Vie journaliere d'un chasseurVol.2

雪山での戦い

『ホットドリンクは持ったか?』
 今時にしては珍しい片眼鏡をかけた男が言う。
 男の目の前には支給品ボックスと呼ばれる青い大きな木箱があった。その中にはギルドから
支給されるアイテムが入っている。
 ギルドの恩恵に与れないこんな辺境の名も無い村であっても、多少の厚意は受けられるらし
い。
『あ、俺まだ取ってない!しかし寒っぶいな、ここは~!!』
 今回のメンバーの中では一番若輩のリロイ威勢よく手を上げる。
 やる気が溢れ、有り余っているのが一目で分かる。その様子を見れば自然と口元が緩む。
『リロイ。準備はいつも万端に、しかも迅速にですよ』
 テントの傍で焚き火に当っている男が言う。この男も眼鏡をかけてはいたが、リベールのよ
うに“半分ではない”。
 狩りになれば眼鏡をかけているハンターなど役に立たない。何故ならば混戦の際に眼鏡を落
としてしまえば、その者は邪魔者以外の何者でもないからだ。
 対象となるモンスターに攻撃する事もできず、一人で逃げ出す事もできない。
 だが彼の場合、視力が悪いということは何のデメリットでもない。
 彼は《狙撃主》、モンスターに近づく事は彼の仕事ではない。揉みくちゃの乱戦の中にあっ
ても彼一人は輪の外に居り、背に携えるヘヴィボウガンで対象を正確に撃ち抜くのだ。

『分かってるさ!しかし、うぅ~!さーむーいー!!』
 尚も一人はしゃぐリロイ、こちらの忠告などお構いなしだ。もっとも最後の最後で助けを乞
うのは彼なので、誰も気にしてはいなかったが。
 今はまだ若輩故にそれが許されてはいるが、いつかはそうならない時が来る。
 その時、命取りにならなければ良いのだが、と注意しかけたのを頭に雪玉を当てられアッシ
ュは止めた。
『勝手にしなさい』
『う?何だよアッシュ、怒ったのかよ~?』
 怒ったわけではないが、そう思わせた方が少しは薬になるだろうとアッシュは沈黙を決め込
む。しかしそれは逆効果で、自分の周りをリロイが犬の様にパタパタと走り回るだけであった

『あ!アッシュが溜息をついた!!』
 その言葉に再び溜息をつく。狩りの前には本来集中しておかなければならないのだが、この
緩んだ空気は一体誰のせいだと思っているのだろうか。
 そんな事を思っていると三度目の溜息が出た。
『アッシュ!溜息をつくと運気が逃げるんだぜ!この間来た商人が言ってたの俺聞いたんだ』
 ならば黙っていてくれと思ったが、口には出さず抗議の視線を向ける。
『せっかく狩りに出れたんだ、こんな所で運気を逃してたらいけないだろ?』
『そう思うならお前もじっとしてるんだな』
 彼に代わりリロイを制したのは包帯を巻いた男、クロワだった。

『え?なんでだよ?』
 クロワに不満気な視線を投げ口を尖らせる。
『“せっかく狩りに出れた”んだろ?だったら“こんな所で体力を使っている場合じゃない”
んじゃないか?』
 リロイの視線を軽く流し、クロワが言う。
 リロイはどれほどはしゃいだとしても暫く休めば体力は回復する━━━と思っているのだろ
うが、そんな事はありえない。
 体力が回復しているような気がしているだけだ。それは疲労という形で後々身体への負担と
して圧し掛かってくる。
『リロイ、気持ちが昂るのは分かるがどんな長期戦になるかも分からない、できるだけ体力を
温存しておいた方がいい』
『リベールの言うとおりです。今はしっかり準備して集中しておきましょう』
 ふと全員の視線が自分に向いていることに気がついた。それが決して気持ちの良いものでは
ことぐらいはすぐに分かる。
『はーいはい。分かりましたよ~っと!』
 詰まらなさそうにそっぽを向くと、リロイはようやく支給品ボックスへと手を伸ばした。
『「はい」は一回ですよ』
『はぁ……』
『おや、溜息をつくと運気が逃げるんではなかったのですか?』
『あぁ~、もう!分かってるよ!!』
 アッシュの言葉に頭を掻き毟りながら支給品ボックスを漁るリロイを見て、三人は思わず口
元を綻ばせた。

『やれやれ、これだからお子様は』
『そう言ってやるな。俺達だってあの位の頃はあんな感じだっただろう?』
 クロワの溜息はリロイには聞こえなかったらしい。聞こえなかった振りをしている可能性も
無くはないが、リロイに限って無視をする事はありえない。
 誰よりも子ども扱いされることを嫌がっているリロイである。お子様などと言われて黙って
はずがないのだ。
『あんたにもそんな時代があったのか?』
『まぁ、な……』
 ニヤリと笑いながら言ったクロワの言葉に、リベールは苦笑いを返す。
 誰しも子供時分は可愛いものだが、思い返せば幼い頃に可愛がられた記憶がなかったからだ

 クロワはまだからかいたそうではあったが、これ以上はこちらとしても面白くないので話を
切り上げる。
 こんな他愛も無い話も何事にも変えれない幸福である事は知っているが、今はそれよりも大
事な話しておくべきことがある。
 即ち狩りの事である。
 どこでモンスターを追い込み、どこで戦闘を仕掛けるのか。また四人で一緒に行動するのか
、それとも別々に行動し、後で合流するのか。その場合集合する場所は、時間は。
 など話すべき事は山ほどある。
『みんな、そろそろ作戦を立てよう。時間は無限ではないからな』
 リベールの言うとおり狩りの時間は無限ではない。
 依頼主がいて、依頼されている以上“期限”というものが存在するのだ。

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最終更新:2013年02月28日 13:17
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