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第1幕~クエスト☆☆☆☆

第1幕~クエスト☆☆☆☆

 もうすぐエレノア達が向こう側に回り込み、合図をくれるはずだ。
 そんな事を知る由もなく、リオレウスは呑気に欠伸をしている。
 それもそうだろう、リオレウスを脅かせる者は自然界にはそういないのだから。
 降り注ぐ陽の光は暖かく、抜ける風は心地良い。
 この陽気ではリオレウスでなくても羽を伸ばしたくなる。
『ルー…』
 名を呼ばれた男は振り返り、どうしたの?といった表情をする。
『怪我…大丈夫?』
 男の手甲の端からは包帯の白い布がはみ出ている。
 それだけではない、胴鎧からも何ヶ所か包帯らしいものが見えている。
 あの後、クエストをリタイアして急いで村に戻った。
 幸い村に戻る頃にはルインの容態も少しずつではあるが落ち着いてきているようにも見えた。
 しかし、ルインの意識は戻らない。
 村に戻って1日、2日、一週間たっても戻る事はなかった。
 ギルドの医師が言うには出血が多すぎた、と。
 『覚悟はしておいて下さい』と言った医師の言葉に胸が詰まりそうだった。
 エレノアと交代でルインの傍でずっと彼の名を呼ぶ、ルインが少しでも自分達を仲間だと思ってくれているのなら、自分達の声で戻ってきてくれるかも知れない。
 そう信じて、そう自分に言い聞かせルインの名を呼び続けた。
 ウォーレンもルインの事が気になるのか時折【栄養剤】などを差し入れに来ていた。
 栄養剤は身体の代謝を高め、体力を増強させる効果があるが、寝ているルインに飲ませる事は難しい。
『リシェス……?』
 それは村に戻ってきて二週間が経とうとしていた朝方の事、眠気に負けついウトウトとしている時だった。
 部屋にはルインと自分だけ。
 呼ばれる筈のない自分の名前。
 ルインを見ると生気の無い目が開きこちらを見ている。
『元気ないね…、どうしたの?』
 そう言われた瞬間涙が溢れてきた。
『リシェス?』
 彼は困った様な顔をしながら問いかける。
『馬鹿!』
 言いたい事は他にあった。
 無事で良かった、生きていてくれて良かった。
 だが、口から出たのはその一言だけだった。
 嬉しくて、笑いたいのに何故か溢れてくる涙。
 声を上げ、ルインに抱きつきながらただ泣いた。
 憔悴しきった彼女の顔、動かない自分の身体、最後に見た真紅の飛竜。
 断片的な記憶を辿り、今の状況を把握する。
『ごめんね……』
 痛みに耐えながら何とか手を動かし、彼女の肩に添える。
 どんなに考えても謝る言葉しか浮かばなかった。
 足音が聞こえたと思うと突然ドアが開く、それも壊れるのではないかという程の勢いで。
『どうしたんですか?!』
 入って来たのはエレノア、恐らくリシェスの泣き声が聞こえたのだろう。
『ルイン…!?』
 驚いた顔で自分を見ているルインに気付き、ドアを乱暴に開けた事を少し後悔した。
『エレノアは元気そうだね』
 そう言われて顔が紅潮していくのが分かる。
 普段リシェスに“おしとやか”にと注意している分、余計に恥ずかしい。
 ルインは嫌みで言っている訳ではないのだろうが、とても憎たらしく聞こえた。
『ルー、エレノアも寝ないで傍に居てくれたりしたのよ、仲間が心配だって』
 ようやく落ち着いたのかリシェスが口を挟む。
『そう、心配かけてごめんね』
『…ッ!う、ウォーレンを呼んで来ます!』
 そう言うとエレノアは再びドアを開け、慌ただしく走り去っていった。
 残された2人は顔を見合わせ不思議そうに首を傾げる。
『おかしな事言ったかな?』
 苦笑いしながらルインが言うと、リシェスは笑いながら照れてるのよ、と答えた。
 暫くするとエレノアが戻って来たのか廊下に足音が響く。
 ウォーレンもいるのだろう、不規則に刻まれる大小の足音、時々聞こえる木の軋む音がこの建物の古さを教えてくれる。
『生きていたのか』
『何とか、ね』
 入って来るなりウォーレンが不満げに言う。
 ルインは怒る様子もなく笑いながら答えた。
 ウォーレンの横ではエレノアがまだ恥ずかしそうに下を向いている。
『ウォーレンも心配してくれていたの、それに色々持ってきてくれたのよ』
 リシェスの視線を追いかけるとベッドの脇の小さな棚の上には回復薬や栄養剤といった薬が置いてあった。
 それも少量ではなく、数もそれなりにあった。
『ありがとう……』
 ルインは静かに頭を下げる。
 ウォーレンは手で止めろと合図をし、部屋を見渡す。
『いや、構わん“ついで”に調合しただけだ、それにしても……』
 ルインが寝ている時には心配であまり気にならなかったが、この部屋は殺風景だった。
 ルイン自体がこの村に来て間もないという事もあるのだが、それにしても“物が無さ過ぎる”。
 道具を入れておくための箱、これはギルドが各部屋に支給する物だが、その中身以外にルインの私物といえる物は壁に掛けられた彼の物とは違う剣。
 大きさを見れば片手剣だと分かるが、彼がこの剣を持って狩りに出たところを見たことがない。
『それは、父さんの使っていた剣なんだ』
 みんなの視線が剣に集まったのを察したのかルインが言った。
 ハンター達は他のハンターの武器を使う事はない。
 武器とは自分達の相棒。
 共に戦う仲間達と同じように信じるべき物である。
 それを他人が造り、他人が鍛えた物を使うのはハンターとしての誇りが許さなかった。
 例えそれが親の物であっても。
 自分の持つ相棒は自分が狩った者達に敬意を払いながら持つ物だという考え方が一般的だった。
『では聞かせて貰おうか?何故リオレウスに1人で突っ込んだ?』
 壁に掛かった剣を見ながらウォーレンが言う。
 途端に空気が重たくなった気がした。
『ずっとリオレウスを探してた、リオレウスを倒す事だけを考えながら』
 何かを我慢する様にゆっくりと話始める。
 ルインの表情が暗いのは怪我のせいではないだろう。
『あれはまだ俺が小さい時、遊びでそこの剣を持たせてもらったけど、重くて持ち上げる事も出来ない頃…』
 それは思い出。幼い頃の暗い記憶。
 思いだそうとするだけで胸の奥に黒い物が渦巻いてくる。
 “それ”は少しでも気を緩めようものなら、溢れ出し目に映る全てを壊そうと暴れ出そうとする。
 ゆっくりと息を吸い込み、高揚しないように深呼吸をする。
『父さんと母さんの狩りの話を聞きながらハンターになるのをずっと夢見てた。自分もいつか両親の様に凄腕のハンターになるんだって。“あの夜”も夢でどんな飛竜を狩ろうかと楽しみにしながらベッドの中に潜り込んだんだ…』
 そう言ってルインは窓の外に目を向ける。
 外はまだ昼にもなっていない。
 しかし彼は窓に映る自分の姿に過去を見ているのだろう。
 彼の目にいつもの力強さは無く、幼い子供の様に見えた。
『寝てしまえば起きるのは次の日の朝…、母さんがうるさく怒鳴るまで起きなかった。起きないはずだった。
でも…その夜は違った。 寝苦しくて、でも隣の母さんは普通に寝てて…。 何だか嫌な気分だった。 ふと何かと思って外を見ると、“空が燃えてた”。 大袈裟、と思うかも知れないけど…』
 静かに語るルインの瞳は虚ろな視線を流しながら揺れる。
『夜である事を忘れてさせる程に、激しい音と村の人の叫び声。俺は怖かった…、父さんと母さんは外に出て戦っていたみたいだけど、俺は怖くてただ毛布にくるまって震えている事しかできなかった…!』
 握った拳が震える。
 言葉の節々から彼の激しい怒りを感ずる事ができた。
 いやそれは“悔しさ”、後悔だろうか。
 村の上空を恐るべき速さで飛び回り、家や人を次々に灰塵へと変えていく。
 窓から入ってくる滅びの炎の煌めきが少年の恐怖心をいっそう煽りたてる。
 激しい轟音が響く度に炎が揺れる。
 焦りに焼かれた男の声。
 絶望を見る女の声。
 迎えに来てくれる、すぐに、父が、母が。
 村の火もすぐに静まるはずだ。
 少年は神に祈った。
 助けて、と。
 ただ無心に祈った。
 ただ祈りの言葉を繰り返す。
 村を、父を、母を、自分を助けて、と。
 そして少年は神が残酷だと言うことを知る。
 一際大きな爆音、激しく揺れる世界。
 最後に見えたのは迫り来る“天井”。
 自分でも信じられない程の叫び声を上げ、自分の叫び声を聞きながら少年は闇の中へと飲み込まれていく。
 激しい地響きと共に迫り来る天井。
 逃げる事も忘れただ叫ぶだけしかできなかった。
 天井に下敷きになる瞬間目の前が真っ暗になった。
『それから気がついた時にはもう静かになってた、死んじゃったんだって思ったりもしたけど、体中に走る痛みがまだ生きてる事を教えてくれてた……』
 そう言って彼は腕を撫でる、ハンターは大小はあるが“消えない”傷を持っている。
 モンスターに噛みつかれたり、鋭い爪で切り裂かれたり。
 後に残る傷を誰もが持っている。
 ルインの手や体にある傷もそういったモノなのだろうと思っていた。
 しかし、それだけでは無いようだ。
 折れた木片、柱としての役目を終え、ただ人を傷付ける凶器と化す。
 裂けた板は肉を裂き、折れた柱は体を刺す。
 それは体のみならず“記憶”となって心を掴む。
 ただ彼の話を聞くしか出来なかった。
 相槌を打つこともできずにただ聞いていた。
 ルインの眼を見ても彼は“ここにはいない”。
 恐らく彼は未だ少年のままその時を彷徨っているのだろう。『幸い子供だったし、運良く隙間に入り込んだのか何とか出られそうだった。何処からか吹いてくる風を頼りに這いずりながら歩いた』
 崩れた家の隙間から入り込んでくる風は決して心地良い物ではなく、血とゴムが焼いたかの様な臭いに咽びそうになる。
 少し音がしただけで崩れてしまうのではないかと怯えながら少しずつ動く。
 手を着いた時に木の破片が刺さったのか思わぬ痛みに声を上げる。
 ひょっとしたら釘が刺さったのかかも知れないと、暗闇の中目を凝らして見るとそうではないようだった。
 それでも血が出ているらしく、そっと息を吹きかける。
 外はもう明け方に近いのかやや明るくなってきていた。
 慎重に隙間を移動し、やっとの思いで外に出たときは汗をびっしょりとかいていた。
 血の臭いには慣れれそうにはなかったが、空気が籠もる瓦礫の中より外は幾分か涼しかった。
 辺りを見渡し父と母の名を呼ぶ。
 辺りには人どころか、家すらないと言った方が近い様な状況だった。
 燃える物が無くなり、燻る様な火や、倒れたハンター達。
 昨日までは笑っていた隣の住人がいつも自慢していた装備がいびつな形に歪んでいた。
『ルイン!無事だったか…!』
 そこに居たのは父。
 顔に乾いた血の筋をつけ、ススを被ったのか真っ黒な顔をしている。
『大丈夫!?父さん!母さんは!?』
 ━━━父の元へと駆け出す少年。しかし父からの言葉を聞く事はなかった。
『…その時の父さんの顔は今でも覚えてる。たった一晩で父さんの顔は酷くやつれていた。父さんに近寄ろうと思った瞬間、凄まじい爆風と炎が目の前を包んだ…。…目を開けた時には父さんの姿はどこにもなかった。何が起こったのか分からなかった。一瞬、ほんの一瞬で父さんは…!』
 程なく訪れた朝日が残酷な風景を少年に刻み込む。
 叫んだ。
 父の、母の名を。
 泣いた。
 ただひたすらに。
 誰も少年の呼びかけに応える事はなく、凄惨な情景が少年の心をただ傷付ける。
 泣いていても何も出来ない、何も変わらない。
 そう思う人もいるだろう。
 しかし少年はただ泣く事しか出来なかった。
 母に頭が上がらない様だったが、頼りになった父。
 いつも怒ってばかりいたが、笑うと綺麗だった母。
 頭を撫でてくれる父の大きな手も、優しい母の声ももう聞く事は出来ない。
 突然闇の中に放り出された様な気がした。
 どこに行けばいいのかも分からない。
 しかし立ち止まっていると足から闇に飲み込まれそうになる。
 それでも少年の体は生きる事を望む。
 “空腹”。
 空を見ると陽は地平線より顔を出しきっていた。
 と言っても、少年は狩りのやり方も分からない。
 朝にもかかわらず目の前が少し暗くなった様な気がした。
 それでも村の中を探せば何か見つかるかも知れないと立ち上がる。
 ふと目に止まった“剣”。
 見覚えのある蒼い刃の剣。
 父が何日かの間【王都】に出かけ、その帰りに貰ったと母に自慢していた剣だった。
 父が扱う武器はハンターが使う武器の中でも軽い部類の片手剣だ。
 それでも年端のいかぬ少年には引きずるのがやっとだった。
 倒して怪我をしない様に落ちていたボロを刀身に巻き、腕に抱えて歩く。
 父の剣でこれならば、母の持つ大剣なら…と思うとぞっとした。
『それから少しして村の中でもあまり崩れていない家を見つけたんだ。村はあまり大きくなかったけど定期的に行商人が来てたから、それまで耐えればきっと助かると思ってた』
 しかし、夜なり朝になり、雨が過ぎ、いくら待っても行商人が来ることはなかった。
 それもそのはずだ、村はほぼ全壊といった有り様で、そこに村があった事すら疑わしい。
 消耗をなるべく抑えようと少年は毎日のほとんどを寝ながら過ごしていた。
 思えばその間に行商人が来たのかも知れない。
 家の中で見つけた保存食も寂しくなり、少年は日に日に衰弱していく。
 それでも少年はただ“待つ”事しかできなかった。
 冷たい雨に、孤独な夜に、ただ膝を抱えて泣いていた。
 静まる部屋、誰も口を開かない。
 目の前にいる孤独に震える彼にかける言葉が見つからない。
『…それから村を訪ねてきたというハンターに助けられて王都のギルドに引き取られたんだ』
 各街や村にあるギルド、それを統括するのは王都だといわれているが、実際の所はよく分かってはいない。
 王国に所属しているという話もあるが、国権に干渉されない組織という話もある。
 王都のギルドには孤児院があるという。
 この孤児院に預けられた子供達は厳しい修練を積み“ギルドナイト”に育てられるといった噂も流れたりしているが、彼がここにいるという事はそれも噂に過ぎないのかもしれない。
『愚かだな…』
 不意に腕を組んでいた男が発した言葉。
 リシェスもエレノアも驚いた表情をし男の名を叫ぶ。
 しかし彼は、ルインは黙って下を向いていた。
『村を焼かれ、飛竜を追い、飛竜を憎み、飛竜を狩るのか?とても愚かな事だ』
『そう…だね』
 男の言葉を彼は静かに肯定した。
 彼は俯いたまま毛布を握る手に力を込める。
『ルー!?』
 何故肯定するのか?彼女は理解できないのだろう。
 男の言葉を認めてしまえば、彼のこれまでは愚かな事、そういう事になってしまう。
 しかし彼は自分でも分かっているのだ。
『お前の村を焼いた飛竜はすでに他のハンターが狩っているかもしれん、それでもお前はその飛竜を追うのか?それはいつまで続く?リオレウスを狩ったとしてお前は憎しみの焔を消せるのか?』
 それでも胸の奥で燻る“黒い焔”は彼を灼く。
 孤独に震えた夜、涙を誘う冷たい雨。
 その暗い思い出が焔を煽る。
『それでも…、それでも俺はあいつを、リオレウスを倒さないとあの時のままなんだ…。震えて泣いていた子供のままなんだ…』
 そう言った彼はただただ強がっているだけの子供だった。
 彼は子供のままなのかもしれない。
 一夜にして愛する父と母を失った悲しみ。
 何人がその傷に耐えうるだろうか?
 凍りついた少年の時を動かすには火竜を倒すしかないのだろうか?
『それでも、俺は……』
 そう言った彼の声が耳から離れなかった。
 手を差し出そうとしても彼は“ここにいない”。
 大事な仲間であったはずの彼がとても遠くにいるような感覚がした。
『ルー…』
 エレノアに肩を抱かれルインの部屋を後にする。
 話をした後ルインは疲れたのか眠ってしまった。
 目覚めたばかりで無理をさせてしまったな、とウォーレンが言っていたのも気にかかる。
 しかし彼は、ルインは目覚めたのだ。
 変わりに彼が囚われた過去を知ってしまったが、それでも目覚めた事は嬉しかった。
 その日は久しぶりにゆっくり眠れた気がした。
『怪我は大丈夫だよ、盾も握れるし剣も振れる』
 ルインはそう言って微笑む。
 安心させようと笑ってみせるが、彼女の心配を払う事は出来ないようだ。
『大丈夫だよリシェス、もう無理はしない。だから…』
 そう言って彼女の目を見つめる。
 彼女の瞳は揺れていたが、その言葉に納得したのか静かに頷いた。
 あの時、彼に致命傷を負わせたリオレウスは残念ながら他のハンターに狩られてしまったが、事情を聞いたクリスが別の依頼を回してくれた。
 当然、ウォーレンも同行するという条件で、だが。
 しかし今回彼はルインを守る為ではなく、ルイン達と共にリオレウスを狩るつもりで来たと言っていた。
 作戦はエリア3でリオレウスを森と丘の両方から挟撃しようというものだ。
 巣のある丘の方からルインとリシェスが、休息地の森を抜け後方からウォーレンとエレノアが攻めリオレウスを挟み込む。
 リオレウスは定期的に空を飛び回りテリトリーを監視する。
 そしてある程度空を旋回すると捕食の為かどうかは分からないがこのエリア3に降りてくるのだ。
 ウォーレン達が向こう側で合図をすると同時にこちらが飛び出しリオレウスの注意を引く。
 そしてリオレウスがルイン達に気を取られた瞬間、時間差でウォーレン達が飛び出しリオレウスを困惑させ一気に追い込み倒す。
 上手く行くかどうかは分からない、タイミング次第だろう。
 ルイン達が注意を引ききれなかった場合はウォーレン達が、ウォーレン達が遅れた場合はルイン達が危険に晒される。
 それでも馬鹿正直に正面から挑むよりはいいだろう。
 視線をリオレウスに戻し、その赤い姿を見つめる。
 見つめれば見つめるほど鼓動が早くなり胸を打つ。
 これからあいつを…!
 俺の村を焼いたあいつを…!
 自然と剣を持つ手に力が入る。
 すると目の前をピンクの色をした物が上から下へと流れた。
 何だ?、と思った直後に背後に重さがかかる。
 衝撃、というわけではない。
 軽いわけではなかったが、バランスを崩すほど重くもなかった。
『大丈夫、大丈夫だよルー…』
 耳の近くで声が聞こえて重さの正体を理解した。
 リシェスが後ろから自分を抱きしめているのだ。
 先ほど目の前を通ったのは彼女が着けているクックアームだろう。
 視線を下げると胸元にピンク色の棘が特徴的な手甲があった。
『うん…』
 お互いは鎧を身に着けている、しかし彼女の温もりを感じられる。お互いの体温など通るわけがない。
 しかし確かに感じる、“自分は独りではない”ということを。
 手に力が入るのを見て、過去に震えていると思ったのだろうか。
 悪い気はしなかった、どこか落ち着くような気分だった。
 大丈夫、分かっている。
 リオレウスを狩り、俺は今日“初めてみんなの仲間”になる。
 心の中で言葉を繰り返し、彼女の手を取る。
『大丈夫、俺はもう独りじゃない…、必ず倒そう!』
 過去との決別。火竜の討伐。
 そうして少年は初めて彼に戻る。
 凍った時を動かす為の狩り。
 この狩りを成功させなければ自分はいつまでも“あの時”の、震えて泣いている子供のままだ。
 しかし自分を仲間と呼び、手を差し伸べてくれる者がいる。
 優しい声。温かい手。あの時失った物を今はもう手に入れているのかもしれない。
 それでも、それでも倒さなければならない。
 リオレウスを倒して自分は…。
 ふとリオレウスの向こうに動く物を見つける。
 その数2つ。
 大きさから見るとウォーレン達がしゃがみながら歩いているのだろう。
『リシェス、ウォーレン達が来たみたいだ』
 そう言うとリシェスは静かに離れ、ルインの後ろについた。
『俺が飛び出すから付いて来て、でも無理はダメだよ?』
 少し驚いた顔をした後リシェスは悪戯っぼい笑みを浮かべる。
『ルーこそ』
 そう言って2人は笑い合う。
 向こうではこちらが飛び出すのを今か今かと待っているはずだ。
『行くよ!』
『えぇ!』
 瞬間ルインが飛び出す。
 速い、元々片手剣と大剣という武器の重量差があるのだが、それを差し引いてもルインは速い。
 彼の少し後ろに付いて行くのがやっとだった。
 気配を感じたのかリオレウスがゆっくりとこちらを振り向く。

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最終更新:2013年02月19日 13:03
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