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冥界よりも深い場所 - (2024/04/09 (火) 20:01:39) の1つ前との変更点

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【0】 死とは冷たさである。 【1】 欠落した日々を送っている。 もともと、母の死を知ったあの日から大切な何かが欠けてしまっていた。 だけど今は、それから必死に注ぎ足し続けてきた情熱さえも落としてしまっている。 目覚め、新聞を配達し、学校に登校し、味のしない弁当を食べて、ただ一人で帰路につき、スーパーの店員として汗を流し、日銭を稼ぎ、稼ぎ、稼ぎ。 愛する母のいない家に帰宅する。 ベッドの中で札束を数える。輝かしき青春を薄汚れた労働に費やした対価として得た紙幣を、皿洗いで荒れた指でなぞっていく。 その行為は虚栄を満たすためではなく、願望(ゆめ)を確認する行為とも少し違っていて。 決して埋まらない心の澳の空洞を、それでも必死に塞ごうとするための足掻きとでも言えばいいのか。 1枚、2枚、10枚。 「……99枚」 目標金額までほんのあと少しだというのに、彼女の声は低く、重く、地の底にいるようで。 いや、実際に彼女――小淵沢報瀬は現在、地の底……冥界とも呼ばれる死の国に囚われていた。 偽りの世界。偽りの生活。偽りの人間。 そんなことはどうだって良い。本物だろうが偽物だろうが、報瀬の夢を嗤うヤツなどどうだっていいし。 ……ホントはかなりムカつくけれど。現実じゃないんだったらそれこそ後先考えず一発殴ってやれればかなーりスッキリ出来るんだろうけど。 偽物だらけのこの世界で、報瀬の心は本物だから。傷付きもするし、苛立ちもする。 まあ、大事なのはそんなことじゃない。 大事なのは。 「願いが、叶う」 聖杯戦争。そういうものに勝ち抜いて見事優勝した暁には、なんでも望みが叶うのだという。 なんでも。その文言は普通の人間にとっては甘美なのだろう。何を犠牲にしてでも手を伸ばす者もいるだろう。 でも、報瀬にとっては違った。 例えるなら、人力飛行機を頑張って作成している最中に宇宙旅行の抽選参加者に無理やりさせられた、という言い方が近いだろうか。 段階が飛んでしまっている。まだ空中からの景色さえ見れていないのに、いきなり宇宙に飛び出してみよう、なんて。 そんなの、南極に行くためにコツコツと100万円を貯金していた自分がバカみたいじゃないか。 南極に行くという願いは「一般女子高生の夢」としてはだいぶん重たいが「なんでも」に対してあまりにも軽すぎる。 自分が本当は何をしたいのか。南極に行って、それからどうするのか。 その答えを報瀬はまだ持たない。 不透明で不定形のナニカをこれという形に確定できない。 母の遺品を回収したいのか? 母と再会したいのか? 母の黄泉還りを望むのか? 報瀬はただ「南極に行く」という分かりやすい道標にしがみつきながら何年も生きてきた。 それなのに「それから先」や「それ以上」の選択肢を急に突き付けられても、困ってしまう。 進む道が曖昧模糊では、到達地点が五里霧中では、遭難は必至だ。 特に、本来人類種が行き着くべきではない地では。 そういう場所では、どんなに完璧に準備をしていてもほんの少しのミスやどうしようもない天災で人は死ぬことを報瀬は知っている。 嫌というほど、知っている。 「はぁ……」 だから、気が重い。 願望に対して猪突猛進でいられる気性であるからこそ、その願望を見失っている今が辛い。 それでも期限はやってくる。闘争はやってくる。戦争はやってくる。 勝ち残った「後」のことを考える時間は、あとどれだけ残っているだろうか。 小淵沢報瀬と彼女のサーヴァント『アーチャー』は、既に5組の参加者を屠っている。 報瀬自身の意思に関わらず、自分たちは「天災」の側である。 自分のサーヴァントがいわゆる「当たり」であることはすぐに分かった。 ステータス?とかいうものを見てもだいたい全部A(Sとかないよね?多分)だし。 何より『アーチャー』の実際の戦いぶりを遠目から見て、弱いと思えるはずもなかった。 圧倒的だった。時には戦いと呼べるものでさえなかった。 戦いの規模がよく分かっていなかった最初の頃は、それこそ『アーチャー』の攻撃の余波で死にかけたことさえあるくらいだ。 最近は、戦いが起きると思った瞬間に全力でダッシュしてその場を離れている。 『アーチャー』は報瀬を気遣って戦うには少しおっとりしすぎているし、何よりも。 報瀬は『アーチャーの宝具』を見たくなかった。 それによって息絶えたサーヴァントや、マスターや、NPCを見てしまうと、どうしても想起してしまう。 愛する母の死に様を。 南極で吹雪の中、少しずつ死んでいった母が、報瀬の殺した誰かに被る。 そのたびに、胸が痛くなる。苦しくなる。まるで自分が母を殺したかのように錯覚してしまう。 仕方のないことだと言い聞かせる。誰かを殺してしまうことも、殺し方も。 だって、どうしようもないじゃないか。 報瀬は聖杯戦争に巻き込まれて。『アーチャー』は勝利のために宝具を使う。 そこに悪意はない。生き残るためという免罪符で、報瀬は目を背け続けている。 「……98枚。99枚」 もしかしたら。 こうやって札束を数えているのは、そんな自分を日常の側に留めるための儀式なのかもしれなかった。 南極に行くという夢のため集め続けた紙切れが、孤独な少女とかつて彼女が存在していた現世を繋ぐただ一つのよすがなのだから。 「……寝よ」 こうして。 宇宙(そら)よりも遠い場所を目指した翼は黒き太陽に焼かれ。 少女は落ちていく。堕ちて逝く。 冥界(そこ)よりも深い場所に。冷たい冷たい最果てに。 落ち切った終着点で本当の願いが見つかることを祈って、眠りにつく。 睡魔に負ける直前に。 反射的に携帯を開く。 いつものようにメールを打つ。 『Dear お母さん』 愛する者との訣別の時、未だ来たれず。 【2】 小淵沢報瀬が床についてから数時間後。 丑三つ時。彼女の自宅付近で揺らめく影が五つ、六つ。 ゴーストと呼ばれる亡者。二匹。 スケルトンと呼ばれる骸骨。三体。 そして、シャドウサーヴァントと呼ばれる英霊の影。一騎。 いずれも、報瀬の持つ令呪――特大の魔力塊に釣られ、誘蛾灯に群れる蟲のように現れた敵性存在であった。 亡者が爪を研ぐ。骸骨は槍を握り締め、影は短剣を取り出した。 「あら、お客様?」 瞬間。大きく風が吹いた。 季節は3月終わり。春一番にしては遅刻である。 風の後には、塵が舞う。さらさらと。 瞬き一つの間に、敵性存在は微塵と化している。 剣の煌めきも、魔術のおこりも、何も見えないまま、死者は土に還っている。 小淵沢報瀬のサーヴァント『アーチャー』による神速の一撃であった。 一般人には風としか映らず、武芸者であっても「何かがいた」ことしか分からず。 一騎当千の英霊、座におわす人類種の極限到達者であってようやく視認が叶うその一撃。 どうして、そこまでの早業を魅せる必要があったのか? 巨躯を周囲に晒し、神秘の隠匿を破る咎を恐れたのだろうか? 違う。『アーチャー』はそんなことには興味がない。 今まで彼女の戦いが騒ぎにならなかったのは、敵対者による結界や人払いによるものである。運が良かっただけだ。 それでは、まだ見ぬ参加者に情報を渡すことを危惧したのだろうか? 違う。『アーチャー』はまだ見ぬ参加者こそを、英雄こそを待ち望んでいる。 報瀬に「待て」をされていなければ、彼女はショッピングモールに向かうJK(女子高生)のごとくルンルン気分で会場を闊歩し闘争に明け暮れている。 となると、目にもとまらぬ一撃こそが『アーチャー』の能力であったか? 違う。違う。違う。全て間違っている。 前提が間違っている。 今しがた行われた一瞬の殺戮劇は、ただそうする必要しかなかっただけ、というわけである。 ゴースト二匹。スケルトン三体。シャドウサーヴァント一騎。 その程度の群れは『アーチャー』の持つただ片脚の、ただ一指の、ただの爪の先で「なでる」だけで、散らされるものだったというだけ。 爪先一つの部分的、瞬間的顕現によってのみで、対処が可能というだけの話である。 「ああ、退屈ねえ……」 これまでも道すがら幾つもの英雄たちと矛を交えたが、かつてのような血の滾りを得ることは出来なかった。 剣士は剣ごと体躯を砕いたし、弓兵の奥義は鱗を貫くことも出来ず。 暗殺者の速さには追い付いてしまったし、魔術師との技比べも、かつてのように一息で終わってしまう。 騎兵の駆る怪物には胸躍ったが、結局は大きいだけの木偶の坊でしかなかった。 星を目指した鳥竜の冒険者との戦いも、尽きぬ技持つ粘獣の格闘家との戦いも、今は遠く。 だけど、すぐ近くにきっと甘い甘い戦いがあるのだと、信じながら。 冥界にて屍を築き上げながら。冷たい死を振り撒きながら。 新たなる修羅との戦いを夢見て『アーチャー』――冬のルクノカは目を閉じる。 【3】 それは、ただの一息にて数多もの英雄を殺戮せしめた最強種の頂点である。 それは、ただの一息にて本来相容れぬ国家と修羅の手を取り合わせた安寧世界の敵である。 それは、ただの一息にて永久凍土大陸さえ作り得る「冷たさ」の担い手である。 昏き死が蔓延る冥都において、ただの一息にて生者無き白地(じごく)を顕現する冥主の一柱である。 凍術士(サイレンサー)  竜(ドラゴン) 冬のルクノカ。 【CLASS】 アーチャー 【真名】 冬のルクノカ@異修羅 【ステータス】 筋力 A+ 耐久 A 敏捷 A 魔力 A+ 幸運 C 宝具A 【属性】 混沌・中庸 【クラススキル】 対魔力:A 単独行動:A 【保有スキル】 怪力:A 魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性。使用することで一時的に筋力を増幅させる。一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間はランクによる。 戦闘続行:A+  往生際が悪い。  霊核が破壊された後でも、一国の軍と修羅一匹を殲滅しかける程度には暴れまわれる。 詞術:A+ 冬のルクノカがかつて存在していた世界における言語であり魔法のようなもの。彼女はこの術を用いて宝具を発動する。 その特性上、ルクノカがこの東京の地に「馴染む」ほど強い力を発揮する。 【宝具】 『果ての光に枯れ落ちよ』 ランク:A+ 種別:対界宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:999人 かの世界において冬のルクノカのみが持つ氷の詞術。 彼女はただの一息で世界を「冬」に塗り替える。 【weapon】 無し。人の作りし道具は彼女の膂力に耐えられない。 【人物背景】 最強種である龍の中においてもなお最強と謳われる伝説の存在。 普段はおばあちゃん然とした様子だが、戦い大好き!強者大好き! 【サーヴァントとしての願い】 特になし。修羅との尽きぬ戦いをこそ望む。 【マスターへの態度】 あらあら、小さな人間(ミニア)。マスターというのはよくわからないけれど、死なないでね。 【マスター】 小淵沢報瀬@宇宙よりも遠い場所 【マスターとしての願い】 まだはっきりとしない。お母さん……。 【能力・技能】 南極に対して知識を持つ。それ以外は割とボケてるJK。意外と性格が悪い。 【人物背景】 かつて南極の地で母を失った少女。 その後、100万円を貯めて南極に行く(具体的なプラン無し)ことを目標にバイトに明け暮れていた。 学校のクラスメイトには「南極」呼びでバカにされているので荒みがち。 でも自分のことを笑わない人間に対しては爆速で心を開きがち。 【方針】 優勝する……でいいんだよね……。 【サーヴァントへの態度】 味方だから一応は友好的態度。でもやっぱりちょっと怖い。
【0】 死とは冷たさである。 【1】 欠落した日々を送っている。 もともと、母の死を知ったあの日から大切な何かが欠けてしまっていた。 だけど今は、それから必死に注ぎ足し続けてきた情熱さえも落としてしまっている。 目覚め、新聞を配達し、学校に登校し、味のしない弁当を食べて、ただ一人で帰路につき、スーパーの店員として汗を流し、日銭を稼ぎ、稼ぎ、稼ぎ。 愛する母のいない家に帰宅する。 ベッドの中で札束を数える。輝かしき青春を薄汚れた労働に費やした対価として得た紙幣を、皿洗いで荒れた指でなぞっていく。 その行為は虚栄を満たすためではなく、願望(ゆめ)を確認する行為とも少し違っていて。 決して埋まらない心の澳の空洞を、それでも必死に塞ごうとするための足掻きとでも言えばいいのか。 1枚、2枚、10枚。 「……99枚」 目標金額までほんのあと少しだというのに、彼女の声は低く、重く、地の底にいるようで。 いや、実際に彼女――[[小淵沢報瀬]]は現在、地の底……冥界とも呼ばれる死の国に囚われていた。 偽りの世界。偽りの生活。偽りの人間。 そんなことはどうだって良い。本物だろうが偽物だろうが、報瀬の夢を嗤うヤツなどどうだっていいし。 ……ホントはかなりムカつくけれど。現実じゃないんだったらそれこそ後先考えず一発殴ってやれればかなーりスッキリ出来るんだろうけど。 偽物だらけのこの世界で、報瀬の心は本物だから。傷付きもするし、苛立ちもする。 まあ、大事なのはそんなことじゃない。 大事なのは。 「願いが、叶う」 聖杯戦争。そういうものに勝ち抜いて見事優勝した暁には、なんでも望みが叶うのだという。 なんでも。その文言は普通の人間にとっては甘美なのだろう。何を犠牲にしてでも手を伸ばす者もいるだろう。 でも、報瀬にとっては違った。 例えるなら、人力飛行機を頑張って作成している最中に宇宙旅行の抽選参加者に無理やりさせられた、という言い方が近いだろうか。 段階が飛んでしまっている。まだ空中からの景色さえ見れていないのに、いきなり宇宙に飛び出してみよう、なんて。 そんなの、南極に行くためにコツコツと100万円を貯金していた自分がバカみたいじゃないか。 南極に行くという願いは「一般女子高生の夢」としてはだいぶん重たいが「なんでも」に対してあまりにも軽すぎる。 自分が本当は何をしたいのか。南極に行って、それからどうするのか。 その答えを報瀬はまだ持たない。 不透明で不定形のナニカをこれという形に確定できない。 母の遺品を回収したいのか? 母と再会したいのか? 母の黄泉還りを望むのか? 報瀬はただ「南極に行く」という分かりやすい道標にしがみつきながら何年も生きてきた。 それなのに「それから先」や「それ以上」の選択肢を急に突き付けられても、困ってしまう。 進む道が曖昧模糊では、到達地点が五里霧中では、遭難は必至だ。 特に、本来人類種が行き着くべきではない地では。 そういう場所では、どんなに完璧に準備をしていてもほんの少しのミスやどうしようもない天災で人は死ぬことを報瀬は知っている。 嫌というほど、知っている。 「はぁ……」 だから、気が重い。 願望に対して猪突猛進でいられる気性であるからこそ、その願望を見失っている今が辛い。 それでも期限はやってくる。闘争はやってくる。戦争はやってくる。 勝ち残った「後」のことを考える時間は、あとどれだけ残っているだろうか。 [[小淵沢報瀬]]と彼女のサーヴァント『アーチャー』は、既に5組の参加者を屠っている。 報瀬自身の意思に関わらず、自分たちは「天災」の側である。 自分のサーヴァントがいわゆる「当たり」であることはすぐに分かった。 ステータス?とかいうものを見てもだいたい全部A(Sとかないよね?多分)だし。 何より『アーチャー』の実際の戦いぶりを遠目から見て、弱いと思えるはずもなかった。 圧倒的だった。時には戦いと呼べるものでさえなかった。 戦いの規模がよく分かっていなかった最初の頃は、それこそ『アーチャー』の攻撃の余波で死にかけたことさえあるくらいだ。 最近は、戦いが起きると思った瞬間に全力でダッシュしてその場を離れている。 『アーチャー』は報瀬を気遣って戦うには少しおっとりしすぎているし、何よりも。 報瀬は『アーチャーの宝具』を見たくなかった。 それによって息絶えたサーヴァントや、マスターや、NPCを見てしまうと、どうしても想起してしまう。 愛する母の死に様を。 南極で吹雪の中、少しずつ死んでいった母が、報瀬の殺した誰かに被る。 そのたびに、胸が痛くなる。苦しくなる。まるで自分が母を殺したかのように錯覚してしまう。 仕方のないことだと言い聞かせる。誰かを殺してしまうことも、殺し方も。 だって、どうしようもないじゃないか。 報瀬は聖杯戦争に巻き込まれて。『アーチャー』は勝利のために宝具を使う。 そこに悪意はない。生き残るためという免罪符で、報瀬は目を背け続けている。 「……98枚。99枚」 もしかしたら。 こうやって札束を数えているのは、そんな自分を日常の側に留めるための儀式なのかもしれなかった。 南極に行くという夢のため集め続けた紙切れが、孤独な少女とかつて彼女が存在していた現世を繋ぐただ一つのよすがなのだから。 「……寝よ」 こうして。 宇宙(そら)よりも遠い場所を目指した翼は黒き太陽に焼かれ。 少女は落ちていく。堕ちて逝く。 冥界(そこ)よりも深い場所に。冷たい冷たい最果てに。 落ち切った終着点で本当の願いが見つかることを祈って、眠りにつく。 睡魔に負ける直前に。 反射的に携帯を開く。 いつものようにメールを打つ。 『Dear お母さん』 愛する者との訣別の時、未だ来たれず。 【2】 [[小淵沢報瀬]]が床についてから数時間後。 丑三つ時。彼女の自宅付近で揺らめく影が五つ、六つ。 ゴーストと呼ばれる亡者。二匹。 スケルトンと呼ばれる骸骨。三体。 そして、シャドウサーヴァントと呼ばれる英霊の影。一騎。 いずれも、報瀬の持つ令呪――特大の魔力塊に釣られ、誘蛾灯に群れる蟲のように現れた敵性存在であった。 亡者が爪を研ぐ。骸骨は槍を握り締め、影は短剣を取り出した。 「あら、お客様?」 瞬間。大きく風が吹いた。 季節は3月終わり。春一番にしては遅刻である。 風の後には、塵が舞う。さらさらと。 瞬き一つの間に、敵性存在は微塵と化している。 剣の煌めきも、魔術のおこりも、何も見えないまま、死者は土に還っている。 [[小淵沢報瀬]]のサーヴァント『アーチャー』による神速の一撃であった。 一般人には風としか映らず、武芸者であっても「何かがいた」ことしか分からず。 一騎当千の英霊、座におわす人類種の極限到達者であってようやく視認が叶うその一撃。 どうして、そこまでの早業を魅せる必要があったのか? 巨躯を周囲に晒し、神秘の隠匿を破る咎を恐れたのだろうか? 違う。『アーチャー』はそんなことには興味がない。 今まで彼女の戦いが騒ぎにならなかったのは、敵対者による結界や人払いによるものである。運が良かっただけだ。 それでは、まだ見ぬ参加者に情報を渡すことを危惧したのだろうか? 違う。『アーチャー』はまだ見ぬ参加者こそを、英雄こそを待ち望んでいる。 報瀬に「待て」をされていなければ、彼女はショッピングモールに向かうJK(女子高生)のごとくルンルン気分で会場を闊歩し闘争に明け暮れている。 となると、目にもとまらぬ一撃こそが『アーチャー』の能力であったか? 違う。違う。違う。全て間違っている。 前提が間違っている。 今しがた行われた一瞬の殺戮劇は、ただそうする必要しかなかっただけ、というわけである。 ゴースト二匹。スケルトン三体。シャドウサーヴァント一騎。 その程度の群れは『アーチャー』の持つただ片脚の、ただ一指の、ただの爪の先で「なでる」だけで、散らされるものだったというだけ。 爪先一つの部分的、瞬間的顕現によってのみで、対処が可能というだけの話である。 「ああ、退屈ねえ……」 これまでも道すがら幾つもの英雄たちと矛を交えたが、かつてのような血の滾りを得ることは出来なかった。 剣士は剣ごと体躯を砕いたし、弓兵の奥義は鱗を貫くことも出来ず。 暗殺者の速さには追い付いてしまったし、魔術師との技比べも、かつてのように一息で終わってしまう。 騎兵の駆る怪物には胸躍ったが、結局は大きいだけの木偶の坊でしかなかった。 星を目指した鳥竜の冒険者との戦いも、尽きぬ技持つ粘獣の格闘家との戦いも、今は遠く。 だけど、すぐ近くにきっと甘い甘い戦いがあるのだと、信じながら。 冥界にて屍を築き上げながら。冷たい死を振り撒きながら。 新たなる修羅との戦いを夢見て『アーチャー』――[[冬のルクノカ]]は目を閉じる。 【3】 それは、ただの一息にて数多もの英雄を殺戮せしめた最強種の頂点である。 それは、ただの一息にて本来相容れぬ国家と修羅の手を取り合わせた安寧世界の敵である。 それは、ただの一息にて永久凍土大陸さえ作り得る「冷たさ」の担い手である。 昏き死が蔓延る冥都において、ただの一息にて生者無き白地(じごく)を顕現する冥主の一柱である。 凍術士(サイレンサー)  竜(ドラゴン) [[冬のルクノカ]]。 【CLASS】 アーチャー 【真名】 [[冬のルクノカ]]@異修羅 【ステータス】 筋力 A+ 耐久 A 敏捷 A 魔力 A+ 幸運 C 宝具A 【属性】 混沌・中庸 【クラススキル】 対魔力:A 単独行動:A 【保有スキル】 怪力:A 魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性。使用することで一時的に筋力を増幅させる。一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間はランクによる。 戦闘続行:A+  往生際が悪い。  霊核が破壊された後でも、一国の軍と修羅一匹を殲滅しかける程度には暴れまわれる。 詞術:A+ [[冬のルクノカ]]がかつて存在していた世界における言語であり魔法のようなもの。彼女はこの術を用いて宝具を発動する。 その特性上、ルクノカがこの東京の地に「馴染む」ほど強い力を発揮する。 【宝具】 『果ての光に枯れ落ちよ』 ランク:A+ 種別:対界宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:999人 かの世界において[[冬のルクノカ]]のみが持つ氷の詞術。 彼女はただの一息で世界を「冬」に塗り替える。 【weapon】 無し。人の作りし道具は彼女の膂力に耐えられない。 【人物背景】 最強種である龍の中においてもなお最強と謳われる伝説の存在。 普段はおばあちゃん然とした様子だが、戦い大好き!強者大好き! 【サーヴァントとしての願い】 特になし。修羅との尽きぬ戦いをこそ望む。 【マスターへの態度】 あらあら、小さな人間(ミニア)。マスターというのはよくわからないけれど、死なないでね。 【マスター】 [[小淵沢報瀬]]@宇宙よりも遠い場所 【マスターとしての願い】 まだはっきりとしない。お母さん……。 【能力・技能】 南極に対して知識を持つ。それ以外は割とボケてるJK。意外と性格が悪い。 【人物背景】 かつて南極の地で母を失った少女。 その後、100万円を貯めて南極に行く(具体的なプラン無し)ことを目標にバイトに明け暮れていた。 学校のクラスメイトには「南極」呼びでバカにされているので荒みがち。 でも自分のことを笑わない人間に対しては爆速で心を開きがち。 【方針】 優勝する……でいいんだよね……。 【サーヴァントへの態度】 味方だから一応は友好的態度。でもやっぱりちょっと怖い。

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