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FILM WHITE - (2024/09/08 (日) 01:10:24) の1つ前との変更点

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 竜の鱗が小さく震えた。  それは人間(ミニア)で言う所の、鳥肌、寒疣と呼ばれる生体反応に等しかったと言える。  自身の心身に正負問わず甚大な影響を齎す衝撃を察知して肌が粟立つ現象。  彼女の身に起きたのは何処まで行ってもそんななんて事のない現象でしかない。  彼女が彼女でさえ無ければ。  竜は竜でも、それが荒涼の主でさえ無ければ。  白く、白き、万物にとっての死。  冬のルクノカでさえ無ければそれは、只のありふれた現象の域を出なかっただろう。  ルクノカが停止する。  一瞬、自分の身に起こった事が理解出来なかったからだ。  ルクノカが動き出す。  自分の身に起きた事を理解したからだ。  その口角は麗らかに吊り上がっていた。  精緻な神像よりも尚美しいと評される最強の古竜が、笑っていた。  白きモノの視線が小さな人影を認める。  特徴は人間。  二本の腕を持ち、二本の足で地を踏み締め自立している。  色彩は白。  肌、頭髪、全てが白い。  体格は華奢。  ルクノカなら撫でただけでも五体を纏めて捻じ切れる程にか細い、竜の前へ立つには余りにか細い体をしていた。  これまで幾度となく、数多の勇士が立ち上がってはルクノカへ挑み、そして失望させて来た。  生物として遥かの高みにあるからこそ、彼女は楽しむ努力をしなければ高揚の一つも覚えられない。  六合上覧の第二試合にて。  彼女の前へ立ちはだかった欲深な鳥竜(ワイバーン)でさえルクノカをそうさせるには命を懸ける必要があった。  だというのに今。  冬のルクノカは命は愚か戦いの始まりにさえ辿り着いていないというのに、既に心臓の高鳴りを自覚していた。 「――やあ」  素晴らしい。  掛け値なしにルクノカはそう思う。  それだけの価値が目前の彼にはあった。  少年とも青年とも付かない、そもそも老若の観念を当て嵌める事自体がズレていると感じさせるもう一つの"白き滅び"。  ルクノカはそれに既視感を覚えていた。  これを自分は見た事がある。  ルクノカの息(ブレス)は命無き無機にさえ死を馳走する。  究極の低温の前に、あらゆる物質はその尊厳を保てない。  極限の冷却による変容と喪失の果てに生まれる暗く深い孔――  冬のルクノカは今、もう一つの白に対してそんなイメージを見ていた。 「――フ」  気付けば声が漏れる。  おお、これが聖杯戦争。  六合上覧さえ及びも付かぬ強者猛者が集う地獄の蠱毒。  嗚呼、何と、何と… 「――ウッフフフフ!」  素晴らしいのだろうと感極まるなり、ルクノカは全ての貞淑に別れを告げ真の顔を曝け出した。  これ即ち戦闘狂、戦狂いの修羅なり。  同時に横溢する"冬"の魔力。  最強は最強故に隠れず恥じず、繕わぬ。  我は此処に居るぞとその全存在を以って世界に断言する。  底のない空虚と、頂を知らない渇望。  相反する二つが真昼の街にて対峙を果たす。 「あぁ、なんて嬉しい! わざわざ会いに来て下さったのね、この私に。遠路遥々ご苦労でした。礼はたんと弾みましょう!」 「否定はしないよ。如何せん、竜族とは因縁がある身でね…小手調べには丁度いいと思って来たんだけど」  冬のルクノカの高揚という遍く生命にとっての最大の危機と相対して。  その上で表情一つ揺るがさず、即座に返せる器がこの冥界に一体どれ程存在しよう。  彼とルクノカは生命の否定たる白という点で共通している。  冬(サイレント)か、消滅(クリア)か。  違うのはそれだけ。振るう死の形だけだ。 「思ったよりも出来るようだ。アシュロンが可愛く見える竜がまさかこの世に居るとはね」  そんな存在をしても、ルクノカにはこの評価が出る。  竜族の神童と呼ばれたある魔物を彼は知っていたが。  それもこの白き古竜の前では聊か以上に見劣りすると言わざるを得ない。  王を定む戦いへ参じた百人の魔物の子の一人にして。  魔界を、魔物を終わらせるべく産み落とされた或る世界の終末装置たる彼をしてもルクノカに対する評価は"怪物"以外になかった。  だが――ならば。  であるのならば。  冬のルクノカの強さ恐ろしさを正しく把握していながら表情一つ変えない彼は一体如何なる存在であるというのか。 「その高揚に応えよう、ご婦人。これより僕の冬を馳走する」 「…まあ。まあ、まあ――」  これは愛を知らぬモノ。  これは絆を知らぬモノ。  その意味を解せない、そういう機能を持たない生物。  魔物とも人間とも、ともすれば怪物とさえ構造の根幹から異なるナニカ。  まさしくその存在は『魔王』の如く。  空寒い微笑みと共に告げられた言葉へルクノカは震える。  恐怖ではない。  あくまで竜は高揚していた。  冬を馳走すると言ったか。  この私に――このルクノカに。  よりにもよって冬を、白き死を告げると言ったか! 「――えぇ、是非に! あなたの冬を見せて頂戴な、名も知らぬあなた…!」  斯くして戦端は満を持してその幕を開ける。  挑むは死。受けて立つも死。  冬と冬。滅びと滅び。  冬のルクノカ、対、クリア・ノート。     ◆ ◆ ◆  第一に振るわれたのは爪の横薙ぎだった。  高度に結晶化した竜爪はシンプルに物質として最強を誇る。  触れれば英霊の肌であれ裂け、五体が引き千切れる。  妻子を捨ててルクノカの前へ立った者が居た。  冬のルクノカを、最強の竜を討った栄誉に狂った男だった。  削げる全てを削ぎ落とし、生涯全てを竜殺しの為に費やした彼は然し。  ルクノカが振るった爪の一撃を前に何も出来ぬまま肉片となって凍土に消えた。  誰かの生涯を容易く無に帰せる竜の一撃。  それを前にクリアは不動。  無知ではなく、事実として脅威でないから動かない。 『――ランズ・ラディス』  この世の何処かで声が響く。  この場には居ない何者かの声だ。  声質は老人。  偏屈と偏執が声音にさえ滲み出ている。  ルクノカには聞こえぬ声だが、然し此処ではない何処かで響いたその声を皮切りに異常は発現した。  クリアの右腕に、一振りの槍が出現する。  その穂先とルクノカの竜爪が激突した。  途端に生じる強烈なる衝撃波。  人工の大地が捲れ上がり、建物が拉げて吹き飛ぶ。  冗談のような破壊の中で然し彼らだけがそれに頓着していなかった。 「まあ」  ルクノカは感じ取っていた。  自身の爪が、山を抉り空を咲く古竜の爪が。  あの槍と接触した瞬間、明らかにその体積と密度を目減りさせたのを。  それもその筈。  クリア・ノートが振るう力とは消滅、あらゆる物質に寂しい死を齎す能力。  ルクノカだから、それを凝縮させた槍と打ち合ってもこの程度で済んだ。  だがそれでも、最強の竜が只の一瞬で肉体を構成する一部分を削り取られた事実は十分に瞠目に値しよう。 「驚いたね」  クリアも本心から驚いていた。  ランズ・ラディスを用いての激突。  如何に相手が対魔力を有した英霊であろうとも、体で触れれば忽ち霊基を削がれる消滅槍。  竜族の子に癒えぬ傷を穿った魔槍の一撃を、まさか事もあろうに生身で弾き返されるとは。  事実クリアはルクノカの膂力に吹き飛ばされ、瓦礫の山から立ち上がって復帰する必要があった。 「まさに滅茶苦茶だ。色んな魔物と戦って来たが、素の性能なら間違いなく君が一番だろう」 「ウッフフフ。なんて乾いた褒め言葉でしょう。でもそうまで評価してくれるからには、もっと期待してもいいのよね?」  ルクノカが笑っている。  期待を込めて、見下ろすように。  クリアの前に現れた全ての魔物が一様に浮かべた戦慄の表情。  それを、この白き竜は一瞬たりとも浮かべていなかった。  恐るべしは冥界。  魔界の終末装置たる白色にさえ、地の底のシバルバーは未知を与えて試すのか。 「そうだね」  だが未知を見ているのはルクノカも同じだった。  人間の少年のようにか細い手足が、自分と打ち合って尚砕けていない。  ルクノカの知るどれよりも色のない未知の詞術。  沸々と泡のように湧いて来る興奮が竜を高みへと押し上げる。  二つの白、死たる彼らの視線が再度交錯して。  次はクリアの方から切り出した。 『バ・ランズ・ラディス』   次の瞬間、ルクノカはその双翼で空を舞っていた。  それが必要だとルクノカがそう判断した。  そんな竜の即決が正解だった事を、竜の飛翔を追尾する衛星のような槍々が証明している。  彼と雌雄を決した後の魔界の王が見たならば驚いた事だろう。  何故なら"この時点の"彼がかつて振るった出力と数を、今のクリアは既に凌駕していた。  即ちそれは、現在彼という魔物を従えている葬者(パートナー)がヴィノー以上の器であるという事の証左に他ならない。  その規格外を最初に受け止めるのが冬のルクノカであった事は果たして幸運だったのか。 「上手い逃げだ。飛ぶ魔物の狩りを自分でやるのは久し振りだな」 『リア・ウルク』  クリアの肉体に力が横溢する。  肉体強化というシンプルな呪文も彼が振るえば死を運ぶ鎌だ。  地を一蹴りするだけでその痩身はルクノカと同じ高度へと到達。  二本の足で地を歩く下等種に彼女と同等の権利が付与される。 『ギール・ランズ・ラディス』  クリアの腕に再び握られる消滅槍。  然し今度のは明らかに先程のよりあらゆる要素で凶悪だった。  穂先にあしらわれた月刃は上位呪文である事の証。  即ち先のランズ・ラディス等、クリアにとっては真実小手調べの余技でしかなかったのだと物語る。 「格の違いを教えてあげよう。地を這う時間だ、ご婦人」  遂にクリアはルクノカの上を取る。  目障りに飛び回る槍のビットから逃げ回るしかない竜など、最強の魔物の前では多少気性の荒い野獣でしかない。  増上慢を誅するが如く、竜の神話を終わらせる一撃が逃げ場なき囚われの"冬"を墜とす―― 「ああ、なんて見慣れた色彩でしょう。親近感すら覚えます、でも――」  "クリア・ノートという規格外を最初に受け止めるのが冬のルクノカであった事は果たして幸運だったのか"。  そうであると頷くのは簡単だが、この問題にはもう一つの回答選択肢が存在する。  確かに。  クリア・ノートを初戦で相手取り、その脅威を知らしめる存在がルクノカであった事は幸運かもしれない。  だが。  或いは。 「――これしきで私を墜とせると豪語するのなら、それは浅慮の早合点というもの。浅知恵ですよ、消滅のあなた」  冬のルクノカというそれ以上の脅威を前にして絶望するという不運が、その先に待ち受けているとしたら?  途端に幸運は不運へ、希望は絶望へと反転する。  無数の消滅槍に囲まれながら、月をあしらった滅槍に肉薄されたルクノカ。  この状況で尚笑うならば気が触れているのかと疑われよう。  それ程までの袋小路。  然しそう思ってしまう時点で月並み、超越種たるルクノカの思考とは聊かズレていると言わざるを得ない。  何故? 決まっている。  冬のルクノカはそもそも今、脅威など微塵も感じていないからだ。 「ウッフフフフフフフ!!」  麗しの雌竜が逃げ場なき檻の中で身を翻した。  尾と翼、胴体がバ・ランズ・ラディスの浮遊槍に接触する。  最適化に最適化を重ねた最上の鍛錬を積んだ魔物でさえ容易く吹き飛ばす消滅の爆槍(ミサイル)。  それがルクノカとの接触という衝撃に耐えられず片っ端から粉砕されていく。  無論、無茶の代償に消滅の力は彼女の体をその鱗越しに蝕んでいる筈なのだったが… 「ウッフフフフフフフ!!!」  高速駆動と同時に爆散の余波で自ら鱗を削ぎ落とす。  竜鱗の無敵性を支える柱の一つ、病毒の侵食に対する超高度の遮断性。  これを以ってルクノカはクリアの武器たる消滅を文字通り剥ぎ捨ててしまったのだ。  嬉々として、空を泳ぐようにしながら上級呪文をその身一つで撃滅し切るまで僅かに一秒半。  振り下ろされるギール・ランズ・ラディスの大槍を此処で漸くルクノカが見上げる。  膂力の介さないミサイル弾紛いの射撃ならば先の手段で撃滅可能。  然し消滅の本丸たるクリアが握る槍となれば話は別だ。  位置の高低はそのまま両者の有利不利を表している。  最強の魔物が殺意を込めて振り下ろす刺突は、冬の古竜と言えど受け止められない―― 「――ウッフフフフフフフフ!!!!」  それが道理。  だが、冬のルクノカはあらゆる道理の外側に存在する。  ルクノカはあろうことか、この状況で上へと翔んだ。  飛んで火に入る夏の虫。  そんな諺を、冬を統べる竜が体現するとは何の冗談か。  微笑みながら上昇して来るルクノカに対しクリアが槍を止める理由はない。  ルクノカも此処で臆病風に吹かれるような惰弱ではないと彼の事を信頼していた。  ――そのお陰でこうして、何の憂いもなく戦いを楽しめる。 「…!」 「素晴らしい槍ねぇ。詞術で生み出しているのでしょう?だったら次は、もっと強度に重きを置いて鍛える事を勧めます」  槍が止められていた。  今度は竜爪で真っ向比べ合った訳ではない。  さりとて逃げた訳でもない。  ルクノカはギール・ランズ・ラディスの柄を掴んでいたのだ。  当然其処にも消滅のエネルギーが宿っている。  竜爪が接触時間に比例してゴリゴリとその密度を減らしていくが、元より長く触れておくつもりもない。  いや、そもそも。  最上級でもない詞術の武装などが冬のルクノカの握力に長々持ち堪えられる訳がないのである。  槍が砕ける。  ルクノカは消えていない。  存在とその強さのいずれもを保ち、変わらぬ微笑でクリアを見上げている。  その竜体がまた雅に舞った。  クリアは咄嗟に下がろうとするが間に合わない。  肉体強化(リア・ウルク)を施し最速化した体でも、この間合いでは冬のルクノカから逃げられない…! 「――ぐッ…!」  回転する竜の尾がクリアの頭蓋へ振り下ろされた。  咄嗟に両の腕を交差させて防いだが、代償に両腕の骨が音を立てて圧し折れる。  クリア・ノートでさえ強度でとても抗えない。  骨折程度で戦闘の続行に支障を来たすクリアではないが、強化を抜いていたならばどうなっていたか。  斯くして竜は再び上へ。  魔物の子は再び下へと墜ちる。  愛しい宿敵の姿を、ルクノカは上空から慈しむように見つめていた。 「ウッフフフ! それで終わりではないでしょう? 私の鱗を粟立たせたあなた、消滅の白色!  えぇ、えぇ! であれば私もその存在に、その奮戦に、応えない訳にはいきませんわよね――」  クリアは何も言っていない。  だがルクノカは彼がまだ五体を保って生命活動を維持しているという事実だけで勝手にその意向を解釈した。  生きている。  まだ戦っている。  見せてくれる、より素晴らしき景色を。  であれば何故にその意思を無碍に出来よう。  その尊き闘志に報いるべく、此方も持つ業の全てで応じるのが礼儀と言う物ではあるまいか。  そう考えたからこそ。  ルクノカは――あぎとを開いた。 c o c h w e l n e 「【コウトの風へ】」  …今更の話だが。  ルクノカは何も戦う為に町を徘徊していた訳ではない。  彼女の本来の目的は落とし物の捜索だ。  葬者の少女が必死になって集めた九十九万円の入った封筒を見つけて来る事が彼女の受けた主命。  それを脇に置いて戦いに興じている事はまだ相手から仕掛けて来たという経緯を踏まえて理解も出来よう。  だがその一方で、もう一つ少女はルクノカに厳命を科していた。 『……分かった。戦っても良いから。封筒が見つかるまで出来れば町はあんまり壊さないで。宝具は絶対に使わないで』 『…………もし封筒が見つからなかったら、私、死んじゃうかもよ』  二重の意味で当然の命令だ。  ルクノカの本気に都市は当然ながら耐えられない。  彼女の身動ぎ一つ、吐息一つでビルが崩れて地面が割れる。  そんな災害に晒された跡地の中から封筒を探し当てるなど大袈裟でなく砂漠で失せ物探しに勤しむような物だ。  そしてルクノカがそうやって暴れれば、必ず無数の犠牲が出る。  彼女の葬者は聖杯の獲得を目指している。  だが自分のせいで生まれる犠牲を涼しい顔で許容出来る程外れた精神構造を有してはいない。  だから少女はルクノカに命を科した。  戦うのはいい、だが暴れ過ぎるなと。  あなたなら宝具を使わずとも、町を必要以上に壊さずとも勝って封筒探しに戻れるだろうと。  そう信じての命令だったし、ルクノカも一度はそれに頷いた筈だった。  然し今。  白き竜のあぎとは開かれ、その口からは詞術の詠唱が滔々と溢れ出している。  ――そう。  クリア・ノートという好敵手の出現に高揚したルクノカの頭の中に、最早葬者の命令なんて影も形も残っていなかった。  早い話が、忘れていた。  完全にか細い理性の網をすっぽ抜けてニューロンの彼方に埋没してしまっていた。  だからこそ少女の願いは何も戒める事なく。  此処に、冬のルクノカを最強たらしめる最大の所以が開帳される。  白き死。  万物を、万命を、それを内包する世界そのものを塗り替える対界宝具。  大仰な動作など不要。  準備なんて狡辛い物、当然不要。  詠唱さえ只の一息。  そう、まさに一息。  竜が息を吐くには、その一息で事足りる。  c y u l c a s c a r z―― 「【果ての光に枯れ落ちよ】」  瞬間。  東京に、冬が到来した。  空気が凍る。  日光の熱さえもが凍てつく。  空想の具現化なぞ無くして。  世界が、塗り替わっていく。  クリアは確かにそれを見た。  美しい竜の姿を見上げながら、美しき死の象徴は冬に呑まれて行った。     ◆ ◆ ◆  竜の息と聞けば直線的な破壊を思い浮かべる者が大半だろう。  吐いてその上で首を振り薙ぎ払う。  それだけで地平線の全てが塵と帰すのだから、これ程効率の良い攻撃の方法はない。  だが冬のルクノカは更に数段上を行く。  彼女の息はまさしく世界を塗り替えるのだ。  極限の冷却は射程圏内の空気全てを固体に変える。  この時点でも直撃すれば百度は死ねる絶死の凍術だが、真髄はこの後にこそある。  孔と化して崩れた世界を修正するべく流れ込む爆発的暴風――これに依る局地的大破壊こそルクノカの息の恐ろしさだ。  たとえサーヴァントであろうが逃れられる道理はない。  ルクノカに関しては、誰もが失敗し続けて来た。  だが―― 「…あぁ、なんと」  その例外が今日、一つ追加された。  小淵沢報瀬はクリアに感謝すべきだろう。  ルクノカが宝具を開帳して尚、都市は形を保っていた。  初動の冷却に巻き込まれて幾らかは死んだかもしれないが、それでも本来生まれる筈の犠牲の百分の一にも満たないと断言出来る。  何故絶対の破壊であるルクノカの息が本来の破壊を生み出さなかったのか。  それはひとえに、敵もまた生命を否定する"死"の担い手であったからに他ならない。 「初めてよ、こんなの。まさか此処まで"消されて"しまうだなんて」 「僕の台詞だな、それは。本当に驚いているよ、よもやこれ程とはね凍術士(サイレンサー)」  暴風による気候及び空間への修正力。  都市を呑む筈だったそれを、クリアが消したのだ。  只一騎のサーヴァントが。  冬のルクノカを絶対たらしめた竜の息を初見で凌いでみせた。  その事実にルクノカは堪らない昂りに震え。  クリアは自分がこの序盤で全力を引き出された事実に冷たく感じ入る。  彼も彼女も認識した。  目前に立つ"冬"が、己の命を喰らう季節(もの)であるのだと。  空間の温度が比喩でも何でもなく数度低下する。  殺意という目に見えない概念が実際に気候へ影響を及ぼしている事すら二体の前では些事に過ぎない。 「続けようか」 「勿論」  クリアの誘いにルクノカはうっとりと応じる。  こうなればもうどちらかが死ぬまで事は止まらない。  何の冗談でもなく区画の一つ二つはこの冥界から消滅するだろう。  仕方ないのだ、彼らはそういう生物だから。  全力で戯れよう物ならばそれを支える世界の方が耐えられない、そういう怪物であるから。  …それが擁護としてまともに機能しない理由は、彼らにそれを申し訳なく思う感情が欠片も存在しないからだ。  生まれながらの最強と最悪。  何処か似通った、されど決して相容れる事のない凶星共が今度こそ箍を外そうとした――その時の事であった。 「其処だ。共に討て、我が愛竜よ」  クリアの物でも、ルクノカの物でもない誰かの声が響いて。  次の瞬間――クリア、ルクノカ双方の体が神速の斬撃に斬り裂かれたのは。  それは、流星だった。 「…ふむ」 「おや――」  クリアは驚きを。  ルクノカは旧知の友と再会したような微笑みをそれぞれ浮かべる。  痩身の少年の脇腹が裂かれていた。  ルクノカの竜鱗に、抉ったような浅傷が煌めいていた。  信じ難い速度と精度である事は改めて語るまでもないだろう。  彼らは共に聖杯戦争に於ける最強格のサーヴァント。  存在そのものが戦争の均衡を破綻させかねない規格外の怪物共。  その二体に、反応さえ許さず明確な手傷を刻むなど何処の誰なら出来ると言うのか。 「嬉しいわ。まさか貴方まで来てくれるだなんて」  その問いにはこう答える。  "彼女"ならば、出来ると。 「久しいね、アーチャー。今回は君と踊りに来た訳じゃないんだけど、運が悪かったと諦めてくれると助かるな」  ルクノカは愚か、クリアよりも小さなシルエットが其処に居た。  騎士装束に身を包んだ蒼銀の少女だ。  竜の爪も消滅の呪文も一撃として耐えられなそうなか弱い輪郭。  彼女をそう侮る者が居たのなら、先の刹那で文字通り一刀に伏されていたに違いない。 「神(マスター)が君達に仰せだよ。神の庭を汚す不信心者は速やかに死ぬように、だってさ」  クリア・ノートの消滅砲撃を除けば、予選の内に最も多くの英霊を屠った騎士。  撃破数に於いてルクノカと並び、直接対決に臨んでさえ互角の激戦を演じたもう一体の最強種。  それは、只の一振りにて数多もの外敵を鏖殺せしめた最強種の頂点である。  それは、只の一振りにて生涯の研鑽を凌駕する無双の騎士である。  それは、只の一振りにて一つの人類史をすら阻む「湖光」の担い手である。  昏き死が蔓延る冥都において、ただの一振りにて神の意思を代弁する現人神の乗騎である。  無垢なる鼓動(ホロウハート)。無垢なる湖光(アロンダイト)。  神の近衛メリュジーヌ。     ◆ ◆ ◆  神罰の告知を終えるなりメリュジーヌは駆動した。  その速度、爆速にして神速。  凡そ驚異的と呼ぶ他ない速さから放たれる無数の斬撃は一発たりとも抜からない。  全てが敵の霊核を狙う事のみに特化した、最効率にして最無慈悲なる連撃。  標的に選ばれたのはやはりと言うべきかクリア・ノートであった。  戦闘機の爆撃を思わす猛追と連打に対しクリアの口角が歪む。  但し、弧の形に。 「神、か」  クリアはあろう事か不動だった。  一発でも直撃を許せば自分でさえ無視の出来ない痛打になると解った上で動かない。  諦めたのか。否である。動く必要がないからそうしているだけだ。 『バ・スプリフォ』  何処かで響く老人の声。  神が見据えたる咎人の旋律。  それが生む結果は余りに無体だ。  立つクリアの総身を覆うように、360度隙間のない消滅波が噴き上がった。 「其処のご婦人と張り合う竜族と言うから期待したが、見る目はないようだね」 「君に言われたくはないな。穴蔵に潜む鼠の王様に仕えるなんて、真っ当な矜持があったら御免だと思うけど?」  これに対しメリュジーヌは即座に反応する。  退かない。  急停止しながら、慣性の法則に喧嘩を売るかのように何の反動も負わずに斬撃で波そのものを切り裂く。  そう、切り裂いているのだ。  クリア・ノートが、最強の魔物たる彼が振るう消滅の呪文を正攻法で捌いている! 「つくづく話が合わないみたいだ。僕に矜持を説くのは壁に説法を唱えるような物だよ」  その異常事態にさえ冷や汗の一滴も流さない、クリア。  バ・スプリフォの消滅波を越えて辿り着く剣閃を折れた徒手空拳で捌く。  無論素の膂力で弾いている訳ではない。  これは単なる技術とセンスに任せた"受け"だ。  言うならば曲芸のような物である。  だと言うのにそれが騎士の最高峰たるアルビオンの竜へ通じているのは如何なる道理か。 『ラディス』  剣を捌きながら一瞬の隙を突いてメリュジーヌの顔面へクリアの掌が向く。  呪文と共に放たれる消滅はこれまでのに比べれば小規模だが、直撃すれば致命的な事に変わりはない。  これをメリュジーヌは真下への急降下で回避。  そしてバック転の要領で身を真逆に翻し、爪先でクリアの顎を蹴り砕かんとした。  曲芸には曲芸を、とばかりに披露された変速技をクリアは狙われた顎を少し引くだけで掠めもせずに躱す。 『テオラディ――』 「鬱陶しいな」  此処に居ない誰かの声を遮ってメリュジーヌが言った。  同時に天高くその矮躯が舞い上がる。  何の為に? 決まっている。  騎士を名乗れど、剣を使えど。  もう一体の最強種たる彼女の身体機能は戦闘機のそれに程近い。  但し、現代を生きる人間がイメージするそれとはやや異なった代物ではあるが。 「真名、偽装展開」 「へえ――」  陽光を反射して、蒼銀の騎士が眩く清らかに輝く。 「清廉たる湖面、月光を返す」  瞬時に音が消えた。  只一点、それだけを射抜く戦闘機が天より地へ墜ちる。  狙うはクリア・ノート。  神の敵たる"消滅"只一騎。  空から地を穿つ清廉の光を指して称するならば、やはり"天罰"と呼ぶ他ないだろう。  そう、これは天罰にして神罰なり。  神の愛する箱庭で無法を働き増長する咎人に下る不可避の裁きなれば。  超音速のままに殺到する湖光の一刺し――悪魔であろうと逃れ得ぬ。 「――沈め。『今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)』」  閃く湖光、刹那にして神敵へと到達。  閃光が世界を塗り潰す中、正負両方のエネルギーがアロンダイトの剣先を中心として相克する。  メリュジーヌとクリアの眼差しがそんな極限状況の中で交差していた。  真の宝具ではない借り物なれど、最強の騎士たる彼女が放つ時点でそれは無法無体を極めた流星となる。  今までに何体となく無双の英霊達がこの剣の前に露と化して来た。  だがクリアは違う。  持つ破滅で以って光へ抗い、一歩も退く事なく立っている。  ルクノカとの一戦を経てギアの入った彼には既に手抜かりという物がない。  滅ぼしの光と暗い沼の光。  二つの光がせめぎ合う中で響き渡る声は、ああやはり。 「ウッフフフフフ! 非道いわ、仲間外れだなんて…嗚呼いつぶりでしょう、こんな思いに駆られたのは!」  冬のルクノカ。  神敵とも神の近衛とも関係のない、通りすがりの戦闘狂である。  右は新たなときめきを与えてくれる強敵。  左はまたの邂逅を楽しみにしていた強敵。  右も左も強敵。それも、最強種たる己でさえ思い通りに出来ない名うての怪物共。  その二体が自分そっちのけで盛り合っていると来たら黙っていられるルクノカではない。  突撃と共に大質量、大膂力のこの上なく単純明快な暴力がクリア、メリュジーヌ両名を同時に襲う。  クリアは背後に跳躍し、メリュジーヌは剣身で受け止めて衝撃を殺しながら飛んだ。 「君は二の次なんだけどな」 「あらあら、私はどちらも一ですよ」 「うーん。まぁ一緒に片付ければ済む話、ではあるか」 「そうそう! その意気よ、ウッフフフフ!」  メリュジーヌの鬱陶しげな声にルクノカは淑やか且つ朗らかに笑う。  孫とお婆ちゃんのような空気感だが、その間柄が常に殺意だけで繋がれている事は言うまでもない。  そんな彼女達を前にしてクリア・ノートは小さく息を吐いた。 「面倒な事になったな」 「何さ。怖気付いた?」 「違うよ。其処まで本腰を入れるつもりで出て来た訳じゃなかったのにな、と思っただけ」  メリュジーヌ、冬のルクノカ、そしてクリア・ノート。  後にも先にも此処まで破滅的な戦線がこの聖杯戦争にどれ程あるか解らない。  メリュジーヌは明らかにルクノカよりもクリアの首を狙っている。  ルクノカは区別なく二人を同時に相手取り、その上で心行くまで楽しむつもりでいる。  クリアにしてみれば、何とも面倒の多い展開だった。  焦りを覚えているのではない。  危機感を覚えている訳でもない。  只単に、面倒だ――と。  そう感じているだけだ。  これ程の手練れ二体を消滅させて帰るとなれば此方もそれなりの出力が必要になって来る。  たったのそれだけ。  無双の騎士、冬の体現者。  いずれも未だクリアに恐れを抱かせるに能わず。  彼は只億劫に感じているだけなのだと、その変わらぬ微笑が示している。 「其処で考えた。こうしようか、僕はこれから今この時点での全力をお披露目しよう。  それで駄目なら此処は引き下がるさ。感覚として慣れないが、勝ったと誇っても構わないよ」  その言い回しはとても不可解な物だった。  全力。但し、今この時点での。  それは宛ら今後彼の言う"全力"に変化が約束されているかのよう。  そんな不可解を追及する暇もなく、声が響く。  この冥界を歩む全ての葬者にとっての呪いの声。  音速の剣技など持たぬ。  触れれば砕く爪牙など持たぬ。  だとしても彼は世界にとっての脅威そのもの。  たとえ世界の理が変わろうとも、役者が変わろうとも…その一点だけは変わる事はない。  故に此処で戦場の主導権は彼に戻る。  境界を往く竜でもなく、冬を司る竜でもなく。  消滅の権化たる滅び(クリア)の元へ。  その証明として響く声が、滅びに震える町に悪意と共に響いた。 『――森羅消滅す光輝の天神(シン・クリア・セウノウス)』  ――クリア以外、この場の誰にも届かぬ声と。  共に。  姿を現した"それ"は、荘厳と冒涜の両概念を併せ持つ巨大な神像であった。  無数の羽から成る翼を備えた神々しくも禍々しい力の塊。  対界宝具、空想具現化にも匹敵するエネルギー量を伴うにも関わらずその力の方向性は明確に負。  即ち消滅。  総てを滅ぼす事にのみ特化した、神と似て非なるナニカ。  死という概念の極北、その一つの形。  証拠に今この瞬間、確かに冥界が揺れた。  世界が震撼したのだ。  この力が解き放たれた事実に世界そのものが震えた――死より尚恐ろしき"滅び"を感じ取ったから。 「これは…」  メリュジーヌの声色が硬くなる。  尋常な相手とは思っていなかった。  実際に相対した消滅の主は何処までも深い、闇の大穴に見えたからだ。  実力で遅れを取るつもりは依然無いが、敵の強さに対する認識を改める必要を感じていた。  だがそれですら間違いだったのだと悟る。  確信した――これは規格外であると。  かつて妖精國を襲った厄災。  ブリテンという物語の終わりと共に溢れ出た澱みの山。  性質で言えば恐らくこの男は、この術はそれに近い。  即ち、存在しているという事実そのものが全ての生命、魂にとって致命的な結果を齎すと。 「どう見ます?」 「攻撃として純粋に最悪過ぎる。直撃すれば僕でも只では済まないだろうね」 「ウッフフフフ! えぇ、全くの同意見です。とても素晴らしいわ、此処までのモノを見せてくれるだなんて」 「全然同意見じゃないと思うんだけど…、まぁ君の言動に指摘を入れる程無駄な事もないか」  何より恐ろしいのは先のクリアの言動と照らし合わせた場合だ。  今の時点での全力がこれというのなら、恐らく更にこの先が存在するのだろう。  現時点でさえメリュジーヌ、そしてルクノカでさえ消し飛ばせかねない最大術。  無論負ける気は微塵もないが、それでも手の打ち方という物を考えねばならない事は明白だった。 「それで。私に何かして欲しい事の希望はあるかしら?」 「特に何も。言った所でどうせ聞かないだろ、君は」 「ウッフフフ――さて、どうでしょうね」 「君の葬者には同情するよ。竜とは名ばかりで本性は狂犬じゃないか。一緒にしないで貰いたいね」  会話はそれまで。  クリアが嘲笑っている。  嘲笑いながら、二匹の竜を見ていた。 「覚悟は済んだかい?」  答えはない。  よってその無言を返答と判断する。  同時に、天高く屹立するセウノウスの神像が地の竜を視認した。  哮(コウ)、と空気が啼くような音が響く。  この区一帯に響き渡る終末の音、破滅の音、世界の悲鳴。  一切漂白を成し遂げる消滅の真髄が、二竜死すべしと神命を下した。 c o c h w e l n e c y u l c a s c a r z―― 「【コウトの風へ。果ての光に枯れ落ちよ――】」  ルクノカの息が再び冬を顕現させる。  但し今度は地を這う敵に向けてではない。  空から、竜の土俵から見下ろす傲岸な偽神を射る為にだ。  迫るシン・クリアの大災害に正面から激突する冬の息吹、竜の死。  余波だけで英霊さえ粉砕する莫大な冷気と消滅の拮抗。  それは、まさしく神話の一風景と呼ぶに相応しい絶景だった。  命の絶える、景色であった。  冬のルクノカは徹頭徹尾あるがままに理不尽である。  故にその彼女が、形だけ見れば世界の為に息を吐いている光景は異様そのものだ。  空から来る消滅を、万物の死を押し破るべく冬が鳴いている。  そして力を尽くす竜は彼女だけではない。 「『今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)』――!」  魔力弾をミサイル宛らに撒き散らしてルクノカの援護射撃をしつつ、メリュジーヌは光の軌跡と化していた。  一撃一撃の威力ではルクノカに劣るが、手数と速度では彼女が圧倒的に勝っている。  先の東京上空決戦でルクノカと互角の戦いを演じた要因は其処だ。  乱入者の出現で有耶無耶になりはしたが、あのまま死ぬまで殺し合っていたなら軍配がどちらに上がっていたかは今も判然としない。  そんな怪物二匹が並び立って脅威の打破に向かっている。  彼女達に合理的思考からそれを選択させるクリア・ノートの最大呪文とは一体何なのか。  彼は、何者なのか。  この英霊は戦乱の果て、冥界にどれ程の滅びを齎そうとしているのか――。  答えは出ないままに破壊と破壊、そしてまた破壊が激突する。  閃光と消滅が核弾頭の炸裂を思わす衝撃を轟かせながら都市に消えぬ戦跡を刻み。  世界が、白に染まった。     ◆ ◆ ◆ 「ふむ。賭けは僕の負けか」  光が晴れた後、クリア・ノートは微笑を絶やさぬままそう言った。  先刻、クリアはルクノカの息を防ぐ事で間接的に町を守った。  だがそのらしからぬ善行を掻き消すように、今彼らの戦っていた周辺は破滅的な様相を呈している。 「この段階のシン・クリアであれば破られてもそれ程不思議ではないが、流石にやるものだね」  『森羅消滅す光輝の天神』――シン・クリア・セウノウスの着弾点を中心に町並みが消えていた。  破壊されているのではなく、本当に消えているのだ。  まるで都市という絵に直接消しゴムを掛けたみたいに有機無機問わずあらゆる物体が削除されている。  大地は深いクレーターの底に露出し、爆心地から暫くの距離にも消滅の侵食が及んでいる始末だ。  巻き込まれた不運なNPC達の生死等最早確認するまでもない。  その観点で言えば、そんな破滅的光景の中で未だ形を保っている二体の最強種はやはり尋常ではないのだろう。 「ウッフフフフ。本当に、素晴らしい詞術だこと」 「全くだ。造形の趣味の悪さを除けば、だけどね」  ルクノカとメリュジーヌはいずれも生存していた。  クリア・ノートの最大呪文を破り、彼との賭けに勝利した形だ。  だが二体とも体の方は只では済んでいない。  無償で凌ぎ切れる程、シン・クリアは甘くないという事。  彼女達程の絶対強者でさえ、小さくない痛手を被っていた。 “やはりアレの力は消滅って事で間違いないね。奇妙な感覚だな、生きながらに体を"削減"されるって言うのは”  メリュジーヌの右足がまるで老人か、寝たきりの病人のように痩せ細っている。  他の四肢と比べるとそれは残酷なまでのアンバランスさで、何処か冒涜的な絵面でさえある。  ルクノカの方に目を向ければ、彼女はやはり強固且つ遮断性に優れる竜鱗のお陰かメリュジーヌ程解りやすい形で体を削られてはいない。  それでも、注意してみれば美しい竜体のそこかしこに明らかな削れを見て取る事が出来た。  クリア・ノートの"消滅"は冬のルクノカにさえ通じる。  竜の鱗を破り、白き悪夢そのものであったこの修羅をさえ消し去れる。  それがどれ程異常な事であるかは、此処まで彼女の滅茶苦茶な戦いぶりを見て来たならすぐに理解出来よう。 「約束通り僕は帰るとしよう。其処のご婦人に腕を斬られたし、お嬢さんに刻まれもしたのでね。本腰を入れて殺し合うにはまだ時期尚早だ」 「つまらないな、此処までしておいて逃げるつもり?」 「その手の拘りとも僕は縁が無くてね…まぁ、神罰とやらは下らなかった訳だ。そういう意味では僕の勝ちじゃないかな、神の近衛」 「…その手前勝手な決め付けにはとても異議があるけど、その前に一つ見落としてるよ。消滅のアーチャー」  溜息混じりのメリュジーヌの言葉。  言い終えると同時に、クリアと彼女の二体を殺気が貫く。  悪意も怒りもない、寧ろ子供のように純粋で老婆のように穏やかな"殺気"。 「其処のお婆ちゃんがそんな身勝手を許してくれると思う? 君のせいでアレ、もうノリにノってる所だよ」  殺気の主は当然、冬のルクノカ以外には有り得ない。  ルクノカは朗らかだった。  朗らかに次の地獄を渇望していた。  失せ物探しに出て来て見れば、未知の強者と逃した同族を同時に見つけられたのだ。  願ったり叶ったりの愉しい宴を中途で終わらせる等、他がどうあれこの雌竜が見逃そう筈もない。 「心配には及ばないよ。彼女は確かに恐ろしい怪物かもしれないが、それでも僕を殺せはしない。勿論君もね、ランサー」  言って笑うクリアにメリュジーヌの眦も自然と尖る。  逃げられると思っているのか、と二匹の竜が四つの眼で破滅の子を見ていた。  それでもクリアは涼しい顔で踵を返す。 「あぁ――何処へ行くのかしら!」  許さじと動くのは無論の事ルクノカだった。  触れれば切り裂く竜の爪。  これを振り翳して強引な戦闘の続行を要望する彼女と、それに続く事も辞さない表情のメリュジーヌ。  だが。 “ランサー。その竜を止めろ”  そんな妖精騎士の思考を切り裂いて脳裏に響く声があった。  一瞬耳を疑う。  まさか彼に限って、この局面でこんな指示を飛ばして来るとは思わなかったからだ。 “…正気で言ってる? 消滅(あれ)を討てと命じたのは君だろう” “だからこそだ。私の命を果たす為に、其処の怪物を止めるのだ” “どうして” “そう急ぐな。お前の前で私が間違った事が一度でもあったか?”  訳が解らない。  只、最後の言葉が決め手だった。  そうでなくとも彼が言うなら、近衛たる竜はそのように動く。  クリアの背を共に貫く勢いだったメリュジーヌは打って変わって、振り下ろされるルクノカの爪と彼の間に割って入った。 「あら。何をしているの、ランサー?」 「こればかりは僕が聞きたいね」  ルクノカの一撃を止められる彼女も彼女だが、興の乗った"これ"を阻むとなれば相応のリスクが伴う。  前方には狂おしき同族。  後方には討伐対象である筈の消滅。  全く不明な状況にメリュジーヌは一筋の汗を垂らした。  が―― 「こんにちは、咎人よ」  その不明な状況に割り込む影が一つ。  それは、取るに足らない人間(ミニア)であった。  色を抜いたような白髪と隻眼の柔和な顔をした男だ。  声に、クリアが視線を向ける。  消滅の子の一瞥に、男はどういう訳か怯んだ様子がない。 「…君は?」 「見て解らないか」 「人間。神父って奴かな。一介の葬者にしては良い物を持っているようだが、君に話し掛けられる理由が浮かばないな」 「節穴め。そんなお前の間違いを正しつつその疑問に答える有り難い言葉をくれてやろう」  その上で断ずる。  己の存在を、一寸の迷いもなく。 「神は誰にでも平等に言葉を贈る。そして私こそが神だ」  修羅三柱の激戦。  世界というリソースを消費しながら繰り広げられた地獄の三つ巴。  それを笑覧する、四人目の修羅。  否。 「神と悪魔の対話の時間だ。結末は見えているが、神は細部にも拘る」  人界の神。  天堂弓彦。     ◆ ◆ ◆ 「君、馬鹿だろう」  クリアは言う。  鼻で笑って、神を名乗る人間を見つめる。 「僕が応じる理由が一つもない。藪を突いて蛇を出すのが趣味なのかい?」 「お前が"消滅"を振るう際、必ず一瞬のラグが生まれていたな」  神が言う。  破滅の子に、男は揺らがない。 「察するにお前の力は葬者の指示とセットになっている。  世界を蝕み人を滅ぼす悪魔でありながら、パートナーが居なければ暴れられないと言う訳だ」 「アハハ、凄いな。よく気付いたね――うん、やっぱり人間にしてはいい目を持ってる。で?」 「お前の葬者は実に的確な状況判断をした。全くボードを見ずにあの精密さを維持するのは現実的ではない。  涼しい顔をしながら念話で逐一状況の報告をしている可能性も考えられるが、そうだな」  天堂はあの激戦を余さず観察していた。  状況の正確な把握と俯瞰は彼らにとって戦いの基本だ。  故に一秒たりとて目を逸らさなかった。  シン・クリアの極光が轟いた時でさえ、神の目が閉ざされる事はなかった。  クリアの一挙一動。  ルクノカ、メリュジーヌの応戦により生じる戦況及び戦場そのものの変化。  それらを脳内で東西南北のあらゆる角度から俯瞰し、それぞれの方角からどのように情景が映るかを仮定する。  その上で逐一下る指示、それが最適な効果を発揮する方角を割り出す。  真の敵は其処に居るのだと暴き立てる為に、天堂は常人なら鼻血を噴いて失神するような複雑極まりない思考作業へ没頭し続けていた。  得られた仮説の解に、想定される敵の性格――  天から消滅の光を落とし、弄ぶように命を消し去る事を愛好するその悪辣さをエッセンスとして加え。  斯くして神は辿り着く。  この戦場を自分とは別な形で安楽椅子の上から俯瞰し、今も嘲笑を浮かべているだろう偽神の目、その座標に。 「――其処だな、冒涜者め」  ギョロリと神の眼球が動いた。  空の一点。注視しなければ見えず、注視しても普通は気付けすらしないだろう一点の黒い粒。  日光に隠す形で配置された偽神の目(ドローン)。  そのカメラ越しに、とうとう目が合う。  彼らは共に神の如く裁く男。  天堂の声が響くのと、天から声が響くまでの間に然程の時間はなかった。 『クーックックックックッ……』  老人の声であった。  この場には居ない人間の声だった。  自らの傲慢と悪癖を隠そうともしない声音だった。  神の如く天から語る、悪意の集合体のような嗄れた声だった。 『ワシを冒涜者と呼ぶか、小僧。神を名乗る狂人の分際で』 「狂っているのは貴様だろう。神は常に正しい道の中に居る、普遍の道理だ」 『クク……! これから訪れる絶望も知らずいい気なものだ。  そんなにもワシを愉しませたいか! ならば礼を言うぞ。よもやこんな形でワシの楽しみに華を添えてくれるとは!』  ケタケタと笑う老人の様子は余りに狂的だ。  誰が聞いても解る。  この声の主は、既に何か人として大切な部分が壊れていると。  そしてその部分に途方もない悪意が居座り、根を張って存在そのものを黒い感情に置換してしまった。  これはそういう存在だ。  そういう、悪だ。  世界すら滅ぼし得る――神の如き悪魔だ。 『心して待て、小僧』  声は響き続けている。  誰だとて納得しよう。  これがこの"破滅の子"の葬者だというのなら、成程確かにこれ以上の逸材は居ないと。 『これからワシは、ワシの悪意は、幾度となく降り注ぎ冥界の全てを恐怖に晒し続ける!  脈絡などない! 小癪な伏線なぞ許さぬ! お前達は一秒先の破滅に怯え、常にワシの掌で踊り続けるのだ!  ク、ククククッ、クヒャーッハッハッハッハッ!!』 「上機嫌な事だ。さぞや幸せな気分なのだろうな、ご老人」 『あぁ――幸せだとも! これを幸せと呼ばずして何と呼ぶ!?  おまけにお前のような背伸びした小僧が現れてくれた、事もあろうにワシを見つけてくれた!  ワシは既にお前がどんな顔で何を言い遺して死ぬのか楽しみで楽しみで堪らんよ!  磔刑等という名誉な死は与えぬぞ!? クッ、クーックックックック……!』 「そうかそうか。愚かな咎人とはいえお前も一人の民草だ。ならば神もその悦びに倣って、楽しみという物を見出す事にしよう」  老人の言葉は単なる大言壮語の域には留まらない。  何故なら彼にはクリアが居るのだ。  クリア・ノートという終末装置が、彼の享楽の供をしている。  時間さえあれば、クリアは必ずや全ての命を殺戮するだろう。  老人の意向に従い、最大の絶望と恐怖を全ての命へ約束する。  天堂はそれを理解していた。  理解した上で言うのだ。  それこそ神父のような満面の笑みで、狂喜する老人に神託を告げる。 「私も見つけたぞ。お前の事を」  神が見た。  見つけた。  消滅の主を、嘲笑う悪意の偽神を。 「神は咎人を逃がさん。悔い改めるまで、或いは罪火に焼かれて燃え尽きるまでいつまでもお前に付き合おう」  であれば逃がしはしないと断ずる。  冥界というゲーム盤へ影だけを見え隠れさせていた真の敵。  未だ所在は知れねど、存在するのだと解っただけでも神にとっては十分。  何故なら神はギャンブラー。  命を賭けた勝負に狂している。  彼らは"暴く者"だ。  勝ち筋を、敵の弱みを、世界の罠を、隠された意図を。  暴き、見抜き、己の掌に収める者だ。 「怯えるのはこれからずっと常にお前だ」  天堂が笑う。  笑いながら、天の黒点を指で差した。  それは宛ら――指差して嘲笑うように。 『ほう。脅かすと言うのか、このワシを』 「お前が咎人である限り」 『ククッ! 倒すと言うのか、このワシを!』 「お前が咎人であるならば」 『クーックック! 届くと思うのか、このワシに!?』 「誰に物を言っている? 神の手が届かぬ場所などある筈がない――神は常に万能だ」 『はッ――面白い!』  二人の神。  双方共に、人でありながらその域を越えた者。  神の如く強大な意思を持ち、そして悪魔の如く他者を弄ぶ者。  決して相容れぬ黒と白(BLACK & WHITE)の間に、この時確かに相互認識が成立した。 『吐いた唾は飲むなよ!? ワシを倒すと言ったのだ…! 見せて貰おうではないか、神のご威光とやらをなァ……!』 「求められるまでもない。神は全てを平等に照らす。たとえ咎人のお前でも」     ◆ ◆ ◆ 「やれやれ」  事が済み、クリア・ノートは未だ痛みを訴える腕を鬱陶しげに振ってみせる。  既に戦場からは離脱を果たしていた。  ルクノカの追撃をメリュジーヌが阻んだのは予想外だったが、あの狂人めいた男の指示だとすれば頷ける。  クリアとしても確かにあの場での深追いは本懐ではなかった。  だが挑んで来るならそれはそれで良かったのだ。  マスターの意向とは多少異なるが、その場合は力の進化を一つ進めるだけの事だったから。  収拾が付く限界点で戦闘を打ち切らせつつ、クリアを泳がせてその全貌を見極める。  其処まで踏まえての采配だったとするなら実に大した物だ。  あの"魔界の王を決める戦い"でも終局を争える逸材だと素直にそう思う。  つくづく奇怪な場所だ。  クリア・ノートでさえ、この冥界にはそんな印象を抱かざるを得なかった。 「まさか初陣で腕を折られるとはね。まぁ支障はないんだが、少し彼女達を過小評価し過ぎてたかな」  逸材と言えばあの二体もそうだ。  冬のルクノカは想像を超える怪物だった。  メリュジーヌの剣は想像よりずっと捷かった。  以前のように楽々とは行かないか、と小さく息を吐く。  葬者の彼は出し惜しむ気でいるようだが、ともすれば彼の想定よりも早く次の段階へ進む羽目になるかも知れない。 「まぁ何でもいいんだけどね」  どうでもいい、とも言い換えられる。  クリアにとってこの世の全ては単なる座興。  己が滅ぼすまでの猶予が長いか短いかでしかない。 「さて――次は何処へ行こうか」  それは愛を知らぬ、生まれながらに自らの在り方を知っていた獣。  それは聖杯戦争の則に合わせて言うならば、獣にすら成れぬナニカ。  それは万物万象を滅し奉る、全ての命の敵対者。  一つの世界の終末装置として顕れた、最強最悪の魔物である。  白色(ホワイト)。万象の敵(アークエネミー)。  破滅の子クリア。 【台東区・路上/一日目・午前】 【アーチャー(クリア・ノート)@金色のガッシュ!】 [状態]疲労(小)、両腕骨折(戦闘に支障なし) [装備] [道具] [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:滅ぼす 1.さて、次はどうしようか? 2.アーチャー(冬のルクノカ)とランサー(メリュジーヌ)は予想以上。厄介だね。 [備考] ※クリアの呪文による負傷は魔術的回復手段の他に、マスターの運命力を消費することでの回復も可能です。 【座標不明/一日目・午前】 【ドクター・バイル@ロックマンゼロ】 [運命力]通常 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]不明 [道具]不明 [所持金]不明 [思考・状況] 基本行動方針:より多くの恐怖と絶望を。全てに絶望を! 1.クリアを自由に動かす 2."神"…? ククッ、面白い……! [備考]     ◆ ◆ ◆ 「――それで?」  響くルクノカの声。  彼女を押し止め続けていたメリュジーヌの顔にも流石に疲労の色が滲み始めている。 「逃した彼の分は、このまま引き続き貴女がお相手してくれるのかしら?」 「僕としては次の機会にしたいんだけど、君それで納得しないだろ」 「ウッフフフフ! それは、もう…何しろ昂ぶった所でお預けを食らった形ですから」  冬のルクノカを相手にこの立ち回りが出来るというだけでも十二分に驚嘆モノである事は言うに及ばない。  とはいえ此処で目前のこれがブレスまで解禁して来たなら、流石のメリュジーヌもお手上げだった。  そうなるともう後は今度こそどちらかが死ぬまで殺し合うしかなくなる。  それ自体はメリュジーヌとしても臨む所ではあるのだが、如何せん今は状況が悪い。  右足に食らった消滅が今も彼女の動きを軽微ながら蝕み続けている。  それだけでも、相手がルクノカであれば旗色が大きく変わるのだ。  メリュジーヌとルクノカは原則として互角。  極めて高い水準で安定していた相性関係だからこそ、僅かな誤差が忽ち致命的になる。  達人同士の果たし合いでは機微の一つが勝敗を左右するのと同じだ。  我が葬者ながら竜使いが荒すぎる、とそう思った所で。  ――メリュジーヌが驚きに目を少し見開く。  目の上の瘤だった筈の右足の摩耗が、嘘のように回復し始めたからだった。  驚いてマスターである天堂の方を見ると、彼は彼女の苦労を他所に満足気な顔で頷いていた。 「成程。奴の小癪な消滅で負った手傷は葬者が運命力を切り詰める事で癒せると」 「一人で納得してるよもう…」  自分がツッコミ側に回る等、それこそ"彼女"以来の事だ。  とはいえこれなら十分にルクノカとも渡り合える。  爪を剣で弾いて後退しつつ改めて構えを取るメリュジーヌ。  そんな彼女と天堂を交互に見て、婦人竜は穏やかに笑った。 「まぁ。ありがとうございます、我が好敵手の葬者。ところでこのまま戦いを続ける事に異存はありませんよね?」 「神の意見を伺うとは殊勝な事だ。神敵ながら好ましいぞ、アーチャー」 「ウッフフフ。褒められてしまったわ」 「結論から言うと、構わん。お前は神としても目障りな敵だからな、排除出来るに越した事はない。  神の近衛たる我が騎士が、よもや時代遅れの冬将軍等に遅れを取る訳もないしな」  だが、と天堂は続ける。  非難がましい目で見て来るメリュジーヌを見ているのか見ていないのか、定かではないが彼はルクノカへ言った。 「続けるにしてもその前に片付けねばならない用事がある。  時にアーチャー。お前は何故、葬者を問わず此処に居る? 哨戒でもして来いと命令されたか」 「…、……あらいけない。そうだったわ、そうでした。私、あの子の言い付けで探し物をしていた筈なのに」 「成程。ではますます都合がいい」  ルクノカの漏らした一言で理解する。  彼女のマスターは恐らく一般人。  戦う力がないだけでなく、そもそも聖杯戦争という舞台に迎合出来る質ではない只人。  そうでなければ明らかに戦場のギアが一つ上がった今この状況で、サーヴァントを失せ物探しなんて目的で出払わせる筈がない。 「――お前の葬者と話がしたい。神の近衛と雌雄を決したければ、まずは神の意向に従って戴こう」  探し物が見つかって安堵しているだろう何処かの誰か。  冬の竜が言い付けた事を全無視して全力戦闘をしていた事をこれから知る事になるだろう少女。  一難去ってまた一難とよく言うが今回に限っては二難。  やらかした竜が帰ってくる。  神も、会いに来る。  アポ無しで。 【台東区・爆心地/1日目・午前】 【天堂弓彦@ジャンケットバンク】 [運命力]消費(小) [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]なし [道具]不明 [所持金]手持ち数十万円。総資産十億円以上。 [思考・状況] 基本行動方針:神。 0.アーチャー(冬のルクノカ)のマスターと対話する 1.〈消滅(クリア)〉の主を討つ。神罰を騙るな、ブチ殺すぞ。 2.クロエ・フォン・アインツベルンとそのアーチャーは善人。神も笑顔だ。 [備考] ※数日前までカラス銀行の地下賭場で資金を増やしていました。  その獲得金を用い、東京各所の監視カメラを掌握しています。  カラス銀行については、原作のように社会的特権を与えられるほどの権力は所有していないようです。 ※この話の前に予定通り教会に寄りました。そこでした事に関してはお任せします。 【ランサー(メリュジーヌ)@Fate/Grand Order】 [状態]疲労(中) [装備]『今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)』 [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:神の近衛。 1.疲れた……… 2.アーチャー(石田雨竜)はなかなか面白そうだったんだけど、ぜんぜん乗ってきてくれなかったや。残念。 3.〈消滅〉を討ちたい。マスターの言葉を結構根に持っているよ。 [備考] ※天堂の命令でルクノカと個別戦闘をさせられたので、他の二騎より少し疲れています。 【アーチャー(冬のルクノカ)@異修羅】 [状態]全身に消滅の影響による肉体摩耗(小)。でもまだまだ元気いっぱい。やる気いっぱい。 [装備]無し。 [道具]無し。 [所持金]無し。 [思考・状況] 基本行動方針:喜びのままに戦う。 0. シラセに会わせろと。なるほど? 1. シラセの落とし物、見つからなかったわねぇ… 2. ウッフフフフ! 早めに会えて嬉しいわ、好敵手(おなかま)の貴女! [備考] [全体備考] ※台東区の一角がクリア・ルクノカ・メリュジーヌ戦により壊滅状態に陥りました。
 竜の鱗が小さく震えた。  それは人間(ミニア)で言う所の、鳥肌、寒疣と呼ばれる生体反応に等しかったと言える。  自身の心身に正負問わず甚大な影響を齎す衝撃を察知して肌が粟立つ現象。  彼女の身に起きたのは何処まで行ってもそんななんて事のない現象でしかない。  彼女が彼女でさえ無ければ。  竜は竜でも、それが荒涼の主でさえ無ければ。  白く、白き、万物にとっての死。  [[冬のルクノカ]]でさえ無ければそれは、只のありふれた現象の域を出なかっただろう。  ルクノカが停止する。  一瞬、自分の身に起こった事が理解出来なかったからだ。  ルクノカが動き出す。  自分の身に起きた事を理解したからだ。  その口角は麗らかに吊り上がっていた。  精緻な神像よりも尚美しいと評される最強の古竜が、笑っていた。  白きモノの視線が小さな人影を認める。  特徴は人間。  二本の腕を持ち、二本の足で地を踏み締め自立している。  色彩は白。  肌、頭髪、全てが白い。  体格は華奢。  ルクノカなら撫でただけでも五体を纏めて捻じ切れる程にか細い、竜の前へ立つには余りにか細い体をしていた。  これまで幾度となく、数多の勇士が立ち上がってはルクノカへ挑み、そして失望させて来た。  生物として遥かの高みにあるからこそ、彼女は楽しむ努力をしなければ高揚の一つも覚えられない。  六合上覧の第二試合にて。  彼女の前へ立ちはだかった欲深な鳥竜(ワイバーン)でさえルクノカをそうさせるには命を懸ける必要があった。  だというのに今。  冬のルクノカは命は愚か戦いの始まりにさえ辿り着いていないというのに、既に心臓の高鳴りを自覚していた。 「――やあ」  素晴らしい。  掛け値なしにルクノカはそう思う。  それだけの価値が目前の彼にはあった。  少年とも青年とも付かない、そもそも老若の観念を当て嵌める事自体がズレていると感じさせるもう一つの"白き滅び"。  ルクノカはそれに既視感を覚えていた。  これを自分は見た事がある。  ルクノカの息(ブレス)は命無き無機にさえ死を馳走する。  究極の低温の前に、あらゆる物質はその尊厳を保てない。  極限の冷却による変容と喪失の果てに生まれる暗く深い孔――  冬のルクノカは今、もう一つの白に対してそんなイメージを見ていた。 「――フ」  気付けば声が漏れる。  おお、これが聖杯戦争。  六合上覧さえ及びも付かぬ強者猛者が集う地獄の蠱毒。  嗚呼、何と、何と… 「――ウッフフフフ!」  素晴らしいのだろうと感極まるなり、ルクノカは全ての貞淑に別れを告げ真の顔を曝け出した。  これ即ち戦闘狂、戦狂いの修羅なり。  同時に横溢する"冬"の魔力。  最強は最強故に隠れず恥じず、繕わぬ。  我は此処に居るぞとその全存在を以って世界に断言する。  底のない空虚と、頂を知らない渇望。  相反する二つが真昼の街にて対峙を果たす。 「あぁ、なんて嬉しい! わざわざ会いに来て下さったのね、この私に。遠路遥々ご苦労でした。礼はたんと弾みましょう!」 「否定はしないよ。如何せん、竜族とは因縁がある身でね…小手調べには丁度いいと思って来たんだけど」  冬のルクノカの高揚という遍く生命にとっての最大の危機と相対して。  その上で表情一つ揺るがさず、即座に返せる器がこの冥界に一体どれ程存在しよう。  彼とルクノカは生命の否定たる白という点で共通している。  冬(サイレント)か、消滅(クリア)か。  違うのはそれだけ。振るう死の形だけだ。 「思ったよりも出来るようだ。アシュロンが可愛く見える竜がまさかこの世に居るとはね」  そんな存在をしても、ルクノカにはこの評価が出る。  竜族の神童と呼ばれたある魔物を彼は知っていたが。  それもこの白き古竜の前では聊か以上に見劣りすると言わざるを得ない。  王を定む戦いへ参じた百人の魔物の子の一人にして。  魔界を、魔物を終わらせるべく産み落とされた或る世界の終末装置たる彼をしてもルクノカに対する評価は"怪物"以外になかった。  だが――ならば。  であるのならば。  冬のルクノカの強さ恐ろしさを正しく把握していながら表情一つ変えない彼は一体如何なる存在であるというのか。 「その高揚に応えよう、ご婦人。これより僕の冬を馳走する」 「…まあ。まあ、まあ――」  これは愛を知らぬモノ。  これは絆を知らぬモノ。  その意味を解せない、そういう機能を持たない生物。  魔物とも人間とも、ともすれば怪物とさえ構造の根幹から異なるナニカ。  まさしくその存在は『魔王』の如く。  空寒い微笑みと共に告げられた言葉へルクノカは震える。  恐怖ではない。  あくまで竜は高揚していた。  冬を馳走すると言ったか。  この私に――このルクノカに。  よりにもよって冬を、白き死を告げると言ったか! 「――えぇ、是非に! あなたの冬を見せて頂戴な、名も知らぬあなた…!」  斯くして戦端は満を持してその幕を開ける。  挑むは死。受けて立つも死。  冬と冬。滅びと滅び。  冬のルクノカ、対、[[クリア・ノート]]。     ◆ ◆ ◆  第一に振るわれたのは爪の横薙ぎだった。  高度に結晶化した竜爪はシンプルに物質として最強を誇る。  触れれば英霊の肌であれ裂け、五体が引き千切れる。  妻子を捨ててルクノカの前へ立った者が居た。  冬のルクノカを、最強の竜を討った栄誉に狂った男だった。  削げる全てを削ぎ落とし、生涯全てを竜殺しの為に費やした彼は然し。  ルクノカが振るった爪の一撃を前に何も出来ぬまま肉片となって凍土に消えた。  誰かの生涯を容易く無に帰せる竜の一撃。  それを前にクリアは不動。  無知ではなく、事実として脅威でないから動かない。 『――ランズ・ラディス』  この世の何処かで声が響く。  この場には居ない何者かの声だ。  声質は老人。  偏屈と偏執が声音にさえ滲み出ている。  ルクノカには聞こえぬ声だが、然し此処ではない何処かで響いたその声を皮切りに異常は発現した。  クリアの右腕に、一振りの槍が出現する。  その穂先とルクノカの竜爪が激突した。  途端に生じる強烈なる衝撃波。  人工の大地が捲れ上がり、建物が拉げて吹き飛ぶ。  冗談のような破壊の中で然し彼らだけがそれに頓着していなかった。 「まあ」  ルクノカは感じ取っていた。  自身の爪が、山を抉り空を咲く古竜の爪が。  あの槍と接触した瞬間、明らかにその体積と密度を目減りさせたのを。  それもその筈。  クリア・ノートが振るう力とは消滅、あらゆる物質に寂しい死を齎す能力。  ルクノカだから、それを凝縮させた槍と打ち合ってもこの程度で済んだ。  だがそれでも、最強の竜が只の一瞬で肉体を構成する一部分を削り取られた事実は十分に瞠目に値しよう。 「驚いたね」  クリアも本心から驚いていた。  ランズ・ラディスを用いての激突。  如何に相手が対魔力を有した英霊であろうとも、体で触れれば忽ち霊基を削がれる消滅槍。  竜族の子に癒えぬ傷を穿った魔槍の一撃を、まさか事もあろうに生身で弾き返されるとは。  事実クリアはルクノカの膂力に吹き飛ばされ、瓦礫の山から立ち上がって復帰する必要があった。 「まさに滅茶苦茶だ。色んな魔物と戦って来たが、素の性能なら間違いなく君が一番だろう」 「ウッフフフ。なんて乾いた褒め言葉でしょう。でもそうまで評価してくれるからには、もっと期待してもいいのよね?」  ルクノカが笑っている。  期待を込めて、見下ろすように。  クリアの前に現れた全ての魔物が一様に浮かべた戦慄の表情。  それを、この白き竜は一瞬たりとも浮かべていなかった。  恐るべしは冥界。  魔界の終末装置たる白色にさえ、地の底のシバルバーは未知を与えて試すのか。 「そうだね」  だが未知を見ているのはルクノカも同じだった。  人間の少年のようにか細い手足が、自分と打ち合って尚砕けていない。  ルクノカの知るどれよりも色のない未知の詞術。  沸々と泡のように湧いて来る興奮が竜を高みへと押し上げる。  二つの白、死たる彼らの視線が再度交錯して。  次はクリアの方から切り出した。 『バ・ランズ・ラディス』   次の瞬間、ルクノカはその双翼で空を舞っていた。  それが必要だとルクノカがそう判断した。  そんな竜の即決が正解だった事を、竜の飛翔を追尾する衛星のような槍々が証明している。  彼と雌雄を決した後の魔界の王が見たならば驚いた事だろう。  何故なら"この時点の"彼がかつて振るった出力と数を、今のクリアは既に凌駕していた。  即ちそれは、現在彼という魔物を従えている葬者(パートナー)がヴィノー以上の器であるという事の証左に他ならない。  その規格外を最初に受け止めるのが冬のルクノカであった事は果たして幸運だったのか。 「上手い逃げだ。飛ぶ魔物の狩りを自分でやるのは久し振りだな」 『リア・ウルク』  クリアの肉体に力が横溢する。  肉体強化というシンプルな呪文も彼が振るえば死を運ぶ鎌だ。  地を一蹴りするだけでその痩身はルクノカと同じ高度へと到達。  二本の足で地を歩く下等種に彼女と同等の権利が付与される。 『ギール・ランズ・ラディス』  クリアの腕に再び握られる消滅槍。  然し今度のは明らかに先程のよりあらゆる要素で凶悪だった。  穂先にあしらわれた月刃は上位呪文である事の証。  即ち先のランズ・ラディス等、クリアにとっては真実小手調べの余技でしかなかったのだと物語る。 「格の違いを教えてあげよう。地を這う時間だ、ご婦人」  遂にクリアはルクノカの上を取る。  目障りに飛び回る槍のビットから逃げ回るしかない竜など、最強の魔物の前では多少気性の荒い野獣でしかない。  増上慢を誅するが如く、竜の神話を終わらせる一撃が逃げ場なき囚われの"冬"を墜とす―― 「ああ、なんて見慣れた色彩でしょう。親近感すら覚えます、でも――」  "クリア・ノートという規格外を最初に受け止めるのが冬のルクノカであった事は果たして幸運だったのか"。  そうであると頷くのは簡単だが、この問題にはもう一つの回答選択肢が存在する。  確かに。  クリア・ノートを初戦で相手取り、その脅威を知らしめる存在がルクノカであった事は幸運かもしれない。  だが。  或いは。 「――これしきで私を墜とせると豪語するのなら、それは浅慮の早合点というもの。浅知恵ですよ、消滅のあなた」  冬のルクノカというそれ以上の脅威を前にして絶望するという不運が、その先に待ち受けているとしたら?  途端に幸運は不運へ、希望は絶望へと反転する。  無数の消滅槍に囲まれながら、月をあしらった滅槍に肉薄されたルクノカ。  この状況で尚笑うならば気が触れているのかと疑われよう。  それ程までの袋小路。  然しそう思ってしまう時点で月並み、超越種たるルクノカの思考とは聊かズレていると言わざるを得ない。  何故? 決まっている。  冬のルクノカはそもそも今、脅威など微塵も感じていないからだ。 「ウッフフフフフフフ!!」  麗しの雌竜が逃げ場なき檻の中で身を翻した。  尾と翼、胴体がバ・ランズ・ラディスの浮遊槍に接触する。  最適化に最適化を重ねた最上の鍛錬を積んだ魔物でさえ容易く吹き飛ばす消滅の爆槍(ミサイル)。  それがルクノカとの接触という衝撃に耐えられず片っ端から粉砕されていく。  無論、無茶の代償に消滅の力は彼女の体をその鱗越しに蝕んでいる筈なのだったが… 「ウッフフフフフフフ!!!」  高速駆動と同時に爆散の余波で自ら鱗を削ぎ落とす。  竜鱗の無敵性を支える柱の一つ、病毒の侵食に対する超高度の遮断性。  これを以ってルクノカはクリアの武器たる消滅を文字通り剥ぎ捨ててしまったのだ。  嬉々として、空を泳ぐようにしながら上級呪文をその身一つで撃滅し切るまで僅かに一秒半。  振り下ろされるギール・ランズ・ラディスの大槍を此処で漸くルクノカが見上げる。  膂力の介さないミサイル弾紛いの射撃ならば先の手段で撃滅可能。  然し消滅の本丸たるクリアが握る槍となれば話は別だ。  位置の高低はそのまま両者の有利不利を表している。  最強の魔物が殺意を込めて振り下ろす刺突は、冬の古竜と言えど受け止められない―― 「――ウッフフフフフフフフ!!!!」  それが道理。  だが、冬のルクノカはあらゆる道理の外側に存在する。  ルクノカはあろうことか、この状況で上へと翔んだ。  飛んで火に入る夏の虫。  そんな諺を、冬を統べる竜が体現するとは何の冗談か。  微笑みながら上昇して来るルクノカに対しクリアが槍を止める理由はない。  ルクノカも此処で臆病風に吹かれるような惰弱ではないと彼の事を信頼していた。  ――そのお陰でこうして、何の憂いもなく戦いを楽しめる。 「…!」 「素晴らしい槍ねぇ。詞術で生み出しているのでしょう?だったら次は、もっと強度に重きを置いて鍛える事を勧めます」  槍が止められていた。  今度は竜爪で真っ向比べ合った訳ではない。  さりとて逃げた訳でもない。  ルクノカはギール・ランズ・ラディスの柄を掴んでいたのだ。  当然其処にも消滅のエネルギーが宿っている。  竜爪が接触時間に比例してゴリゴリとその密度を減らしていくが、元より長く触れておくつもりもない。  いや、そもそも。  最上級でもない詞術の武装などが冬のルクノカの握力に長々持ち堪えられる訳がないのである。  槍が砕ける。  ルクノカは消えていない。  存在とその強さのいずれもを保ち、変わらぬ微笑でクリアを見上げている。  その竜体がまた雅に舞った。  クリアは咄嗟に下がろうとするが間に合わない。  肉体強化(リア・ウルク)を施し最速化した体でも、この間合いでは冬のルクノカから逃げられない…! 「――ぐッ…!」  回転する竜の尾がクリアの頭蓋へ振り下ろされた。  咄嗟に両の腕を交差させて防いだが、代償に両腕の骨が音を立てて圧し折れる。  クリア・ノートでさえ強度でとても抗えない。  骨折程度で戦闘の続行に支障を来たすクリアではないが、強化を抜いていたならばどうなっていたか。  斯くして竜は再び上へ。  魔物の子は再び下へと墜ちる。  愛しい宿敵の姿を、ルクノカは上空から慈しむように見つめていた。 「ウッフフフ! それで終わりではないでしょう? 私の鱗を粟立たせたあなた、消滅の白色!  えぇ、えぇ! であれば私もその存在に、その奮戦に、応えない訳にはいきませんわよね――」  クリアは何も言っていない。  だがルクノカは彼がまだ五体を保って生命活動を維持しているという事実だけで勝手にその意向を解釈した。  生きている。  まだ戦っている。  見せてくれる、より素晴らしき景色を。  であれば何故にその意思を無碍に出来よう。  その尊き闘志に報いるべく、此方も持つ業の全てで応じるのが礼儀と言う物ではあるまいか。  そう考えたからこそ。  ルクノカは――あぎとを開いた。 c o c h w e l n e 「【コウトの風へ】」  …今更の話だが。  ルクノカは何も戦う為に町を徘徊していた訳ではない。  彼女の本来の目的は落とし物の捜索だ。  葬者の少女が必死になって集めた九十九万円の入った封筒を見つけて来る事が彼女の受けた主命。  それを脇に置いて戦いに興じている事はまだ相手から仕掛けて来たという経緯を踏まえて理解も出来よう。  だがその一方で、もう一つ少女はルクノカに厳命を科していた。 『……分かった。戦っても良いから。封筒が見つかるまで出来れば町はあんまり壊さないで。宝具は絶対に使わないで』 『…………もし封筒が見つからなかったら、私、死んじゃうかもよ』  二重の意味で当然の命令だ。  ルクノカの本気に都市は当然ながら耐えられない。  彼女の身動ぎ一つ、吐息一つでビルが崩れて地面が割れる。  そんな災害に晒された跡地の中から封筒を探し当てるなど大袈裟でなく砂漠で失せ物探しに勤しむような物だ。  そしてルクノカがそうやって暴れれば、必ず無数の犠牲が出る。  彼女の葬者は聖杯の獲得を目指している。  だが自分のせいで生まれる犠牲を涼しい顔で許容出来る程外れた精神構造を有してはいない。  だから少女はルクノカに命を科した。  戦うのはいい、だが暴れ過ぎるなと。  あなたなら宝具を使わずとも、町を必要以上に壊さずとも勝って封筒探しに戻れるだろうと。  そう信じての命令だったし、ルクノカも一度はそれに頷いた筈だった。  然し今。  白き竜のあぎとは開かれ、その口からは詞術の詠唱が滔々と溢れ出している。  ――そう。  クリア・ノートという好敵手の出現に高揚したルクノカの頭の中に、最早葬者の命令なんて影も形も残っていなかった。  早い話が、忘れていた。  完全にか細い理性の網をすっぽ抜けてニューロンの彼方に埋没してしまっていた。  だからこそ少女の願いは何も戒める事なく。  此処に、冬のルクノカを最強たらしめる最大の所以が開帳される。  白き死。  万物を、万命を、それを内包する世界そのものを塗り替える対界宝具。  大仰な動作など不要。  準備なんて狡辛い物、当然不要。  詠唱さえ只の一息。  そう、まさに一息。  竜が息を吐くには、その一息で事足りる。  c y u l c a s c a r z―― 「【果ての光に枯れ落ちよ】」  瞬間。  東京に、冬が到来した。  空気が凍る。  日光の熱さえもが凍てつく。  空想の具現化なぞ無くして。  世界が、塗り替わっていく。  クリアは確かにそれを見た。  美しい竜の姿を見上げながら、美しき死の象徴は冬に呑まれて行った。     ◆ ◆ ◆  竜の息と聞けば直線的な破壊を思い浮かべる者が大半だろう。  吐いてその上で首を振り薙ぎ払う。  それだけで地平線の全てが塵と帰すのだから、これ程効率の良い攻撃の方法はない。  だが冬のルクノカは更に数段上を行く。  彼女の息はまさしく世界を塗り替えるのだ。  極限の冷却は射程圏内の空気全てを固体に変える。  この時点でも直撃すれば百度は死ねる絶死の凍術だが、真髄はこの後にこそある。  孔と化して崩れた世界を修正するべく流れ込む爆発的暴風――これに依る局地的大破壊こそルクノカの息の恐ろしさだ。  たとえサーヴァントであろうが逃れられる道理はない。  ルクノカに関しては、誰もが失敗し続けて来た。  だが―― 「…あぁ、なんと」  その例外が今日、一つ追加された。  [[小淵沢報瀬]]はクリアに感謝すべきだろう。  ルクノカが宝具を開帳して尚、都市は形を保っていた。  初動の冷却に巻き込まれて幾らかは死んだかもしれないが、それでも本来生まれる筈の犠牲の百分の一にも満たないと断言出来る。  何故絶対の破壊であるルクノカの息が本来の破壊を生み出さなかったのか。  それはひとえに、敵もまた生命を否定する"死"の担い手であったからに他ならない。 「初めてよ、こんなの。まさか此処まで"消されて"しまうだなんて」 「僕の台詞だな、それは。本当に驚いているよ、よもやこれ程とはね凍術士(サイレンサー)」  暴風による気候及び空間への修正力。  都市を呑む筈だったそれを、クリアが消したのだ。  只一騎のサーヴァントが。  冬のルクノカを絶対たらしめた竜の息を初見で凌いでみせた。  その事実にルクノカは堪らない昂りに震え。  クリアは自分がこの序盤で全力を引き出された事実に冷たく感じ入る。  彼も彼女も認識した。  目前に立つ"冬"が、己の命を喰らう季節(もの)であるのだと。  空間の温度が比喩でも何でもなく数度低下する。  殺意という目に見えない概念が実際に気候へ影響を及ぼしている事すら二体の前では些事に過ぎない。 「続けようか」 「勿論」  クリアの誘いにルクノカはうっとりと応じる。  こうなればもうどちらかが死ぬまで事は止まらない。  何の冗談でもなく区画の一つ二つはこの冥界から消滅するだろう。  仕方ないのだ、彼らはそういう生物だから。  全力で戯れよう物ならばそれを支える世界の方が耐えられない、そういう怪物であるから。  …それが擁護としてまともに機能しない理由は、彼らにそれを申し訳なく思う感情が欠片も存在しないからだ。  生まれながらの最強と最悪。  何処か似通った、されど決して相容れる事のない凶星共が今度こそ箍を外そうとした――その時の事であった。 「其処だ。共に討て、我が愛竜よ」  クリアの物でも、ルクノカの物でもない誰かの声が響いて。  次の瞬間――クリア、ルクノカ双方の体が神速の斬撃に斬り裂かれたのは。  それは、流星だった。 「…ふむ」 「おや――」  クリアは驚きを。  ルクノカは旧知の友と再会したような微笑みをそれぞれ浮かべる。  痩身の少年の脇腹が裂かれていた。  ルクノカの竜鱗に、抉ったような浅傷が煌めいていた。  信じ難い速度と精度である事は改めて語るまでもないだろう。  彼らは共に聖杯戦争に於ける最強格のサーヴァント。  存在そのものが戦争の均衡を破綻させかねない規格外の怪物共。  その二体に、反応さえ許さず明確な手傷を刻むなど何処の誰なら出来ると言うのか。 「嬉しいわ。まさか貴方まで来てくれるだなんて」  その問いにはこう答える。  "彼女"ならば、出来ると。 「久しいね、アーチャー。今回は君と踊りに来た訳じゃないんだけど、運が悪かったと諦めてくれると助かるな」  ルクノカは愚か、クリアよりも小さなシルエットが其処に居た。  騎士装束に身を包んだ蒼銀の少女だ。  竜の爪も消滅の呪文も一撃として耐えられなそうなか弱い輪郭。  彼女をそう侮る者が居たのなら、先の刹那で文字通り一刀に伏されていたに違いない。 「神(マスター)が君達に仰せだよ。神の庭を汚す不信心者は速やかに死ぬように、だってさ」  クリア・ノートの消滅砲撃を除けば、予選の内に最も多くの英霊を屠った騎士。  撃破数に於いてルクノカと並び、直接対決に臨んでさえ互角の激戦を演じたもう一体の最強種。  それは、只の一振りにて数多もの外敵を鏖殺せしめた最強種の頂点である。  それは、只の一振りにて生涯の研鑽を凌駕する無双の騎士である。  それは、只の一振りにて一つの人類史をすら阻む「湖光」の担い手である。  昏き死が蔓延る冥都において、ただの一振りにて神の意思を代弁する現人神の乗騎である。  無垢なる鼓動(ホロウハート)。無垢なる湖光(アロンダイト)。  神の近衛[[メリュジーヌ]]。     ◆ ◆ ◆  神罰の告知を終えるなりメリュジーヌは駆動した。  その速度、爆速にして神速。  凡そ驚異的と呼ぶ他ない速さから放たれる無数の斬撃は一発たりとも抜からない。  全てが敵の霊核を狙う事のみに特化した、最効率にして最無慈悲なる連撃。  標的に選ばれたのはやはりと言うべきかクリア・ノートであった。  戦闘機の爆撃を思わす猛追と連打に対しクリアの口角が歪む。  但し、弧の形に。 「神、か」  クリアはあろう事か不動だった。  一発でも直撃を許せば自分でさえ無視の出来ない痛打になると解った上で動かない。  諦めたのか。否である。動く必要がないからそうしているだけだ。 『バ・スプリフォ』  何処かで響く老人の声。  神が見据えたる咎人の旋律。  それが生む結果は余りに無体だ。  立つクリアの総身を覆うように、360度隙間のない消滅波が噴き上がった。 「其処のご婦人と張り合う竜族と言うから期待したが、見る目はないようだね」 「君に言われたくはないな。穴蔵に潜む鼠の王様に仕えるなんて、真っ当な矜持があったら御免だと思うけど?」  これに対しメリュジーヌは即座に反応する。  退かない。  急停止しながら、慣性の法則に喧嘩を売るかのように何の反動も負わずに斬撃で波そのものを切り裂く。  そう、切り裂いているのだ。  クリア・ノートが、最強の魔物たる彼が振るう消滅の呪文を正攻法で捌いている! 「つくづく話が合わないみたいだ。僕に矜持を説くのは壁に説法を唱えるような物だよ」  その異常事態にさえ冷や汗の一滴も流さない、クリア。  バ・スプリフォの消滅波を越えて辿り着く剣閃を折れた徒手空拳で捌く。  無論素の膂力で弾いている訳ではない。  これは単なる技術とセンスに任せた"受け"だ。  言うならば曲芸のような物である。  だと言うのにそれが騎士の最高峰たるアルビオンの竜へ通じているのは如何なる道理か。 『ラディス』  剣を捌きながら一瞬の隙を突いてメリュジーヌの顔面へクリアの掌が向く。  呪文と共に放たれる消滅はこれまでのに比べれば小規模だが、直撃すれば致命的な事に変わりはない。  これをメリュジーヌは真下への急降下で回避。  そしてバック転の要領で身を真逆に翻し、爪先でクリアの顎を蹴り砕かんとした。  曲芸には曲芸を、とばかりに披露された変速技をクリアは狙われた顎を少し引くだけで掠めもせずに躱す。 『テオラディ――』 「鬱陶しいな」  此処に居ない誰かの声を遮ってメリュジーヌが言った。  同時に天高くその矮躯が舞い上がる。  何の為に? 決まっている。  騎士を名乗れど、剣を使えど。  もう一体の最強種たる彼女の身体機能は戦闘機のそれに程近い。  但し、現代を生きる人間がイメージするそれとはやや異なった代物ではあるが。 「真名、偽装展開」 「へえ――」  陽光を反射して、蒼銀の騎士が眩く清らかに輝く。 「清廉たる湖面、月光を返す」  瞬時に音が消えた。  只一点、それだけを射抜く戦闘機が天より地へ墜ちる。  狙うはクリア・ノート。  神の敵たる"消滅"只一騎。  空から地を穿つ清廉の光を指して称するならば、やはり"天罰"と呼ぶ他ないだろう。  そう、これは天罰にして神罰なり。  神の愛する箱庭で無法を働き増長する咎人に下る不可避の裁きなれば。  超音速のままに殺到する湖光の一刺し――悪魔であろうと逃れ得ぬ。 「――沈め。『今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)』」  閃く湖光、刹那にして神敵へと到達。  閃光が世界を塗り潰す中、正負両方のエネルギーがアロンダイトの剣先を中心として相克する。  メリュジーヌとクリアの眼差しがそんな極限状況の中で交差していた。  真の宝具ではない借り物なれど、最強の騎士たる彼女が放つ時点でそれは無法無体を極めた流星となる。  今までに何体となく無双の英霊達がこの剣の前に露と化して来た。  だがクリアは違う。  持つ破滅で以って光へ抗い、一歩も退く事なく立っている。  ルクノカとの一戦を経てギアの入った彼には既に手抜かりという物がない。  滅ぼしの光と暗い沼の光。  二つの光がせめぎ合う中で響き渡る声は、ああやはり。 「ウッフフフフフ! 非道いわ、仲間外れだなんて…嗚呼いつぶりでしょう、こんな思いに駆られたのは!」  冬のルクノカ。  神敵とも神の近衛とも関係のない、通りすがりの戦闘狂である。  右は新たなときめきを与えてくれる強敵。  左はまたの邂逅を楽しみにしていた強敵。  右も左も強敵。それも、最強種たる己でさえ思い通りに出来ない名うての怪物共。  その二体が自分そっちのけで盛り合っていると来たら黙っていられるルクノカではない。  突撃と共に大質量、大膂力のこの上なく単純明快な暴力がクリア、メリュジーヌ両名を同時に襲う。  クリアは背後に跳躍し、メリュジーヌは剣身で受け止めて衝撃を殺しながら飛んだ。 「君は二の次なんだけどな」 「あらあら、私はどちらも一ですよ」 「うーん。まぁ一緒に片付ければ済む話、ではあるか」 「そうそう! その意気よ、ウッフフフフ!」  メリュジーヌの鬱陶しげな声にルクノカは淑やか且つ朗らかに笑う。  孫とお婆ちゃんのような空気感だが、その間柄が常に殺意だけで繋がれている事は言うまでもない。  そんな彼女達を前にしてクリア・ノートは小さく息を吐いた。 「面倒な事になったな」 「何さ。怖気付いた?」 「違うよ。其処まで本腰を入れるつもりで出て来た訳じゃなかったのにな、と思っただけ」  メリュジーヌ、冬のルクノカ、そしてクリア・ノート。  後にも先にも此処まで破滅的な戦線がこの聖杯戦争にどれ程あるか解らない。  メリュジーヌは明らかにルクノカよりもクリアの首を狙っている。  ルクノカは区別なく二人を同時に相手取り、その上で心行くまで楽しむつもりでいる。  クリアにしてみれば、何とも面倒の多い展開だった。  焦りを覚えているのではない。  危機感を覚えている訳でもない。  只単に、面倒だ――と。  そう感じているだけだ。  これ程の手練れ二体を消滅させて帰るとなれば此方もそれなりの出力が必要になって来る。  たったのそれだけ。  無双の騎士、冬の体現者。  いずれも未だクリアに恐れを抱かせるに能わず。  彼は只億劫に感じているだけなのだと、その変わらぬ微笑が示している。 「其処で考えた。こうしようか、僕はこれから今この時点での全力をお披露目しよう。  それで駄目なら此処は引き下がるさ。感覚として慣れないが、勝ったと誇っても構わないよ」  その言い回しはとても不可解な物だった。  全力。但し、今この時点での。  それは宛ら今後彼の言う"全力"に変化が約束されているかのよう。  そんな不可解を追及する暇もなく、声が響く。  この冥界を歩む全ての葬者にとっての呪いの声。  音速の剣技など持たぬ。  触れれば砕く爪牙など持たぬ。  だとしても彼は世界にとっての脅威そのもの。  たとえ世界の理が変わろうとも、役者が変わろうとも…その一点だけは変わる事はない。  故に此処で戦場の主導権は彼に戻る。  境界を往く竜でもなく、冬を司る竜でもなく。  消滅の権化たる滅び(クリア)の元へ。  その証明として響く声が、滅びに震える町に悪意と共に響いた。 『――森羅消滅す光輝の天神(シン・クリア・セウノウス)』  ――クリア以外、この場の誰にも届かぬ声と。  共に。  姿を現した"それ"は、荘厳と冒涜の両概念を併せ持つ巨大な神像であった。  無数の羽から成る翼を備えた神々しくも禍々しい力の塊。  対界宝具、空想具現化にも匹敵するエネルギー量を伴うにも関わらずその力の方向性は明確に負。  即ち消滅。  総てを滅ぼす事にのみ特化した、神と似て非なるナニカ。  死という概念の極北、その一つの形。  証拠に今この瞬間、確かに冥界が揺れた。  世界が震撼したのだ。  この力が解き放たれた事実に世界そのものが震えた――死より尚恐ろしき"滅び"を感じ取ったから。 「これは…」  メリュジーヌの声色が硬くなる。  尋常な相手とは思っていなかった。  実際に相対した消滅の主は何処までも深い、闇の大穴に見えたからだ。  実力で遅れを取るつもりは依然無いが、敵の強さに対する認識を改める必要を感じていた。  だがそれですら間違いだったのだと悟る。  確信した――これは規格外であると。  かつて妖精國を襲った厄災。  ブリテンという物語の終わりと共に溢れ出た澱みの山。  性質で言えば恐らくこの男は、この術はそれに近い。  即ち、存在しているという事実そのものが全ての生命、魂にとって致命的な結果を齎すと。 「どう見ます?」 「攻撃として純粋に最悪過ぎる。直撃すれば僕でも只では済まないだろうね」 「ウッフフフフ! えぇ、全くの同意見です。とても素晴らしいわ、此処までのモノを見せてくれるだなんて」 「全然同意見じゃないと思うんだけど…、まぁ君の言動に指摘を入れる程無駄な事もないか」  何より恐ろしいのは先のクリアの言動と照らし合わせた場合だ。  今の時点での全力がこれというのなら、恐らく更にこの先が存在するのだろう。  現時点でさえメリュジーヌ、そしてルクノカでさえ消し飛ばせかねない最大術。  無論負ける気は微塵もないが、それでも手の打ち方という物を考えねばならない事は明白だった。 「それで。私に何かして欲しい事の希望はあるかしら?」 「特に何も。言った所でどうせ聞かないだろ、君は」 「ウッフフフ――さて、どうでしょうね」 「君の葬者には同情するよ。竜とは名ばかりで本性は狂犬じゃないか。一緒にしないで貰いたいね」  会話はそれまで。  クリアが嘲笑っている。  嘲笑いながら、二匹の竜を見ていた。 「覚悟は済んだかい?」  答えはない。  よってその無言を返答と判断する。  同時に、天高く屹立するセウノウスの神像が地の竜を視認した。  哮(コウ)、と空気が啼くような音が響く。  この区一帯に響き渡る終末の音、破滅の音、世界の悲鳴。  一切漂白を成し遂げる消滅の真髄が、二竜死すべしと神命を下した。 c o c h w e l n e c y u l c a s c a r z―― 「【コウトの風へ。果ての光に枯れ落ちよ――】」  ルクノカの息が再び冬を顕現させる。  但し今度は地を這う敵に向けてではない。  空から、竜の土俵から見下ろす傲岸な偽神を射る為にだ。  迫るシン・クリアの大災害に正面から激突する冬の息吹、竜の死。  余波だけで英霊さえ粉砕する莫大な冷気と消滅の拮抗。  それは、まさしく神話の一風景と呼ぶに相応しい絶景だった。  命の絶える、景色であった。  冬のルクノカは徹頭徹尾あるがままに理不尽である。  故にその彼女が、形だけ見れば世界の為に息を吐いている光景は異様そのものだ。  空から来る消滅を、万物の死を押し破るべく冬が鳴いている。  そして力を尽くす竜は彼女だけではない。 「『今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)』――!」  魔力弾をミサイル宛らに撒き散らしてルクノカの援護射撃をしつつ、メリュジーヌは光の軌跡と化していた。  一撃一撃の威力ではルクノカに劣るが、手数と速度では彼女が圧倒的に勝っている。  先の東京上空決戦でルクノカと互角の戦いを演じた要因は其処だ。  乱入者の出現で有耶無耶になりはしたが、あのまま死ぬまで殺し合っていたなら軍配がどちらに上がっていたかは今も判然としない。  そんな怪物二匹が並び立って脅威の打破に向かっている。  彼女達に合理的思考からそれを選択させるクリア・ノートの最大呪文とは一体何なのか。  彼は、何者なのか。  この英霊は戦乱の果て、冥界にどれ程の滅びを齎そうとしているのか――。  答えは出ないままに破壊と破壊、そしてまた破壊が激突する。  閃光と消滅が核弾頭の炸裂を思わす衝撃を轟かせながら都市に消えぬ戦跡を刻み。  世界が、白に染まった。     ◆ ◆ ◆ 「ふむ。賭けは僕の負けか」  光が晴れた後、クリア・ノートは微笑を絶やさぬままそう言った。  先刻、クリアはルクノカの息を防ぐ事で間接的に町を守った。  だがそのらしからぬ善行を掻き消すように、今彼らの戦っていた周辺は破滅的な様相を呈している。 「この段階のシン・クリアであれば破られてもそれ程不思議ではないが、流石にやるものだね」  『森羅消滅す光輝の天神』――シン・クリア・セウノウスの着弾点を中心に町並みが消えていた。  破壊されているのではなく、本当に消えているのだ。  まるで都市という絵に直接消しゴムを掛けたみたいに有機無機問わずあらゆる物体が削除されている。  大地は深いクレーターの底に露出し、爆心地から暫くの距離にも消滅の侵食が及んでいる始末だ。  巻き込まれた不運なNPC達の生死等最早確認するまでもない。  その観点で言えば、そんな破滅的光景の中で未だ形を保っている二体の最強種はやはり尋常ではないのだろう。 「ウッフフフフ。本当に、素晴らしい詞術だこと」 「全くだ。造形の趣味の悪さを除けば、だけどね」  ルクノカとメリュジーヌはいずれも生存していた。  クリア・ノートの最大呪文を破り、彼との賭けに勝利した形だ。  だが二体とも体の方は只では済んでいない。  無償で凌ぎ切れる程、シン・クリアは甘くないという事。  彼女達程の絶対強者でさえ、小さくない痛手を被っていた。 “やはりアレの力は消滅って事で間違いないね。奇妙な感覚だな、生きながらに体を"削減"されるって言うのは”  メリュジーヌの右足がまるで老人か、寝たきりの病人のように痩せ細っている。  他の四肢と比べるとそれは残酷なまでのアンバランスさで、何処か冒涜的な絵面でさえある。  ルクノカの方に目を向ければ、彼女はやはり強固且つ遮断性に優れる竜鱗のお陰かメリュジーヌ程解りやすい形で体を削られてはいない。  それでも、注意してみれば美しい竜体のそこかしこに明らかな削れを見て取る事が出来た。  クリア・ノートの"消滅"は冬のルクノカにさえ通じる。  竜の鱗を破り、白き悪夢そのものであったこの修羅をさえ消し去れる。  それがどれ程異常な事であるかは、此処まで彼女の滅茶苦茶な戦いぶりを見て来たならすぐに理解出来よう。 「約束通り僕は帰るとしよう。其処のご婦人に腕を斬られたし、お嬢さんに刻まれもしたのでね。本腰を入れて殺し合うにはまだ時期尚早だ」 「つまらないな、此処までしておいて逃げるつもり?」 「その手の拘りとも僕は縁が無くてね…まぁ、神罰とやらは下らなかった訳だ。そういう意味では僕の勝ちじゃないかな、神の近衛」 「…その手前勝手な決め付けにはとても異議があるけど、その前に一つ見落としてるよ。消滅のアーチャー」  溜息混じりのメリュジーヌの言葉。  言い終えると同時に、クリアと彼女の二体を殺気が貫く。  悪意も怒りもない、寧ろ子供のように純粋で老婆のように穏やかな"殺気"。 「其処のお婆ちゃんがそんな身勝手を許してくれると思う? 君のせいでアレ、もうノリにノってる所だよ」  殺気の主は当然、冬のルクノカ以外には有り得ない。  ルクノカは朗らかだった。  朗らかに次の地獄を渇望していた。  失せ物探しに出て来て見れば、未知の強者と逃した同族を同時に見つけられたのだ。  願ったり叶ったりの愉しい宴を中途で終わらせる等、他がどうあれこの雌竜が見逃そう筈もない。 「心配には及ばないよ。彼女は確かに恐ろしい怪物かもしれないが、それでも僕を殺せはしない。勿論君もね、ランサー」  言って笑うクリアにメリュジーヌの眦も自然と尖る。  逃げられると思っているのか、と二匹の竜が四つの眼で破滅の子を見ていた。  それでもクリアは涼しい顔で踵を返す。 「あぁ――何処へ行くのかしら!」  許さじと動くのは無論の事ルクノカだった。  触れれば切り裂く竜の爪。  これを振り翳して強引な戦闘の続行を要望する彼女と、それに続く事も辞さない表情のメリュジーヌ。  だが。 “ランサー。その竜を止めろ”  そんな妖精騎士の思考を切り裂いて脳裏に響く声があった。  一瞬耳を疑う。  まさか彼に限って、この局面でこんな指示を飛ばして来るとは思わなかったからだ。 “…正気で言ってる? 消滅(あれ)を討てと命じたのは君だろう” “だからこそだ。私の命を果たす為に、其処の怪物を止めるのだ” “どうして” “そう急ぐな。お前の前で私が間違った事が一度でもあったか?”  訳が解らない。  只、最後の言葉が決め手だった。  そうでなくとも彼が言うなら、近衛たる竜はそのように動く。  クリアの背を共に貫く勢いだったメリュジーヌは打って変わって、振り下ろされるルクノカの爪と彼の間に割って入った。 「あら。何をしているの、ランサー?」 「こればかりは僕が聞きたいね」  ルクノカの一撃を止められる彼女も彼女だが、興の乗った"これ"を阻むとなれば相応のリスクが伴う。  前方には狂おしき同族。  後方には討伐対象である筈の消滅。  全く不明な状況にメリュジーヌは一筋の汗を垂らした。  が―― 「こんにちは、咎人よ」  その不明な状況に割り込む影が一つ。  それは、取るに足らない人間(ミニア)であった。  色を抜いたような白髪と隻眼の柔和な顔をした男だ。  声に、クリアが視線を向ける。  消滅の子の一瞥に、男はどういう訳か怯んだ様子がない。 「…君は?」 「見て解らないか」 「人間。神父って奴かな。一介の葬者にしては良い物を持っているようだが、君に話し掛けられる理由が浮かばないな」 「節穴め。そんなお前の間違いを正しつつその疑問に答える有り難い言葉をくれてやろう」  その上で断ずる。  己の存在を、一寸の迷いもなく。 「神は誰にでも平等に言葉を贈る。そして私こそが神だ」  修羅三柱の激戦。  世界というリソースを消費しながら繰り広げられた地獄の三つ巴。  それを笑覧する、四人目の修羅。  否。 「神と悪魔の対話の時間だ。結末は見えているが、神は細部にも拘る」  人界の神。  [[天堂弓彦]]。     ◆ ◆ ◆ 「君、馬鹿だろう」  クリアは言う。  鼻で笑って、神を名乗る人間を見つめる。 「僕が応じる理由が一つもない。藪を突いて蛇を出すのが趣味なのかい?」 「お前が"消滅"を振るう際、必ず一瞬のラグが生まれていたな」  神が言う。  破滅の子に、男は揺らがない。 「察するにお前の力は葬者の指示とセットになっている。  世界を蝕み人を滅ぼす悪魔でありながら、パートナーが居なければ暴れられないと言う訳だ」 「アハハ、凄いな。よく気付いたね――うん、やっぱり人間にしてはいい目を持ってる。で?」 「お前の葬者は実に的確な状況判断をした。全くボードを見ずにあの精密さを維持するのは現実的ではない。  涼しい顔をしながら念話で逐一状況の報告をしている可能性も考えられるが、そうだな」  天堂はあの激戦を余さず観察していた。  状況の正確な把握と俯瞰は彼らにとって戦いの基本だ。  故に一秒たりとて目を逸らさなかった。  シン・クリアの極光が轟いた時でさえ、神の目が閉ざされる事はなかった。  クリアの一挙一動。  ルクノカ、メリュジーヌの応戦により生じる戦況及び戦場そのものの変化。  それらを脳内で東西南北のあらゆる角度から俯瞰し、それぞれの方角からどのように情景が映るかを仮定する。  その上で逐一下る指示、それが最適な効果を発揮する方角を割り出す。  真の敵は其処に居るのだと暴き立てる為に、天堂は常人なら鼻血を噴いて失神するような複雑極まりない思考作業へ没頭し続けていた。  得られた仮説の解に、想定される敵の性格――  天から消滅の光を落とし、弄ぶように命を消し去る事を愛好するその悪辣さをエッセンスとして加え。  斯くして神は辿り着く。  この戦場を自分とは別な形で安楽椅子の上から俯瞰し、今も嘲笑を浮かべているだろう偽神の目、その座標に。 「――其処だな、冒涜者め」  ギョロリと神の眼球が動いた。  空の一点。注視しなければ見えず、注視しても普通は気付けすらしないだろう一点の黒い粒。  日光に隠す形で配置された偽神の目(ドローン)。  そのカメラ越しに、とうとう目が合う。  彼らは共に神の如く裁く男。  天堂の声が響くのと、天から声が響くまでの間に然程の時間はなかった。 『クーックックックックッ……』  老人の声であった。  この場には居ない人間の声だった。  自らの傲慢と悪癖を隠そうともしない声音だった。  神の如く天から語る、悪意の集合体のような嗄れた声だった。 『ワシを冒涜者と呼ぶか、小僧。神を名乗る狂人の分際で』 「狂っているのは貴様だろう。神は常に正しい道の中に居る、普遍の道理だ」 『クク……! これから訪れる絶望も知らずいい気なものだ。  そんなにもワシを愉しませたいか! ならば礼を言うぞ。よもやこんな形でワシの楽しみに華を添えてくれるとは!』  ケタケタと笑う老人の様子は余りに狂的だ。  誰が聞いても解る。  この声の主は、既に何か人として大切な部分が壊れていると。  そしてその部分に途方もない悪意が居座り、根を張って存在そのものを黒い感情に置換してしまった。  これはそういう存在だ。  そういう、悪だ。  世界すら滅ぼし得る――神の如き悪魔だ。 『心して待て、小僧』  声は響き続けている。  誰だとて納得しよう。  これがこの"破滅の子"の葬者だというのなら、成程確かにこれ以上の逸材は居ないと。 『これからワシは、ワシの悪意は、幾度となく降り注ぎ冥界の全てを恐怖に晒し続ける!  脈絡などない! 小癪な伏線なぞ許さぬ! お前達は一秒先の破滅に怯え、常にワシの掌で踊り続けるのだ!  ク、ククククッ、クヒャーッハッハッハッハッ!!』 「上機嫌な事だ。さぞや幸せな気分なのだろうな、ご老人」 『あぁ――幸せだとも! これを幸せと呼ばずして何と呼ぶ!?  おまけにお前のような背伸びした小僧が現れてくれた、事もあろうにワシを見つけてくれた!  ワシは既にお前がどんな顔で何を言い遺して死ぬのか楽しみで楽しみで堪らんよ!  磔刑等という名誉な死は与えぬぞ!? クッ、クーックックックック……!』 「そうかそうか。愚かな咎人とはいえお前も一人の民草だ。ならば神もその悦びに倣って、楽しみという物を見出す事にしよう」  老人の言葉は単なる大言壮語の域には留まらない。  何故なら彼にはクリアが居るのだ。  クリア・ノートという終末装置が、彼の享楽の供をしている。  時間さえあれば、クリアは必ずや全ての命を殺戮するだろう。  老人の意向に従い、最大の絶望と恐怖を全ての命へ約束する。  天堂はそれを理解していた。  理解した上で言うのだ。  それこそ神父のような満面の笑みで、狂喜する老人に神託を告げる。 「私も見つけたぞ。お前の事を」  神が見た。  見つけた。  消滅の主を、嘲笑う悪意の偽神を。 「神は咎人を逃がさん。悔い改めるまで、或いは罪火に焼かれて燃え尽きるまでいつまでもお前に付き合おう」  であれば逃がしはしないと断ずる。  冥界というゲーム盤へ影だけを見え隠れさせていた真の敵。  未だ所在は知れねど、存在するのだと解っただけでも神にとっては十分。  何故なら神はギャンブラー。  命を賭けた勝負に狂している。  彼らは"暴く者"だ。  勝ち筋を、敵の弱みを、世界の罠を、隠された意図を。  暴き、見抜き、己の掌に収める者だ。 「怯えるのはこれからずっと常にお前だ」  天堂が笑う。  笑いながら、天の黒点を指で差した。  それは宛ら――指差して嘲笑うように。 『ほう。脅かすと言うのか、このワシを』 「お前が咎人である限り」 『ククッ! 倒すと言うのか、このワシを!』 「お前が咎人であるならば」 『クーックック! 届くと思うのか、このワシに!?』 「誰に物を言っている? 神の手が届かぬ場所などある筈がない――神は常に万能だ」 『はッ――面白い!』  二人の神。  双方共に、人でありながらその域を越えた者。  神の如く強大な意思を持ち、そして悪魔の如く他者を弄ぶ者。  決して相容れぬ黒と白([[BLACK & WHITE]])の間に、この時確かに相互認識が成立した。 『吐いた唾は飲むなよ!? ワシを倒すと言ったのだ…! 見せて貰おうではないか、神のご威光とやらをなァ……!』 「求められるまでもない。神は全てを平等に照らす。たとえ咎人のお前でも」     ◆ ◆ ◆ 「やれやれ」  事が済み、クリア・ノートは未だ痛みを訴える腕を鬱陶しげに振ってみせる。  既に戦場からは離脱を果たしていた。  ルクノカの追撃をメリュジーヌが阻んだのは予想外だったが、あの狂人めいた男の指示だとすれば頷ける。  クリアとしても確かにあの場での深追いは本懐ではなかった。  だが挑んで来るならそれはそれで良かったのだ。  マスターの意向とは多少異なるが、その場合は力の進化を一つ進めるだけの事だったから。  収拾が付く限界点で戦闘を打ち切らせつつ、クリアを泳がせてその全貌を見極める。  其処まで踏まえての采配だったとするなら実に大した物だ。  あの"魔界の王を決める戦い"でも終局を争える逸材だと素直にそう思う。  つくづく奇怪な場所だ。  クリア・ノートでさえ、この冥界にはそんな印象を抱かざるを得なかった。 「まさか初陣で腕を折られるとはね。まぁ支障はないんだが、少し彼女達を過小評価し過ぎてたかな」  逸材と言えばあの二体もそうだ。  冬のルクノカは想像を超える怪物だった。  メリュジーヌの剣は想像よりずっと捷かった。  以前のように楽々とは行かないか、と小さく息を吐く。  葬者の彼は出し惜しむ気でいるようだが、ともすれば彼の想定よりも早く次の段階へ進む羽目になるかも知れない。 「まぁ何でもいいんだけどね」  どうでもいい、とも言い換えられる。  クリアにとってこの世の全ては単なる座興。  己が滅ぼすまでの猶予が長いか短いかでしかない。 「さて――次は何処へ行こうか」  それは愛を知らぬ、生まれながらに自らの在り方を知っていた獣。  それは聖杯戦争の則に合わせて言うならば、獣にすら成れぬナニカ。  それは万物万象を滅し奉る、全ての命の敵対者。  一つの世界の終末装置として顕れた、最強最悪の魔物である。  白色(ホワイト)。万象の敵(アークエネミー)。  破滅の子クリア。 【台東区・路上/一日目・午前】 【アーチャー(クリア・ノート)@金色のガッシュ!】 [状態]疲労(小)、両腕骨折(戦闘に支障なし) [装備] [道具] [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:滅ぼす 1.さて、次はどうしようか? 2.アーチャー(冬のルクノカ)とランサー(メリュジーヌ)は予想以上。厄介だね。 [備考] ※クリアの呪文による負傷は魔術的回復手段の他に、マスターの運命力を消費することでの回復も可能です。 【座標不明/一日目・午前】 【[[ドクター・バイル]]@ロックマンゼロ】 [運命力]通常 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]不明 [道具]不明 [所持金]不明 [思考・状況] 基本行動方針:より多くの恐怖と絶望を。全てに絶望を! 1.クリアを自由に動かす 2."神"…? ククッ、面白い……! [備考]     ◆ ◆ ◆ 「――それで?」  響くルクノカの声。  彼女を押し止め続けていたメリュジーヌの顔にも流石に疲労の色が滲み始めている。 「逃した彼の分は、このまま引き続き貴女がお相手してくれるのかしら?」 「僕としては次の機会にしたいんだけど、君それで納得しないだろ」 「ウッフフフフ! それは、もう…何しろ昂ぶった所でお預けを食らった形ですから」  冬のルクノカを相手にこの立ち回りが出来るというだけでも十二分に驚嘆モノである事は言うに及ばない。  とはいえ此処で目前のこれがブレスまで解禁して来たなら、流石のメリュジーヌもお手上げだった。  そうなるともう後は今度こそどちらかが死ぬまで殺し合うしかなくなる。  それ自体はメリュジーヌとしても臨む所ではあるのだが、如何せん今は状況が悪い。  右足に食らった消滅が今も彼女の動きを軽微ながら蝕み続けている。  それだけでも、相手がルクノカであれば旗色が大きく変わるのだ。  メリュジーヌとルクノカは原則として互角。  極めて高い水準で安定していた相性関係だからこそ、僅かな誤差が忽ち致命的になる。  達人同士の果たし合いでは機微の一つが勝敗を左右するのと同じだ。  我が葬者ながら竜使いが荒すぎる、とそう思った所で。  ――メリュジーヌが驚きに目を少し見開く。  目の上の瘤だった筈の右足の摩耗が、嘘のように回復し始めたからだった。  驚いてマスターである天堂の方を見ると、彼は彼女の苦労を他所に満足気な顔で頷いていた。 「成程。奴の小癪な消滅で負った手傷は葬者が運命力を切り詰める事で癒せると」 「一人で納得してるよもう…」  自分がツッコミ側に回る等、それこそ"彼女"以来の事だ。  とはいえこれなら十分にルクノカとも渡り合える。  爪を剣で弾いて後退しつつ改めて構えを取るメリュジーヌ。  そんな彼女と天堂を交互に見て、婦人竜は穏やかに笑った。 「まぁ。ありがとうございます、我が好敵手の葬者。ところでこのまま戦いを続ける事に異存はありませんよね?」 「神の意見を伺うとは殊勝な事だ。神敵ながら好ましいぞ、アーチャー」 「ウッフフフ。褒められてしまったわ」 「結論から言うと、構わん。お前は神としても目障りな敵だからな、排除出来るに越した事はない。  神の近衛たる我が騎士が、よもや時代遅れの冬将軍等に遅れを取る訳もないしな」  だが、と天堂は続ける。  非難がましい目で見て来るメリュジーヌを見ているのか見ていないのか、定かではないが彼はルクノカへ言った。 「続けるにしてもその前に片付けねばならない用事がある。  時にアーチャー。お前は何故、葬者を問わず此処に居る? 哨戒でもして来いと命令されたか」 「…、……あらいけない。そうだったわ、そうでした。私、あの子の言い付けで探し物をしていた筈なのに」 「成程。ではますます都合がいい」  ルクノカの漏らした一言で理解する。  彼女のマスターは恐らく一般人。  戦う力がないだけでなく、そもそも聖杯戦争という舞台に迎合出来る質ではない只人。  そうでなければ明らかに戦場のギアが一つ上がった今この状況で、サーヴァントを失せ物探しなんて目的で出払わせる筈がない。 「――お前の葬者と話がしたい。神の近衛と雌雄を決したければ、まずは神の意向に従って戴こう」  探し物が見つかって安堵しているだろう何処かの誰か。  冬の竜が言い付けた事を全無視して全力戦闘をしていた事をこれから知る事になるだろう少女。  一難去ってまた一難とよく言うが今回に限っては二難。  やらかした竜が帰ってくる。  神も、会いに来る。  アポ無しで。 【台東区・爆心地/1日目・午前】 【天堂弓彦@ジャンケットバンク】 [運命力]消費(小) [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]なし [道具]不明 [所持金]手持ち数十万円。総資産十億円以上。 [思考・状況] 基本行動方針:神。 0.アーチャー(冬のルクノカ)のマスターと対話する 1.〈消滅(クリア)〉の主を討つ。神罰を騙るな、ブチ殺すぞ。 2.[[クロエ・フォン・アインツベルン]]とそのアーチャーは善人。神も笑顔だ。 [備考] ※数日前までカラス銀行の地下賭場で資金を増やしていました。  その獲得金を用い、東京各所の監視カメラを掌握しています。  カラス銀行については、原作のように社会的特権を与えられるほどの権力は所有していないようです。 ※この話の前に予定通り教会に寄りました。そこでした事に関してはお任せします。 【ランサー(メリュジーヌ)@Fate/Grand Order】 [状態]疲労(中) [装備]『今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)』 [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:神の近衛。 1.疲れた……… 2.アーチャー([[石田雨竜]])はなかなか面白そうだったんだけど、ぜんぜん乗ってきてくれなかったや。残念。 3.〈消滅〉を討ちたい。マスターの言葉を結構根に持っているよ。 [備考] ※天堂の命令でルクノカと個別戦闘をさせられたので、他の二騎より少し疲れています。 【アーチャー(冬のルクノカ)@異修羅】 [状態]全身に消滅の影響による肉体摩耗(小)。でもまだまだ元気いっぱい。やる気いっぱい。 [装備]無し。 [道具]無し。 [所持金]無し。 [思考・状況] 基本行動方針:喜びのままに戦う。 0. シラセに会わせろと。なるほど? 1. シラセの落とし物、見つからなかったわねぇ… 2. ウッフフフフ! 早めに会えて嬉しいわ、好敵手(おなかま)の貴女! [備考] [全体備考] ※台東区の一角がクリア・ルクノカ・メリュジーヌ戦により壊滅状態に陥りました。

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