「やっぱり賑やかよね~この街は。さぁ~て依頼品を依頼主に届けないと」
この街の入口で街を眺めている一人の女性がいる。その女性はかなりの軽装でハンターにも見えなくはないが違う職業にも見える
女性は顔をニコニコさせながら、入口から入ってすぐの民家に入った。民家のドアを開けるとそこには一人の老人が彼女の帰りを待ち侘びていたように彼女に詰め寄って来た
「待ってたよ。カリーナちゃん」
「待たせてゴメンね~おじいちゃん。これ、依頼された品ね」
そう言うとカリーナと呼ばれる女性は老人に依頼されて品の入った袋を渡した
「おぉ、これがあの“いにしえの秘薬”か…これがあれば婆さんの病気がよくなる!ありがとうカリーナちゃん」
「いえいえ、たいした事じゃないですよ~次の仕事があるからまたねおじいちゃん!」
「え!カリーナちゃん報酬は……」
彼女は老人の家から慌ただしく出ていった…
その頃、カリーナは民家の近くにある公園にいた。公園のベンチに座り彼女は小さく呟いた
「おじいちゃんから報酬なんて貰えないよ…」
老人の家にはお金があまりないのだ。それを考慮してカリーナは報酬を受け取らなかった…今どき珍しいハンターだ。普通なら報酬を貰うのが当たり前…それを考えると彼女はとても心優しいハンターなのだろう。しかし、優しいだけじゃ生きて行けないのがハンターの世界だそれはモンスターハンターもトレジャーハンターも関係ない
「トレジャーハンターになって3年か…でも、お金はいつもすっからかんなのよね~…」
がっくりと肩を落とすカリーナ…報酬を貰わないという事は則ち自分の首を締める事になる。他人に無料で奉仕しても結局は自分が苦しむだけ…
「このところ、さらに街が大都市として成長しているから貧富の差が広がる一方…裕福な者がさらに裕福になり、貧乏な人はさらに貧乏になる…か」
発展する都市の1番の問題点がそれだ。急激な発展は貧富の差を産む原因にしかなりえない…
「私も生きて行くためには…いい仕事を捜さないとね!よ~し、トレジャーおじさんに聞き行こ!」
カリーナが言うトレジャーおじさんとは別名“トレ爺”と呼ばれる凄腕トレジャーハンターの事だ。彼はトレジャーハンターの生みの親でトレジャーハンター界の長である人物だ。しかし、その人は特別な事でもない限り滅多に会えない人なのだが…
「おじさん~入るよ~」
街の中央から少し外れた民家の裏口から家に入ったカリーナ…何故裏口から入ったのだろう…それはそこから繋がる地下にそのおじさんがいるからだ。おじさんは色々なお宝に関する秘密を知っている。そして、お宝に関する大量の資料を持っている。だから、それらを守るためにいつも地下にいるのだ…わざわざいつも地下にいる必要があるかまでは分からないが…
「なんじゃ、カリーナか…依頼は終わったのか?」
「うん、まあね…」
暗い顔で言うカリーナにおじさんは言った
「報酬は貰わなかったんじゃな…全く、オヌシという奴はのぉ~」
「だって…困っている人から報酬なんて貰えないよ……」
深くため息を付きながらおじさんは呆れたような顔をした
「まぁ、そこが気に入ったからオヌシをトレジャーハンターとして鍛え上げたのじゃがな…」
フッと笑いながらおじさんは語った。そう、カリーナこそ“伝説のトレジャーハンター”の後継者なのだ。それゆえ、トレジャーハンターとしてのスキルはかなり物だ。しかし、本人がお人よしなためあまりお金はなく、困っている事が多い
「えへおじさんありがと」
「ふん!何がありがとうじゃ…」
おじさんは照れているようだ。それを見て笑うカリーナに少し戸惑いながらもおじさんは本題に話しの入った
「オヌシが来たという事は…仕事の相談か…」
おじさんが話しを持ち出すとカリーナの表示が変わった…それはまさにプロの目付きそのものだ。それを見たおじさんは
「フッ、そんな事聞くまででもなかったようじゃな。それなら、オヌシに取って置きのお宝の在りかを教えるぞ…」
カリーナは無言で頷く
「その場所は未だ誰も近付こうとしない場所で今までまともに帰ってこれた者はいない…」
おじさんの話し具合からすると真実だろう…しかし、そんな場所に何故カリーナを行かせようとするのか…
「誰も…という事は…おじさんも?」
カリーナはおじさんに質問する
「そうじゃ…現役の頃のワシですら近付かんかった」
情けなさそうにいうおじさんカリーナは不安を覚える…自分の師匠ですら近付かなかった場所…その場所をカリーナに伝えたのだから、もはやカリーナに逃げ道はない…
「私は逃げないよ…」
「覚悟は出来ているみたいじゃな…ならワシも躊躇う事はない。その場所は未開の地であり、どんな宝があるか分からぬ…しかし、その宝は莫大な価値になるに違いはない!」
「莫大な……価値…」
「そうじゃ…もしかしたら国を動かす程の大秘宝かも知れない」
カリーナはただ驚くばかりだ。そんなお宝の在りかが存在するなんて…不安と共に現れる胸の高鳴り…トレジャーハンターとしての誇りが不安にも勝ったのかカリーナの顔からは笑みが零れる
「やはり、オヌシは一人前じゃな…そう…ワシはオヌシにトレジャーハンターとしてワシを越えて欲しいのじゃ!」
「おじさんを越える…私が…?」
自分の師匠であるおじさんを越える…それは同時に自分が最高のそして至高の存在のトレジャーハンターになるという事だ
「じゃから、ワシを越えて至高のトレジャーハンターになってくれのぉ…」
そういうのその場所へ行くための地図をカリーナに渡した。その地図の示された場所を見てカリーナは驚いた
「まさか!この場所は…」
「そうじゃ、わかったなら早く行け!ちゃんと生きて帰って来いよ…」
背を向けながら悲しさを堪えておじさんは言う。全ては自分を越えさせるための試練…そう、カリーナに与えた最後の試練…
「仲間を連れて言ってもいいのじゃぞ?…それくらいレベルの高い実力者が居ればの話しだがな…」
「この街には…あの場所に一緒に行けるハンターなんて居ません…」
おじさんはやっぱりなという顔をしている…始めからこの解答が帰って来る事を承知していたらしい。おじさんは言った
「じゃな…他にワシが出来る事はない…」
「そうですか…ありがとうおじさん、いや師匠…」
「いいんじゃよ…じゃあな…無事に帰って来いよ!死んだら許さんからな!」
カリーナに喝を入れ家から送り出したおじさんはどこか悲しいような、うれしいようなどちらかわからない不思議な表情をしていた
「………ワシを越えろ。か…」
暗い表情をしながらカリーナは来た道を歩いていた。さっきまでワクワクしていた時の顔はどこに行ったのだろう…
「私も覚悟を決めないとね…私と共にがんばって行こうね…相棒……」
彼女が相棒と言ったものそれは彼女が腰に下げている鞘に入った
片手剣の事だ。普通は片手剣とは腰の後ろに付けるものなのだが、彼女は違う…そして何より不思議なのは身体を守るはずの盾がない事だ
盾がない…それはモンスターハンターの武器とは“違う”からだ。その理由はトレジャーハンターの武器は近年独自の進化を遂げているという点にある
モンスターハンターの武器は基本的に大型モンスターと戦う為に作れているから巨大な物や身を守る盾等が動きを劣悪にするのだ。トレジャーハンターは素早く活動するので片手剣を多様する事が多い…そして、ハンターの世界に慣れて来た者は身を守る盾を廃止してさらに動きやすくしているのだ
しかし、それは同時に防御を手薄にする事に繋がり飛竜の攻撃をガード出来ずに死んでいくハンターも少なくはないが…
そのリスクを背負いながらも彼らは独自のスタイルを貫いている。そして、1番必要な事は対象がある場所の地理や作戦などを考える“頭脳”もそうだが、“対人戦”も熟せるようにならないとこの世界では生きては行けない…
もし仮に複数のトレジャーハンターがその宝に目を付けていたとしよう。そしたら、宝を我先にと取り合う事になる…そうなればトレジャーハンター同士で戦闘になるのは必須。強い者が勝ち弱い者が負ける…それはモンスターハンターもそうだが、それよりもトレジャーハンターのほうが敵が多いのだ
モンスターハンターはモンスターと戦う事を主に置いているが、“人と武器を使って戦う”という事態にはならない。しかし、さっきも言ったがトレジャーハンターは人とモンスター両方が敵である。その理由は簡単だ…相手が“お宝”だからだ
人と人の争い…モンスターハンターにはない事がトレジャーハンターには毎回のようにある…そんな世界の中で生きるのは容易じゃない。もしかしたら人に殺される事があるかもしれないのだから…いや、それが“ある”世界ただから容易じゃない…それがトレジャーハンターの世界なのだ
「さて、考えるより行動に移せ。家に帰ってアイテムを揃えて明日の早朝には出発しないとね」
そういうと訳もなく歩いていたカリーナは自分の家に歩いて行った
家に着いたカリーナは早速準備に取り掛かる。その手つきは素早くあっという間にアイテムの準備を整えた。その中には非常食や調理器具なども入っており、長期戦を生き抜くための準備も怠ってはいないようだ。そして、問題は武器だ
目的の場所にはどんなモンスターが待っているかわからない今の状況…なら武器の選択がより重要になる。もし、相性の悪いモンスターに囲まれでもしたら待つのは死だけだ
「武器は…複数持って行くのが望ましいけど、私はこの剣だけで戦う…」
モンスターハンターは複数の武器を狩場に持ち込まない。それは当たり前の事だが、トレジャーハンターにはそんな決まりはない。複数の武器を持ち込む事で自分の作戦を効率よく実行出来たり複数の敵に有利に立ち向かえる…迅速に行動するトレジャーハンターは効率を重視するためこれに越した事はない
「とりあえず、これで準備完了ね」
彼女は腰挿した片手剣眺めた。相棒の片手剣に異常がないかチェックしているようだ
「よし、大丈夫ね…何が待ち受けているかわからないけど…必ず生きて帰って来てみせる…私には夢がある…それを叶えるまでは絶対に死にはしない!」
拳に力を込めて気合いを入れるカリーナ…それは彼女の強い意志の表れだ
「でも…死ぬつもりはないんだけど、一応この街、リーヴェルの綺麗な夜景をしっかり焼き付け置かないとね…」
“リーヴェル”それはこの街の名前だ。東シュレイド地方に位置する最大の都市であり、“交易都市”という別名で呼ばれるほどこの街は栄えている。理由は前にも述べている通り、トレジャーハンターを中心にした街作りが1番の特徴だ
この街はカリーナにとって故郷であり、自分の帰るべき場所だ。その夜景を目に焼き付ける…彼女は自分に“万が一の事”が起きてもいいようにしているのだろう…
そう、彼女は死を覚悟している…自分が死ぬかも知れないという考えが頭にある。それ程までに“あの場所”は危険な場所なのだろう。何故、彼女はそこまでするのか…何故、彼女は戸惑わなかったのか…普通の人間なら即答など出来ないだろう…
彼女は普通のハンターではない伝説のトレジャーハンターの弟子だ。だからこそ行くのだろう…だが、それだけではないはずだ。それだけの考えでは乗り切れるものじゃあない…やはり“夢を目指す力”はどんな感情にも打ち勝つ力になる…その力で彼女は進んで行く。自分の夢を叶えるために…
夜景を彼女はずっと眺めていた…そうしているうちになんと夜が明けしまっていた
「結局、寝れなかったね…でもこの街の姿は目に焼き付いたからいいとしますか!」
笑いながらカリーナはそう言った。そして、彼女は家を出た…
カリーナは街の大通りを真っすぐ出口に向かって進んでいく。彼女の顔つきはいつもの優しい彼女の顔ではなく、プロのトレジャーハンター顔になっていた…
朝が早いため誰もいないはずなのだが、出口の前に一人の老人が立っていた
「師匠…」
そこに居たのはおじさんだった。彼女に伝える事があったのだろうか…険しい顔をしている
「カリーナ…例えあの場所から生還出来たとしてもすぐに帰ってくるのではないぞ…自分が納得するまで…いや、夢を叶えるまで帰ってくるな…それがワシが与える最後の試練じゃ。全てを終えて帰って来る事を楽しみにしておるぞ…」
「師匠…私の夢の事を知っていたんですか……わかりました…私は夢を叶えるまで帰って来ません!だから、それまで待っていて下さい。私は必ず夢を叶えて帰って来ます」
そう言うとカリーナは目を赤くさせながら、それを見られまいと師匠に背中を向き、走っていった…
「必ず…帰ってくるのじゃぞ…」
今、彼女は未知なる世界に挑もうとしている…それは過酷な試練になるだろう。しかし、人は試練を乗り越る事で成長出来るものだ…この旅は彼女にもたらすものは何か…そして、彼女は生きて故郷に帰れるのかだろうか…彼女は戦う…全ては夢を叶えるために。夢ある限り、人は未来へと進んで行くのだから…
~TREASURE HUNTER~ 宝を求める者
第一章 完