集会所にて
結果
結果…
ババコンガ亜種及び全てのランゴスタ、ランゴスタクイーンの討伐完了。その後、畑の周りをもう一度見回ったが特に異常なし。
これにてクエスト完了とする。
「これで良し…と。」
簡潔な報告書を書き上げ、カウンターに居るメイドさん(メイド長にあらず)に提出する。
あの後、ボス猿やらの処理を終えた所で赤団子とルォヴが帰って来たので、簡単な見回りを終えて三番目へと帰還した。まぁ報告書の通りだな。
少々イレギュラーが有ったが、昼過ぎに帰ってくる事が出来た。
因みに他の三名は自室にて後処理中…そして集会所内にメイド長の影はなく、今朝の依頼人が1人隅の席に腰掛けている。
…やるなら今しかないな。
余り目立たないよう、ごく自然に村娘の対面へと腰掛ける。
「どうにか、終わりました。」
可能な限り深刻そうな顔で村娘に話し掛ける。
「本当ですか?」
「えぇ貴方の村はもう大丈夫です。」
その言葉を聞いて村娘は安堵の表情を浮かべた。直後、何かに気付いた様にバッと顔を上げた。
「お連れの方々は…」
「…」
その言葉に俺は無言で返す。あいつらは全然ピンピンしている訳だが、こうした方が深刻さがますだろう。
「そんな…」
そんな俺の態度を見て、村娘は大変都合の良い解釈をしてくれた様だ。
「仕方無い事です。これが私達の仕事ですから。」
「…はい。」
実に純粋だな。だから俺みたいなのに引っ掛かる訳だが。
さて、彼女がすっかり信じ込んだ所で本題にはいるとしよう。
「で、報酬の件ですが…」
そう切り出した瞬間、村娘はビクッと顔を上げ、オロオロと自分の首飾りを見た。
やはり未練があるのだろう。到底村娘が買える様な代物ではない。きっと肉親の形見か何かなのだろう。
そんな物を報酬として払わせようとしているのだ。非常に心が傷む…笑ってしまう程に。
「ありがとう…ございました。」
村娘はゆっくりと首飾りを外し俺の前に差し出…
『何やってるんだ?』
ヒョコッと村娘と俺の間に赤いちょん髷が現れた。
何故…何故このタイミングで出てくるんだコイツは!!
「え?…えぇっ!?」
俺と赤髷の面を交互に見て困惑しだす村娘…いやまて今ならまだ誤魔化しが効…
「何騒いでるの?」
背後で揺れる見覚えのある金髪…このタイミングでクイーン襲来とは、完璧にチェックメイトだな、俺。
「ねぇダディ~」
「い、一体」
「どう言う事だ?」
あぁ…どうしよう。
誤魔化せない
疑問符、困惑、殺意、三者三様の表情が俺の前に並ぶ。しかし、俺を見て即殺意の表情になるメイド長は少し酷いだろう?…まぁ実際に悪い事してる訳だが…
「何を、しているのかな、ダギィ?」
メイド長が言うと共に防具の両肩がメシメシと軋む…後で修理に出さないといけないな。
なんで事を考えている場合でじゃない。どうにか誤魔化さなく…
「ん?あぁ、そう言う事ね。」
何かに気付いたメイド長、その視線の先には村娘の首飾りが…
「どうせ適当な嘘吹き込んで、この子からこの首飾りを巻き上げようとしたんでしょ?」
流石メイド長!!恐ろしい洞察力!!
「え?嘘なんですか?」
えぇ嘘ですとも、残念ながら其処の赤髷同様馬鹿2人も生きてますとも。
「ねぇダディ何の話し?」
五月蝿い、餓鬼は黙ってろ。
「兎、に、角!!」
メイド長が俺を片手で持ち上げる。あぁ…意識が遠退く…
「お客様は始めの提示額以上払う必要は御座いません。この馬鹿は私が後で責任を持って締め上げますので。」
いや、現在進行形で絞まってる。主に頸動脈的な物が…
「虫駆除だけで幾ら巻き上げるつもりだったのかしら?」
メイド長が更に腕に力を込める中、俺はある事を思い出した。
「ちょ…まて、虫だけじゃな…猿も居た…ぞ。」
「本当にぃ?」
「本当だよ。」
「あ、そぅ。」
赤髷の言う事をあっさり信じて手を離すメイド長。あと数秒で死ぬところだったぞ、おい。
「あのままじゃ村は危なかったと思うよ。」
「そうなの…」
真剣に赤髷の話を聞くメイド長…追い風が吹いている今の内にメイド長を丸め込まなくては…
「しかもババコンガの亜種だ。あの報酬じゃ割に合わないと思っ…」
「
モンスターを討伐したら別途に報酬がでるでしょう?第一一般人を騙すと言う性根が気に入らない…」
メイド長が俺の首をへし折ろうとした瞬間、
ガタッ
今まで黙っていた村娘が立ち上がった。
「は、ハンターさんは私の村を守ってくれたんですよね?」
「そうだよ。」
俺の代わりに赤髷が応える。
「ならこの首飾りは差し上げます。ハンターさんのおかげで私の村は助かったんですから。」
精一杯の笑顔で村娘が言う。
本当は大切な首飾りなんだろうに強がっちゃって…
健気に笑顔まで造っちゃって…
もっと反抗された方が心置きなくブン獲れるのに…
「…やっぱり結構だ。よく見ればそれは貴女にお似合いな安物だ。そんな物じゃ晩飯代にすらならない。」
箕虫
そんな少々格好付けた台詞で村娘を集会所から追い出し、どうにか事なきを得た…と思ったんだが…今の俺の状態を一言で言うと箕虫だ。しかも逆さまの。
あの後、俺はお怒りなメイド長に逆さ吊りにされたのだ。
「麗しきメイド長殿、そろそろ許しちゃくれないか?」
「…」
俺の言葉など聞こえないかの様に、雑務に勤しむメイド長。あぁ…いい加減死にそうなのですが…
「またですの?」
「アホが居る。」
そんな俺を見ながらクスクスと笑う馬鹿二名。…非常にぶん殴りたい。
「また?」
馬鹿2人の隣で飯を食いながら赤髷が言う。
「コイツは良く依頼人から報酬をぼったくるねん。」
「その上ドケチなんですわ。」
「そうなんだ…」
若干失望した様な目で此方を見上げる赤髷…甘いな、大人はだいたい穢れている生き物なのさ。
「まぁ悪ぶってるけど根は善人やからね。依頼人が女子供やと結局優しさを見せたりするんよ。」
「本当!!」
「えぇ、まぁ要するに中途半端なのですわ。」
何故其処で嬉しそうな顔をする。ニヤニヤした面で此方を見るな馬鹿共が…
どうにかして馬鹿共をどうにかしないと更に餓鬼に懐かれる事になる。正直、赤髷にあってからロクな事がないからな…
なんて事を考えていた時、
ブチィッ
足下からの嫌な音
急激にスライドする馬鹿共の顔
そして
『アガッ!?』
頭を襲う衝撃。
「もう夕方よ?もうピーク時なのよ?自分が邪魔な事理解してる?」
苛々しながらメイド長が言う…いや、アンタにやられたんだが?
「ほらさっさっと退く。」
メイド長が俺を蹴り飛ばしテーブルに着かせた後、奥へと引っ込んで行った。…正直もう少し優しさを見せてもバチは当たらないと思うんだが。
まぁ兎に角…
「赤髷、紐切ってくれ。」
「は~い。」
ジョキンッ
バラバラに切り裂かれる太いロープ達…あぁ漸く楽になった。とりあえずは…
「A定食を頼む。」
「判りましたニャ。」
手近な給仕猫に質素な晩飯を注文する。…さて飯が来るまでに一服しますか。
…しかし、
「何でお前らの晩飯はそんなに豪華なんだ?」
明らかに2人分より多い晩飯がテーブルに並んでいる。何か祝い事か?
「あんさんホンマに人の話聞かんよね?」
「全くですわ。」
ヤレヤレと首を振る2人…勿体ぶらずに早く言え。
「団長さんが帰って来るんでしょ?」
『その通り!!』
赤髷の言葉に2人がビシッと答える。
あぁ…アイツが帰って来るのか。
団長について
「さて俺らも準備しましょか。」
「ですわね。」
そう言って酒やら何やらを準備をしだす2人。
「ダディは手伝わないの?」
赤髷がそんな事を聞いてくるが俺には手伝う義理がない。何故なら…
「俺は猟団に入ってないからな。」
「そうなんだ。」
そうだけ言うと赤髷は晩飯を食べるのを再開し、再び此方を見た。
「団長ってどんな人?」
赤髷がモグモグしながら言う。…食事中は黙っていて欲しいんだがな。
「名前はリィナ・シュウだ。ここ三番目を狩の拠点としてるが各地に団員がいるらしくてな、定期的にフラッと居なくなるんだ。」
「特徴は?」
…次々質問をするのは子供特有の病気みたいな物なんだろうか?
しかし、アイツの特徴…
褐色の肌にスラリと伸びた長身、長い黒髪を量側頭部と後ろ髪で三つ編みにしている。
スタイルは胸以外は完璧、メイド長に次ぐ美人と言われている。
等々色々な特徴が有るが一言で言うと…
「男前だな。」
「…男なの?」
「いや、女だ。まぁなんと言うか男より女にモテるタイプの女なんだよ。」
実際奴の猟団はリケ以外の団員は皆女である。
「因みに団員が皆団長に惚れてると言う奇妙な集団だ。」
「じゃあリケさんも団長さんが好きなの?」
「いや、あれは別だ。異性として、と言うより憧れに近いな。それにリケはルォヴの旦那だしな。」
「うぇっ!?」
赤髷が食べ掛けの肉をポロリと溢す。あぁ行儀が悪いな…
「アイツラのフルネーム知らないのか?」
赤髷の口をナフキンで拭きながら尋ねる。
「知らない。」
「リケ・ベスターとルォヴ・ベスターだ。」
「そうなんだ。」
水を飲み干しながら赤髷が言う。
「でも団員は皆団長が好きなんだよね?」
「そうなんだが、なんと言うかな…好きなんだが愛する、ではなく愛でる対象らしい。」
「どう言う意味?」
「知らん、本人に聞け。」
そんな事俺が知る訳がない。だいたい俺は胸のない奴と馬鹿力な奴には興味がないのだ。
「男より女にモテて…団長で…リケさんとルォヴさんは夫婦で…団長は男前…??」
一度に大量の情報を取り入れたせいか、口をモグモグさせながらウーンと頭を捻る赤髷。自分自身も男装しているのに変な奴だな。
「まぁ会って話して見れば解るだろうさ。」
「そうなのかな?」
納得いかなげに首を傾げる赤髷。とりあえず無視して食前の一服をしますかね。
カララン♪
「帰ったぞ~♪」
どうやら帰って来なさった様だ。
集会所の外では(ウキウキな団長)
荷車から降りて慣れ親しんだ物々しい街の門を潜る。
相変わらず空気の悪い街ね…でも、やっぱり此処が一番落ち着くわ。
えっと…私の名前はリィナ・シュウ。元々は各地を放浪する根無し草のハンターだったのだけれど、気付いたら猟団の団長になっていたり…
ただ困ってる所をちょっと助けただけなのに、ドイツもコイツも人の事を『姐さん姐さん』と。私の方が年下なのに…
しかも私に付いて来るのは女ばっかり…胸以外は結構良い女だと思うんだけどなぁ…
ハァ…
そんなこんなで猟団の長なんかに成っちゃったから根無し草は卒業で拠点を構える事になったから、此処三番目を拠点にしたの。
理由は色々。
まず此処には困ってる人が多い。ハンターである以上人の役に立たないとね。
次に竜が多い。竜が居ない所にハンターは要らないもの。
そして最後に、コレが一番肝心で一番個人的な理由…
この街に…
何と言うか…
気になる人が居るのだ。
偶々この街の防衛戦に参加した時に同じチームを組んだの…その時に…その…惚れたのだ。
あっちは私に全く興味が無いみたいだけど、相手はずっと独り身…まだ十分私にもチャンスがある!!…と思う。
「何だかご機嫌ですな、リィナ殿?」
隣の猫が私に言う。
このアイルーは、旅先から三番目に案内して欲しいと言われ此処まで連れてきたのだけれど…一言で言えば変な猫。語尾がニャじゃないし、なんか黄色いし…
でもそんな奇妙な猫君の言う通り今の私は超ご機嫌、だってだってもうすぐあの人が居る集会所に着くのだから!!
「気のせいじゃない?」
でも口では否定しておく。なんだか恥ずかしい、他人に言う事でもないし。
『もうすぐ集会所です姐さん。』
連れの2人が同時に目の前の改築され過ぎた建物を指差す。
あぁ、そんな事言われなくても解ってるのに!!
何のために肉食竜の巣で無双乱舞を繰り広げたと思ってる!?…それは1分でも早くこの街に帰って来るため!!
集会所の場所どころか後何秒で着くかまで記憶済みよ!!
「やっと着いたわね。」
表向きは冷静に、内心はウキウキしながら古びた扉に手を掛ける。
カララン♪
「帰ったぞ~♪」
扉の先には見慣れた風景と見慣れた顔。テーブルの隅にはあの人、そして赤い髷。
ん…赤い髷?
今明らかに記憶に無い誰か、女が彼の隣に…
待って、もう一度冷静な気持ちで確認を…
「ダディ、あれが団長さん?」
私の頭の中で何かが切れた。
騒がしい夜
踵落とし
「ダディ、あれが団長さん?」
そう言う赤髷の視線の先には見知った顔がある。
「あぁアイツが団長のリィナだ。」
そう、なんだが…なんか怒ってないか、あいつ?
そう思った瞬間だった。
「ダギィゴラァッ!!」
リィナが食事時でごった返す人波を一足で飛び越した。そして跳躍の反動で振り上げた踵をそのまま俺の顔面へ…って!?
「アブねぇ!!」
寸での処で殺人的な踵落としを両手でガードする。あまりにも華麗な跳躍だったので一瞬惚けてしまった。
「いきなり何しやがる絶壁!!」
「お前アレか?人に靡かねぇと思ったらそう言う趣味かコラ!?」
ギチギチと軋む両手と踵…と言うかコイツは何を言ってるんだ?全く会話が成立しないんだが?
「そんな小さい子を…恥を知れ、恥を!!」
絶壁の視線の先には赤い髷…あぁ、そう言う事か。
「お前が何で怒ってるのかは知らんが…何を勘違いしたのかは良く解った!!」
「何が勘違いだって!?」
「其処の赤いのは男だ!!」
この台詞を聞いて、赤髷の格好を見た絶壁の動きがピタリと止まった。
「お…男?」
俺の頭を潰さんしていた踵がストンと地面に落ちる。まぁ本当は女な訳だが、とりあえず落ち着かせる為にこう言っておく。
「そっちの趣味かよぉ…」
何やら変な事を呟きながらへたり込む絶壁…こいつは俺の事をどうしても変態にしたいのだろうか?
「ダディ、僕は女だよ?」
「俺が説明するからお前は黙ってろ。」
赤髷を適当に言いくるめて、屈み込む絶壁に事の経緯を説明しますか…
そして数分後…
人の説明の途中に三回程暴れだした絶壁を団員達にどうにか抑えてもらいながら説明をし終えた。
「なぁんだ。そうだったんだ。」
茶を啜りながら1人頷く絶壁…なぁんだ、ではない。とりあえず貴様の勘違いのせいで半死にになったリケに謝罪をすべきだろ。だいたい…
「何でいきなり蹴り掛かって来た?」
「そ、それはずっと独り身だったアンタがちっちゃい子と一緒に居たから…その、手を出したと思って…悪かったよ。」
ゴニョゴニョと口ごもる絶壁…ふざけろ、俺は餓鬼にもお前の様な絶壁にも興味は無い。
「人を変態扱いか、おい?」
「悪かったって言ってるだろ!?」
ガタンと椅子を蹴り立ち上がる絶壁の前にリケが割って入る。
「まぁ姐さんも反省してますし許してや、な?」
一番の被害者がそう言うなら仕方がない。とりあえず…
「お前は割れた額を手当てしてこい。」
「へ?」
自己紹介
額が文字通り出血大サービスになっているリケを自室に放り込んだ後、再び食堂のテーブルへと帰って来た。あぁ、俺の晩飯が完璧に冷めてやがる。
「ダギィ、そんな冷めた飯喰ってないで此方で一緒に喰おうぜ?」
そう声を掛けてくる絶壁…誰のせいで飯が冷めたと思っているのか?
「良いのか、猟団の宴会なんだろう?」
「さっきの詫びだよ、詫び。」
まぁ飯を奢ってくれるならなんだって構いはしない。
「じゃあ皆揃ったところで始めるとしますか!!」
不憫なリケ…お前の分まで俺がしっかりと楽しんでやろう。
『イタダキマス~』
一同が一斉に食事に手を伸ばす。そしてさも当然の様にその輪の中にいる赤髷…まぁ俺には特に関係ないので放置しておく。
「ダディ、猟団ってこれで全部なの?」
そんな事を俺に聞くな。
「各地にあと何人か居るわ。」
『合計21人です。』
俺の代わりにと絶壁と+αが答える。
「序でに自己紹介もしとけ。」
「僕はミーユ・ロッタ!!」
「私はルォヴ・ベスターですわ。」
いや、お前らは初対面じゃないだろう。
『私は…』
「自己紹介の時くらいは別々に喋れ。」
何時もの調子でステレオで自己紹介しようとする二名に突っ込む。
「はい、右オサゲから。」
そう言って右側にオサゲがある方を指差す。
「私はべル・アリー。」
「はい、左オサゲ。」
次に左側にオサゲがある方を指差す。
「私はディーチ・アリー」
『よろしく。』
因みにこの二名は姉妹であるが外見が酷似している。見分ける方法は三つ編みが右にあるか左にあるかを見るしかない。その上基本的に2人同時に喋るので面倒な事この上無い。
「さてと…」
団員の自己紹介が終わったのを見計らって絶壁が小さく咳払いをする。
「私が団長のリィナ・シュウ、よろしく!!」
そう言ってニカッと笑う絶壁。
「よろしく!!」
赤髷もニカッと笑う。
とまぁ、自己紹介も終わり雑談混じりの宴会が再開した時だった。
「あぁ~疲れた。ちょっと飲み物くれない?」
不意に現れるメイド長…裏に戻って休憩すれば良いものを。
「はい♪」
そんなメイド長に近場に有ったカップを適当に手渡す赤髷…はて、あのカップの中身はなんだったか…
今テーブルにあるカップは赤髷の物以外全て酒、つまりメイド長が手渡されたのは…!!
「ちょっとまっ…」
ゴクンッ
あぁ…飲みやがった。
本日の飲み会はコレを持って終了となり、今から見るも無惨な血祭りが…
定食とトースト
台風一過
「ぅ…ぬぁ。」
全身を駆け巡る鈍い痛みがボヤけた意識をズルズルと覚醒させる。先に言っておくがこの鈍痛は昨晩飲み過ぎたから…とか言う可愛い理由ではない。
目が覚めたのに未だに真っ暗な視界に対して蹴りを繰り出すと、ガラリと目の前の黒が崩れた。
そして黒の代わりに変わり果てた集会所が現れた。
しっかし…
「また派手にやったな…」集会所の中は正に死屍累々。誰がこんな惨状を造り上げたかと言うと、我らがメイド長様である。
アレはほんの少しでもアルコールが入ると嵐の如く暴れるのだ。
更に質が悪い事に翌日ベッドで目を覚ます本人は一切その事を覚えていない。
此処で更にもう1つ問題が発生する。
誰が修理費を払うのか?
答は簡単、被害を受けた我々が損害額を払わされるのだ。あぁ、なんたる理不尽。
その証拠に天井に突き刺さっているモジャ髭や壁から生えている紫毬、更には瓦礫の山に埋もれていた俺に至るまで全員に「請求書」が貼り付けられている。
酔ってまで職務を全うするとは脱帽もんだな、まったく。
因みに酔っても女性には手を出さないので『酔ったフリをしてストレスの発散してるんじゃないか?』との説も有るが真偽は定かではない。…面と向かってそんな事を聞いたら挽き肉にされかねんしな。
とりあえず朝飯を食うために比較的被害の少ないテーブルへと腰掛け、片付けをしている給仕猫を呼びつけた。その時、
カラン
「おはようダギィ、昨日は散々だったみたいね?」
そう言って集会所に入って来た絶壁と+α。
「たまには助けてくれても良いんじゃないか?トーストとコーヒーを頼む。」
「嫌だね、そんな繁殖期の雌火竜に喧嘩売るような行為。私はC定食ね。」
『私もそれで。』
そんな事を言いながらテーブルの対面へと腰掛ける三名。
「朝からC定食とは、豪勢だな?」
C定食とはパンとサラダ、そして肉たっぷりと言うシンプル且つちょっぴり豪勢な定食である。お値段850z。
「人間食が基本、特に朝飯は肝心だろ。」
「ふぅん…良いもん食ってる割に体の一部に栄養が行ってない様だが?」
「黙れ変態。だいたいお前は毎食貧相過ぎんだよ。」「俺は常に金欠でな、今朝は尚更だ。」
そう言って俺は絶壁の顔の前でヒラヒラと請求書を振って見せる。…よく見ると酷い額が書いてあるな、コレ。
「そんな憐れなアンタに良い依頼の話が有るんだけど、どう?」
そう言って絶壁はニヤリと笑って見せた。
儲かる依頼
「良い依頼?」
この集会所には三種類の依頼が来る。
1つは毎日の様に村人が直談判にくる切羽詰まった依頼。報酬は酷く安い。
もう1つはギルドが斡旋する依頼。報酬はピンからキリまで。
前者は決して割が良いとは言えない。後者はクエストボードに貼ってある訳だが、今朝は割の良さそうな依頼は無かった。
と言う事は最後の1つか。
「もうそんな時期か?」
「アンタがくだらない事をしている間にも時は流れてんだよ。」
絶壁がそう言った時、ちょうど朝飯が運ばれて来た。
「そうか…」
少々焦げたトーストをかじりながらぼそりと呟く。
もう1つの回されてくる依頼とは此処三番目特有の物だ。内容はモンスター共に占拠された二番目の街までの大通りの障害の駆逐。
要するに二番目の街までの大掃除だ。
この依頼は月に一度ギルド側から出され、倒しモンスターに応じて報酬が増える。腕が良ければ幾らでも儲けられる訳だ。…訳だが、
「何故俺を誘う?」
「リケが昨日の怪我で動けないのよ。」
『ルォヴはその看病。』
肉を頬張りながら三人が言う。あぁなるほど、あいつら夫婦だしな。
「そこで、仕方無いからアンタを誘ってやるって言ってるのよ。」
フフンと此方を指差す絶壁。こいつらは少し馬鹿だが、ハンターとしての腕はなかなか、それにくっ付いて行くだけで良いので確かにこれは美味しいお誘いだ。
だが、個人的な理由で俺はあの街には近付きたくない…
カララン
そんな時、宿舎側の扉から赤いボサボサ髪が這い出てきた。
「ダディ…ご飯~。」
どうやら飯の臭いに誘われて出てきたみたいだな。
「行くの?行かないの?」
余所見をする俺を急かす絶壁…そうだ良いこと思い付いた。
「よし、その依頼受けよう。」
「ヨッシャ!!本当だな?」
何故だかガッツポーズをする絶壁。喜んでるところ悪いが人の話は最後まで聞け。
「あぁ、本当だとも。ただしコイツがな。」
俺はそう言って赤い毛玉を絶壁の前へと突き出した。
「うにゃ?」
「はっ!?」
それぞれ違った反応をする2人。
「ダギィどう言う事だ!?」
「どうもなにもそう言う事だ。俺は行かん。今日はやることがあるんでな。」
俺はそうとだけ言い残し、絶壁+αと赤毛玉を放置して、そこら辺に埋まっている請求書が貼られている奴らの方を向いた。
「さて借金の肩代わりでもしてもらいますかね。」
後ろで何やら叫んでいる声を無視して俺はボード盤を手に取った。
団長と赤髪と
移動中
座り心地の悪い酷く揺れる荷車の中、目の前に居るのは見慣れた仲間と赤い毛玉…
あぁぁああぁぁ!!
チクショウ…せっかくダギィと一緒に狩に行けると思ったのにぃ…なんで今私の前に座ってるのは赤い毛玉なのさ!?
武器は駆け出しハンターが使うような片手剣だし、頭だけガンナー装備だし、何より小さ過ぎ…どう考えても足手纏い。
だいたい何でこんな子供がハンターなんか…暇だし聞いてみようか。
「えっと…ミーユ?」
「何?」
赤い毛玉が必死に髪を纏めながら此方を見る。
「何でアンタみたいな子供がハンターなんかやってんだ?」
私がそう聞いた瞬間、毛玉の瞳がキラリと輝いた。
「僕はパパみたいなハンターになりたいんだ!!パパはもうハンターじゃないけど昔は強くてどんな相手でも…」
此処から数分程少女の父親の話が続いた。少女は終始夢中でキラキラと瞳を輝かせていた。でもその内容は全て人伝に聞いた話な上俄には信じがたい話もチラホラ…
「…だから私も立派なハンターになりたいんだ。」
でも少女はそれらの話を微塵も疑う事無く私に聞かせて見せた。
あぁ…やっぱりこうでなくちゃね。ハンターはどこぞのゴロツキ達みたく金の為に成るんじゃなく夢と理想の為に成るものだ。
「良いね、気に入った!!」
そう言ってミーユを引き寄せた。
「え、何?」
燃え盛る様に赤く、大人の手ですら余る程の長い髪…私には負けるけど良い髪じゃない。とっても遣り甲斐がある。
「フッフッフッ…かっこいい髪型はコレって決まってるのさ!!」
「えっ!?」
困惑するミーユは無視して…長い髪を三束に分け、それを1つに編み上げる。
見事に編み上がった赤い髪…我ながら惚れ惚れする出来ね。
「ん、完璧♪」
『さ、どうぞ。』
私が言うと共にアリー姉妹がミーユに手鏡を差し出した。
「おぉ!!」
ミーユは鏡に映った姿を見て子供らしい反応をする。
「コレかっこいい!!」
「そうだろうそうだろう。何故なら髪型は…」
『三つ編みこそ至高!!』
「おぉ~!!」
ミーユがパチパチと拍手をする。…肝心な台詞を奪われたけどミーユが気に入ったみたいなので良しとしよう。
「今日はよろしく、ミーユ。」
『よろしく。』
「よろしく団長!!」
当初の思惑とは全然違っちゃったけど、これはこれで楽しい1日になりそうじゃない。それと…
「私の事は団長じゃなくてリィナかお姉さんって呼びなさい。」
「わかった、姉御!!」
…何でさ?
オッサンと奇妙な猫
ボードゲーム
「第三回、修理費肩代わり大会~」
『ィェーィ…』
俺の掛け声に合わせてオッサン共が死人の様な声を出す。
今から何をするかと言うとメイド長に被害に有った面々がボードゲームを、し修理費の擦り付けあいするのだ。
ボードゲームは一対一で、それぞれが様々な武器を持ったアイルーとメラルーのを模した駒を取り合うのだ。そして先に王様を奪った方が勝ちと言うイカサマのしようがないシンプルな物だ。
「おら、やる奴はサッサッと相手を探せ。」
相手は適当に合意をとり決める。勝った方は修理費がチャラになり、負けた方は負債が倍になる。正に生きるか死ぬか。
「勝負だダギィ!!」
俺に勝負を仕掛けて来たのは紫毬、
「よし、良いだろう。」
そして互い駒を並べゲームを始める。
因みに俺はこのゲームをやるさいに1つ心掛けている事がある。それはギリギリで勝つ事。
次何時メイド長が暴れるとも限らないので相手には自分を弱く見せる必要がある。
「今日こそは勝つ!!」
そうする事で毎回鴨が向こうからやってくる訳だ。
そして十数分後…
「ま、負けた…」
ガックリと項垂れる紫毬。
「ふぅ、危なかった。」
口だけではそう言っておくが、実際の所楽勝である。
盤上の手駒は相手の半分以下だが、正直紫毬相手ならこの半分でも十分に勝てるな。
「んじゃ、がんばれよ。」
紫毬のデコに請求書を貼り付け、俺は離れたテーブルに腰掛けた。
「其処の御仁、小生と一勝負如何かな?」
不意に響く声の方には黄色い猫…身形からしてギルドの関係者じゃ無さそうだな。しかし…見るからに変な猫だな、語尾がニャじゃないし。
「もし付き合ってくれるならば今宵の晩酌は小生が一杯奢るが?」
「お付き合いさせて頂こう。」
ただどれほど怪しかろうがそんな条件をだしてくれるなら断りはしない。
「いや有難い…ただし手を抜かぬでくれよ?」
ギロリと丸い瞳が此方を睨む…この猫さんは何を仰るのか?
「勿論だとも。」
これはただの暇潰しなのだから本気に決まってるだろうに。
団長と赤髪と
森と渓谷
荷車を降りてからはや2時間…
「今日は小物ばかりね。」
愛用の大剣を研ぎ直しながらそう呟く。現在の成果は鳥竜種の群れのみ…物足りないなぁ。
『そんな物ですよ。』
アリー姉妹がそう言ってくれるけど、今日は少し暴れたい気分なのよね。それにまだもう少しあの子の動きを見てみたい。
「むぅ♪」
今は弁当の肉なんか頬張っちゃいるけど彼女の戦い方は少し特殊。装備してるのは
片手剣だけど、クルクル回ったり両手で攻撃したりと動きは双剣みたいに見えたり…
単に師が居ないのか、何か意味が有ってなのか少し興味をソソられたり…
それを確める為にはランポスみたいな雑魚じゃなくて、もう少し骨のある相手じゃなきゃ。
『で、どうしますか?』
弾の補充が済んだアリー達が尋ねる。彼女達が聞いているのは更に進むのか、もう帰るのかと言うこと。
今までの道は渓谷に木々が少々繁っているけど視界はそれなりに確保出来るまずまず戦い易い道。
けれどコレからの道はかなり厄介…道幅は広がるけど足下には微かに水が流れているし、そのせいで樹が生えまくっていて視界は最悪…
別に私達だけなら問題無いけど今日はミーユが居る。実力が判らない以上連れて行くかどうか…
『姐さん。』
「待って、今考え中…」
『いや、姐さん。』
「もう…何さ?」
『ミーユが居ませんが?』
「はい?」
先程まで赤い三つ編みの有った場所を振り返ると、ミーユの代わりに白い骨が転がっていた。
「…おトイレとか?」
『いえ、辺りには見当たりません。』
ボウガンのスコープで辺りを見回す2人の視線がある一点で止まった。
『あっ』
「ん、見付かった?」
『繁みの方に赤い三つ編みが消えて行きました…』
ハァ…どうやらあの子は勝手に森の方へ入って行ったみたいね。
「兎に角追いま…」
グォォォオ!!
人の言葉を遮って森から響くのは獣の咆哮と、
『うりゃぁぁあっ!!』
聞き覚えのある少女の雄叫び…
勝手に進むどころか私を差し置いて化け物に喧嘩売るなんてやってくれるじゃない?
「行くよ2人とも、あんな子供に先を越されたとあっちゃ女が廃るわ!!」
『ええ、その通りです。』私の言葉に2人が応える。
ジャコッ
背後から響く二重のリロード音、背中の相棒は先程研ぎ直したばかりだ。
「シャッ!!行くぞ!!」
『はい姐さん!!』
私達は森の中の特に激しく音がする方へ一気に駆け出した。
跳ねる影
鬱蒼と木々が生い茂る谷底に一歩足を踏み入れた途端に視界が夜の様に暗くなる。
そして暗さに目が慣れる前に木々の軋む音だけが此方に迫ってくる。黒染めの視界で右隅の樹が大きくねじ曲がって見えた。
「さがれ!!」
頭で考える前に体が勝手に背中の大剣を掴み防御の姿勢をとらせる。瞬間、
ドゴォッ
鉛の様な衝撃が大剣越しに伝わってきた。
そして大剣を挟んだ向こう側から獸じみた息遣いと、微かに鉄錆の臭いが漂ってきた。
「ダッシャァッ!!」
衝撃を圧し殺し、それが居るであろう場所目掛けて大剣を横に薙ぎ払う。が、手には空を斬る虚しい感触だけが残る。
外した!?
そんな事を悔やむ間も無く左上方から何かが蠢いた。暗闇になれかけた目でその方向を振り向くと…
ボンヤリとした視界に映るのは
大きくしなった大木
その先で不気味に此方を見据える黄色い目玉
その黒い鱗から僅かに覗く白い牙
蝙蝠を連想させるシルエット
「…迅竜!!」
口から溢れたのはそんな間抜けな台詞、振り切った大剣は奴が飛び掛かるより早く構え直すのは不か…
無様な思考を掻き消す様に、極限までしなった大木が弾けた。
暗闇を迫るのは黒い竜でも、白い牙でもなく…明確な死。
風圧で僅かに歪んだ迅竜の口元が何故か笑っている様に見えて無性に腹がたった。
そんなんで勝ったつもりなのかしら?
「ウダラァッ!!」
黒い顎目掛け振り抜いた右足が奴の顔を更に歪ませる。
だが所詮はただの蹴り、それが稼げるのは僅な時間のみ…でもそれで十分過ぎる。
「シャァッ!!」
穢い体が私に触れる前に、強烈な一撃をその顔面へとぶちこむ。赤に染まりながら歪んだ面が非常にお似合いで少し笑える。
『姐さん、私達は?』
「まださがってて、ミーユを見付けないと…」
私の言葉を待たずに迅竜が再び跳躍する。そんなに顔をグシャグシャにされたいのかしら?
「っぅりゃぁぁっ!!」
宙を舞う迅竜目掛け、小さな影が疾走する。赤い尾を引くその姿はまるで人魂の様に迅竜の顔面で真っ赤に爆ぜた。
人魂は盾の追撃でもって当然の様に迅竜を叩き落とし、小さく跳ね私の隣へと着地した。そして
「あ、久しぶり姉御!!」
なんて、暢気な事を宣う。
「何してるの?」
「トイレに行こうと思ったんだけど…」
あぁ、そう言う事ね。
「で、トイレは済んだ?」
「まだ!!」
「そう。」
もう少し恥じらいを持ってね。
「それじゃあさっさと済ませなきゃね?」
跳ねる赤
迅竜ナルガクルガ
猫と蝙蝠を掛け合わせた様な見た目に黒い体表、刃の様に鋭い翼、そして無数の棘を備えた尾を持つ飛竜。
素早くトリッキーな動きは所見のハンターを瞬く間に追い詰める。しかし、
「チョロい相手ね。」
『全くもって。』
残念ながら私は迅竜の相手をするのは初めてではないし、何匹か倒した経験がある。
だからと言って油断は禁物、それにミーユが奴の動きに着いていけるかも定かではな…
「うりゃぁっ!!」
威嚇中の竜に正面から突っ込んでいく赤い三つ編み。って何やってるのあの子!!
「アリー援護して!!あと私達に当てんなよ?」
そう言い残してミーユのあとに続く。
『お任せを。』
後ろからはクスリと笑う声が聞こえた。
先行するミーユ目掛けズルズルと地を這い迫る迅竜、それを見たミーユは更に加速する。そして迅竜の口が大きく開くと共に鼠花火の如く赤い三つ編みが跳び跳ねた。
ガキンと空を喰らう白い牙、その頭上では鼠花火がクルクル回る。
「りゃぁっ!!」
短い発生の後に火花を撒き散らし花火が爆ぜる。序でに苦痛に歪む顔面は吃驚する程隙だらけ。
「もいっちょ!!!!」
白い牙を磨り潰し、歪んだ顔は真っ赤に染まる。
迅竜は逃げる様に距離を取る。それに追撃を掛けようとする三つ編みの尻尾を掴み後退させる。
「ちょっと待った。」
「何で止めるの?」
不満げな彼女の疑問に応える様に二重の銃声が薄暗い渓谷に反響した。
そして間髪入れず直ぐ脇を無数の影が突き抜け、次々と迅竜に突き刺さった。
そして銃口は更に二重奏を続ける。雨霰に降り注ぐ弾丸から逃れる様に迅竜の体が跳ね回る。
『一歩右へ。』
「はいよ。」
三つ編みを掴んだまま大きく右へ移動すると、先程まで居た場所に迅竜が飛び掛かる所だった。無防備に誰も居ない場所へ強襲を仕掛ける迅竜の側面を瞬く間に小さな棘が埋め尽くした。
小さな呻き声を残し、緑の天蓋を突き破り黒い影が上空へと消え去る。
嫌にあっさりと逃げたわね。
「とにかく追うよ!!」
『了解です。』
さて奥に進もうかな…なんか一つ返事が足りない様な?
気付けば右手に掴んでいた三つ編みが消え去っていた。
「…ミーユは?」
『其処の茂みに入って行きました。』
「あ、そう。」
この状況でトイレに行けるなんて…
よっぽど肝が座っているのか
単に馬鹿なのか…
なんっとなく後者な気がするのは何故だろう?
弾幕
数分後…
トイレを済ましたミーユと合流し、この後の事に付いて考える。
この先暫くはジメジメとした道が続く。脇道は特に無く、グネグネと曲がりくねっているが一本道…
「とりあえず先に進むわよ。」
『はい。』
私の後ろに続きながら応えるアリーと、
「ふぁい。」
キノコを頬張りながら応えるミーユ…何時キノコなんか採ってきたのかしら?
突っ込むのは面倒だから放置して先へと進みましょ…
視界一面を埋め尽くす緑を切り払いながら谷底をザクザクと進む。
それにしても…
「何回来ても薄暗くて嫌になるわね。足下は水浸しだし…」
『ですね。』
その上視界が暗くて何処に奴が潜んで居るのかすら解らないんだから…いっそう焼き払った方がスッキリするんじゃないかな?
『姐さん…物騒な事考えてませんか?』
「そ、そんな事考えてないわよ!?」
いや、実際は考えてたけどさ。この2人は何故こんな息ぴったりな上鋭いのかしら?兎に角話題を逸らさなきゃ…
「と、ところでミーユは?」
『それなら私達の後ろに…』
後ろには誰も居ないわね。…って、
「ま・た・か!!あの餓鬼!!」
小さい人間を遠慮なく伸びまくった木々の中から探し出すのが如何に困難か理解してるのかな!?
「姉御、アレ。」
って…何で木の上なんかに居るのさ?でもってスコープなんか着けて何を見上げて…
赤い少女の黄色い瞳はスコープ越しにある一点を見つめていた。枝葉の隙間から僅かに見えるは崖の淵で踊る黒い影…
それはブンブンと尻尾を振るう迅竜に他ならない…ってヤバい!!
「ベル、ディーチ、前後に弾幕!!」
『はい?』
「良いからさっさと構える!!」
『ハイッ!!』
アリ達がボウガンを展開させた瞬間、迅竜の尻尾の先端から無数の棘が射出される。だが、飛翔する棘の群は検討違いの方へ飛んでいった。
「何処狙ってるんだ?」
呆けるミーユの頭を鷲掴みにし大剣の内側へと引っ張り込む。
「アンタはコッチ!!」
その直後四方へ飛散した棘どもが崖の壁面を直撃し、大量の岩の雨を降らせる。
「撃ちまくれ!!」
『!…了解!!』
アリー達が降り注ぐ岩目掛け引き金を引きまくる。
2人は共にヘビィボウガンを扱い、散弾を好んで使う。さらに彼女らの防具は散弾を扱う事のみに特化している。
だからこの程度の弾幕を張ることは容易…なんだけど流石に分が悪いわね。コッチは有限だけどアッチはほぼ無限…このままじゃ谷底に生き埋めね。
粉砕
どうする?
奴は崖の上、此方は崖の下、奴をどうにかして彼処から引きづり降ろさないと…
此処の崖は脆いから奴の足場を崩すせば…でもどうやって?
散弾じゃ彼処まで届かないし届いても足場を木っ端微塵にするほどの破壊力はないし…
「姉御、爆弾持ってない?」
ミーユも同じ考えに至ったのかな?でも、
「持ってないわ。だいたい爆弾なんか投げても彼処まで届く訳が…」
「じゃあこれ借りるね。」
ミーユはニコッと笑うと地面に突き立てた大剣の柄を掴んだ。
「それはアンタみたいなチビに扱える物じゃっ!?」
私の制止も聞かず、ミーユは大剣を構えグルグルと回り始めた。その様は鼠花火なんて比じゃない程に華麗で危険…って、
「どうする気だ!?」
少女の瞳孔がギュッと開き、瞳の黒と黄の割合が反転する。そして…
「こぅする気!!」
その一刀は放たれた。
降り注ぐ瓦礫、飛び交う弾丸、視界を覆う枝葉、その全てを切り裂き粉砕し迅竜の足下を文字通り木っ端微塵に破壊した。
砕かれた岩盤と共に崖を滑り落ちる迅竜…と落下する私の相棒。
「私の大剣がっ!?」
…なんて事言ってる場合じゃないか。
「2人とも!!」
『ハイ!!』
岩雪崩の除去に勤しんでいた2人の銃口が意地悪く岸壁にしがみ付こうとする迅竜へと向けられた。
無駄な事をするわね。今から岸壁共々粉々に成るって言うのに…
「奴を蜂の巣にしな!!」
『了解!!』
無数に撃ち出される弾丸の群は岸壁ごと迅竜を削ぎ落とし、抉り取り、貫いて行く。
「姉御、うえ!!」
不意に叫ぶミーユ、私の頭上には迅竜より一歩早く落下してくる相棒があった。丁度良いじゃない♪
凄まじい速度で落下してくる大剣の柄を容易く掴みとり、続いて落下してくるボロ雑巾の眉間に狙いを定める。
「まだ形を残してるのは褒めてあげる。まぁ…」
構えの姿勢、足場の確保、大剣を掴む腕にみなぎる気力…どれも完璧。
「今からグシャグシャにするからどうせ一緒か!!」
下段の構えから振り抜いた大剣は反撃に出ようとする迅竜の爪をすり抜け、真っ黒な眉間に食らい付いた。
奴の頭蓋に大剣が阻まれる感触が両腕に走る。この大剣の切れ味では奴の脳天を両断するのは不可能…だが、そんな事は問題ではない。
大剣とは切り裂く物ではなく…叩き斬る物だ!!
「ダッシャァァア!!」
大剣は奴の頭蓋と断末魔を一刀の元に纏めて斬り砕く。
「ちょっとあれだけど…一刀両断って奴ね。」
オッサンと奇妙な猫
決着は…
此処は夕飯時を迎えた集会所…
日はドップリと暮れ、集会所の片隅には明暗がはっきりと別れた男どもが飯を食っていたり嘆いていたりする。
まぁそんな事はどうでもいい、今問題なのは…
「強いな、猫君。」
「そう言う貴殿もなかなかで御座るよ。」
どの口がそんな事を言うのか?
俺は今朝受けたこのゲームを今尚続けいる…いや、続けさせられている。
無論俺が手を抜いている訳ではない。この黄猫の方が確実に俺より数段強い。
だと言うのにケリが付掛けたら手を抜き優劣をイーブンに戻しやがる。いい加減おしまいにして欲しいのだが…
「もう止めにしないか猫君。」
「小生は別に構わんがその場合一杯奢るのは無しと言う事で…勝負を途中で投げるのですからな。」
その度にこう言ってニヤニヤ笑いやがる。
人の事を言えやしないが…コイツは性格が悪すぎる。もう晩飯なんかはどうでも良いいから一泡吹かせてやりたい。
カラララン
来訪者を告げる集会所の扉、其処に居るのは…赤髷と絶壁+αか。
帰って来た赤髷の目が此方を見付けた瞬間、メギョッと見開かれた。そうメギョッと。
「あ、ジュウベェだ!!」
そう叫ぶや否や人混みの中を跳び跳ねながら此方へ突っ込んできた。迅竜か何かかアイツは。それよりジュウベェって…
「良い暇潰しになりました、ホイ。」
そう言って打たれた一手は確実に僅かに逃げ延びていた盤上の王様の息の根を完璧に止めていた。圧倒的的過ぎるぜ、ジュウベェ…しかし、
「赤髷、ソイツと知り合いなのか?」
「うん、ジュウベェはムサシの姪なんだ。」
いや、ムサシとか言われても解らんのだが…姪って事は雌かコイツ!!
「自己紹介が遅れましたな。小生はジュウベェ、ミーユ嬢の保護者に御座います。」
保護者ねぇ…のわりに、
「ちょっとの間コイツの面倒を見させられたりした訳だが?」
「それは申し訳無い。一緒に此方に向かっておったのですが…途中ミーユ嬢と行商婆殿が雌火竜に拉致されましてな。」
あぁ、だから赤髷は空から降って来たのか。
「流石の小生も暫し途方に暮れまして…昨晩あの方に案内してもらい漸く辿り着いたしだいなのです。」
そう言って絶壁を指差す。…そう言えば昨日一緒に居たような気がするな。
「良かったな、再会出来て。」
「うん!!」
「えぇ、一安心です。」
ニコニコ笑う1人と1匹。
そうか、赤髷の保護者か。つまり…これで俺は晴れて自由の身と言う訳だ!!
オッサンと絶壁とメイド長
…なんて考えてた俺が馬鹿だった。
「アンタ、1人で何してるの?」
深夜の集会所の隅で1人項垂れる俺を見てそう話し掛けて来たのは、珍しく1人の絶壁。
「俺の部屋が乗っ取られたから避難して来たんだよ。」
「避難ってどう言う意味?」
「それはな…」
あの後約束通り夕飯を奢って貰った後の黄猫の一言に起因する。
『ご馳走さん。悪いな、奢って貰って。』
『いえ、これから世話になる身ですから。』
『世話…?』
『ダギィ、今日からその子も相部屋だから。』
『何だって!?』
黄猫ことジュウベェは既にメイド長を買収していたらしく、反論虚しく俺の生活スペースは先週の三分の一となった。
「別に良いじゃない相部屋ぐらい。私の部屋もアリー達と共用よ?」
「お前は何も知らないからそんな事が言えるのだよ。」
主に物理的破壊力を持ってそうな鼾をかく少女とか、尋常ではない何かを生成している猫とか…
兎に角、あの部屋で素面で眠るのは不可能だ。
「だからこうして、1人で酒を煽ってる訳だ。」
「じゃあ私も付き合ってやろう。」
「…好きにしろ。」
そんな訳でテーブルの上にグラスが1つ追加される。
「所でさ。」
「何だ?」
「あの子何者な訳?年の割に身体能力が異常だし、竜に対する恐怖心が無さすぎよ。」
「そうか?」
「そうよ。私の大剣遠投するし、正面から竜に突っ込むし。」
あぁ…確かにあの餓鬼は色々とブッ飛んでるな。
身体能力も、ハンターとしての技術も、五感の鋭さも。どれをとっても年相応には見えない…無論性格以外は。
しかしそんな事…
「俺が知る訳ないだろう。」
「それもそうか。」
投げ槍に答えてグラスを一気な空にする。…まだあの部屋で寝るには足りないな。
「誰か、お代わり頼む!!」
との俺の呼び掛けに応え奥からメイドが出てくる…ってアレは、
「あら、まだ飲んでたのダギィ?」
新しい酒を持ったメイド長が現れた。
「こうでもしないとあの部屋では寝れないんでな。」
メイド長のせいで此方は寝不足まっしぐらだ。
「あぁ、そうだったわね。ならコレを飲んでみれば?」
そう言って小さいグラスにチョビッとの酒を俺に突き出した。…これっぽっちで酔えれば何の苦労もしない。
「まぁ、貰えるもんは戴くが。」
舐める程度の酒を飲み干す…ほら何ともない。と思った途端、視界がグニャリと歪んだ。
最後に聞こえたのはメイド長の笑い声と、慌てる絶壁の声だった。
アルコールが見せる物
過度のアルコールと眠って暇になった脳髄が、重く閉じた目蓋の裏に何時かの幻影を映し出す。
高い高い塀が視界を囲む。空に聳えるのは人々の生活が有った街の残骸。その足元を徘徊するのは有象無象の化け物達と、独りきりの人間。
人間の右手には歪に伸びた赤い槍、左手には盾と言うのも烏滸がましい屑板が一枚。人間の持ち物はそれだけ。
そして人間は目に写る化け物に片っ端から襲いかかる。
一匹殺しちゃ腹を裂き。
二匹殺しちゃ臓物を引き摺りだす。
三匹目からは面倒だから生きた化け物の腹をカッ捌く。
ナイナイナイ此処にはナイ
幾ら殺しても切り裂いても探し物は見つからない。
ないないない其処にもない
化け物を殺して殺して探し続ける。見付かって欲しく無い探し物。
無い無い無い何処にもない。
コレだけ探しても無いのなら探し物は此処には無い。無いに決まってる。
探し物が無い、つまりそれはそう言う事だ。
ホッと肩を撫で下ろし、自分で作った屍の隣に腰掛ける。
焼かれ、砕かれ、蹂躙された廃墟の群はかつての栄華を微塵も残していない。その廃墟の隅に…
あった。見付けてしまった。
瓦礫から隙間で僅かに光を反射する小さな鉄屑。それは見付かって欲しくなかった探し物。
コレが此処にあると言う事はそう言う事だ。
認めたく無い現実が肯定されたと言う事だ。
化け物の様な声で廃墟の隅で泣き続ける。見付けた鉄屑を握り締め、認めたく無い現実から逃げ出したくて吼え続ける。
廃墟の群れ、積み上げた屍、残った化け物どもは涎を垂らしながら吼え続ける獲物の周りに群がってくる。
だから…
鉄屑を身に付け、使い物にならなくなった屑板を投げ捨て、くの字に曲がった赤い槍でただひたすらに殺し続けた。
高い塀の内側には化け物とも人間ともつかない断末魔が木霊し続け、屍の焼け焦げる臭いがゆっくりと充満していく。
そうこれは夢、何時かの記憶とアルコールが作り出す何時かの幻影を見ているに過ぎない。
だと言うのに…
鼻の奥にこびりついた幻影がさも現実であるかの様に消えないのだ。
誰か消してくれ
こびり着いて消えないこの異臭を
誰か消してくれ
永遠と垂れ流されるこの悪夢を
誰か消してくれ
目蓋の裏に焼き付いてしまったこの幻影を
消してくれ消してくれ消してくれ消してくれ消してくれ消してくれ消してくれ
誰か俺を消してくれ
激しく頭が痛い
頭痛?
- 何か酷く嫌な物を見ていた気がするが今はそんな事どうでもいい。
頭が痛い、尋常じゃなく痛い、まるで誰かに殴打されているかの如く痛い・・
だいたい俺は何をしているんだ?
そんな疑問とともにぼやけた意識を覚醒させる。
「ここは・・食堂だな。」
なんとなく思い出したぞ。昨日メイド長に酒と称した劇物を飲まされて意識を失ったんだったな。
「おはようダギィ、よく眠れたでしょう?」
そう言って現れたのは主犯のメイド長。
「よく眠れたも何も無いだろうに・・昨日何飲ませたんだ?」
「お酒よ。」
嘘を付け、仮に酒だとしてアルコール度数幾らにしたら大の大人が一口で卒倒するんだよ?
「ただ調合に失敗して処理に困ってたのよ♪」
それは俗に言うバクダンって奴じゃないのか?下手したら死ぬぞ?笑いながら言うメイド長が実に恐ろしい。
「その酒のせいで頭が痛くて仕方ないんだが?」
今も殴られているかの如き頭痛が止まないんだが。
「何言ってるの?」
もの凄く怪訝な表情を浮かべるメイド長。いや、
「なんでお前が不思議そうな顔をするんだ?」
「まだ寝惚けてるのなら顔を洗って来る事を薦めるわよ?」
そう言ってさっさと仕事に戻っていくメイド長。もう少し謝意と言うか、労わってくれてもいいと思うのだが?
まぁそんな事を人間兵器であるメイド長殿に言える訳も無く、仕方ないので顔を洗う事にする。
宿舎の供用の洗面所まで移動する間中頭痛は止むどころか激しさを増すばかり・・・しまいには”ガンガン”と幻聴まで聞こえてきた。
今度何かばれない様に仕返しをしてやらねば、と思いながら洗面所の鏡の前に立ち、鏡に映ったあるものに線を奪われた。
鏡の向こうには酷く顔色の悪い灰髪のおっさんと、その頭上でブンブンと拳を振り回す奇妙な面をつけた小人の姿が有った。・・・って
「何だテメェは!!!!!!」
日頃出さない様な大声をあげ頭痛の元凶に渾身のアッパーを叩き込む。
キィィィイイィ!!?
奇声を上げ小人が吹っ飛んだ。
うむ、会心の一撃。
奇面族
渾身の右アッパーを喰らった小人は軽く脳震盪を起こしたのかフラフラと鑪を踏んでいる。
アイルー程の二頭親の体、そしてカボチャみたいな奇妙な面…奇面族のチャチャブーだな。何でこんなところに?と言うかメイド長は本当に冷たいな。
何て事を考えている内に意識を回復させた小人が再び臨戦態勢になっている。
「さて、どうしてくれようか?」
コッチは丸腰だが、あっちも何故だか丸腰、やれない事は無いが…二日酔いだし、体も重いし、それに獣人は殺しちゃダメだしな。…あぁ面倒だ。
「むぅ…うるさいなぁ…」妙に体が重いと思ったらまた貴様か。だいたい何時背中に付いた?夢遊病かなんかか貴様は?…まぁ、今は丁度良いか。
「寝起きで悪いが頼まれてくれるか?」
「…なぁに?」
「彼処のチャチャブーを窓の外へぶん投げといてくれ、俺は朝飯を頼んできてやるから。」
「うぅ…」
眠気を振り払う様にブンブンと頭を振るう餓鬼…ペシペシと頭を打つ髪が非常に鬱陶しい。そして寝惚けていた眼が奇面族を見付けた瞬間シャキーンと見開かれた。そう、シャキーンと。
「解った!!」
元気溌剌に答えると俺の背中から跳躍し、起き抜けの格好のまま奇面族と対峙した。
「りゃりゃぁあ!!」
ギィィィィイ!!
ボッサボサの髪を乱し、四肢をフル活用し奇面族に襲い掛かる赤い毛玉…どっちが獣か解らんな。
まぁここはこのまま放置するとして、飯にしますか。
素手同士の筈なのにバチバチと火花を散らす毛玉と小人…そんな人外としか思えない餓鬼の両腕に翠色の腕輪がキラリと光って見えた。
餓鬼の癖に高そうな物付けてるな…なんてどうでも良い事を考えながらその場を後にした。
そして食堂で冷血非道のメイド長を発見、したので近い席に腰を掛ける。
「朝飯にA定食とコーヒー、それとあの餓鬼が食いそうな物を頼む。」
「はいはい。」
そう返事をして近くの給仕猫にオーダーを伝えるメイド長殿。さて、本題に入るか。
「メイド長殿、1つ言いたい事が有るんだが?」
「何かしら?」
「奇面族が闊歩してるとかここの警備体制はどうなってるんだ?」
「警備体制の話を1メイドの私にされてもね?」
実質街を仕切ってる癖に何を言っているのか。
「それに奇面族ごときに殺られるような柔なハンターは必要ないしね。」
カラカラと笑うメイド長。って酷い事を言うな…だいたい奇面族は下手な竜より強いんだが。
「あと新しい仕事が入ってるわよ。」
街での騒動
変な依頼
「仕事?」
メイド長が言い出すあたりろくな物ではないんだろうな。割も悪そうだ。
「仕事と言うよりギルドからの指令ね。報酬も飛びっきりよ。」
そう言ってメイド長が一枚の紙を差し出す。まぁ見るだけ見てみるか…
依頼主は…街の住民大勢?塀の中の住民がモンスターに悩まされるなんて事は皆無の筈なんだが…まぁいい。さて、問題の報酬は…
「30万z!?」
なんだこの法外な額は!?これだけあれば装備を一式新調出来るぞ!?
いや、落ち着け俺、きっと何か裏がある筈だ。
「ここの住民ってのは裏家業の方々で何かヤバい仕事とかじゃなかろうな?」
「いいえ、至って善良な市民の方々よ。」
ニコッと笑うメイド長。とにかく内容を見るか。なになに…
『街の至る所で奇面族が現れて困っている。何でも良いから奴らをどうにかしてくれ!!』
あぁ、なるほど。朝の一匹もその一団の仲間と言う訳か。一般人じゃチャチャブーの相手なんか絶対無理だしな。そして報酬は30万…
「メイド長、この依頼を受注したいんだが?」
「どうぞご自由に。」
「はい?」
なんか返事がおかしくないか?
ハンターの依頼は受注者の重複を防ぐためそれなりな手続きが必要なんだが。
「どういう意味か解る様に説明して頂けないか?」
「それは通常の依頼じゃないのよ。受けたければ誰が受けて構わないし、報酬は早い者勝ちって訳。はい朝御飯。」
そんな肝心な事を言いながらメイド長は朝飯をテーブルに並べた。ではイタダキマス…なんて悠長な事を言っている場合じゃない!
よくよく見れば何時も二日酔いでぶっ倒れているライやらブローやらの飲んだくれどもが居ないと思ったら…そう言う訳か!!
「何故それを早く言わない!!」
「聞かれなかったからよ。」
あぁ、駄目だ。メイド長なんかに文句を言った所で時間の無駄だ。トーストに適当にオカズを挟み、頬張り、コーヒーで一気に流し込む。そしてそのまま席を立つ。
「お代は?」
「ツケで頼む。」
「その場合倍の額を貰うけど?」
「構わんよ。」
何せ30万が手に入るのだから。
さてそうと解ればさっさと準備を済ませ…
「あ、何処に行くのダディ?」
「仕事だ。今すぐ出る。」
「僕も行く!!」
「30秒で支度して来い。」「解った!!ジュウベェも連れてくるね!!」
キキィッ!!
うむ、良い返事だ。人数は多いに越したことはないからな。…ん、キキィッって何だ?
赤い毛玉の上に見覚えのあるカボチャが乗っていた。
裏道へ
約一分後…
集会所の表に集合した訳だが…
俺と赤髷に黄猫、そして今朝のカボチャ…いや、どう見ても朝のチャチャブーなんだが。
「どういう訳だ、あれ。」
「小生にもサッパリ。」
俺の問にジュウベェが首を傾げる。
「おい、それも連れて行く気か?」
「駄目?」
捨て猫みたいな目で俺を見るんじゃない…まぁ、ここで放置して暴れられても面倒だしな。
「まぁ、暴れさせるなよ。」
「わーい♪」
クルクルと回って喜ぶ赤髷…しかし今朝は殺し合い、とまではいかないが結構激しい乱闘をしていた筈なんだがな。
まぁ邪魔しないんならどうでもいい。
「じゃあ行くぞ。」
「はーい♪」
元気良く返事をする餓鬼と獣人二匹を連れて街の隅へと歩いて行く。
「ダギィ殿、何処へ向かいますので?」
其処ら辺で乱闘を繰り広げる奇面族とハンター達を無視して脇道を全身する俺を、不思議に思ったのであろうジュウベェが問い掛けてくる。
「無視してよろしいので?」
「ローラー作戦で手当たり次第なんて効率が悪すぎるだろ?俺達は人数も少ないしな。それに報酬の額から考えて奇面族の数は10や20じゃない筈だ。」
「なるほど…つまり、何か秘策が?」
悪人っぽいニヤついた顔で此方を見るジュウベェ。それに対して俺は…
「あぁ、勿論。」
すこぶる悪人っぽい顔で返した。
そして数分後…
街の中心から離れ迷路じみた細い道を右へ左へを繰り返し漸く目的の場所へと辿り着いた。
周りの店は得体の知れない物の干物やら錆びすぎて何だか解らなく成った武器やら怪しい商品を置いている中、目的の店は小綺麗な弦楽器が並べてあった。
「楽器屋さんだ!!」
一番に店内へ入って行く赤髷とその頭上のカボチャ。
「此処が目的地なので?」
「そうだ。」
「小生には楽器屋に見えるのですが?」
「あぁ、表向きはな。」
俺はニヤリと笑みを浮かべ店内へと足を進めた。
店内も表同様、様々な楽器が並んでいた。そんなテカテカしたの光沢の中、
「ちょっと君だれアルか?それは触っちゃだ、アァーッ!?」
楽器で遊ぼうとする赤髷を止めようとする長い袖と裾の服を纏い、丸いシマシマの防止を被った語尾がインチキ臭い絵に描いたインチキ東洋人みたいなのがここの店主な訳で…
「あの方が此処の店主殿なので?」
「あぁ、存在から見た目から全て胡散臭いがな。」
捕まえようとする店主の腕をスルリとすり抜ける赤髷。
「ちょ、待つアルよ~!!」
アイン・リー楽器店
数分程赤髷を追い掛ける店主を眺めた後、いい加減飽きたので赤髷を捕まえて席に付かせる。
「もっと早く助けるアル。」
「面白かったんで、ついな。」
店主が機嫌悪そうに対面の席に付く。
「オホン…ようこそ私の城へ、私は店主のアイン・リー。此処は見ての通り流行らない楽器屋アル。」
異様に長い青髪の隙間から此方を…主に赤髷達の方を見ながらアインがニコリと笑う。
「僕は…」
「言わなくても知ってるアル。ミーユ嬢とジュウベェ殿アルな?」
ニヤニヤと赤髷を見るアイン。
「はい。え、え!?」
自己紹介する前に名前を呼ばれた赤髷が困惑気味に此方を見る。因みに俺が店主に話をした訳ではない。
これがコイツの趣味なのだ。
「餓鬼をからかうのはその辺で良いだろう。"仕事"の話をしたいんだが?」
「オーケー、お代の方は?」
「後払いで。」
「またなの?まぁちゃんと払うなら何でも良いけど。」
「何時も悪いな。」
さてとりあえず煙草に火を…と、非常に不思議そうな顔で俺とアインの面を交互に見る赤髷。
「何だ?」
「だって、語尾が??」
「アレが地なんだよ。まぁ子供は気にしなくていい。」
「???」
ますます不思議そうに首を捻る赤髷。
ここの店主アイン・リーは昔何かやらかしたらしく、その為こんな路地裏でインチキ東洋人の格好で流行らない楽器屋をしているらしい。
更に情報収集が趣味らしく金を払えば色んな事を教えてくれる。飛竜の出現場所から美人メイド下着の色に至るまで…まぁ結構な額をフンだくられる事になるが…
だから赤髷の名前を知っていて不思議ではない。因みに、その会話をするときは口調が地に戻るのだ。
「で、何の情報が入り用なの?」
「チャチャブー騒動の原因が知りたいんだが。」
「それは曖昧過ぎるわね。話が聞けるならまだしも、相手が獣人じゃあねぇ?」
「流石に無理か…」
キキィ…
落胆する俺とカボチャ…って、
「居るじゃない、当事者が。」
「あぁ、失念してた。」
「何で私に聞きに来たんだか…」
いや、仰る通りで…
ともかく、何故街に侵入したのかを赤髷とジュウベェ経由で、当事者のカボチャ君に聞いて貰う。
「で、何て言ってるんだ?」
「うん、この子は樹海から来たらしいんだけど数日前から族長が行方不明なんだって。」
「そして族長の臭いを頼りに追跡したところこの街に辿り着いたそうです。」
つまりこの街の何処かに居る族長を探しに来た訳か。
キノコ専門店
ふむ族長が…しかし何故樹海からこんな人まみれの街に?
可能性としては密猟者か何かが捕まえて来たとかだが、それは考え難い。
チャチャブーの族長、つまりキングチャチャブーは異常に狂暴で下手な飛竜より数倍強い。捕まえるどころか倒す事すら難しい相手なんだがな…
「ここ数日で樹海にキングチャチャブーを捕まえに行った密猟者とか居るか?」
「居ないわね~…ただ、一昨日にキノコを密猟しに行った商店なら居るけど?」
そう言ってアインがニヤッと笑う。キノコを密猟…あぁ、そう言う事か。
「その商店の名前を教えてくれ。」
「お代は報酬の3割で良いわよ。」
「…ボリ過ぎじゃないか?」
「20万も貰えれば十分でしょ?」
「ぐ…」
何でもお見通しだな。
「それで良いから教えてくれ。」
「はい交渉成立ね。」
そのままサラサラと紙に簡単な地図を書くアイン。そして、
「まいどありアル~♪」
店の軒先から満面の笑みで送り出してくれる店主殿…ぼったくった時以外にもその笑顔を振り撒いていれば楽器店も多少繁盛すると思うがな。
しっかし、10万か…
チャチャブー共と死闘を繰り広げる野郎共の脇を重い溜め息を吐きながら素通りし、目的の商店へと到着した。
「キノコ専門店、乱舞茸…」
如何にもヤバい物を取り扱ってそうな看板を読み上げる。アインから聞いた所、表向きはキノコ専門の料理店らしいが、裏ではキノコを原料としたアレな薬品を販売しているらしい…頭に麻が付く薬から媚が付く薬まであるとか。
店の前で突っ立って居るとジュウベェが俺の腕をちょいちょいと引いた。
「なんだ?」
「小生はミーユ嬢をこの店に入れたくないのですが。」
「あぁ、確かに子供向けの店じゃないしな。」
餓鬼の内からクスリ屋なんかに入るのは宜しくないしな。
「いえ、ミーユ嬢はクスリを手当たり次第口に入れかねませんので…」
アイツは幼児か何かか!?
…まぁ連れて行くべきではない、というのには俺も賛成だ。
「おい、赤髷。」
「ん、なに?」
「小遣いやるから隣のお菓子屋で待ってろ。」
指差す先には甘ったるい臭いを漂わせる店が一軒。
「いいの?」
爛々と目を輝かせる赤髷。
「構わん。だから其処で待って…」
『ワーイ♪』
人の話を最後まで聞かずにお菓子屋へ突入する赤髷…まぁどうでも良いか。
「じゃ、行くぞ。」
「承知。」
怪しい暖簾を潜り手近な店員にある物を注文する。
「狂喜乱舞1つ。」
裏メニュー
注文を告げた途端、俺達は本棚の裏にある部屋へと通された。
「何を注文されましたので?」
「この店の取って置きの裏メニューだ。それこそ欲しい奴は狂喜乱舞するほどのな。」
まぁ要するにクスリを買う客か一般の客かを見分ける為の合言葉が"狂喜乱舞"な訳だ。
「しかし何故?普通に倉庫にでも案内させれば済むことでは?」
「この店は普通の仕入れもしてるんだと。そんな店が密猟してまで手に入れる物が表向きの商品な訳ないだろう?」
「なるほど。」
まぁ全てアインから聞いたんだが、それは黙っておく。
そんな会話をしていると店主らしき人物が部屋に入って来た。
「ようこそ乱舞茸へ。何をご所望でしょうか?」
手揉みしながら店主が尋ねてくる。…面倒だから直球でいくか。
「この前樹海からパクって来たキノコのある倉庫へ案内してくれ。」
そう言った瞬間、店主が渋い顔をする。
「よくご存知で…ですが、それ以外にもお薦めが有りますよ?」
「俺が言ったのは…新鮮な、樹海のキノコがある、倉庫だ。」
「新製品の惚れ薬なんかいかがでしょう?」
「誰がそんな胡散臭い物を注文した?良いからさっさと案内しろ!!」
机を蹴り飛ばし睨み付けると、漸く観念したのか店主が小さく溜め息を吐いた。
「どうぞ此方へ…先に言いますが私は止めましたからね?クレームは無しですよ?」
何やら念入りにそんな事を告げる店主。…やばい仕事してる癖にまだ何か隠し事があるのか?
狭い廊下を曲がりに曲がる事13回、どんな構造の建物だ?、やっとの事で目的の倉庫の扉へと到着した。
見るからに厳重な扉と幾重にも施された南京錠…そして何故か扉の中から聞こえてくる、ガンガンと言う打撃音…
無言で店主を睨むと、
「実は前回の"仕入れ"で何かが紛れ込んだ様でして対処に困っている次第で…」
との事。どうやら此処で間違いないな。
チャチャブー達は擬態を得意としている。道端の窪みや氷塊、果ては"キノコ"に至るまで…
大方密猟に行った輩がキノコに擬態したまま眠っていたキングチャチャブーを間違えて納品したんだろう。
「今すぐ扉を開けろ。」
「そ、そうですが…」
どうにも店主は中に何が居るか知らないらしい。これは実に好都合だ。
「困ってるんだろう?」
「はい、そうですが…」
「俺は見ての通りハンターだ。今回に限り無料で中の奴を退治してやる。」
何せ20万の儲けだからな。だから…
「さっさと扉を開けろ。」
ジャンキーキング
やっと理解してくれたらしく、店主が大量の鍵の束を取り出した。
そのまま錠前を外させ、重い扉を抉じ開け、倉庫の中に入った瞬間、俺は激しく後悔した。
全面大理石の室内は戦争でも有ったかの様にボッコボコに砕けていた。そして部屋の床一面には食散らかされた茸の残骸…そしてその中心に目的の相手が居た訳だが…
呼吸は異常に粗く、両手は無意味に地面を叩き続け、眼は明後日の方向を向いている。…これは不味く無いか?
「では後は頼みます。」
バタンッ
小さすぎる声と共に重い筈の扉が光の速さで閉じられた。更に…
ガチャガチッガチン!!
響き渡る不気味な音…って!!
「鍵閉めやがったなあの野郎!!」
ガンガンと殴ってみても扉はピクリとも動かねぇぇ!!
「ダギィ殿!!」
ジュウベェの声で後ろを振り替えると無駄にギラギラした瞳が俺をバッチリと捉えていた。
ギィィィッ!!
鈍器を振り上げ中空を弾丸の如く跳躍するキングチャチャブー…突然の奇襲を捌けるほど
ランスの動きは機敏ではない!!
奥歯を噛み締め、左手の盾で全身を隠す。
ベガッ!!
頭上からの一撃を受けた盾が愉快な音を奏でながら大きく陥没し、両足が数センチ程大理石にめり込んだ。
何だこの威力は?
この倉庫には頭のネジがぶっ飛ぶ茸の他に筋力を増強する茸まで有ったのか?
一撃でスクラップ手前に成った盾を見ながらそんな事を考えてしまった。その隙に逝っちゃってる瞳が足元に現れる。
俺の足を容易くへし折る一撃が迫るが…さっきの一撃で体が痺れて動けない。
万事休すか…なんて情けない事を思った瞬間、嘴を模した紫刃が俺の視界に滑り込んだ。
「樹海の殿よ、小生とも遊びませぬか?」
弾むような言葉と共に、紫刃がキングチャチャブーの鈍器を一閃した。
火花を散らした刃と棍棒はお互いを弾き飛ばす。棍棒ごと弾かれたキングチャチャブーは反対側の壁へ激突し、ジュウベェは長い柄をクルクルと回しその勢いを発散させる。
「凄いな、ジュウベェ君。」
「いえいえ、小生はまだまだ未熟ですよ。」
矛先を瓦礫に埋もれたキングチャチャブーに向けながらジュウベェがニヤリと笑う。そんな未熟者に助けられた俺は無駄に年喰った役立たずになる訳だが…
ギィィィッ!!!!
奇声をあげ、瓦礫を蹴散らし、再び突っ込んでくるキングチャチャブー。
「来ますぞ!!」
「名誉挽回といくか…」
背中のランスを展開させ、鋭い円錐の頂点を獲物へ向ける。
「来い30万z!!」
黄猫無双
再び弾丸の如く疾走してくるキングチャチャブー。だが、コッチは先程とは準備が違うんだよ。
ランスを大理石に突き刺し、駆ける寄ってくる王様ごとカチ上げる。
「うらぁ!!」
瓦礫と共に飛散する王様目掛けランスを突き立てる。
ギギッ
「チッ!?」
右手に走る鈍い衝撃、ランスの切っ先は王様に届く事無く鈍器に弾き返される。
俺は大きくバランスを崩し、王様は追撃の体勢に入る。そんな王様の背後で紫の刃が鈍く光を放った。
「隙有り。」
放たれた一の太刀ががら空きの背中を捉え、流れる様に二の太刀、三の太刀が王様の背中を切り刻む。
「無様ですな。」
冷たい言葉と共に切り払いが王様を再び壁へと斬り飛ばした。
ギィィィッ!?
奇声と共に土埃に飲み込まれる王様…しかし、圧倒的的だな。
「強いな、ジュウベェ君。」
「相手が弱いだけです。」
紫刃をクルクルと回しながらククッと笑うジュウベェ…コイツだけは敵に回さない方が良いな。
なんて事を考えながら視線を正面に戻す。王様が突っ込んだ場所は未だに大量の煙に包まれている。
「…気絶したか?」
それなら手足をふん縛ってお仕舞いなんだが…なんて事を考えた瞬間、立ち込める埃がボウッと赤く染まった。
次の瞬間、複数の火球が煙幕をぶち破って現れた。
「うぇっ!?」
反射的に盾の後ろに身を隠す。盾にぶつかる度に火球は音を立てて消え去るが、次から次へと新しい火球飛んでくる。
自棄っぱちか?いや、元からラリってるんだったな…
頭の肉焼き機っぽい物から火球を撒き散らしながらジリジリと迫ってくるジャンキーな王様。火球を防ぐ程度なら問題無いのだが、全ての火球が此方に飛んできている訳では無い。
無差別に撒き散らされる火の玉は食散らかされていた茸の残骸に引火し、カラフルな煙を狭い部屋に充満させる。
…頭がフラフラして来やがった。
「少し拝借させて頂きます。」
いつの間にか盾の内側に居たジュウベェがそんな事を宣った。借りるって何を?と思った途端、右手からスルリとランスが抜き取られた。
「往生せいや!!」
怒声を上げ投げ槍の要領で突撃槍をぶん投げた。
ギ!?
ランスが直撃した王様はそねまま壁まで吹っ飛ばされる。この光景は本日三度目な訳だが、先程とは違う点があった。
それは壁際に積み上げられた無数の大タル爆弾…って!?
「防御しないと死にますが?」
咄嗟に身を守るのと、倉庫内が紅蓮に染まるのはほぼ同時だった。
消し炭
紅蓮の津波がスクラップ寸前の鉄板ごと俺の体を壁にめり込ませる。。
膨大な爆圧で押し潰される体、体を内から焼き尽くす様な熱波、そして燃焼した危ない茸どもが俺の意識を朦朧とさせ…
ヒュッと吹き抜ける風…
ヒンヤリとした感触と瞼越しの眩しい陽射しが、ふやけた意識を覚醒させる。
あぶねぇ…恋人が微笑み掛けてきたぞ…
「あー…だらっ!!」
完璧にスクラップになった盾を蹴り飛ばし、軋む体を引っ張りバキバキと解す。
倉庫は三分の一程吹っ飛んでおり、夕方の陽射しと吹き抜ける風が心地よい…バレる前にバックレる必要が出来たな。
「お目覚めですかね、ダギィ殿?」
「おかげでグッスリ寝れたよ、ジュウベェ君。」
皮肉たっぷりに言ってみるが、
「それはなによりで。」
クククッと笑う黄猫君、あまり意味無いな。
とにかく本題に戻るか。
「奴は何処だ?」
「何処何も、彼処に居ますが?」
そう言って吹き抜けになった壁際の消し炭の様な何かを指差す。あぁ、御愁傷様。
軽く黙祷しながら消し炭のオブジェを引っこ抜く。
「これで30万zゲット…」
昔の偉い人は言いました。油断大敵と。
小さな握り拳が俺の顎を華麗に撃ち抜く。良いパンチしてるな、おい。
「だはっ!?」
吹き抜けになっていない方の壁でシコタマ背中を強打する。
「大丈夫ですかな?」
なんとなく黄猫の面がニヤついて見える。
「俺の事は良いからアレの相手をしてくれると助かるんだが?」
「御安い御用で。」
ニンマリと笑うと、黄猫は王様へと跳躍した。
ブンブンと旋回する紫の嘴が王様の首元へ食らい付こうする。が、棍棒がその一撃を弾き返した。
「!?」
その事実にジュウベェが僅かに動揺し、
キィッ!!
「ウニャァッ!?」
その隙を突いた王様の一撃がジュウベェを壁に叩き付ける。
ジュウベェも咄嗟の時はニャって言うんだな。なんて馬鹿の事を考えている場合ではない。先程までとは明らかに違う機敏かつ鋭い一撃…
「奴さん、完璧に薬が抜けたな。」
「その様で…」
瓦礫を払いながらジュウベェがムクッと起き上がる。
「てっきり死んだかと思ったぞ?」
「ご冗談を…」
顔は笑っているが何やらギリリと不吉な音を鳴らす黄猫君…相当ご立腹な様で。
キィィィ!!
対する奴さんもようやっと本調子になった様でピンピンしている。
「第2ラウンドと行こうか、ジュウベェ君?」
「2ラウンドだけと言わずデスマッチと行きましょうダギィ殿。」
失敗
吹っ飛ばされたのが余程鶏冠にキタのか非常に物騒な事を仰る黄猫君。まぁ毎日がデスマッチみたいなもんだがな…
さて、兎に角両手の寂しさを何とかせんとな。
「ジュウベェ君。」
「皆まで言わずとも良いです。小生一人でもどうにかなりますしな。」先程より3割増しの速度で紫刃を旋回させる黄猫君。酷くやる気の様で…
「じゃ宜しく。」
「お任せを。」
駆け出す二匹の獣を余所に瓦礫の山へと駆ける。背後でガンッとかギンッとか言う音が響く中、爆発に巻き込まれた安物の相棒を探索する。
「フハハハハハッ!!」
異様にハイに成っている黄猫君…茸の煙が残ってたか?
キィィィィッ!???
…早く探さないと王様が原型を留めない肉片にされかねないな。そうなると報酬が貰えなく成ってしまう…
「と…有った有った。」
見付けた柄を握り瓦礫から引き抜くと…安物の相棒はくの字に成っていた…また出費が…
「死ぃねえぃ!!」
ミギィィィ!?
その上30万zがパーとかやっていられない!!
振り替えると棍棒を弾き飛ばされた王様の首に紫刃が突き立てられるところだった。
ちょっと待…
「待ってジュウベェ!!」
て!!と俺が叫ぶ前に誰かがそう叫んだ。
振り返ると、吹き抜けに成った壁に赤髷が立っていた。
「もうジュウベェの勝ちだよね?」
「…ですね、ミーユ嬢。小生も修行が足りなかったようです。」
黄猫は小さく深呼吸すると紫刃を背に納めた。
コレでどうにかなったな。あとは事の次第をメイド長殿に報告すれば…
しかし、人が集まって来たな。此処の店主にバレる前に逃げるとするか。
「おし、帰るぞ。」
「はーい♪」
「キングチャチャブーはジュウベェが連れて来てくれ。」
「承知しました。」
俺が言うまでもなく黄猫は王様を縛り上げていた。…仕事が早いね、全く。
「さぁ退いてくれ。」
集まりつつある野次馬達を掻き分けて集会所へ帰ろうとした時、誰かが俺の腕を掴んだ。
「何か用か?」
腕を掴んだのは見知らぬ男。
「お連れ様の勘定がまだなんですが?」
そう言って男は赤髷を指差す。あぁそう言えばお菓子屋で飲み食いさせてたな。つまりコイツはお菓子屋の店員か。
「今急いでるから後で集会所に請求書でも送ってくれ。」
そう告げて俺の予備のギルドカードを手渡す。
「毎度有難う御座います、お客様。」
店員はペコリとお辞儀をして店へ戻って行った。
今思って見ればこの時の、この行動が本日最大の失敗だった訳だ。
仕事の後で
報酬
キングチャチャブーをギルドの人間に引渡し(群れごと樹海に送り返すらしい)、くの字になった相棒を工房へと預け、報酬を貰うべくメイド長の元へと足を運ぶ。
「メイド長殿、街の騒動の原因を解決したからその報酬が欲しいんだが?」
テーブルに腰掛けながら用件を告げると、メイド長はパラパラと報告書らしき紙に目を通した。
「・・・確かにダギィが解決した見たいね。」
ちょっと待って、と言い残しカウンターの奥へと消えていくメイド長。
そしてすぐに包みを持って帰ってきた。
「はい、報酬の30万z。」
開かれた包みの中から大量の現金が現れた!!いや、実に壮観だな。
「ではさっそく・・」
そう言って報酬を受け取ろうとした瞬間、メイド長がそれを制止させた。
「なにをするので?」
「誰が全部貴方の物だと言ったのよ?」
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべるメイド長。
「まずは今朝の飲食代のツケとそれ以前のツケで併せて3万z~♪」
「3万もか!?」
「利子よ利子。」
なんだか凄く暴利ナな気がします。そしてゴッソリと3万zを抜き取るメイド長。・・まぁまだ27万ある。
「続いて工房から請求された修理費が5万z~♪」
「なんだか凄く楽しそうだな?」
「気のせいよ。」
そう言って5万zを差っ引くメイド長。・・残り22万z。アインに払う分を引いても12万残る・・
「そしてお菓子屋プーギーからの請求15万6750zね。」
そう言って金を差っ引こうとするメイド長・・って、
「ストップ、ちょっと待て!!」
「なにかしら?」
「お菓子の代金が可笑しいだろ!?」
「ダギィったら甘党だったのね?」
「違うわ!!」
第一それはあの糞餓鬼が食べた物であって、いや確かに奢るといったがまさか其処までとは・・・
「でも請求先は貴方だしねぇ・・自分の発言には責任を持たないと、ね?」
ニコッと笑うメイド長、この面になったメイド長に抗う事は死を意味する・・・
「わかったよ。」
解かりたくはないが・・
「はいお疲れ様でした♪」
満面の笑みで残りの報酬を渡してくれるメイド長・・今回の報酬、-36750z・・・
アレだけやって赤字かよ・・・
儲け
いや待て、目の前にはまだ現金が残っている。しかも6万強もの大金が!!
アインに報酬の全体から3分の1を支払うと言ったが…それは報酬を受け取れた場合の話だ。
つまりこの金を懐にしまい、適当に報酬は貰えなかったと嘘をでっち上げればこの金は俺の物に!!
「あいや、6万そこそこしかお金が無いアルね?」
成るわけ無いか。
「何故此処にいる?」
「私の情報網なめちゃ駄目ネ。あとアンタのやりそうな事ぐらいお見通しアル。」
ニマニマと笑う似非東方人。
あぁ佐用ですか、お見通しですか…チクショウ!!
「しかし何でコレだけしか無いのカ?」
金額を数えながらアインが訊ねてきたので、事の経緯を説明する。
「なるほどネ。なら私も少しだけサービスしてあげるアル。」
「本当か!?」
「私は商売人であって鬼じゃないネ。」
そう言って残った報酬から札束を抜き取り、小銭だけを渡してくれる似非東方人。
「今回はコレで手を打ってあげるネ。」
「…そりゃどうも。」
あまりの優しさに涙が出そうだよ…いや、本当に。
小銭だけを受け取り、精神的疲労によりガックリと項垂れる俺の肩にポンと手を置くアイン。…まだ何か用か?
「そんなに落ち込まなくてももうすぐ飛びっきり大きな依頼が来るわよ。」
妖艶な声でボソリと俺に告げると、楽器屋の店主は集会所から去って行った。
しかし、アイツが無料で情報をくれるとは…明日は雪でも降るんではなかろうか?
「で、晩御飯はどうするの?」
人の心情やら考え事やらをまるっきり無視して注文を聞いて来るメイド長殿…実に仕事熱心だな。
手持ちは先程の報酬の残りの小銭のみ…まぁ持ってても仕方無いか…
「この予算の範囲で何か適当に頼む。なるべく早くしてくれ。」
「承りました♪」
営業スマイルで代金を受け取るメイド長殿。とにかく今は何か食べて気を紛らわしたい。今日は1人で静かに飯を喰…
「あ、ダディ!!」
神様、あんたはそんなに俺が嫌いかね?
「隣座っても良い?」
俺との相席を提案する赤髷、もとい疫病神…あぁ、もうどうでも良い。
「お好きにどうぞ。」
「わーい♪」
ご機嫌そうに隣に腰掛ける疫病神…思えばコイツガ来てからロクな事が無いな。もとからロクでもない生活をして居たが、1日働いて儲けが無しなんてのは初めてだ。
何か良い儲け話は無いものか…
(もうすぐ飛びっきり大きな依頼が来るわよ)
…その飛びっきりとやらに賭けてみますか。
最終更新:2013年02月28日 00:50