突如ゲドがリオハートの足元に倒れこむ。
視界から消えた迫る死を探すリオハート、その間もゲドはピクリとも動かない。
それを見て少女の思考は激しく回転する。何故ゲドが倒れている?さっきの攻撃?出血?まだ生きているのか?それとももう死んでいるのか?
しかし、このままでは彼には確実な死が待っている。ここまで考えて彼女は我を取り戻す。この状況を打破できるのは自分だけだ、と。
「あああぁぁぁぁぁ!!!!」
その考えに至ると同時に叫びを上げ、高台から飛び降りるルディ。それに気付き振り返るリオハート。
対峙するリオハートとルディ。今、少女一人だけの狩りが始まる。
1対1
リオハートと対峙するルディ。足元にいるゲドを救うには自分に気を引き付けていなくてはならない。しかし彼女の武器は弓、近距離には向かない。残りの道具も睡眠ビンの余りのみ。
リオハートはムサシのせいか、かなり傷ついている。だが、経験の浅い自分に出来るのか?否、やらなくてはならないのだ。
「ぃっけぇ!!」
叫びと共に矢を放つルディ、ダメージはあまりない様だが気を引くには十分だった。
額に矢が刺さったリオハートはルディに突撃を仕掛けてくる。
それを横っ飛びにかわすルディ、手早く弓を構え矢を放つが、やはり大したダメージには至らない様だ。
振り返り、リオハートがブレスを吐き出す。地面を焦がし避けるルディの横を掠めていく。
ルディはまるで生きた心地がしない。今すぐここから逃げ出したかったがそうも行かない。ゲドを置いて行くわけには行かない。
奥歯を噛み締め矢を放ち続けるルディ、
「眠れ!眠れ!!眠れよぉ!!!」
少女の叫びは最早願いに近い。
全てのビンを撃ちつくすもリオハートは眠らなかった。もう手がない。
再びブレスを吐くリオハート、消耗したルディの動きでは避けきれない。爆風に巻き込まれ吹き飛ぶルディ。
(なぜ、逃げなかったの?奴を置いて逃げれば自分は助かったのに。)
不意に少女の頭はそんなことを考える。
「パーティだから。」
少女が呟く。
(所詮他人なのに?)
「確かにそうだけど、もうそうじゃない、だって・・・。」
(だって?)
「好きになったんだからしょうがないじゃない。」
そう呟くと少女は立ち上がる。リオハートがこちらを向こうとしている。それは確実に少女に死をもたらすだろう。
だが少女は弓を構える。逃げはしない、自分の気持ちに気付いたから、だから・・
「まだ、死ねないんだよ!!」
叫び矢を放つ、何度も何度も。
しかし死が迫るのを止められはしない。振り返る動作がひどくゆっくりに見えた。
もう少しでこちらに振り返る、少女に死が訪れる。
その時、丘に角笛の音が響き渡った。
赤猫
角笛の音が発せられる方を振り向くリオハートとルディ、そこには全身真っ赤な猫が大剣を担いでいた。
「ムサシ・・さん。」
そう呟くとルディは地面にへたり込んだ。
「遅れて悪かったニャ。後はお任せニャ。」
そう言って再び角笛を吹くムサシ、こうも挑発されてリオハートが黙っている訳はない。
ムサシ目掛けて突撃をするリオハート。ムサシはそれを避けるでもなく、大剣を振りかぶったまま待ち構える。
リオハートの頭がほんの数メートまで迫ったとき、
「馬鹿だよニャア。」
そう言ってニヤリと笑うと、ムサシは大剣を振り下ろした。
突撃がムサシに届く前に、リオハートの顔半分がグシャリと潰れた。怯むリオハートに何度も、何度も斬りつけ続ける。直ぐにリオハートの顔は原型が解らないほどズタズタになった。
不意に攻撃をやめるムサシ、
「殺してはいけないんだったニャ。」
またしてもニヤリと笑う。
攻撃が止んだ隙に逃げ出そうとするリオハート、足を引きずり逃げる様はとても無様に見えた
その様子を楽しげに眺めるムサシ。
「まぁ、逃がすわけないけどニャ。」
大剣を担いだまま異様な速さで走るムサシ、その勢いのままリオハートの足を横に薙ぐ。
明らかにオカシナ方向に足が曲がったリオハートは、その場に倒れもがいている。
「これで終わりニャ。」
嬉しそうに言うとムサシは落とし穴を仕掛け、リオハートはなすすべなく穴にはまり再びもがいている。
少しだけそれを眺めた後、ムサシは笑いながら捕獲用麻酔玉を投げつけ、依頼を終了させた。
一部始終何もせずにへたり込んだまま見ていたルディ、改めて自分と二人との力の差を思い知った。
「ムサシさん強かったんだ。」
ぼそりと言うルディ。
「今更だニャ、嬢ちゃん。ところで、ゲドはニャんで倒れてるのニャ?」
ムサシの一言でスクッと立ち上がるルディ。
「ムサシさん、ゲドさんが、ゲドさんがぁ・・・。」
目に涙を浮かべながら、事情の説明を始めるルディだった。
事後処理
ゲドがリオハートのサマーソルトをクライ、しばらくして倒れたことをムサシに話すルディ。
「それは毒にやられてるの二ャ。」
と言うムサシ。
リオレイアの尾には無数の棘があり、それには毒が含まれている。そのためサマーソルトを受けたゲドは毒に侵されているのだ。
とムサシが説明する。
「でも私解毒薬なんか持ってないですよ!?」
半ベソのままルディが言う。
「それはニャアが持ってるニャ。」
そう言うとムサシは、ゲドに解毒薬をブチマケタ。
しかし、ゲドは目を覚ます気配は無い。
「・・・やっぱり口から飲まないと駄目みたいニャ。でも気絶してるから口移しで飲ませるしかないニャ。」
ムサシがそう言うとルディの顔が真っ赤になる。
「く、口移しって!!?そ、そんな、心の準備ってものが!!?!」
一人ハイテンションなルディが、妙なことを口走りながらゲドの方を振り向くと・・・。
口付けをする猫(ムサシ)と人間(ゲド)の姿があった。
(口移しって私じゃなくてムサシさんがするんだ・・・ふーん、・・・)
安心したような残念なような顔になるルディ、それを見たムサシがニヤリと笑う。
「どうしたニャ、嬢ちゃん?ニャアは獣人だし、一応♀だから特に問題は無いニャ。それともゲドとチュウしたかったのかニャ?」
新しい玩具を見るような目でムサシが言う。
「s、そ、そんなコ・コ・事はなひですよ!?」
もはや動揺を隠せていないルディ、
「大丈夫ニャ、まだ目ェ覚ましてないし今がチャンスニャ。」
ルディに赤い悪魔が囁き、解毒薬を渡す。
(こ、これは解毒薬を飲ませるだけなんだよ、そうなんだよ。別にキスしたいとかそんナンじゃないんだよ。そうなんだよ。)
自分に言い聞かせるルディ、既にムサシが飲ませた後なのだが・・。
ゲドに真っ赤な顔を向かい合わせるルディ、解毒薬を含むのも忘れ顔を近づけていく。
もう少しで口と口が触れる・・・その時、ゲドが勢い良く起き上がる。
「ンガッ!?」
「レッ!?」
互いに額を強打し気絶する二人。一人残されるムサシ。
「チェッ、つまらないニャ。・・・まぁそこそこ面白かったからいいかニャ。」
舌打ちをしつつムサシは、二人をキャンプに引きずっていった。
帰り道(真夜中)
ガタガタ揺れる帰りの荷車。
月は空高く上り、寝静まった森を照らしている。
そんな真夜中に少女は目を覚ます。
全身から疲労感を感じ、所々痛む所がある。
そして異様に額が痛い・・・何故?
今日の出来事をクラクラする頭で思い出そうするルディ。
リオソウルとリオハートを狩りに森丘に来た。
リオソウルはゲドが難なく捕えるも、油断した隙にリオハートの攻撃を受け、倒れるゲド。
その後は自身が戦っていた。今思えば何故恐怖を払い、あそこまで動けたのかが判らない。
その後追い詰められた所に、ムサシが助けに来てくれて事なきを得た。
その後は・・・・!!!!
瞬間的にルディの顔が真っ赤になる。
なぜ、こうも額が痛いかを思い出したからだ。
バッ、と周りを見渡すルディ、どうやら皆寝ているようだ。
ホッと胸を撫で下ろす。しかし何故あんなことをしようとしたのか?
ムサシに唆されたから?いや違う、彼女はその訳に当に気付いている。
スッとゲドに近づくルディ、起きる気配は無い。
大きく深呼吸をし、息を止め、目を瞑り、顔を近づける。
「いつも有難うございます。」
小さく呟き、キスをする。
「・・・・・プッ・・ニャホホホオホハハハhhhhh!!!」
その瞬間後ろから笑い声が聞こえる。
どう考えてもムサシである。
「ニャハハハhhh!!嬢ちゃんオメデトウ!!ニャカニャカ楽しかったニャ!!!!ほはっははhhh!!」
「な!!起きてたんですか!?ちょ待ってください!!!」
笑いながら言うムサシを懸命に捕まえようとするルディだが、捕まえられそうも無い。
「何騒いでるんだい?朝ごはんの時間かな?」
寝ぼけながらゲドが言う。
「ゲド聞くニャ。さっき嬢ちゃんがお前に・・・。」
「ワアアアァァァッァアア!!!!?」
叫ぶムサシを捕まえられないルディは最後の手段をとる。
「ンゴォッ!!??!?」
ゲドの顔面に回し蹴りがクリーンヒットした。再び眠りに落ちるゲド。
唖然とするムサシ。その隙にルディに頭を鷲掴みにされる。
「フー・フー・・・・・ムサシさん、この事は他言無用で。」
息を整え、微笑みながら言うルディだったが、体勢はいつでも蹴りを打てる構えだった。
「わ、判ったニャ。だからもう寝るのニャ。」
そう言うと即座に寝床へ入るムサシ。
ルディも息を落ち着け寝床へ向かう。
少女にとって、今日は色々と普段は出せない力を出せた一日だった。
集会所にて
手紙
狩りを終え一日後・・・
朝日を浴びつつ少女は、何時もどうり集会所の扉を開ける。
集会所の中には食事を終えたゲドとムサシの姿があった。
いつもより人が少ない気がするが、元からこうだった気もする。
「嬢ちゃん、おはよう。」
「お!オハヨウゴザイマフ。」
ゲドに声をかけられるが、昨日のこともあり恥ずかしくて顔を直視できないルディ。
横ではムサシがニヤニヤしているが、ゲドの様子からまだ何も話してはいない様だ。
「残念だけど嬢ちゃんの食事は無いのニャ。ちょっと材料不足でニャ。」
というムサシ、前回の狩りでは捕獲だったため食材が足りなかったのだろう。
少しホッとするルディ。
「皆さん、手紙ですよ~。」
不意に見知らぬ、ブルーで長髪の女性が声をかけてくる。
誰か解らずに首をかしげるルディ。
「この人はココのオーナーのマキルさんだよ。」
ゲドに言われて、そういえば何時も居たことを思い出すルディ。
(ルディは毎回気絶するので忘れているのだろう)
「そうだ、朝ごはんならマキルさんに作ってもらえば?」
そう言いつつ手紙を受け取るゲド。
それを聞き胸が躍るルディ、ココに来てやっとゲテモノ以外の物を食べれるのではないかと。
しかし、後ろではムサシが微妙な顔をしている。
「お願いしますマキルさん。」
ムサシを無視して言うルディ。
「いいわよ~、ルディちゃん。」
嬉しそうに答えるマキル、ルディは名前で呼ばれたことに感激している様だ。そのまま奥のテーブルへ歩いていく。
「あ~ぁ。いっちゃたニャ。ま、いいニャ。それよりゲド、手紙は誰からニャ?」
ムサシは話題をかえる。
「カインからだよ。内容は街付近で、厄介なモンスターが出たから来るのが遅れるんだってさ。
あと塊は凄い大当たりだったらしいよ。何かは書いてないけど。」
淡々と言うゲドだがカインからの手紙が嬉しいのか、ニヤついている。
「解ったニャ。ジャアニャアは嬢ちゃんを見てくるニャ。」
ニヤつきながら歩いていくムサシ。
まともな料理
「うわぁ~、凄いですねマキルさん!!!」
目の前の色鮮やかな料理に感嘆の声を漏らすルディ。
「ふふっ、召し上がれ。」
微笑みつつマキルが言う。
「頂きます。」
そう言って料理を口に運ぶルディだが、即座に動きが止まる。
料理がマズイとか言うレベルではなく、これは人の作れる限界を超えているのではないか!?
ルディは心の中で叫ぶ。
「マキルは料理は上手だけど、ものすごく独特ニャ味覚の持ち主なのニャ。要するに味音痴なのニャ。」
耳元で言うムサシ。あの時の表情の理由はこれだったようだ。そういわれてみれば料理が色鮮やかすぎる。
「おいしい、ルディちゃん?」
目の前で美しい女性が優しく微笑む。
ルディは思った。今マズイと言えば彼女の心は激しく傷つくだろう。
味音痴なため根本からの否定にも繋がりかねない。
何より、自分を名前で呼んでくれる彼女を、傷つけるなんてルディには出来なかった。
「お、おぃひぃデふ。」
舌をヒリヒリさせ、冷や汗をダラダラ流しながらルディが言う。
「そう、嬉しいわ~。沢山食べてね♪。」
微笑みつつ言うマキル。
この微笑がルディには、自分に悪戯をして喜ぶムサシと同じに見えた。
集会所
衣装換え
食事の結果
科学薬品の様な味だった。
スタミナ、体力共に下がりました。
攻撃力、守備力が上昇しました。
「ご、ゴチソウサマデヒタ。」
何とか食事を食べきったルディは、痺れる体を引きずりつつ、微笑むマキルの元からゲド達のテーブルへ帰って行った。
「お帰り、おいしかっただろ、嬢ちゃん?」
能天気にゲドが言う。
「ゲドは普通の料理は、味の違いが解らんのニャ。肉主体だし。」
耳元で言うムサシ。
そんな二人をよそに、ぐったりと椅子に座るルディ、
「あれ?ゲドさん、もう装備できたんでフか?」
今更になってゲドの装備が先ほどと違い、全身蒼色になっていることに気付く。
「そうだよ。口の部分だけは特注で開いてる造りにしてもらったけどね。」
満足げに横にある頭装備を指差しながら言う。
本来、リオソウルの頭装備はフルフェイスなのだが、それでは食事が出来ないので造りを変えてもらったそうだ。
「嬢ちゃんのも出来てると思うよ。
- 後、関係ないんだけど昨日の晩の記憶がないんだけど、二人は何故か知ってる?」
ゲドがそう言った途端にルディは赤面し動きが止まる。
その隙にムサシがゲドに耳打ちをしようとする、が、
「ムゥーサーァシィー!!!」
普段出さない様な大声をあげて、ルディが上段蹴りを繰り出すが、耳元に居たムサシがそれをかわす。
「ヌゴォッ!!!??」
必然的にゲドの側頭部に蹴りが入る。
テーブルに崩れ落ちるゲド。
「あ~あ~、やっちゃたニャ、当分起きないニャこれは・・・。この間に装備を取りに行って来るといいニャ。」
笑いながらムサシが言う。
「絶対に言っちゃ駄目ですよ、ムサシさん!?」
心を落ち着けつつルディが言う。
「それは無いニャ。嬢ちゃんが居ないときに言ってもつまらニャイからニャ。」
笑うムサシに対して、何処までも性悪な猫だと思いつつルディは集会所を後にした。
衣装換え2
ルディが集会所を出てしばらくしてゲドが目を覚ました。
「おはようムサシ、朝ご飯は?」
蹴りの影響で記憶が飛んでいるようだ。
「さっき食べたニャ。どうしてもお腹が空いたニャらマキルさんのとこに行けばいいニャ。」
そうマキルの方を示して言う。
「ん~、言われてみればソコソコお腹もフクレテル様な気がするかな?」
お腹をさすりながらゲドが言う。
そんな時、集会所のドアが勢いよく開く。
「いま戻りました~♪」
装備の交換を終えたルディが帰って来た様だ。
新しい装備が気に入ったのか妙にご機嫌である。
リオハートの装備はシルバーと白を元に、所々にピンクの外装が着いている。
その装備は何とも言えず・・・・
「エロぃニャ。」
ニヤつきながらムサシが言う。
「ちょ、エロぃって何ですかムサシさん!?だいたい貴女メスでしょう?そんなこと無いですよね、ゲドさん、マキルさん?」
顔を真っ赤にしながらルディが二人に意見を求める。
「とっても可愛いと思うわよ~?ただハンターの装備にしてはエロぃわね。」
微笑みながらマキルが言う。
「ちょっと、マキルさん!??貴女も女ですよね!?ゲドさん何か言ってくださいよ~。」
マキルにまで裏切られ半泣きになるルディ。顔はますます真っ赤である。
「やっぱり俺もエロぃと思・ん?・・はh・・」
「エロくなんかないです!!!」
ゲドが言い終わる前に、本日二度目のキックが炸裂する。
「・・者・・グボぉ!!!??!」
リオレイアのサマーソルト並の蹴りがゲドの顔面を直撃する。またしても気を失うゲド。
「カラカッタ時の嬢ちゃんは面白いニャ。」
「そうね~。ムサシちゃん」
その光景を見つつ二人が微笑んでいた。
衣装換え3
「フゥー・フゥー・・・ムサシさん、ハァー・・ソロソロ本気で怒りますよ?」
息を整え、微笑みつつ言うルディだが、顔は明らかに引きつっている。
「・・プ・・既に本気な気がするニャ。」
笑いながらムサシが言う。
「まぁ~、怒ったりしたら可愛いお顔が台無しよ?そういう時は食事にしましょう?」
そう言ってルディの手を掴むマキル。
「イや、サッキのでお腹一杯ですしもう食べれ無いと言いますか、その・・・ムサシさん助けて~!!」
抵抗空しくテーブルへ連れて行かれるルディ。また”あの食事”が待っている。
「ぅ・・・・うぅうん?」
目を覚ますゲド。
「アレ、今度は起きるの早いニャ?」
笑いながら言うムサシ。
「嬢ちゃんの格好を見たときに、何か大切なことを思い出した様な気がしたんだけど・・・。今の蹴りのせいで思い出せないな?」
首を傾げながら考えるゲド。
そこへ勢い良く、集会所の扉を開けて誰かが入ってきた。
緊急クエスト
開くドアと駆け込んでくる足音に、ゲドの虚ろな記憶は掻き消された。
「ハァ・・ハァ・・・外道は・・居るか?話が・・あるん・・っ!!?」
駆け込んできた男が言葉の途中で倒れこむが、マキルが抱きかかえる。
「奥で話しましょう。ゲドくん付いてきて。」
そう言うとマキルは軽々と男を運んで行った。
奥のテーブルではルディが気絶していた。(マキルの料理を食べ過ぎたのだろう。)
「そう言えば他の二人はどうしたの?一緒にクエストに行った筈じゃ・・・・。」
マキルが問う。
どうやらこの男は、何時も三人組でこの集会所にいるハンターの内の一人の様だ。
「・・・クエストは失敗、奴らは死んだ。」
俯きながら男が言う。
「死んだって・・・そんな・・。私がこんな依頼回したから・・。」
集会所のオーナーであるマキルは責任を感じている様だ。
「マキルさんが気に病む必要はありませんよ、そういう仕事なんですから・・・。青年よ、もっと詳しく説明してくれるかな?」
冷酷に言うゲド、男は詳しい説明をする。
ゲドたちがリオソウルの狩りに出掛けた直ぐ後にクエストの発注があったそうだ。
内容は新種のモンスターの討伐。
異様な報酬の高さに三人は跳び付いたそうだ。
ゲド達程ではないが、腕利きのハンターだった彼らはそのクエストを直ぐに受けた。
未知の相手に対する準備も万全、抜かりはない・・・・はずだった。
途中まで追い詰めた彼らだったが、敵の一つの行動で形成は逆転。
遠距離で支援をしていた彼以外はあっという間に死んでしまった。
そして命カラガラ逃げ帰って来たそうだ。
「ふーん、で俺にどうしろと、青年?」
説明を聞き終わったゲドが淡々と聞く。
「・・・俺は・・・仲間を見捨てて逃げた自分が許せないんだ。」
俯きながら男が言う。
「それは当然の行動だろう?勝てない相手からは逃げる、当たり前だと思うよ?」
それでも淡々とゲドが言う。
その時、男が机を叩いて立ち上がった。
「仲間を見捨てて逃げ出した俺は、死んだ仲間からも逃げ続けないといけないんだよ!!そんなのは・・もう逃げるのは御免なんだよ!!だから外道の餓鬼、俺の復讐に協力しろ!!!」
一際大きな声が集会所に響き渡った。
男が大声をだしても、ゲドは動じる事無く冷たい視線で男を見ていた。
「それで俺に何の得があるのかな?だいたい仲間を見捨てて逃げる様な奴に背中を預けろって言うのかい?」
冷たくゲドが言う。
「・・・あんたに頼むしかないんだよ。俺の仲間はあいつ等二人だけだったし、こんな寂れた村にあの化け物を倒せる奴なんかあんたしかいないんだよ。頼む、頼むから・・・・・。」
硬く拳を握りしめたまま男は言う。
「私からもお願いするわ、ゲドくん。このクエストを回した私にも責任があるんだし・・・。」
そういってマキルが頭を下げる。
「・・・まぁいいよ、そのクエストうけても。マキルさんに頼まれたら断れないしね。それに新種のモンスターにも興味があるからね。」
そう言ってゲドはニヤリと笑う。
「本当か外道の!?」
男が驚いたように言う。
「あぁ、それと呼ぶときはゲドで良い。あと青年は来なくてもいいよ。どうせ逃げるんなら始めから居なくて良いし、来ても来なくてもそのモンスターは俺が殺すからね。」
見下すようにゲドが言う。
「今度は絶対に逃げない。・・・俺が、俺が行かなきゃ意味がないんだよ。」
男が言う。
「ふぅーん、まぁ逃げるかどうかは行けば解るよ。それより青年ターゲットの名前は?」
男には無関心そうにゲドが言う。既に彼の頭は新種のことで一杯なのだろう。
「奴の名は轟竜ティガレックスだ。・・・後、俺な名前はクロゥ・ディールだ。」
男、クロゥが答える。
「判った、青年の復讐に協力してあげるよ。ティガレックスか・・・どんな味がするのかな?」
笑いながらゲドが言う。もう彼の目にクロゥは映っていないかのように。
グラグラとした揺れで少女は目を覚ます。しかし今回は荷車の中ではなく集会所のテーブルの上だった。
「オハヨウ嬢ちゃん。」
ルディの目の前でゲドが言う。
「お、おはようござます!」
驚きながらルディが返事をする。
「起き抜けで悪いんだけど、今回のクエストの説明をするよ。」
と言って、ゲドが説明を開始する。
今回の敵について。
既に死人が出ていること。
その復讐に協力すること。
全て説明した後ゲドが付足す。
「今回は嬢ちゃんは、来なくてもいいんだよ?むしろ来て欲しくないんだよ。」
「な、何でですか!?」
ゲドの言葉に驚きを隠せないルディ。
「今まで、俺は一応嬢ちゃんを守れる位の相手を選んできているんだよ。だけど今回は情報が皆無に等しいんだよ。今回は守りきれるかどうか解らないし、嬢ちゃんは案外無理をするみたいだから連れて行きたくないんだよ。」
「それは私が足手まといってことですか?」
ゲドの言葉に反発するルディ。
「単に嬢ちゃんに死んで欲しくないからだよ。」
ゲドが制するように言う。
「ぅ・・・それでもゲドさんは行くんでしょ?」
「そりゃ俺は依頼を受けたからね。」
「じゃあ私も行きます。」
ルディの言葉に唖然とするゲド。
「嬢ちゃんは俺の話を聞いてなかったのかな?」
「聞いてました。だから行くんです。私達はパーティですよね?だったら私はゲドさんに付いて行きます、絶対に。」
強く、決して揺るがない、そんな表情でルディが言う。
「・・・・そこまで言うんなら仕方ないね。でも危なくなったら逃げるんだよ?死んだら駄目だからね。」
諦めた様にゲドが言う。
「判ってますよ。そ、それに、私だってゲドさんに死なれたら嫌なんですからね!」
顔を赤くしつつルディが言う。
「?俺は簡単には死なないから心配いらないよ。」
ゲドが笑いながら答える。
「嬢ちゃん、ゲドに告白するんだったら直球で勝負するしかニャいニャ。」
耳元でムサシが笑いながら囁く。
「そ、そんなんじゃないです!!」
そう言い返すルディだが、顔が真っ赤なので説得力が一切ない。
一部始終を見ていたクロゥは、今更になって大丈夫かと心配になっていた。
最終更新:2013年02月21日 22:35