温暖な気候に恵まれていると言っても、やはり夜も更け朝に近づくと肌寒くなる。
ハンター達は外敵、つまりはランポスなどに注意しながら己の中の眠気とも戦わなければならなかった。
夜を徹しての探索となれば注意力も低下し危険が迫っていても気付くのが遅れる。
睡眠をとっていないのだから判断力も低下する、それで命を落とす危険もあるのだが…
『しっかりして下さい、危ないですよ』
あくびをしたハンターに仲間のハンターが注意する。
『だって…眠いじゃない…』
そう言って目を擦る。
ハンター達の目には《クマ》ができており、どれだけの時間歩きまわっていたのかが分かる。
『みんな眠たいのですから、わがままを言わないで下さい』
見た目で言えば注意したハンターの方がやや幼く見えるが、彼女の方がハンターとしては先輩なのかもしれない。
『そろそろだ…みんな気をつけて行こう…!』
一人先を歩いていたハンターが彼女達に注意する。
彼等の目の前には夜の闇よりも深い場所へ誘うかのように不気味に洞窟が口を開けていた。 目を凝らしたところで何かが見える訳でもないが、彼等は目を細め光の届かぬ洞窟の奥を見つめた。
『行こう…』
闇の中に恐る恐る足を踏み入れる、気をつけなければ何があるか分からない。
踏み出した先にランポスの尻尾があり、踏んだとたん襲われるかもしれない。
3人は壁に手を這わせ一歩づつ進んで行く。
幸い暗かったのは入口付近だけで洞窟の中央部には自然に出来た《天窓》があり、夜明けも近く何も見えないという訳ではなかった。
おそらくその《天窓》の部分から飛竜が出入りするのだろう。
『ルー…居そう…?』
最後尾を歩いていたハンターが話し掛ける。
先頭を歩いていた男が静かに振り返り人差し指を口にあてる。
【静かに】と言うことだろう。
『ランポスだ…それに多分居るよ……』
目を凝らしてみてもはっきり見える訳ではないがルインは目を細め一点を見つめた。
耳を澄ましてみると確かに大きな寝息が聞こえる…気がした。
実際は風の音かもしれない、たが《何か》が居ると直感が告げていた。
それは本能が危険を察知しているに違いなかったが、彼はこれからその《何か》に挑むのだ。
『まずはランポスをどうにかしないと…』
ルインは腰に差していた1mに満たない位の剣を静かに抜き、目を閉じ息を吸い込む。
『…!ちょッ…!?』
ルインが独断で走りだしたのを抗議したかったが、ここで大声を出せばランポスに気付かれルインを危険に陥れることになる。
(まったく…勝手に行動して!)
心で悪態をつきながら、彼女はボウガンを取り出し組み立てる。
彼女のボウガンは大きく移動する時は二つ折りにしてある、そうしなければ走る事もできない。
発射時の反動に備え、壁に背をつけスコープを覗く。
(当たっても恨まないで下さいよ!)
スコープを覗いた先には…
『…!!』
ルインがランポスに飛び掛かっていた。
(何て速さ!いつの間に!)
彼女がボウガンを組み立て、スコープを覗くまでそう時間は経っていない。
その一瞬でルインは1匹のランポスを斬り倒し、今2匹に飛び掛かっている。
しかも飛び掛かられたランポスは後ろから頭を貫かれ絶命している。
(ルインは…?)
暗さもあり飛び掛かったルインを見失うなった。
隠れたのだろうか?
周囲に隠れれそうな岩陰などはないのだが…
突如倒れた仲間を不審がり近付くいていく。
彼女はのボウガンには《サイレンサー》と言われる消音器はついておらず、不用意にトリガーを引くわけにはいかなった。
ボウガンは薬莢に詰めた火薬を爆発させて弾を飛ばす、故にこの状況で発砲すれば《イャンクック》を起こしてしまうかもしれない。
ただでさえ《イャンクック》は大きな耳を持ち、音に敏感な飛竜だと言われる。
反響する洞窟では大きなを音を出すわけにはいかなかった。
ランポスが倒れた仲間の所で辺りをしきりに警戒している。
いくらランポスでも隠れているものを探すのは容易ではないようだ、あまり周囲が見えないという点では人間と互角かもしれない。
ランポスが小さな声をあげた瞬間、動きが止まった。
(あれは…一体どこから…?)
ランポスの喉元にはルインの剣が刺さっていた。
ルインは飛び掛かったランポスの下に潜り込んでいたのだ。
そして残ったランポスが近付いて来るのを見越して下敷きになって隠れていたのだろう。
ルインは立ち上がり2人の方を向き手招きをする。
なるべく音を出さないよう気をつけながらボウガンを折りたたみ、彼の所に歩いていく。
『ルー……心配させないで…』
大剣を背負ったハンターが泣きそうになりながら話しかける。
『あなたは何者ですか…?……まさか、ココットの英雄…?』
ボウガンのハンターが見つめる。
ルインは暫く呆気にとられた様な顔をしていたが、大剣のハンターと目が合うと静かに笑い出した。
『俺がココットの英雄?…本物はとっくにお爺さんだよ…』
《ココットの英雄》とはココット村の村長の事で、1人で一角竜モノブロスを討伐したといわれる伝説の
片手剣使いだ。
もっともモノブロスは仲間との狩りを許されていない場所にしか生息しないためモノブロスと戦う時には1人で挑まなければならないのだが。
『そうだよエレノア、英雄の話は私達が子供の頃からあるじゃない』
エレノアと呼ばれたガンナーの少女は納得がいかないのか首を傾げ、呟いた…
『ですがリシェス…もしも英雄が弟子を取っていたとしたら……』
エレノアの小さな呟きは聞こえなかったのかルインは慎重に一歩を踏み出し、イャンクックの元に歩いていく。
『うん…そうかもしれないけど今はルーがいないと勝てないし…』
言ってエレノアの手を握る。 今は信用しようという事だろう。
エレノアが顔をあげるとルインが地面を叩いているところだった。
ルインは立ち上がりリシェスに合図を送る。
リシェスも同じくゆっくりと近付き背負っていた大きな樽をイャンクックの顔のそばに置いた。
彼女が背負っていたのは《大タル爆弾》と言われる物で、
飛竜種に比べて非力なハンター達が飛竜種に致命傷を与える為に作られた物だ。
名の通り大きな樽に発火性のある《火薬草》等を調合した爆薬を詰め、衝撃を与えると爆発する仕組みになっている。
『ふぅ…』
樽に詰められた火薬の重みと、背負った大剣の重さとでリシェスの額には汗が浮かんでいた。
間近で見るイャンクックの顔は可愛くも感じられたが、彼女は村の為だと心に言い聞かせた。
(この爆弾で勝てるかな…?)
いかに対飛竜用の道具だといっても飛竜種の体力は馬鹿にできない。
飛竜種は睡眠さえ摂れば例え致命傷であっても回復してしまうと言われる。
イャンクックが寝ているのを確認して入口で待っているエレノアに手を振り合図を送った。
それを確認したエレノアは頷きボウガンを組み立て、弾を込める。
ルインは先ほど叩いた地面の辺りで何やらしゃがみ込んでいた、その辺りは飛竜の餌になったのか小型の動物の骨などが落ちているようなので採取をしているのかもしれない。
準備が整ったエレノアが手で合図を送るとリシェスは岩陰に隠れ、ルインは片手剣を抜きイャンクックの前に立った。
(当てて見せます…!)
エレノアは唇を噛み、瞬きもせずスコープを覗く。
大樽は大きい、だが距離が離れればそれも小さい様に感じる。
外せばルインに当たるかもしれないし、イャンクックに当たっても作戦は失敗だ。
イャンクックが寝ている今ならより多くのダメージを与えれるに違いない。
額に汗が流れるのが分かるが気にいてはいられない、エレノアは深呼吸し息を止める。
次の瞬間洞窟内に目が眩む程の火花が散り、大きな爆音が反響し耳をつく。
イャンクックが突然の痛みと音に驚き暴れる。
火花に目を焼かれる事なくルインはイャンクックに駆け寄った。
恐らく目を閉じていたのだろう、向こうの岩陰でリシェスが目を押さえているのを見ると、リシェスは目を焼かれ視力を奪われたようだ。
走ってくるルインを見つけイャンクックは小さく咆哮する。
『エレノア…!次の弾を装填!リシェスは見えるようになるまで出てくるな!』
ルインの声が洞窟に響く。
(言われなくても……!)
エレノアはポーチから弾を取り出しボウガンに詰め、レバー引きを装填する。
そして岩陰から上半身だけ乗り出し狙いをつける。
スコープを覗いた先は赤く染まっていた。
何が起こったのか分からなかった。
ルインがまた何かしたのだろうか?
エレノアは状況を把握しようとスコープを覗くのをやめ、目を凝らした。
そこには何かを避けたのか、それとも吹き飛ばされたのかルインが伏せていた。
倒れているルインに向かってイャンクックは《何か》を吐き出す。
ルインは転がり《何か》を避ける、地面にぶつかった瞬間それは火柱となり燃え上がる。
(こいつ…火竜じゃないのに火を吐くのか…!?)
火と言っても《火竜》ほど高熱、高威力のものではなく一瞬地面を焦がすだけの様だが、動物の皮や毛が燃えているのを見ると当たれば火傷ではすまないかもしれない。
ルインはさらに転がり、勢いで立ち上がるとイャンクックに向かって走りだす。
イャンクックは近づけさせまいと身体を捻り尻尾を振る。
空を切る音を後ろに聞きながらルインは前転で尻尾をかわし、懐に潜り込みイャンクックの腹部を斬りつける。
血が吹き出しルインの視界を奪うが構わずに斬り続ける。
イャンクックの首に剣を突き刺そうと身を屈めた瞬間、ルインを鈍重な衝撃が襲う。
『ぐッ…!』
『ルー!』
『ルイン!!』
リシェスとエレノアの声が重った。
吹き飛ばされたルインは激しい土煙をあげながら転がり壁にぶつかり動かなくなる。
『そんな!ルイン!?』
エレノアが岩陰から飛び出し、ルインに近づこうとしたイャンクックを撃つ。
しかし焦りに焼かれた心ではまともに当たりはしない。
(リシェスは……?!)
振り返りリシェスを探す。
目を相当強く光に焼かれたのか未だ手探りで岩を探し、辺りを見渡している。
『エレノア!ルーは…!ルーはどうなったの!?』
なかなか視力が戻らない自分の目に苛立ちを感じているのかリシェスは声を荒らげる。
エレノアに気がついたのかイャンクックは彼女に向かって歩きだす。
(このままでは……)
彼女のボウガンは
ヘヴィボウガンと言われる種類で軽々しく扱える物ではない、もしこのままイャンクックが走りだせば彼女も致命傷を負うだろう。
空薬莢を排出しポーチから弾を取り出すそうとするが、手が震えいくつかを取り落とす。
エレノアはボウガンを折りたたみ、ルインからイャンクックを離そうと走り出した。
『さぁ!こっちですよ!』
言葉が通じた訳ではないだろうが、イャンクックは小さい鳴きエレノアに向かって走り出してきた。
(逃げ切れるでしょうか……)
彼女はガンナーだ、ルイン達剣士に比べ体力も少ない。
それに問題は彼女の装備、狙撃がメインになるガンナーの装備はそれほど動きやすいものではない。
(リシェスが回復するまでの時間を稼がないと…)
イャンクックの突進を何とかかわしながらリシェスに合図を送る。
しかし反応が無いところを見るとまだ目は見えないようだった。
(…体力不足ですね……仕方ありません……)
緊張の中走り回ったせいか、いつもより早く息が切れる気がした。
『《これ》を使います、許して下さいね』
言って手にしたのは普通の通常弾より少し大きめの弾だった。
イャンクックの突進をかわしながら隙をみてボウガンを組み立てる。
骨などが混じる土に足を取られる中、低く滑り込むようにして体勢を整え壁に背を預ける。
イャンクックは突進の勢いを殺し損ね、地面に倒れ込む。
『とっておきの徹甲榴弾……くらいなさい!』
スコープを覗き、立ち上がろうとしているところに狙いを定め、トリガーを引く。
『うッ!』
撃鉄が弾を打ち、バレルから火花が散る、それと同時にエレノアを激しい反動が襲う。
徹甲弾は煙を吹きながら飛び、イャンクックに突き刺さった。
首に刺さった痛みに怯み、イャンクックは高い鳴き声をあげる。
徹甲榴弾を撃った後のこの空白の時間が嫌いだった。
彼女はいつも狩りで使う弾を自分で調合している。
無論村の道具屋で弾を売っているが、彼女達の受けれるクエストの報酬で買うには高価過ぎる物だからだ。
(調合…失敗したんでしょうか…)
いつもよりも間が長い気がする。
次の攻撃に備えボウガンを折りたたみ走り出す。
それを見たイャンクックが彼女に突進しようと地面を蹴った瞬間…
『!!』
イャンクックの首に爆発が起こる。
(これでイャンクックの動きを抑えれるはず)
それを見たエレノアはボウガンを組み立て新しい弾を装填する。
徹甲榴弾の炸裂音で耳をやられたのかイャンクックはふらついている。
『リシェス!まだですか!?ルインは!?』
大分目が慣れたといっても暗い洞窟はまだ見渡せない。
『いない…!どこに!?』
岩陰に隠れたのかもしれなかったが、ルインは正確に言えば自分達の仲間ではない。
(逃げたのかもしれない……)
彼もハンターだ、たまたま知り合った自分達の為に命を捨ててくれる訳もないだろう。
唇を噛みスコープで覗いた先には…
イャンクックが小さく跳ねていた、まるで地団駄を踏むように。
鳴き声を上げた口からは炎の息が漏れ、怒っているのだと一目で分かる。
『!?そんな…!聞いてない…』
イャンクックは音に敏感な飛竜で、自慢の大きな耳の近くで何かを爆発させればしばらく行動不能に追い込む事ができる。 しかしそれは同時にイャンクックの逆鱗に触れる事になる。
誰のせいでもない、知らなかった自分が悪いのだ。
突然イャンクックが走り出す。
呆然としている訳にはいかない、怒りによって攻撃力が上がった突進に当たれば無事では済まないだろう。
イャンクックの突進を大きく跳び、かわす。
エレノアはそのまま地面に倒れ込む、その時に骨や土が鎧の隙間に入ったが気にしてはいられない。
(イャンクックは怒るとスピードが上がるんでした…)
立ち上がり走り出そうとした瞬間、背中に何かが当たった気がした。
何度も天と地が入れ代わり、自分が吹き飛ばされたと気付いた時には何mも転がり止まってからだった。
『あッ……くぅ…』
息が出来ない、肺から空気が漏れているかと思った。
(何…に……?)
見上げるとイャンクックが尻尾を振り回しているのが見えた。
イャンクックの尻尾は細いがしなやかであり、スピードと合わさり恐るべき破壊力を生む。
痛みで気を失いそうになるのを嘔吐感が邪魔をし、我慢できずに吐き出す。
(内臓をやられているかもしれませんね…)
吐いたのは《血》、それも黒く濁ったような血だった。
脇腹の痛みからすると何本か肋骨も折れているかもしれなかった。
何とか逃げようと思っても立ち上がる事もできない。
ランポスに殺されかけた事といい今回はツイていない。
そんな事を考えていると泣きたくなった。
イャンクックがとどめを刺そうと大きな鳴き声をあげ、地を蹴り走り出す。
リシェスが飛び出したのが見えたがイャンクックのスピードには追いつけないだろう。
自分に待っている《死》…
後数秒で訪れるであろうそれを認識した時、自然に叫んでいた。
『いやぁぁぁああ!!!』
体を丸め、頭を抱えて目を閉じ、今まで出した事のないような声を上げる。
地面の振動が近付き、恐怖が身を包む。
イャンクックが倒れ地面を滑る音がやけにはっきり聞こえた。
『………?』
しかしいつまで経っても自分の所にイャンクックが来る気配はなかった。
恐る恐る目を開ける。
目を開けると自分の近くで倒れ、もがいているイャンクックの姿があった。
見ると目から血を流している、片方の目を潰されバランスを崩して倒れたようだ。
(リシェスが…?)
しかしリシェスはまだ遠く、イャンクックに何かをしたとは考えられない。
考えている間にもイャンクックから血が吹き出し、苦しみの声を上げる。
『それ以上はやらせない…』
暗がりから足を引きずりながら出てきた男が手を振るう。
『ルイン!』
ルインが手に持っていたのは《投げナイフ》と言われる道具で名前の通り投げて使う。
研ぎ澄まされたナイフは飛竜の鱗を簡単に貫く事ができるが慣れないと真っ直ぐ投げる事は難しく、狙いを付けるのも容易ではない。
『ごめん…ちょっと休ませてもらってた…本当ごめん…』
昇り始めた太陽の明るみに照らされたルインの顔は苦痛に歪みながらも微笑んでいた。
彼も相当ダメージを受けているようだ。
投げナイフで片目を潰されたイャンクックは羽根をバタつかせ飛び立つように起き上がる。 そして大きな耳を一層大きく立て、炎の息を吐きルインを威嚇する。
『さぁ来い…決着をつけよう…!』
ルインは剣を抜き、静かに構えた。
剣の先をイャンクックに向け、タイミングを読まれないよう揺らす。
しかし先程のダメージが大きかったのか、ルインの足は震えている。
イャンクックは羽ばたき、突進ではなく低く滑空するようにルインに飛び掛かる。
(速いな…あまり逃げ回る体力も残っていないし……ッ!?)
飛び掛かってくるイャンクックを転がる様にして避けるが、羽ばたきによる風圧によろけ、舞い上がった塵に視界を遮られる。
『ルー!』
視線を向けるとリシェスが大剣を構え走って来るのが見えた。
『俺の事はいい!それよりエレノアを安全な所へ!』
鳥が餌をついばむかの様に襲ってくるイャンクックの大きな嘴をかわしながら叫ぶ。
ルインの言葉を聞き、リシェスは素直に大剣を背負うとエレノアの元に走って行く。
(くッ…!砥石を使わないと、切れ味が…)
隙を見てイャンクックに斬りつけるが、硬い飛竜の鱗を攻撃し続けたルインの剣は刃こぼれを起こしていた。
竜人族が鍛えた武器は砥石で研ぐだけで切れ味が甦る。
しかし研ぐにはそれなりの時間がかかる、その間は無防備になるし戦闘中に研ぐなどもっての他だ。
(このスピード…簡単には使わせてはくれないだろうな……)
ルインは剣を腰に差し、走り出す。
(リシェスが戻って来るまで逃げれるか…?)
イャンクックが行く手を阻む様に火炎液を吐き、羽をバタつかせながらルインを追い掛ける。
突進をギリギリまで引き付けてかわし、ルインはまた走り出した。
イャンクックは逃げ回るルインに怒りを覚えたのか再び口から炎の息を漏らし、威嚇の声を上げる。
『ルー…!今行くから!』
エレノアを背負い洞窟から出る際に何度か明るく照らされる事があった。
イャンクックが火炎液を吐いているのだろう、そして動物の皮が焼ける臭いが漂ってくる度に胸が痛む。
『…ここで待ってて、すぐに戻るからね…』
エレノアを入口付近の岩陰に隠し、枯れ葉を被せる。
『リシェス…これを……』
消え入りそうな声で囁き、リシェスに小さな石を握らせる。
『これは…』
『ルインが…イャンクックに吹き飛ばされた時に落とした物です……今頃困っているでしょう…早く渡してあげて下さい…』
言うとエレノアは目を閉じ静かに寝息を立てる。
リシェスは石を握りしめ、エレノアに背を向けた。
『ありがとう…!きっと倒すから…ゆっくり休んでて…!!』