沼地のキラキラ
黄色い天井
冷たい風とやや湿った空気がドロッとした意識を覚醒させる。
付けたままのお面の向こう側に見慣れない黄色い天井見える。…ここは何処か?
考えても解らないので、とりあえず上体を起こしグッと背伸びをする。
『やっと起きたのニャ?』
するとキンコがマミーの眼前に現れた。ただしその格好は何時もと全然違っていた。
「おはようキンコ…仮装の趣味でもあったのか?」
緑の防具と肉球の付いた棒を装備したキンコを見てマミーが問う。
『他に聴くべき事があると思うニャが‥まぁ答えてやるニャ。ニャアとギンコは
オトモアイルーなのニャ。』
「オトモアイルー?」
マミーがキンコの言葉をオウム返しにする。
オトモアイルー
体格等にハンデがある獣人族達がハンターになるのをサポートするシステムである。
簡単に言うとギルドが、ハンターを目指す獣人族の育成を一般のハンターに依頼する事である。
尚オトモアイルー達には専用の装備が支給される。
「‥つまりキンコが狩りの手伝いをしてくれるって事か?」
『だいたいそうニャ。まぁ余り役にはたてんから期待はせん事ニャ。』
そう言いながらイソイソと支度を整えるキンコ。そんなキンコを見て、マミーはあることを思い出した。
「そう言えば他の奴らは?‥と言うか此処は何処だ?」
マミーが物凄く今更な事を聞く。キンコはそれを聞いて大きく溜め息を付き、ヤレヤレとポーズを取った。
『どう考えても質問の順序が違うニャ。あんた頭のネジ緩んでるのニャ?』
抜けた質問をするマミーにキンコが毒づく。まぁマミーの頭のネジは有る意味緩んでいると言えるが…
「そんな言い方は無くないか?」
『では今回のお仕事を説明するニャ。』
キンコの言葉に少しカチンとしたマミーだったが、あっさりと無視された。
ギンコは良いがコイツは苦手だ
とマミーは思った。
『では早速コイツを装備するニャ。』
そう言いながらキンコは大きめの包みを取り出した。
説明タイム
包みの中には二本のチェーンソーの様な物が入っていた。
「コレは…何だ?」
『金属を切断する道具を武器に応用した物ニャ。』
「…俺は太刀しか使えないんだけど‥」
『今回の仕事に付いては今から説明するニャ。』
そう言いながらキンコが説明をし出した。
今回の仕事は素材、主に鉱石の採取と行商サンの護衛。
「あの人付いて来てるのか?」
『鉱石の採掘場所を教える代わりに彼女の採取を手伝うと言う条件なのニャ。』
その言葉を聞いて辺りを見回すマミー。
「此処には俺とお前しか居ないけど?」
『それは今から説明するニャ。』
今回の仕事はただの採取なので密猟ではなく、正規の手続きを踏んで沼地に来ている。
大量に鉱石を入手したい為キンコ、ギンコ、サンを含む計6名で沼地に行きたい訳だが、ギルド指定のチームの上限は4名で2名余る。
なので2人ずつのペアに分け、別々に沼地へ入った後合流する。
『と言う訳ニャ。因みにあんたとビィズのギルド登録は勝手にしておいたニャ。』
キンコが長い説明を終える。それを聞いたマミーは少し考えた。
「‥因みにどんなペア分けなんだ?」
『ランダ・サン。ビィズ・ギンコ。そしてニャアとあんたニャ。』
それを聞いてマミーは再び考えた。
ハンター(一応)であるランダ、ビィズ、マミーを3つに分け、それを中心に残り三名を割り振っている。
サン;行商人なので戦力的には期待出来ないが、今回の仕事は狩りではないので問題無し。少し扱い辛い。が女性で案外可愛い。
ギンコ;オトモアイルー兼工房の使用猫。実力は不明だが今回は問題無し。とても気が利いて物腰柔らか。良い猫。
キンコ;ギンコと同じくオトモアイルー。実力は不明。性格は…現在の所良いイメージ無し、寧ろ小憎たらしい。悪猫。
其処まで考えてマミーは思った。
(俺…ハズレクジじゃないか?)
『集合場所は決まってるからさっさと行くニャよ。』
考え込むマミーの背中をキンコが小突く。
「お、おう。」
マミーは愛想ゼロのキンコを見て、やや不安になりながらキャンプをあとにした。
作業開始
沼地には主にゲネポスやイーオス、ランゴスタと言った小型の
モンスターが生息している。どのモンスターも群で活動するため囲まれると非常に厄介であり、出来る限り遭遇したくない相手だ。
しかし、今回のマミー達は運が良かっらしく、そう言ったモンスターに遭遇する事無く合流地点である洞窟の入り口に辿り着いた。
『遅いよマミー。』
合流地点には既に他の面々の姿が有った。無論場違いなリュックを背負ったサンの姿も‥
『では案内します!!』
意気揚々と先頭を歩くサン。それを見てランダが有ることに気付く。
『待って、サン。』
『何で‥アタッ!?』
デカいリュックのせいで洞窟の入り口に詰まるサン。
『‥気を付けろ、と言おうとした。』
そんな事を言っても後の祭りである。
『た、助けて~』
その後数分掛けてサンを洞窟内に押し込んだ。
そして洞窟内部…
一日中日が射さない上、洞窟内部は非常に寒く薄暗い。なので体温を維持するホットドリンクを忘れると凍える羽目になる。
そんな洞窟の中、ホットドリンクを飲んで作業をする面々…
役割分担はマミー、ビィズが鉱石を採掘し、キンコ、ギンコがそれを運ぶ。因みにランダはサンの護衛。即ちサボりである。
『役割分担がオカシイよね?』
ブツブツと文句を言いながら壁に自分の三倍程ある
ランスを突き付けるビィズ。
「同意だ。…でも何でランスを壁に?」
壁から突き出ている鉱石を切り落としながらマミーが問う。
『こうする為さ!!』
ビィズがグッと足を踏み込むとランスの先端が回転を始め、洞窟の壁を砕きだした。
「おぉ!!格好いい!!」
『だよね。』
回転するランスにテンションが上がる2人を横目に反対側の壁にもたれるランダとサン。
『ホットドリンクを忘れるとは…予想外。』
隣でカタカタ震えるサンを見てランダがクスリと笑う。
『笑わないで下さい!』
言い返すサンだが体の震えは止まらない。
『スマナイ…最近の沼地での飛竜の出現は?』
ふとランダが話題を変える。
『ありません。噂だとこの前のフルフルの値上がりの影響で沼地に大量の密猟が行われたらしいです。』
『大量の密猟?』
『はい。なので此処を巣にしていたフルフルは徹底的に狩られ、今この沼地に竜は居ないんだそうです。』
そんなサンの話を聞いて沼地に殆どモンスターが居なかった事に納得するランダ。大方密猟者が纏めて駆除したのだろ。
「おっ!?」
そんな時、壁の割れ目で何かが光った。
ヌメリ
壁の割れ目でヌメリと光る白い物体‥
「‥ヌメリ?」
マミーが割れ目を覗き込んだ瞬間、白い何かがマミー目掛け飛び出した。
「ぬが●※◇§∴∞!!?」
物体の強襲を受け、意味不明な言葉を発し倒れるマミー。
【フルフルベビーが噛み付いた。】
『フルフルベビーだね。』
それを見てビィズが言う
フルフルベビー;簡潔に言うと飛竜フルフルの赤ん坊。ひび割れ等の隙間に潜み、刺激を与えると噛み付いてくる。
真っ白でヌメヌメでのっぺら坊で酷く不気味。
フルフルベビーから地味な攻撃を受けながらマミーは考えていた。‥フルフルってまさか…
『マミーの顔に付いてるのがそれだよ。』
ビィズがニヤニヤしながら言う。
だから心を読むな‥って
「エェェェッ?!」
自分の体にへばり付く不気味な物体がフルフルと知って、精神的に激しくダメージを受けるマミー。
『まぁまぁ気を落とさずに‥』
優しくマミーの肩を叩くビィズだが、その顔は必死に笑いを堪えていた。
そんな時、割れ目の中で再び何かが光った。
『さがれ!!』
それを見たランダが叫び、マミー達が瞬時に飛び退いた。次の瞬間、割れ目から再び小さなフルフルが飛び出した。
「‥あれもフルフルベビーか?」
マミーが目の前のフルフルベビーに違和感を訴える。確かに目の前のフルフルはベビーにしては大きく、ランポス程のサイズが有った。
『‥と言うか、増えてるよね?』
ビィズが目の前を見て言う。気付けば微妙なサイズのフルフルは3匹に増えており、4匹目が割れ目から出て来る最中だった。
『ランダさん、コレはヤバいんじゃ‥』
サンが恐る恐るランダの方を見たとき、彼は既にボウガンを構えていた。『どいて。』
ランダは言うのと殆ど同時に引き金を引いていた。
図太い銃口から無数の細かい弾丸が連射される。無論、放たれた散弾は敵味方問わず炸裂する。
『「ヌワァァァア!!?」』
『「ウニャァァァア?!!」』
フルフル達の悲鳴に混じって人と猫の悲鳴も木霊した。
「何するんだ!!」
予想外の出来事に怒鳴るマミー。だが‥
『早くどいた方が良い。』
ランダは一切聞く耳を持たず、次の弾をリロードしていた。
マミー達はそれを見て一目散にランダの背後の洞窟の出口目掛け駆け出した。
そんなマミー達を追ってくるフルフルの群れをランダが撃ちまくる。が、フルフルの数が多すぎる。
『‥弾の無駄。』
ランダは散弾を撃ちながら通路までさがると爆弾を使って通路の入口を爆破した。
逃走中
通路を塞いだ物のここは未だに洞窟の中、奴らから逃れられた訳ではない。しかも出口に近い側の道を塞いだ為、表にでるには遠回りする必要がある。
狭く暗い洞窟の中、ランダは先程のフルフル‥今はフルフルジュニアとしよう‥に付いて考えていた。
何故あの状態の個体が多数存在するのか?そもそもあれはバグに類するのか?
後者に付いてはNOだろう。ジュニアは外見的には大きさ以外は大体正常な物と一緒だ。バグではない。
前者に付いてはサンが言っていた乱獲のせいだろう。急激に減った個体数を維持する為に大量のベビーが生まれたのだろう。
そして彼らを襲う筈の捕食者はちょうど駆除された後だ。成長するには最適な環境だっただろう。
そして今の沼地に殆ど生物が居ないのは捕食者、つまりベビーからジュニアになった彼らのせいだろう。つまり獲物を食い尽くした奴らは今非常に餓えていると考えられる。
これらの事から結論付けると今回の仕事は、狩っても何の特にもならないジュニアら相手に大量の無駄弾を使用しなければならない無駄骨と言う訳だ‥なんて面倒な。
更に今現在、我々はかなりの荷物を抱えている。
『ランダさん‥奴らは…一体?』
隣を歩くサンの顔色は確実に悪くなってきている。本来ハンターではなく、更にホットドリンクを忘れた彼女の体力が尽きるのは時間の問題だ。
『判らない。兎に角今はキャンプに戻るべ‥』
彼は其処で話すのを止めた。もう直ぐ広い空間にでるからだ。
ランダは静かに空間の様子を見て小さく舌打ちをした。
洞窟の空間には先回りされたのか、はたまた騒ぎを聞きつけて新しく湧いたのか判らないがかなりのジュニアが居た。
パッと見で20~30はいる。手持ちの弾はlevel3散弾の残りが48発とlevel2拡散弾が1発、そして蚊程の威力しかないlevel1通常弾のみ。
これでは到底奴らを蹴散らす事など出来ない。
しかしそんな事を考えている内にサンは目に見えて衰弱していく。
‥ここは決断しなくてはならない。
ランダは小さく息を吐いた後、マミー達の方へ振り向いた。
作戦立て
今のこの洞窟から無事逃げ出す方法‥それは囮を使う事だ。暗闇に住むフルフルには目が無く、専ら優れた嗅覚で獲物の場所を察知している。
なので囮を使えばこの洞窟から脱出する事は可能だ。問題は誰を囮にするか‥
まずランダはキンコ達を見た。
身軽さから猫達が適任だが、彼らだけでは力量が足りない。
次にマミーとビィズだが‥
今回は採掘目的で来たので彼らは本来は使用しない武器で来ている。そんな彼らに囮を頼むのは少々酷な話だ。
よって消去法でいくと猫達+1人狩り用の装備で来ているランダ自身が適任となる。
‥大丈夫、他の2人より旨くやれる自信はあるし、今までもだいたい1人で狩りをしてきた。今回も今までと一緒、何ら問題は無い。
ランダは自分にそう言い聞かせるとゆっくりと口を開く。
『ここから逃げる為に囮を使う。』
『じゃあ僕とマミーが囮を引き受けるよ。』
『「えっ!?」』
決意を固めた直後の予想外の発言に約二名が驚きの声を上げる。
「俺もなのか、ビィズ?」
『マミー、こう言う役を世間じゃ見せ場っていうんだよ。それに女性の前でくらい良い格好をしないとね。』
ニヤニヤと笑いながらビィズが答える。
「後半は言うべきじゃないだろ。…まぁ、こんな時くらい役に立たないとな。」
ランダに聞く事無く勝手に囮をやる事にした2人。
『危ないけど…良いの?』
「まぁ大丈夫でしょ。それにランダさんがサンさんに付いてた方が良いと思うしな。」
マミーが諦めた様に答える。
ランダは考える。
…まぁ囮と言っても短い間だけだ。危険はあまりないだろう。あれば逃げれば良いし。
…それに給料分は働いて貰わないとね。
少しポジティブに考えた結果ランダは囮役を決定した。
『では‥囮を頼む。』
「じゃあ早速突っ込めば良いのか?」
言いながら武器を構えるマミーをランダが止める。
『待って、何事にも計画が必要。』
そう言うとランダは簡単な作戦を説明しだした。
突貫
数分後‥
『準備は‥良い?』
サンを背負ったランダがリロードをしながら一同に問う。
『もちろん。』
「いつでもどうぞ。」
『「ニャ。」』
皆が面々に答える。
「す‥すいません元はと言えば…私のせいで…」
サンが消えてしまいそうな声で言う。
『気にしないで、男性の背中は女性を背負うために広く出来ている。』
ランダが少し格好付けた台詞を言うが、彼の体格は女性と大して変わらない様に見える。
『さぁマミー、見せ場だよ。』
嫌に楽しそうに武器を構えるビィズ。
「まぁ時間稼ぎくらいは出来ないとな。」
それとは対照的にテンション低めのマミー。
『じゃあ‥行って。』
『うにゃ!!』
ランダの合図と共に爆弾を担いだキンコとギンコがジュニアの群れに突っ込んだ。
ドッグォン!!
自分諸共ジュニアを吹き飛ばし、爆音と共に群れの真ん中に細い道を作る猫達。
『上出来。』
その細い道にランダが拡散弾をぶち込んだ。
炸裂した複数の赤が洞窟内に幾多の悲鳴を響かせた。
「せい!!」
そして大きく広がった空間にマミーがコヤシ玉を投げ込んだ。
索敵を嗅覚に依存するフルフルに対して激臭を放つコヤシ玉の効果は絶大である。
あちこちで混乱したジュニア達がノタ打ち、暴れまわっている。
『じゃあ‥後は宜しく。』
そう言ってランダは駆け出した。時折道を塞ぐジュニアに対して散弾を撃ちながら、一気に出口まで駆け抜ける。
が、激臭に慣れたのか一匹のジュニアが出口に辿り着いたランダ目掛けて飛びかかった。
『死に‥さらせやぁ!!』
瞬間、怒号と共に巨大かつ無骨な鉄針が凄まじい回転と共にジュニアごと出口の天井を貫いた。
結果、ランダ達が脱出した出口を完璧に塞いだ。
更に大声を出したせいで殆どのジュニアの怒りの矛先がマミー達に向いている。
『コレで奴らは袋のネズミって奴だな!!』
「数的にはコッチがネズミだと思うぞ?」
自慢気に言うビィズにマミーが突っ込む。
『そんな後ろ向きな発言は良いから早く片方よこせ!!』
「はいはい。」
急かすビィズにマミーがチェーンソーの一方を渡した。
ギュィン‥ギュィィィイン!!
そして洞窟内にケタタマシい音が響き渡る。
『シャァッ!!皆殺しだ!!』
「オウ!!」
洞窟の暗闇に二振りの鋸が煌めいた。
青い群れ
鎖に取り付けられた鋸の刃が凄まじい唸り声を上げ回り出す。
その騒音に釣られてか一匹のジュニアがマミーに飛びかかった。
「ッの野郎!!」
振り抜かれた鋸が青白い閃光と共にジュニアの方翼を切り裂いた。
が、切り裂いたはずのジュニアは血の混じった涎を垂らしながら尚も迫ってくる。
「なぁっ!?」
真っ赤に染まった不気味な口がマミーに襲い掛かっる。
『ザッッケンナッコラァッ!!』
寸での所でビィズがジュニアを叩き落とした。
…先ほどの一撃を見て解るがマミー達の鋸は雷を放つ事が出来る。
だが、フルフル達は体内で雷を作り出す事が出来、その威力はマミー達のそれとは桁違いである。つまり余り効果が無いのだ。
「コレは…かなり不味いんじゃないか?」
マミーが鋸とジュニア達を交互に見比べながら言う。
『マミー、弱音を吐いて良いのは綺麗な女性だけなんだ‥よ!!』
言いながらビィズが先ほどのジュニアを斬り飛ばした。
瞬間、他のジュニア達が倒れたジュニアに集りだした。
肉を引き千切る音と金切り声の断末魔が洞窟に木霊した。
無数のジュニアが集っていてその様子は見えないが、何が起こっているのかは容易に想像が付く。…共食いだ。
「どんだけ腹減らしてんだアイツ等…?」
シューッ
奇妙な音を聞きマミーが話すのを止め、隣を見ると其処には大樽爆弾を掲げたキンコとギンコがいた。そしてその隣には何やら愉しげなビィズの姿が有った。
『やっちまいな。』
『「うにゃ!!」』
ビィズの号令で猫達が食事中のジュニア達に突っ込んだ刹那、暗い洞窟に爆音が轟いた。
派手に吹き飛ぶジュニア達+猫二匹。
「…酷いことするな。」
『細かい事は気にすんな。』
笑いながらビィズが言う。
食事を邪魔され怒り心頭のジュニア達が、体中に青白い雷を纏ながらにじり寄ってくる。
「絶対絶命ってやつだな。」
マミーが顔をひきつらせながら言う。
『マミー、お前は記憶喪失の癖にくだらん事ばかり覚えてな!?』
ややイラッとしながらビィズが返す。
「でも‥どうするんだ、コレ?」
青白い群れを指差すマミーをビィズが鼻で笑う。
『俺に良い案があるから耳かしな。』
ビィズがそう言ってニヤリと笑った。
秘策
バチバチと言う音が反響する洞窟でビィズがマミーに手短に作戦を耳打ちする。
「・・上手く行きそうだけど・・あまり気乗りしない作戦だな。」
『気に喰わないのなら奴らの昼飯にでもなるんだな。』
作戦内容に文句を言うマミーをビィズが睨む。睨まれたマミーは
しぶしぶ頷いた。
『シャッ!!死にたくなきゃさっさとやるぞ!!』
「やりゃいいんだろ!!」
やや投槍になりつつマミーとビィズが鞄に手を突っ込んだ。そして鈍く輝くナイフを抜き出し、迫る雷に向けブン投げた。
スッパッとジュニアの肉が裂けるのと共に赤い飛沫が僅かに飛び散った。そしてジュニアの体が僅かに硬直した。
『痺れ投げナイフの味は気に入ったかコラ!!』
ビィズが叫びながら痺れて動けないジュニアを群れ目掛け斬り飛ばした。
ド派手に血飛沫を散らし宙を舞うジュニアは群れの真ん中に突っ込んだ。そのせいでジュニア達の群れがざわつき出した。
『一気に行くぞマミー!!』
「ヤケクソだ!!」
そして2人はナイフを投げ、ジュニア達を蹴散らしながら一気に塞がった出口目掛け駆け抜ける。
その頃には洞窟中に血の臭いが充満しており、その臭いに酔ったジュニア達が見境無しに暴れ初めていた。
狂乱
それでも数匹のジュニア達は尚もマミー達を追いかけてくる。
「しつこい・・な!!」
マミーが追ってくるジュニア目掛け投擲した。
瞬間青白い稲妻が走ったのを見てマミーはある事に気が付いた。
「あ・・鋸投げちゃった。」
馬鹿みたいに呟くマミー。因みにナイフの残量はゼロ、つまり今の武器をブン投げたマミーは丸腰である。
それに気付いた様に二匹のジュニアが雷を纏ったままマミーに飛び掛る。
『潰れとけや!!』
瞬間、ビィズの持つ馬鹿でかい盾がジュニア二匹を叩き潰した。が、飛び散る肉片に他のジュニア達が集まって来た。
『コレでも喰ってろや!!』
ビィズが先程作った粗挽き肉をジュニア目掛け蹴り飛ばした。そして瞬く間にそれに集るジュニア達。
「酷い光景だな・・。」
マミー目の前に広がる惨状を見て口を押さえる。
『だが、もう直ぐおさらばだ。』
そんなマミーの隣で先程ブン投げたランス兼削岩機を引き抜こうとするビィズ。
『後はこいつで此処から逃げ出せ・バッ!!?』
瞬間、青白い雷光が地面を駆けビィズの体を貫いた。そしてビィズの眼球がグリンと回り、彼は崩れ落ちた。
「なんだ!?」
マミーが振り返ると血塗れのジュニアが一匹ニヤリと微笑んでいた。が、余所見をしていたせいか、そのジュニアの顔はは複数の別のジュニアに食い千切られた。
「イカれてるな・・。」
そんなイカレタ空間にマミーは一人取り残された。
逃げる
洞窟の中のジュニア達の数はかなり減っているが、それでも10近いジュニアが共食いをしている。
そしてその攻撃の矛先が何時、丸腰のマミー達に向くかも判らない。
気を失っているビィズを揺すって見るが一向に目覚める気配は無い。彼の鞄を漁って見るが、既に鉱石しか残っていなかった。
「キンコ、ギンコ、どうする?」
洞窟の暗闇に問い掛けてみるが彼らからの返事は無い。
(…まさか既にやられたのか?…いや悲鳴とかは一切聞こえなかったし…となると、逃げたのか?)
マミーの脳内がグルグルと回転しだすが、答えが出るはずもない。その時
キャァァァア
甲高い叫びと共に一匹のジュニアが飛びかかって来た。
「クソっ!?」
マミーは咄嗟に剥ぎ取り用のナイフでジュニアの胴体を突き刺した。
再び響く甲高い悲鳴、だがそれはジュニアの断末魔では無かった。
ジュニアはナイフが体に刺さったままで尚その口を開き、喰らい付いてくる。
「どんだけ腹減らしてるんだよ!?」
マミーは喰らい付いてくるジュニアの喉を掴んで止める。不気味に柔らかい感触が篭手越しに伝わってくる。
バチチッ…
刹那、不気味な音と共にジュニアの口元が青白く煌めいた。喉を掴んでいる右腕が僅かに痺れる。
「コレはヤバ…」
ズガァッ
突如彼の背後が爆音と共に弾け飛んだ。
『お迎えなのニャ!』
『早く逃げますニャよ!』
塞がっていた通路を反対側から爆破したらしいキンコとギンコが現れた。が…
『クッ‥なにやってるのニャ?』
瓦礫に面白いポーズで埋もれるマミーとビィズを見て、キンコが笑いを堪えながら言う。
「お‥お前らのせいだよ!!」
瓦礫を蹴飛ばしながらマミーが怒鳴る。が‥それがマズかった。
洞窟に残っているジュニアが一斉に此方を振り向いた。
「に、逃げるぞ!!?」
マミーがビィズを担ぎながら言った時、既にキンコの姿は無かった。
「あんのクソ猫!!!!」
『良いから早くしてくださいニャ!!』
マジでか
5匹‥いや6匹のジュニアが狭い通路を白い津波の様に迫ってくる。
奴らは完全に狙いを此方に絞ったようだ。‥ジュニア達より猫や人の方が美味そうだしな。
逃げるマミー達にグングン迫ってくるジュニア達。この洞窟はジュニア達にとっては庭の様な物だ。それに引き換えマミーは荷物持ちだ。
このままでは確実に出口に着く前に追いつかれてしまう。
「どうしよう!?」
『お任せですニャ!!』
情けないマミーに変わってギンコが180反転して駆け出した。
彼の手には棒切れに牙を括り付けたお粗末な武器が握られていた。
『ニャッらぁぁあ!!!』
白い牙が先頭のジュニアを一閃する瞬間、白い煙りが吹き出した。
『属性攻撃【睡眠】‥ですニャ。』
ギンコが言うと共に壁を這っていたジュニアがポトリと落ちた。
「おぉ!!‥ん?」
喜びもつかの間、バチバチと言う怪音と共に、洞窟にボンヤリと青白い光が灯る。
「跳べ!!」
マミー達が跳ねた瞬間、狭い通路を雷電が駆け抜けた。
『ヴニ゙ャ!!?』
するとギンコではない、悲鳴が響いた。
『に‥ぶっ飛ばしてやるニャ!!』
イラついた叫び声と共に前方から大樽爆弾を掲げたキンコがジュニア目掛け突っ込んで行く。
掲げた爆弾、突っ込むスピード、一言で現すならそれは猫弾丸!!
「あ‥」
『ニャ?』
が次の瞬間、猫弾丸は天井のジュニアに易々と飲み込まれた。
ジュニアの口からはみ出した下半身がジタバタともがき、動かなくなった‥瞬間。
ドガッ
ビャァァァァ!!
断末魔を上げジュニアの上半身が凄惨に弾け飛んだ。
爆発の反動でマミーの足元に転がってくる二匹。
「やるじゃん!!」
『だがニャ‥』
『もう無理です‥ニャ。』
「へ?」
マミーがその言葉を理解する前に二匹は地中へと消え去った。
「‥マジでか?」
マミーは地面に向かって呟いた。
そして彼の後ろでは四匹のジュニアがニヤリと笑う。
「マジでか!?」
マミーは一目散に駆け出した。
光
狭い通路、薄暗い道、足元には無数の石ころが転がっている洞窟の道‥
だがマミーはその悪路を人1人背負っているとは思えないスピードで駆けていく。
マミーは自分で自分の速さに驚いていた。
「コレが火事場の糞力って奴か!!」
マミーは吐き捨てる様に言った。この危機的状況を打開する考えは一切浮かばないのに、不要な諺ばかり覚えている自分の頭に苛立ちを覚える。
彼を追うジュニアは残り4匹、だが丸腰であるマミーの選択肢は逃走しかない。
明確かつ凄惨な死に追われるマミーは日頃の倍近い速度で走っている訳だが、それでもジュニア達との距離は一向に広がらない。寧ろジリジリと距離が詰まってきている。
更に言えば火事場の糞力と言うのは、大抵一時的な物であり長時間保つものではない。つまりマミーの限界は近い。
事実マミーの呼吸は大きく乱れ、足取りも危うくなってきている。
「ダッ!!?」
その時マミーが小さな石ころに躓き、体勢が大きく崩れた。
(もう駄目か?)
諦めが頭を過ぎったその時、視界の隅に一筋の光が刺した。‥あれは、間違いなく日の光だ!!
「んどぉりゃぁぁあ!!!」
歯を食いしばり、大きく傾いた体を右足一本で無理やり立て直す。
ブチブチと筋肉の千切れる音が聞こえた気がしたがそんな事は関係無い、渾身の力を込め右足で地面を蹴り飛ばし光の中へ飛び込んだ。
暖かい光と心地良い浮遊感マミーを包み込み、硬い地面の包容が彼を現実へと引き戻す。
『そこは邪魔。』
更に冷たい一言と脇腹に叩き込まれた蹴りが、マミーの意識を遠退かせる。
次の瞬間マミーの視界に映ったのは、洞窟から飛び出した三匹のジュニアが6発の散弾により、空中で合い挽き肉へ加工される様だった。
ランダはゆっくりとリロードのモーションをとる。だが‥ジュニアはまだ一匹残っている。
ランダがリロードするのを待ち構えていたのか、最後のジュニアが大口を開け跳び掛かってきた。だが、ランダは焦るでもなくこう言った。
『馬鹿。』
その言葉が放たれた瞬間、ヘビィボウガンの柄がジュニアの顎を捉えていた。
マミーの横に叩き落とされたジュニアの頭に銃口が突き付けられ‥
ダンダンダンダンダンダンッ
6発の散弾がぶち込まれた。
頭のみ跡形もなくなったジュニアを見ながらマミーは思った。
(コイツの皮が俺の顔に付いてるんだよな‥)
『帰る‥早くして。』
自分の皮の元を躊躇い無くミンチにしたランダを見て、やや複雑な気持ちになりつつその言葉に従った。
温泉地
筋肉痛
「デケェェェエ!!」
村に戻って来たマミーの眼前には湯煙と無駄に広い湯船が広がっていた。
何故彼がこんな所に居るのかは1時間程度前に遡る。
洞穴の工房(ランダはサンと買い出し、ビィズはまた地下に籠もっている。)
沼地から工房へ帰って来た翌日、マミーの全身‥特に脚部に凄まじい痛みが走っていた。
「な‥何じゃこりゃっ!!?」
『どう考えても筋肉痛ですニャね。』
マミーの体を触ってサラッとギンコが言う。
洞窟で文字通り死に物狂いの逃走をしたマミーの体には、相当の反動が来ていた。
『プ‥筋肉痛とか‥ププ、中年のオッサンみたいニャ。』
キンコが笑いを堪えながら言う。
「誰がオッサンだ、タタタ!!?」
反論するマミーの体を再び激痛が襲う。
『じゃあ温泉に言って来たらどうじゃ?』
珍しくテーブルで寛いでいる爺さんが言う。
「温泉?」
『まぁ行けば分かるじゃろ。キンコ連れて行ってやれ。』
『解ったニャ。』
そう言って爺さんから小銭を貰うキンコ。
そして筋肉痛でのた打つマミーを荷台に乗せ温泉へとやって来た訳だ。
「ヒィャッホォォォオ!!」
誰も居ない湯船に生まれたままの姿でダイブするマミー。
『行儀が悪い…てか筋肉痛じゃなかったのニャ?』
そんなマミーを見てキンコがボヤく。
因みにこの温泉では筋肉痛はもとより腰痛、疲労、肩こり,etc・・を解消する他に、入った次の日お肌スベスベ等の効能が得られる。
更に言うとこの村は僻地に存在するので客は村人と僅かな流れのハンターや商人等の旅人のみ。
つまり格安な上、様々な効能を得られる温泉をほぼ貸切で利用出来るのだ!!
なんだかこの説明は二回目な気がする。
バシャバシャと湯船を泳ぐマミーを見てキンコは思った。
『赤い海坊主にしか見えんニャ。』
オカシなお面
20分近く湯船を泳いだ後、番台で牛乳を飲み干し温泉を満喫するマミー。
因みに元気すぎるマミーに呆れてキンコは小遣いを残して先に帰ってしまった。
そしてマミーは残りの小遣いを持って村をプラプラしていた。
彼はこの村を一度散策したいと思っていたので、キンコが先に帰ったのは好都合である。
適当な路地に入るとだいたいが温泉や屋台であった。因みにこの村は自給自足が普通らしく、温泉や屋台は村人の趣味のような物らしい。
なのでどのお店も非常に安い。マミーの残りの小遣いでも十分に楽しむ事が出来た。
「どの店も美味いな~♪」
シモフリトマト飴と温泉卵(特大)を食べながら歩くマミー。その顔はお面越しでもニヤケているのが判る。
そして可笑しなお面をしてお菓子を持っているマミーの周りに何やら子供達が集まってきていた。
「どうした?お菓子でも欲しいのか?」
マミーはお面か、お菓子のせいで子供達が寄って来ているのだと思ったが、どうも違うらしい。
『お兄さん、あの人の友達でしょう?』
『早く行こうよ。』
マミーは子供達が言うあの人に全く覚えがなかったが、子供達に引っ張られるままに村の広場へと連れて行かれた。
そこでは素晴らしくユーモアに溢れた仮面を付け、ダボダボな服を来たピエロが弦楽器を弾いていた。そしてある程度人が集まったのを見て、ピエロがピタリと演奏を止めた。
そして無言のまま5つの果物を取り出しジャグリングし始めた。
そして両手から片手でジャグリングし始めるとピエロは何処を向いているか判らない顔で手招きをし始めた。
お面とお面
ジャグリングをしたまま、無言で手招きをするピエロ。誰かアシスタントでも居るのだろうか?
だが暫くしてマミーは周りの視線が自分に集まっている事に気が付いた。
マミーが恐る恐る自分を指さすと、仮面の道化師はコクリと頷いた。
マミーは道化師に近付きながら、少ない記憶を探ってみたがどうにもその顔‥もといお面に覚えが無かった。
もしかしたらマミーのお面を見てアシスタントと間違えたのだろうか?
などと考えていると道化師は一本の剣を取り出し、無言でマミーに押し付けた。そして片手で剣を振るジェスチャーをする。‥構えろと言う事らしい。
マミーが剣を構えると周りをヒンヤリとした空気が包んだ。
仮面の道化師はそれを見るとジャグリングのスピードをグングンと上げていった。
歓声をあげる観客、そして何をして良いか解らず立ち尽くすマミー。
すると道化師がグルンと首を回しマミーの方を見た。ガッチリと視線が合うお面とお面。
が、次の瞬間道化師はジャグリングしていた果物をマミー目掛けて投げ付けて来た。マミーは反射的に手に持った剣でそれらを切り落とす。
刀身から噴き出した氷の結晶が切り刻まれた果物を瞬時に凍り付かせた。そしてそれらが地面に落ちる前にお皿でキャッチする道化師、それを見て沸き立つ観客。
マミーが振り返ると先ほどの果物達が、冷凍によりくっ付き不思議なオブジェになっていた。
喜ぶわけ観客の最前列に居る子供にそのオブジェを渡すと、再び弦楽器を構えた。
愉快で短くやや寂しげな旋律を奏で終えると、仮面のピエロはぺこりとお辞儀をした。マミーも釣られてお辞儀をすると観客達は一斉に拍手をした。そして前に置いてある小瓶にお金を投げ入れると一人、また一人と帰って行った。
そして最後の客が居なくなると道化師はポンとマミーの肩に手を置いた。
『あなたのオカゲで助かったわ。相方が来る途中で竜に喰われちゃってね~。』
そう言いながらお面を外す道化師。滑稽な仮面の中には美人な女性が入っていた。
「お…女?」
『あら‥ちゃ~んと胸もあるわよ?』
そう言って自分の胸を掴む道化師を見てマミーはさっと目を逸らした。
『変なお面なのに可愛い反応ね?』
道化師の青い瞳がニヤリと笑う。
…青い瞳?
マミーは改めて道化師の顔を見た。
大きく青い瞳にややボサボサで短めのブルーの髪…何となく見覚えが有る気がする。
「会ったこと有る?」
『無いわよ?』
その答えにマミーがガックリと肩を落とした。
移動(村→工房)
その後、マミーはピエロの女性にお礼と言う事で食事を奢って貰っていた。
「ん~‥あんたの顔、なんか見た事がある気がするんだよな‥」
マミーは昼食を食べ終えた後も、ジーッと女性の顔を視ていた。
『とか言って本当は私に気があるんじゃ‥』
「それはない。」
ニヤニヤする女性の言葉をマミーが一蹴する。
『でも私はあんたの顔‥てかお面に全く覚えが無いんだけどな?』
「でも何か引っ掛かると言うか‥何してるんだ?」
気付くと女性はマミーのお面を取り包帯を剥がしに掛かっていた。
『顔を見れば思い出すかも♪』
「‥後悔するぞ?」
そんなマミーの言葉を無視して一気に包帯を剥がす女性。
『どんなお顔かな~‥!!?』
マミーの素顔を見た瞬間、完璧に固まり崩れる様に椅子に座り込んだ。
『私、グロいのは駄目なの‥』
「勝手に人の顔を見た上、散々な言いようだな。」
数分後、会計を済ませ店を出る2人。
「どうもご馳走様。」
『いえいえ。ついでにもう一つ頼まれてくれない?』
お礼を言うマミーにもう一つ頼み事が有ると言う女性。
そして数分後‥
「まさか此処に用があるとはな‥」
マミーの目の前には工房の入り口が有った。
『いや~有難う♪』
女性の頼み事とは道案内をして欲しいとの事だったのだが、其処が偶々洞穴の工房だったようだ。
「ただいま~」
そして女性を連れて工房に入るマミー。
『おかえりマミー‥って何々、ナンパ?』
『きっと拉致か誘拐に違いないニャ。』
女性連れのマミーを見てニヤニヤするビィズと、その頭に乗るキンコ。‥厭な笑みを浮かべる2人の顔はいやに似ている気がする。
『そうなの誘拐されたの♪』
「悪乗りは止めてくれますか?ランダさんに用が有って来たんでしょうが?」
悪乗りする女性にやや切れ気味で突っ込むマミー。
『まぁ分かってたけどね。』
『冗談の通じん奴ニャ。』
マミーの突っ込むを見て白けた感じで言う2人。
ザッザッ…
そんな事をやっている内にランダが帰って来た様だ。
『皆さんただいま~‥れ?』
先に入って来たのはランダでは無くサンだったのだが、そのサンはある一点を見た瞬間、ピクリとも動かなくなった。
そんなサンを見て道化師の女性が口を開いた。
『あ!久しぶりね兄さん♪』
瞬間、その場の時が止まった。
工房の一室で
姉と兄
硬直した時間の中、見た目は子供、中身はオッサンであるビィズは必死に考えていた。
(『久しぶり~兄さん♪』‥兄さん!?コレは誰に向けて放たれた言葉なのか?視線的に考えれば間違い無くサンさんだが彼女は女性の筈だ。‥確かに胸は無いが、あの匂い、あの感触は間違い無く女性の筈!!だがさっきの台詞は!?‥いや結論を出すのはまだ早い!!希望を捨てちゃいけない!!)
硬直した時間とビィズの思考を無視してある男が口を開いた。
「サンさんって男だったのか?」
『そうよ~♪』
マミーと道化師の一言でビィズの中の何かが音を立てて崩れた。
(僕のレーダーは男に反応したのか‥)
バタリと机に突っ伏すビィズ。
『だ、だれが男かぁ!!第一アナタは私より年上でしょう姉さん!!』
暫し固まっていたサンが日頃出さない様な大声で吠えた。その顔はトマトに青い目が付いてる様だった。
姉に兄さんと呼ばれる女性?‥マミーの思考は最早破綻寸前だった。
『だってニイサンは兄さんじゃない♪』
『だからその呼び方は止めてってずっと言ってるじゃない!!』
ピエロらしくニヤニヤする道化師と真っ赤な顔で怒鳴るサン。そして笑う猫一匹と石化する男2人。
とうとうサンが道化師目掛け跳び掛かった。
(ニイサンが姉さんの兄さんで女????)
ここで、もう少しで頭から煙が噴き出しそうなマミーに助け舟が出された。
『‥何の騒ぎ?』
ちょっとした騒ぎになりかけていた工房の一室は、銃を片手に入って来た蟹男によって静寂を取り戻した。
そして数分後‥
綺麗にテーブルに並んだ‥並ばされた一同。
『説明。』
やや怒り口調でランダが言う。
『私と兄さんは兄妹なの♪』
『姉妹でしょ姉さん!!』
相変わらずふざけている道化師と苛立ち気味のサン。そんな2人を見てランダがダンと地面を銃で叩いた。
『分かり易く、簡潔に。』
ランダは怒りを抑えながら言った。恐らくヘルムの下には青筋が出ているだろう。
そんなランダを見て、2人も漸く大人しくなった。そしてサンがおずおずと口を開いた。
『私の本名がニー・サンなんです。だから姉さんがフザケて兄さんって言うんです。』
『間違ってないでしょ?因みに私の名前はイチ・サン。ヨロシク♪』
ニヤニヤ笑う道化師もといイチと、必死に堪えるサンもといニー。
ただ黙って話を聞いていたマミーがここで口を開いた。
「‥変な名前だな?」
『「親の趣味よ(です)!!」』
嫌そうに言う2人の顔は瓜二つだった。
用件
今なお気まずい空気が漂う工房の一室。
このまま放置しているとニーがイチ(ややこしい名前の姉妹だ・・)に飛び掛りそうなので、手短に用件を聞いて帰ってもらおう。ランダはそう思い口を開いた。
『でイチさん、何用?』
『あぁちょっと貴方にお話が有ったのよ。バグ狩りをするハンターさん♪』
話を振られたイチはニンマリと笑いながら答える。
『何故その事を?』
バグの存在はギルド管理しており、世間一般にはちょっとした噂程度にしか流れない。まぁ旅人ともなれば多少知っていてもおかしくは無いが、誰がバグを狩っているかまで知っている、と言うのは普通ではない。
そんなランダの反応を見てイチが楽しげに笑う。
『私は昼間はフザケタ仕事してるけど・・本職は別なのよ♪』
イチが道化師のお面を被りながら言う。そのお面の下はきっと酷く笑っているに違いない。
『・・本職?』
ランダが聞くとイチはお面を外し、満面の笑みで話始めた。
本職
バグの情報は規制はされているが、人の口に戸は立てられない。そんな漏れた情報や噂を嗅ぎ付けたハンターがバグを密猟し、物好きな貴族等に高値で引き渡しているらしい。
そして彼女が道化師をやっているのは人を集め、噂話を聞くため。
そしてその集めた噂から信憑性の高い物を自分で確認し、その情報を売っているらしい。
つまり彼女の本職は道化師ではなく・・・
『つまり私は情報屋なの♪』
イチが説明を終え、ニンマリと言う。だがその説明では1つ解らない事がある。
『何故私がバグを狩っていると?』
ランダがイチに問う。するとイチは小さく笑を漏らした後こう言った。
『私が集めてるのはバグの情報だけじゃないの。貴方の雇い主は結構有名よ?火山に住むギルド泣かせの偏屈爺さん、ってね♪』
『なるほど。』
イチの説明に納得するランダ。
『因みに貴方も有名よ蟹男のランダさん♪』
クスクスと笑いながらイチが付け足すと、ランダは小さく溜息を付いた。
ガコッ
そんな時、テーブルの側面が蒸気と共にガコッと開いた。
『つまり、この偏屈爺にバグの情報を売りに来てくれたんじゃな?ほれギンコ、茶を出してやりなさい。』
『はいですニャ。』
そして其処から爺さんとギンコが出てきた。話を聞かれていたと解ったイチは若干気まずそうに席に座り直した。
そんな彼女の前に一杯の茶が置かれる。
『では・・商売の話をしようかの?』
ニヤリと笑う爺さんの科白を聞いて、イチもニヤリと笑う。
『えぇ、小父様♪』
灼熱に抱かれて
涼しい洞窟
工房での話合いから十数時間後…
砂漠の道具に大小三つの影があった。
小さい影はマミーとランダ。
そして大きい影は、岩竜バサルモス。岩の様な甲殻を持ち、口からは炎弾と熱線を吐き出す。
だが、バサルモスは既にかなりの攻撃を受けたらしく、胸部の甲殻が大きく抉れ血が垂れている。
そんな弱ったバサルモス目掛け、マミーが太刀を構え突っ込んだ。が、
「ラァァア‥アッ?!!」
あっさりとバサルモスの尻尾に弾き飛ばされた。
ゴロゴロと地面を転げるマミーを余所に、バサルモスの肉が露出した胸部に狙いを定めるランダ。
短い発砲音が洞窟に響いた後、崩れ落ちたバサルモスはピクリとも動かなくなった。
『囮、お疲れ。』
ランダがヘビィボウガンを折り畳みながら言う。囮ではなく、止めを刺すつもりで突っ込んだマミーは、その言葉を聞いて苦笑いをするしかなかった。
何故彼等がこの砂漠にいるかと言うと、それは無論イチの情報提供による物である。
話によるとこの砂漠に輝くグラビモスが現れるらしい。
因みにバサルモスの生態がグラビモスであり、幼体であるバサルモスの時期は主食である鉱石が採れる地域に幅広く生息している。
だが成体のグラビモスは、火山や沼地などに生息地が限られる。
つまりグラビモスに変体する時期になっても、砂漠に居続けた事で何かしらの変化が起こったと考えられる。
…まぁ砂漠にグラビモスが現れると言う噂に尾鰭が付いただけとも考えられるが、そこは提供者であるイチを信じるしかない。
因みに今回ビィズは用事があるとの事で同行していない。
そして砂漠に来た2人は件のグラビモスを探している訳だが、今の所バサルモスにしか遭遇していない。
「…特にデカいのは居ないな。」
千里眼の薬を飲み、飛竜が居ない事を確認するマミー。
『なら、私は弾の補充をする。マミーは食糧の調達。』
ランダが言いながら鞄から色々と弾の材料を取り出す。
砂漠には砂を泳ぐ魚竜ガレオスが多数生息しており、そのキモは珍味として有名である。その他にも砂漠には特有のイチゴや仙人掌などが採れる。
ただ、それらの殆どは涼しい洞窟ではなく、文字通り灼熱が支配する砂漠に存在する。つまり食糧を調達すると言う事は、砂漠を歩き回ると言う事と等しいのだ。
「ハァ…解りました。」
マミーはその事を既に理解していたので、溜め息混じりの返事をして砂漠の洞窟を後にした。
製造中
場所は変わってギルドが運営する砂漠のキャンプ付近。其処には1つの人影が有った。
長身‥と言うよりヒョロ長いと言う表現がシックリくる人影。背中には太刀らしきものを背負っているのでハンターだと思われる。
日陰にコッソリと建てられたギルドの物では無いテント、彼はそれを調べていた。
『まだ新しい‥また密猟者ですか‥』
テントを一通り調べ終えると彼は溜め息を付いた。
『しかし‥自分の部下は何処に行ったんですかね。此処はキャンプから100メートル程度しか離れていないのにはぐれるなんて‥全く、余計な仕事を増やしてくれます。』
彼は一際大きな溜め息を付くと、右手をブランブランさせながら砂漠へと繰り出した。密猟者と自分の部下を探して‥
場所は戻って砂漠の洞窟
ランダは1人黙々と弾を造っていた。
ハンターが使う弾丸の大抵は「カラ骨」や「カラの実」と言った中身が空洞に成っている物に、「中身」を詰めて造られる。
その「中身」を何にするかに寄って弾丸の性質が大きく異なってくる。
そしてランダが主に使用するのは貫通弾と貫通性に優れた弾丸で、カラ骨とハリマグロと言う魚から造る事が出来る。
‥とまぁ、そんな説明をしている内に弾の製造が大方終了した。訳だが‥
『‥余った。』
弾の外殻である「カラの実」だけが余ってしまった。
鞄の中を漁ると先程採取した火薬草が出て来た。火薬草とは名の通り発火作用を持つ不思議な草で、コレとカラの実で火を噴き出す火炎弾を造る事が出来る。
そして今回のランダが持ってきたボウガンは火炎弾を撃つ事が可能。
だが、今回の獲物であるグラビモスは溶岩の中を泳ぐことが出来る程火に強く、火炎弾は余り役に立たない。
『まぁ‥良い。』
それでも彼は黙々と火炎弾を造り始めた。
マミーが狩りに行った(と思われる)砂竜ガレオスは非常に火に弱い。ランダは砂竜に悪戦苦闘しているであろうマミーを手伝いに行くつもりで火炎弾を造っているのだろう。
そして数分後‥
弾の製造を終えたランダはマミーに合流すべく洞窟から砂漠に繰り出した。が、
『‥!?』
彼の体はガクンと傾き、瞬く間に砂の海に引きづり込まれた。
暑い砂漠
「ダァッツイ…」
砂漠の隅でマミーが愚痴る。この前行った火山も暑かったがこの砂漠も、かなり暑い。
火山はマグマが流れているせいで暑い‥と言うか熱かったが、砂漠は純粋に暑い。
雲一つない空と、きめ細かい砂粒のせいで上にも下にも太陽が有るような錯覚を覚える。
そして何よりも狩りの効率が悪すぎる。
「強すぎるだろ‥ガレオス。」
マミーは隣でくたばっているガレオスを見てボヤいた。
マミーは今回、本来の標的であるグラビモスの為に水属性の太刀を持ってきている。(グラビモスは水による攻撃に弱い。)
だが、先程マミーが食料調達の為に狩ったガレオスは魚竜に分類され非常に水に強い。
その上、ガレオスを砂の中を泳げるため攻撃が当て難い。なので一撃必殺ではなく手数で勝負する太刀で来たマミーには非常に分が悪い。
なので本来ランポスより少し強い程度のガレオスにそれなりの苦戦を強いられた訳だ。
それでもどうにか食料調達を終え、後は洞窟に運ぶだけで良いのだが、疲れたマミーは砂漠の隅で寝転がっている。
そんなマミーの顔を誰かが覗き込んだ。
『アンタ、こんな所で何をやってるんだ?』
「どぉっ!?」
気を抜いていたマミーは不意の出来事に、反射的に飛び起き、そして‥
「だっ!!!?っ~…」
覗き込んで来た相手の額に自分の額を強打し、悶絶する羽目になった。
『大丈夫か?』
だが相手の方はケロッとした顔で話し掛けてくる。石頭なのだろうか?
「だ、大丈夫だ…て貴女はどちら様?」
マミーの正面には女性‥いや、少女のハンターが立っていた。派手な金髪にイヤに細い瞳、ビィズよりやや大きい程度の身長、そして腰には黒い棍棒の様な物を提げていた。
『アタイ?アタイはカノク・ゴールド。』
カノクは何故か自慢気に自己紹介をする。
「変な‥変わった名前だな。俺はマミー。」
『アンタ、変な名前だな。』
サラッと酷い事を言うカノク。
『で何をしてたんだ?』
軽く傷付いたマミーなどお構い無しに質問をするカノク。
「‥晩飯の準備だよ。」
マミーは言いながら隣でくたばっているガレオスを指差した。
『へぇ‥じゃあ今日は大漁だな。』
「大漁って言うには少ないんじゃ…」
マミーが台詞を言い切る前に、砂の海で黒い大魚が跳ねた。
「な、なんだ!?」
『な、大漁だろ?』
驚くマミーを余所に少女は自慢気にそう言った。
砂漠の大魚
宙を舞う他のガレオスより大きく黒い体、それは奴が群のリーダーである事を意味する。
「ドスガレオス!?」
マミーは驚きの声を上げた。基本的に巨躯を誇る竜達は1つの縄張りに二種以上生息する事は無い。第一少し前に倒したバサルモス以外の竜が居ない事を確認したばかりだ。
なのに目の前の砂漠にはドスガレオスが存在している。コレは一体どういう事か?
『奴は狩らないのか?』
混乱するマミーの意識をカノクが呼び戻す。
彼女に言われて冷静に考えるマミー。
手持ちの武器では明らかに不利、それに奴を倒さなくとも既に食糧の調達は済んでいる。
つまり奴を狩る必要はない。
「もう食糧は十分だから俺は逃げる。」
『食糧持って行かれてるけど?』
マミーの言葉を聞いてカノクが先程ガレオスの死体が有った場所を指差した。其処では今まさにガレオスの死体が砂に沈む所だった。
「俺の20分近い死闘の成果が!!」
マミーはガックリと膝を付いた。そんなマミーの正面からドスガレオスが飛び出して来た。
「のあっ!?」
横っ飛びにそれを避けるマミー‥砂漠の砂はなかなかに柔らかい‥とそんな事を言ってる場合ではない。
マミーが振り返ると先程のドスガレオスが砂から頭だけだし、此方の位置を探っていた。どうやら完璧に狙いを付けられたらしい。
「野郎‥ガレオス一匹じゃ足りないって言うのか?」
マミーはそんな奴の姿を見て少々頭に来たらしく、さっと戦闘体制に入った。
『お、殺すのか?』
そんなマミーを見て愉しげにカノクが言う。
「食糧調達の為だ。」
『じゃあアタイも手伝ってやる。』
言いながらカノクがブンブンと左手を回す。
「…言っておくが俺はヘボだから助けてはあげれないぞ、お嬢さん?」
『舐めんなヘボ。アタイはアンタなんかよりずっと強いのさ。』
ふざけ気味な台詞を聞いて、カノクは細い目を微かに開きマミーを睨み付けた。
「…そうですか。」
マミーは言いながら、自分の周りのチビはこんなんばっかりだな…とか思っていた。
そんな話をしている内にドスガレオスが再び砂の海に潜り、2人の周りをグルグルと旋回しだした。
「さぁ、掛かって来い!!」
太陽に照らされる灼熱の砂漠で、本日の二戦目が始まった。
ドスガレオス
砂中を自在に泳ぐドスガレオス、奴が砂の中に居る以上圧倒的に此方が不利だ。
では如何にして奴を砂から引き釣りだすか?
①爆音で砂中から弾き出す
②出てくるのを待つ
③強力な一撃で砂中から弾き出す
④チマチマとダメージを与え胆振出す
マミーは考える。
根本的に今の手持ちで①は出来ないので却下。
③が出来れば何も苦労しない、却下。
なので必然的に②か④となる。
「持久戦か…」
マミーは照りつける灼熱の太陽を見て深く溜め息を付いた。
そんなマミーの落胆などお構い無しに砂漠の大魚はその牙を剥く。
ザリザリッ
ドスガレオスの背鰭が砂を切り裂きマミーに迫る。砂中を泳ぐドスガレオスの背鰭は、無数の砂粒によって鋭く研磨されており、易々と肉を切り裂く。
「ぜぁっ!!」
マミーは反射的に地面と水平に跳ねた。そして、頭からド派手に砂に突っ込んだ。
『間抜けだなー!!』
そんなマミーを見てカノクがケタケタと笑う。
マミーは怒りを抑え、素早く体制を立て直す。その時‥
ギャォォォオ
絹を引き裂く様な叫びと共にドスガレオスが砂中から飛び跳ねた。マミーが振り向いた時、視界の半分は赤一色に変わっていた。
瞬間、彼の体は一瞬で奴の方を向き、重心を低くした迎撃の構えを取った。
「舐めるな魚類がぁ!!」
低空で跳ぶドスガレオスの下を潜る程の低い姿勢から繰り出された一閃が、水飛沫と共に奴の黒い鱗を切り裂く。
が、水飛沫の殆どは魚竜の鱗に弾かれ、無理な体制からの一撃は奴の肉を僅かに切り裂くに止まった。そして奴は再び砂の中…
「‥クソッ」
マミーは小さく舌打ちをする。
『まどろっこしいな~。変われヘボ!!』
そう言うが早いかカノクはマミーを蹴っ飛ばした。思いの外強力な蹴りに情けなく砂に埋もれるマミー。
ザリザリッ
そんなマミーの正面に再び黒い背鰭が現れる。
「ちょ、足どけろ!!」
逃げようとするマミーの背中を踏みつけるカノク。
『まぁアタイに任せなって。』
言いながらブンブンと腕を回すカノク。そしてマミーの視界が再び赤に変わる。
ドガァッ
凄まじい打撃音と共に黒い塊がドスガレオスの顎を捉え、その巨体を中空へ弾き上げた。
宙を舞う砂竜を追う様に軽やかに跳ね、黒の棍棒を振り回すカノク。瞬間、醜く歪んだドスガレオスとマミーの視線が交錯した。
その時、マミーは宙を舞うドスガレオスの影が自分を覆い隠して居る事に気が付いた。
「ちょっとま『うりゃあ!!』
マミーの叫びは少女の剛腕によってかき消された。
海の底
ドゴォォッ
地中で大量の爆薬を炸裂させた様な音の直後、打撃を受けた反対側が不自然に盛り上がった。
そしてその一点に引っ張られる様にドスガレオスの体が地面へと叩き付けられる。
「あ…」
無論その真下にいるマミーを巻き添えにして。
砂にめり込むドスガレオスとマミー、瞬間彼等の周りがズンと沈下した。
数分前…
砂の海に引き擦り込まれたランダの体が漸く自由になる。
『ケホッ…流砂、か。』
頭上からサラサラと流れ落ち続ける砂を見てそう呟いた。
流砂とは砂漠の下に存在する水流や空洞によって、その上にある砂が流れ落ちる事を言う。簡潔に言うと巨大な蟻地獄である。
ランダの周りはだだっ広い空間だったが、奥の方からは水の流れる音が聞こえ微かに明るかった。
兎に角ランダは落ち着いて持ち物を確認する事にした。ん
鞄の中身は…弾丸も薬品もなんら問題無い。
ボウガンは…多少砂が詰まっているがまぁ大丈夫か…
ユックリとリロードすると何時もの音を立て弾が弾倉へと運ばれた。
とりあえず一発撃ってみる。銃口を砂に突き刺し、音が響かない様にゆっくりと引き金を引く。
ザスッ
小さく響く発砲音、そして両腕に伝わる確かな反動‥何ら問題ないな。
ランダはヘビィボウガンを背負い直すと、ボンヤリと光る空間の奥へと足を進める。
徐々に大きくなる水音と輝き、それとは反対に自分の足音は可能な限り小さくする。
コレは直感の様な物だが、この空間の奥には何かが居る気がする。十分に広く且つ閉鎖された空間、そして水源の存在、竜が巣を作るにはうってつけの環境だ。
そして何より、巨大な何かが放つ重圧の様な物が空間を支配している。
ランダは可能な限り様々な状況を想像した後、深く深呼吸した。何が起きても動揺しない様に…
だが、彼のこの決意は数秒後アッサリと崩れ去る。
『な…』
彼の眼前には予想外の光景が待ち受けていた。
煌めく空洞
何故砂の海の底にある空洞がこんなにも明るいのか?
その答えがランダの眼前に広がっていた。
其処には大きな泉があり、天井の穴からは永遠と水が流れ落ちて来ていた。…どうやらその穴から光が差し込んでいるらしい。
だが、問題は其処ではない。
『…凄い。』
彼は目の前に広がる光景を見てそう洩らした。
目の前の空間は煌めく光で埋め尽くされていた。正確には壁一面、更には泉の其処に至まで金色で埋め尽くされていた。
ランダは地面に堕ちていた「金色」の欠片を手にとって調べてみる。
『黄金石か‥』
目を細めながらポツリと呟く。
黄金石とは砂漠等で採掘する事でき、小さい欠片でも高値で取引される。
黄金石は塊が採れる事すら稀なのに、ましてや砂漠の地下に大量に眠って居るとは…
そんな夢幻の様な景色に暫し目を奪われるランダ。だから彼は気付かない、視界の外で泉の底の黄金が蠢き、歪な金色が水面に近付いている事に…
ザバァァァア
海底の空洞にドッシリと響くその音は、佇む水面を巨大な何かが突き破った事を意味する。
しまった!!
そう思い振り向いた時には既に遅い、泉から現れた歪な黄金の顔は大きく息を吸い込み、そして…
グオオオォォァァァ
炸裂させた!!
狭い空間を揺るがし、轟き、埋め尽くす空気の津波。
『くぁ‥ぁあっ!!?』
爆音などの比ではないその一撃は易々と人間の自由を奪い取る。耳を押さえうずくまっても、その津波から逃れる事など出来はしない。
頭蓋を揺らす音の津波、どちらが上でどちらが下なのかも判らないその状況で、それでも彼は歪む視界に目を凝らす。
泉から這い上がり、光を増す金色の塊‥それが何を意味するか、彼は理解していた。
『く、そが‥』
揺らぐ頭で絞り出したその一言を最後に、彼の体は弾かれる様に宙を舞った。
走る金塊
強烈な一撃を受け、重力から解き放たれたランダの体はボールから何かの様に洞窟の中を跳ねる。
一回、二回、三回目の壁と衝突した後、彼の瞳は目下に広がる煌めく水面を捉える。
全身をガチガチに固めたこの姿であの泉に落ちれば、二度と空気を味わう事は出来ない。
狩場に来て溺死など愚の骨頂、ランダは左手に力を込める。
彼の左手の篭手は鎌蟹の鋏を模しており、素材の鋭さをそのまま維持している。
その鋏に渾身の力を込め、壁の黄金に突き刺す。鈍い衝撃が走り左手を中心にグンと引っ張られる。その勢いを両足で壁を蹴り無理矢理殺しきる。
どうにか収まった。が、正面の動く金塊が再び此方に向かって来る。回避する為の距離は十分、壁から鋏を抜けば楽々避けれ‥
此処でランダは気付いた。鋏が抜けない事に‥
全力で刺した事が裏目に出た。迫る金塊を横目にもう一度鋏に全力を込める。
焦る心とは裏腹に鋏は一向に抜けずにガキガキと音を立てる。奴の足音がすぐ其処まで迫った時、漸く鋏が自由になる。
僅かに浮遊する体、そして先程まで彼が居た場所に金塊が激突する。
飛び散る金の欠片と共に地を転げるランダ。全身の骨は軋み、口内に鉄錆の味が広がる。‥だが、動けない程ではない。
無理矢理体を立ち上がらせ、動く金塊を観察する。全身の外殻が歪な黄金で出来た噂通りの輝くグラビモス。幼体の時に此処を見つけ黄金石を食べまくりでもしたのだろうか?
だが、先程激突した黄金石の壁は粉々に砕けているが、グラビモスの外殻には傷一つ無い。‥摂取し外殻に変化する過程でより堅く変化したか?
兎も角確かめる必要がある。
三度此方へ突っ込んでくる歪な金塊、だが自由に動ける今奴の動きは酷く鈍く見える。
前転一つで突進の射程圏から逃れると、手早くボウガンを組み立て狙いを付ける。
今弾倉に入っているのは本来の奴の弱点である水冷弾。狙うのは外殻が薄いであろう脚の付け根。
無言のまま引き金に掛けた指に力を込める。
ドシュ
短い発砲音の後、撃ち出された水冷弾は狙い通りに脚部を直撃し、勢いよく水流を噴き出す。
が、直撃した筈の水冷弾は奴の黄色の外殻の上を滑る様に飛び、仕舞には弾かれてしまった。
彼方に消える弾丸を見てランダは舌打ちをした。
揺れる洞窟
装填済みの残り2発も撃ってみたが、1発目同様外殻を滑り弾かれる。そして外殻はやはり無傷…
本来、攻撃が弾かれても火や水などの属性攻撃は若干ながらダメージを与える訳だが、目の前の動く金塊は水に対する耐性を持っていると考えるべきか‥
溶岩の海を泳ぐのだから水中を泳げても不思議は無いと思ったが、甘かったか…
動く金塊が此方を振り向く前に、違う弾丸をリロードする。
ジャコッ
低い音を立て弾が弾倉に送られるのを確認すると、ボウガンを背負い駆け出す。
此方を振り向く金塊、その口は僅かに開いておりその中に生物的な赤色が見える。
手早く組み立てられるヘビィボウガン、その銃口は既に赤色に狙いを定めている。
『これなら‥どう?』
先程よりやや重い引き金を一気に引く。弾が発射されると共に反動が全身に走る。そして‥肉を引き裂き、貫く音が木霊する。
それを聞いたランダはニヤリと笑い、リロード済みの弾丸を全て口に叩き込んだ。
4発の貫通弾に体内を抉られ、大きく仰け反るグラビモス‥その口は先程よりずっと赤に染まっている。
その攻撃は奴を死に追いやるには全く足りないが、怒りを買うには十分だったらしい。
二本の足で立ち上がり、胸を膨らまし大きく息を吸う金塊‥だがこの次の行動はもう解っている。ランダとて一端のハンター、同じ轍を踏みはしない。
圧縮された空気が再び炸裂する前にヘビィボウガンを組み立てる。その側面には申し訳程度の盾が付いていた。
グラビモスの口から血飛沫が舞うと共に洞窟を埋め尽くす音の津波、申し訳程度の小さな盾はそれを完璧に防いで見せた。
盾に掛かっていた重圧は消え去り、グラビモスの腹も風船の様に縮んでいく。それを見たランダは奴から距離を取るべくボウガンを背負い直す。
ドォ‥
そんな時頭上が微かに揺らぎ、重低音が響いた。
この地下空洞は砂の海の下に有り、天井からは所々砂が見える。
まさか今ので天井のバランスが崩れたか!?
ランダは素早く頑強そうな天井の下へ逃げた。直後、先程の比ではない程に洞窟が揺れ、天井の一部が大量の砂を吐き崩れだした。
朦々と砂煙を上げ落ち続ける大量の砂粒、その中に大小2つの影が映り‥
「ダァッ?!!」
男の間抜けな声が洞窟に響いた。
堕ちた先
華奢な少女の一撃で、何処へともなく堕ちる砂の海。永遠にも感じる暗闇への潜行‥
「ダァッ!?」
久しく地面と再開した彼の目の前に迫るのは大魚の亡骸。マミーは反射的に両脚を振り上げる。
「なっ…」
許容を明らかに超えた衝撃に両脚どころか背中にまで痺れが走る。だが1日に二度も下敷きになるのは幾らマミーでも御免である。歯を食いしばり、両脚のありとあらゆる筋肉をフル稼働する。
「‥っめんなぁ!!」
雄叫び一発、巴投げの要領で頭上へ蹴り飛ばす。砂煙を上げ地を滑る大魚の亡骸を見てマミーはふぅと息を吐き出す。
『あ~れ~』
そんな彼の上方から少女のふざけた感じの声が響く。ふと見上げると目の前に足の裏があった。
『よっ!』
「なばぁっ!!?」
少女の全mg(落下エネルギー)がマミーの顔面を直撃した。そして男の悲鳴と、パリィンと言う安っぽく切ない音が響いた。
「ぬぁぁぁあ!!?なんか刺さった?!」
凹んだヘルムを抑え転げ回るマミー、そんな彼を見てカノクが駆け寄りヘルムを剥いだ。
『大丈夫か‥おぉ既に包帯が巻いてある!!』
お面が割れたマミーの顔を見てカノクが驚く。
「コレは元からだバカ野郎…?」
愚痴るマミーの頬を銃弾が掠め、包帯の一部ハラリと捲れた。狙撃された方向を見てマミーはギョッとした。
『コントは良い‥前を見ろ‥』
其処には頗る不機嫌な蟹男が1人、顔は見えないが明らかに怒っている。
何を怒っているのか解らないまま振り返ったマミーの前方には金ピカの化け物が居た。ついでに気付いたが周りも金ピカ、なんだこの状況は?
マミーが状況を理解しきる前に二発の銃声が響き、彼の視界を二つの弾丸が突っ切って行く。
マミーは自然とそれを目で追う。走る弾丸は金ピカの化け物にぶつかり、弾け飛んだ。
一部始終を見たマミーの思考は一時停止する。…あの化け物、生物ではなくただの金塊なのか?
そんなマミーの妄想はアッサリと砕かれる。
首を振り上げ息を吸う金ピカの化け物、その首が振り下ろされた瞬間‥
辺りはよりいっそう眩く煌めいた。
逃げるべし
眩い光の中、一際輝く閃光がマミーの隣を突き抜け後ろの壁にブチ当たった。壁の金塊はドロリとした液体に姿を変えた直後、跡形も無く蒸発し消え去った。
それを見た瞬間マミーの額に冷や汗が流れる。あんな物喰らったら一溜りも無い。
ビビルマミーを余所に再び首を振り上げる化け物、こんな時どうするべきか?そんなのは決まっている。素早く凹んだヘルムを手に取り駆け出す・・逃走である。
だがそんな彼の進行方向に再び閃光が走る。
「ヌオリャッ!!」
全身に溜まった疲労と痛みを叫びと気合でカバーし、強く地面を蹴り高く跳ねる。鼻先を掠める閃光、僅かに近付いただけで空気さえも熱波となり彼を襲う。
どうにか飛び越した後、自ら地面を転げ即座に物陰に身を隠し、辺りを見回す。
『先に言う・・出口は無い。』
不意の一言に心臓がビクンと動く。逃げ込んだ物陰には既にランダが隠れていた。
「・・出口がないって、本当か?」
『無い・・ツレは何処?』
ランダがマミーを見て言う。ツレとはカノクのことだろう。それなら既に隠れたはず・・マミーはそう思いながら後ろを振り返ってギョッとした。
陰に隠れて
「何やってんだアイツ!?」
其処には金塊の化け物と対峙するカノクの姿が有った。
『さぁこい、優しく殺してやる。』
堂々と言い放つカノクを見てマミーは思った。あの子何してんの!?
『誰、あの馬鹿?』
「さっき砂漠で狩りを手伝って貰ったんだよ。まぁアイツのせいで此処におとされたんだが・・」
マミーが先程あった事を簡単に説明すると、ランダは軽く俯き舌打ちをした。
「何故舌打ち?」
『あの子は同業者・・もしくはもっと面倒な仕事をしてる奴。』
ランダが考え込みながら答える。
ランダの言葉の意図がイマイチ理解出来なかったので、詳しく聞き直そうとしたその時・・
『りゃ!!』
ゴッ
少女の声と鈍い音が木霊した。
カノクの黒い棍棒は確実に化け物を捉えていたが、その体には傷1つ付いていない。それを見て驚くマミーとカノク。
『奴の外殻に攻撃は効かない、弱点も見つけたけど・・』
「見つけたけど?」
ランダが其処で言葉を濁す。その視線の先では閃光を乱射する化け物と避け続けるカノクの姿があった。
『もう狙えない。』
熱線が止まない以上、口など狙えた物じゃない。
「じゃあどうするんだ?」
『考え中・・』
そう言ってランダはスコープを覗き込み、奴を観察しだした。そして数秒後、彼はある事に気付く・・
即座に鞄の中を漁りアレの存在を確認する。
『今から指示を出す。』
そう言いながらランダは新しい弾丸をリロードした。
作戦
狭い空間を埋め尽くさんと放たれる灼熱の閃光。壁を埋め尽くしていた金塊達は無様に溶解し、マグマにも似た水溜まりと化している。
そんな灼熱が支配する狭い空間を少女はピョンピョンと跳ね回る。視界の端で閃光が迸るのを見ながら少女は考える。
本来のグラビモスの外殻は腹の部分だけ他の部位より脆い。そこを狙って三発程叩き込んだ訳だが、やはり傷一つ付かない。
『どうするかな‥』
灼熱を避けながら考える少女だが、どちらかと言うと'脳筋'に分類される彼女に名案が浮かぶ筈も無い。
『‥あれ?!』
日頃しない事をしたためか少女の足は水溜まりの端を踏み、大きくバランスを崩した。眼下に迫る灼熱の水溜まり、更に視界の端から迫る閃光。‥コレはマズい。
「ぜりゃぁぁぁあ!!」
不意に響いた野郎の怒号、それと共に少女の体はフワリと浮かぶ、横を見ると先程踏んづけた歪なヘルムが有った。
「あ、着地は自分で宜しく。」
閃光を飛び越しながらそう言うとマミーはカノクを投げあげた。
『よっ。』
華麗に着地するカノク。それとは対照的に水溜まりに頭からダイブするマミー。
「どあっちぃぃぃい??!」
叫びながら転げ回るマミー。だが辺り一面水溜まりなので逆効果である。
『りゃ!!』
「グバァ!!?」
転げるマミーの脇腹を蹴り上げ、水溜まりの外へと吹っ飛ばすカノク。
『隠れてたら良いのに、何しに来たんだ?』
咽せるマミーにややムッツリ顔で少女が訪ねる。「グゥゥ‥作戦があるから言いに来たんだよ。兎に角耳貸せ。」
『作戦?』
そして閃光を避けながら手短に作戦を設定する。
『本当なのか?』
「質問は司令官に聞け。」
イマイチ信じないカノクの言葉にマミーは陰に隠れるランダを指差す。ウーンと考えるが途中でメンドクサくなったのか腕を振り上げた。
『だぁ~!!もう良い、行くぞヘボ!!』
「ヘボは余計だ!!」
そして2人は二手に別れ駆け出した。
化け物の視線は身長のデカいマミーに向けられた。閃光が煌めくと共に、情けない悲鳴を上げマミーがスライディングする。
『余所見すんなよノロマ。』
挑発的な言葉が化け物の顎下で発せられた。刹那‥
ドゴ
豪音と共に棍棒が化け物の顎をぶち抜いた。
閃光を咬み千切り、首を跳ね上げられた化け物。その輝く腹部にランダが狙いを定める。
『さぁ‥行け‥』
呟きと共に撃たれた弾丸が化け物の腹部を直撃した。
弱点
弾けた弾丸は紅蓮と化し奴の腹部に襲い掛かる。だが奴の腹部には焦げ目すら突かない。それでもランダは引き金を引き続ける。
彼が今尚リロードし、撃ち続ける弾丸は気紛れで造った火炎弾。文字通り炎を噴き出す弾丸、だが本来のグラビモスに炎は蚊ほども効かない。
なら何故彼は火炎弾を撃つのか?
無知故?
それとも山勘?
否、この行動は優れた観察によって裏付けされた確固たる確信があった。
第一、奴の体の基は黄金石
第二、奴の熱線であっさり融けた黄金石の壁
第三、熱線の乱発で形を崩した奴の顎
これらから考えられる事は?
『奴の外殻は熱に弱い。』
一人呟きながら最後の火炎弾を放つ。硝煙を上げる銃口の先には朱色に変わった奴の腹部があった。既にドロドロに融けだし、白い殻が見えている奴の腹部にご自慢の硬度はもう無い。
『後はよろしく‥馬鹿力。』
ボウガンを畳ながら本人に聴こえない様にボソリと言う。とうの本人には無論聴こえては居ないが、彼女は既にやる気満々だった。
『派手に逝きな!!』
初めの台詞は何処へやら、少女の細い瞳はパッと見開かれ白金色の瞳が奴の腹部を見据える。
少女の細腕は凄まじい勢いで回転し黒い棍棒が奴の腹部にめり込んだ。
ゴシャッ
耳を塞ぎたくなる様な音を響かせ、ベニヤ板よりもあっさりと奴の腹部は砕けた。
次の瞬間、金塊の化け物は口から断末魔と固形物じみた血反吐を吐き出し崩れ落ちた。
堅すぎる外殻のせいで口から中身がはみ出したか‥恐るべし馬鹿力。願わくばもう少し綺麗にやれ。
「お‥終わったか?」
何処からともなく情けない声が聞こえる。水溜まりで滑って転んだのか、金メッキになったマミーがグラビモスの後ろで転がっていた。
『‥役立たず。』
『まぁヘボだからな。』
そんなマミーを見て呆れるランダと笑うカノク。
マミーはマミーなりに頑張っていた訳だが、他2人の活躍に比べるとそう言われても仕方ない。
仕方無くグラビモスの素材を採取しようと立ち上がった時、聞き慣れない声が聞こえた。
『ちょーっと待った!!』
声の方を振り向くと、洞窟の影から見知らぬ四人のハンターが現れた。
狩人狩
影から出て来たのはのっぽな大剣使い、チビなランス使い、そして細い弓使いと普通な
狩猟笛使い。先頭に居たのっぽが一歩前に出る。
『そのグラビモスは俺達が頂く!!』
のっぽが高らかに言い放つ‥と言うか彼らは今まで何処に居たのだろうか?
「ランダ、逃げ道は無いんじゃなかったのか?」
どこから現れたのイマイチ解らない4人を見て、マミーが問うとランダは必死に笑いを堪えて居た。
『アイツら‥ずっとアソコに隠れてた‥ククッ』
‥つまり奴らは密猟に来たは良い物の、思いの外強そうなグラビモスを見て逃げる事も出来ず隠れていた訳だ。
『だまれ!!弱虫の根性無しの密猟者!!』
カノクが包み隠さず言い放つ。
『う、うるせぇ!!数はコッチのが多いんだ!!そのバグは俺らが大金と変えて貰うんだよ!!』
逆上しながらのっぽが言う。ここまで小物丸出しな奴も珍しい。
『まぁ密猟者ならアタイの仕事対象だ。2人は何もしなくて良いからな?』
カノクが両拳を鳴らしながら前に出る。
「仕事対象?」
マミーが不思議そうに呟く。
『あの子は多分ギルドナイト‥つまり人狩りが仕事。』
「あの馬鹿が!?てかそれじゃあおrモゴッ?!」
叫ぶマミーの口をランダが塞ぐ。
『何か言ったか?』
『何もない、気にするな。』
ランダがマミーを抑えたままさらりと流す。
(どうするんだよ?)
(採取は済んだ。コレを使って逃げる。)
小声で言うと彼は緑の玉を破裂させ、煙幕と共にその場から消え去った。
『怪我したくなかったらどきな嬢ちゃん?』
『黙れ弱虫、優しく殺してy‥?』
その時、洞窟の天井が砂と共に何かを吐き出した。ドサッという音と共にヒョロイ人陰が砂に刺さった。
『うぅ、酷い目に‥あ、此処に居たんですかカノク。』
ヒョロイ男はカノクを見つけるとフラフラと左手を振った。次の瞬間カノクが駆け出し‥跳ねた。
『御主人様~!!』
『ゼハァッ!!?』
馬鹿力全開のカノクが抱擁と言う名の凶器を繰り出した。意識が跳びかける男と、唖然とする密猟者達。
『ゲフッ‥主任か先輩と言いなさいと言ってるでしょ?あと抱きつくにしてももっと優しく‥』
『だって御主人様ぁ~』
拒む男と猫の様にベタ着くカノク。そんな2人を見てチビが口を開く。
『ロリコン‥てか犯罪者?』
『断じて違います!!‥ん?』
其処で漸く男は今の状態に気付く。バグの死体、臨戦態勢の部下、そして4人のハンター‥
『あぁ密猟者ですか?』
男はそう言ってニヘラと笑った。
最終更新:2013年02月26日 16:24