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第1幕~終章

第1幕~終章

『で?どうなの?』
『……何がだ?』
 そう言って男は女が差し出したグラスを受け取る。
『何が、ってルインくんの事よ』
 女は呆れたような顔をして男を見るが、彼は気にも止めずグラスに口をつける。
 この広い酒場も今は彼と彼女だけだ。
 外では盛大な宴が開かれており時折賑やかな声が聞こえてくる。
『ちょっとウォーレン、聞いてるの?』
 しびれを切らし女が更に問い掛ける。
『あぁ…、あいつはなかなかいい“眼”を持っている。成功に驕らず経験を重ねれば優秀なハンターになるだろう』
 空になったグラスを女に渡し、追加の酒を求める。
 これで何杯目だろうか、随分飲んだ気がするが不思議と意識ははっきりしていた。
 村の宴はルイン、正確には村で育ってきた2人の少女が火竜リオレウスを討伐した事を祝う為のものだ。
 この地方では一般に火竜の討伐が一人前の条件とされている。
 もちろんそれだけで一人前かどうかは決められないが、それでも2人を知る村人達は喜ばずにはいられなかったようだ。
『火竜を狩った事によってあいつらには今までいかなった依頼もくるようになるのだろう?』
『そうね…』
『中には火竜より強大な相手と戦わねばならん、その時に━━…どうした?』
 不意に女が自分の顔を見つめている事に気がついた。
『ううん、あなた変わったわね。アルが今のあなたを見たらなんて言うかしらね…』
 突如グラスがテーブルに叩きつけられ激しい音を立てる、割れはしなかったがヒビが入っているのが分かる。
 もう一度同じようにすれば次は砕けるだろう。
『あいつの話はするな…!』
『……ごめんなさい』
 普段と違い感情を隠そうともしないウォーレンをどこか寂しそうに見ながら女は謝る。
『クリス、お前は行ってやらなくていいのか?』
 恐らく宴の事だろう、変わりのグラスを受け取り静かに口を開く。
『そうね…。祝ってあげたいんだけど、リシェスは怒ってるだろうし…』
『怒る?あいつがか?』
 グラスに口をつけたままウォーレンが不思議そうに尋ねる。
 クリスは苦笑いを浮かべため息をつく。
『ええ、ルインくんをリオレウスにけしかけたの私なの。それで“あんな事”になっちゃったでしょ?』
 あんな事とはルインが大怪我をした事だろうか。
『あなたが居れば大丈夫だと思ってたんだけど?』
『それについては弁解の余地もない』
ウォーレンは気まずそうにクリスから視線を外し答える。
『で討伐して帰ってきたと聞いたら次はエレノアが死にかけてるんだもの、びっくりしたわ』
 その様子を見てクリスは更に続ける、黙るウォーレンを見てさすがに言い過ぎたと顔色を伺ってみる。
『……何が起こるか分からないのが狩り、と言ってもただの言い訳だが今回は私も学ぶべき事があった。ルインにしろエレノアにしろ災難だったが、あいつらにとって今回は良い狩りになっただろう』
『そうね、あなたにとってもね』
 そう言うと2人は顔を見合わせて笑いあう。
『君からの依頼は失敗してしまったな…』
『いいのよ、ちゃんと3人を生きて連れて帰って来てくれたんだから。……今日は私も飲もうかしら』
 クリスはご機嫌な顔でグラスを取り出し、麦酒を注ぐ。
『また暴れる気か?』
『何ですって!?』
 心配そうに問い掛けるウォーレンに大袈裟に怒ったふりをしてみるが、すぐに笑みに変わる。
 広い酒場に2人の静かな笑い声が響く。
『ルー…こんなところにいたんだ』
 名を呼ばれ振り返ると両手に料理の皿を持った少女が立っていた。
『リシェス…』
『これ美味しいの、ルーと一緒に食べようと思って』
 片方の皿を差し出し、彼女はルインの隣に腰を降ろす。
『賑やかなの嫌い…?』
 礼をいい皿を受け取るとリシェスが聞いてくる。
 一人抜け出してこんな場所にいる自分を怒っているのかも知れない。
 ここは村から少し離れた高台で、下では篝火を囲んで宴に興じる人達の姿が見える。
『そんな事はないんだけど、ちょっと頭を冷やそうと思って』
 そう言ってルインは笑ってみせる。
 ふと彼の目の前に一振の剣がある事に気がついた。
『あぁ…、火竜も無事に狩れたし父さんや母さんに報告をって思ってね』
 リシェスが剣を見つめている事に気がついたのかルインは目を細め、剣を見つめる。
 彼の横顔は相変わらずの寂しげな表情だったがどこか安らかな感じがした。
『エレノアは……?』
 暗くなった雰囲気を払おうとルインが話題を切り替える。
『うん、大丈夫みたい。…でも少しの間狩りには行けないみたい』
 良かったと胸を撫で下ろす。
 例え火竜を狩れたとしても仲間を失えば意味はない、エレノアが無事と聞いて胸のモヤが晴れた気がした。
『ルー……』
 篝火の方を見ているとリシェスが小さな声で名前を呼ぶ。
 耳を傾けていなければ風に流されてしまう様な声だ。
『どうしたの?』
 彼女は俯いたまま皿に乗った豆をつついている。
 少し待ってみても続きを言うような素振りを見せない。
 言おうかどうか迷っているのか、それとも言いにくい事なのかは分からなかったが、ルインはリシェスの方を向いて続きを待った。
『……ルーはこの村から出て行くの?』
 何分経ったのか分からなかったが不意にリシェスが口を開く。
『リシェス…?』
 思いもしない質問に驚いた。
『エレノアが言ってたの、ルーはリオレウスを狩ったら村から出て行くかもって……』
 震えているのかフォークを置く手が小さな音を立てる。
『きっとルーは出て行くだろうって…!』
 そう言った彼女の頬に一筋の光が流れる。
 村の篝火を映したその光はとても眩しかった。
『うん…、そう思ってた。この地方に来たのもリオレウスがいるからって聞いたからなんだ…』
 彼の言葉を聞き、リシェスの頬を伝う光の間隔が短くなり、嗚咽を我慢しながら顔を必死に拭っている。
 その仕草を見ているだけで胸が締め付けられる思いがするがそのまま続ける。
『でも、今は違う。最初にリオレウスにやられた時もう死んだんだって思った。でもリシェスは必死に探してくれたよね…。本当に嬉しかったんだ、今までずっと独りだったし…』
『ルー…』
 彼女の手を取り、顔を自分の方へと向けさせる。
『だから…これからも俺と一緒にいて欲しい』
 そう言うと彼女は何故か顔を赤らめ視線を外す。
『そ、それってプロポーズ…?』
 リシェスが恥ずかしそうに呟くの聞き、自分の言った事を思い返す。
『え!?』
 “これからも俺と一緒にいて欲しい”
 女性にとってその言葉はどんな意味で受け止められるのだろう、考えただけで頭から湯気が出そうだった。
 彼女は頬を染めながら上目使いでじっとこちらを見つめている。
 彼女の顔を見ようと思うのだが、ギクシャクとしてしまう。
『…違うの?』
 思わず視線を外してしまい、それを見たリシェスが不安げに聞き返してくる。
『えっと、その、何て言うか、これからも一緒に狩りをしようって意味で、つまりは…』
 どうしたら傷つけずに言えるだろうと頭の中で思えば思うほどこんがらがっていく。
『ふふ、ありがとう。ちょっとからかってみただけ』
 こちらが慌てているのを見てリシェスは微笑む。
『…え?』
 泣いているのは本当のようだが、からかったとはどういう事だろう。
『だってルーったら出て行くかもって感じで話すんだもん、……そんなの意地悪だよ』
 彼女の答えを聞いて呆気にとられる。
 今の自分はさぞかし間抜けな顔をしているだろうと思う。
『…でも出て行かないんだよね?これからもずっと一緒なんだよね…?』
 笑ったり、泣いたり、不安になってみたり、リシェスは本当に忙しいなと思うと自然に笑みがこぼれた。
『うん、この村でリシェス達と一緒にいるよ』
 そう言うと彼女も満面の笑みを返してくれる。
 温かい、もう独りではない。
 そう思うと今までの辛かった出来事など忘れてしまえる気がした。
『リシェス?これは…?』
 彼女が後ろに回ったと思うと首に何かをかけてくれる。
『御守り、【紅蓮石】の欠片でできてるの。ルーが危なくないように私からプレゼント』
 しかしこれはリシェスがいつも身に付けていた物だ。
『でも、これ…』
 以前に“これ”は彼女の父がくれた物で、その父も今は行方が分からず形見の様な物だと言っていた。
『ルーがいなくなった時とても心配だった、とても辛かった…。だからそんな時にルーを守ってくれる様に昨日お父さんにお祈りしてたの。だから、だからもういなくならないでね…』
 彼女は照れくさそうな笑顔を浮かべると後ろを向く。
『そ、そろそろ戻らないと村のみんなが心配しちゃう!主役がいないんだもの』
 まるで自分に何かを言い聞かせるように彼女が言う。
『え、ルー!?』
 気がつくと後ろから彼女を抱き締めていた。
 驚いた彼女に振りほどかれるかと思ったが、リシェスは大人しく捕まえられている。
『本当にありがとうリシェス。これからはこの首飾りの代わりに俺がリシェスを守るから…』
 彼女を抱く腕に力を込める。
 体がみるみる熱くなるのが分かる、今ごろ顔は茹で上がったみたいに赤くなっているだろう、それは彼女も同じかもしれないが。
 それでも彼女を、リシェスを守りたいという気持ちで胸は一杯だった。
『うん…ありがとう、ルー…』
 ここは西シュレイドにある辺境の村。
 温暖な気候と優しい風に愛されるフライダムの村。
 決して大きくないこの村で今日も1日が過ぎてゆく。
 ある者は田畑を耕し。
 ある者は狩りに出かけ。
 ある者は仲間と語り合う。
 幾年を経ても変わらぬ風景。
 仲間と笑い、仲間と泣きながら自然と共に生きてゆく。
 ハンター達の日常。
 今日もどこかで狩り、狩られてこの世界は廻る。
 終わらない世界の定理。

  ~Monster Hunter~


 そして少年の永く暗い終わりの夜は終わり、優しい夜明けに包まれる。
 眩い朝日と共に、明るい声が聞こえる。
『ルー、おはよう!』

あとがき

はい、長い間私の小説にお付き合い頂きましてありがとうございます。
思えば約8ヶ月。
1日1回という凄まじいスローペースで書いてまいりました。
書き始めた当初はまだこの【辺境の村】はなく、違う方の掲示板で書いておりました。
今思うととても懐かしいです。
DEENさん達が書いていた【リレー小説】などを読まして頂いていたのがついこの間のような気がします。
書き始めてから今日書き終わるまでの間色んな事があったなぁっと感慨にふけったりしております。
小説は読み返して見れば拙い文章で恥ずかしかったりするのですが、これから第2幕、第3幕に向けて頑張って行きたいと思います。
それでは読んでくれた皆さんありがとうございました。
        Laisser-faire

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最終更新:2013年02月19日 13:50
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