◆◇◆◇ ♪ONE, TWO, THREE, FOUR…… ♪ONE, TWO, THREE, FOUR…… ♪FIVE, SIX/COME ON…… ◆ かつ、かつ、かつ――。 靴底が、地面を打つ。 規則正しい音色が、断続を繰り返して響く。 コンクリートの歩道。夕焼けの町並み。 ビルの狭間に吹く、冷たく頬を刺す風。 すれ違うサラリーマン達を尻目に、“彼”は歩を進めていく。 かつ、かつ、かつ――。 安上がりのスーツと、使い古した革靴。 短く整えた髪は、白く染まっている。 目立たぬ色のネクタイを首に絞め、憂いを帯びた眼差しで宙を見上げる。 並び立つのは、高層ビルの群れ。 権威を象徴するかのように、灰色の建造物は地上を見下ろす。 それを冷めた眼差しで一瞥して、“彼”は歩みを続けていく。 かつ、かつ、かつ――。 “弱者は常に踏みにじられる”。 “二度と虐げられない力が欲しい”。 “伸し上がって、権力を掴み取りたい” そんな出世への野心は、いつの間にか失われていた。 思い出せない記憶の中に、置き去りにしてしまった。 取り残された感情だけが浮遊し、その根源は霧が掛かったまま晴れない。 だからこそ、思う――“俺”は、何を背負っているのか。 言いようのない疑念と、それでも消えぬ決意を、“彼”は胸の内に抱き続ける。 かつ、かつ、かつ――。 この街では、誰も人前で煙草を吸わない。 もうとっくに、そんな時代ではなくなったそうだ。 “彼”が生きていた時代は、あの草臥れた匂いに満ち溢れていた。 歩道の傍ら。衝立のような壁で仕切られた“喫煙所”を通り過ぎた。 老若男女がひっそりと煙草を咥えて、煙の味に浸っているのが隙間から見えた。 煤けた香りが、今では懐かしくさえ思う。 かつ、かつ、かつ――。 この街で、傷付いた復員兵とすれ違うことはない。 手足や眼を失い、窶れた姿を晒して彷徨う男たち。 見慣れてしまった光景は、何処にも存在しない。 時は流れた。街はひどく変わった。 “俺”が知りもしない、遥かな時間の果てに。 あの戦争の記憶さえも、もはや過去の歴史と化している。 作り出された虚構の世界だというのに、“彼”はまるで浦島太郎のような感情を抱く。 かつ、かつ、かつ――。 この街に、血液を取り扱う銀行は存在しない。 認可法人による献血の管理が体制化し、売血はとうの昔に過去のものとなっていた。 血液銀行に勤めていた“彼”は、この世界ではただの会社員だった。 この世界に招かれた時、“彼”はそのことに奇妙な安心を覚えた。 弱者が金のために己を差し出し、弱者が搾取に身を委ねて生きていく。 そんな社会の構造が、未来の世界ではもう喪われていたのだから。 ――不思議なものだった。手段を選ばない出世。地位を約束される昇進。 もはや"彼”の胸中に、そのことへの未練はなかった。そんな己に気付いていた。 かつ、かつ、かつ――。 この街には、巨大な電波塔が建っていた。 まるで紅白のような色彩を持つ“それ”は、繁栄に揺れる大都市を見下ろす。 自分が生きる時代において、その電波塔は未だに完成していなかった。 日本電波塔、通称“東京タワー”。 東京都港区芝公園にある総合電波塔。昭和33年12月23日竣工。 この世界に招かれたばかりの頃、慣れない“携帯電話”とやらで調べたことがあった。 自分が生きていた時代からおよそ2年後、あの巨大な塔はこの大都市の中心にて完成を迎えるらしい。 ――“誰か”と、約束をした気がする。 “あの塔が完成したら、一緒に見に行こう”。 幼子の眼差し。少女の微笑み。 記憶の奥底に焼き付く、ふたつの影。 その正体が何なのかを、思い出せない。 自らの心に、大きな欠落が残り続けている。 そして、深い悲しみが宿り続けている。 かつ、かつ、かつ――。 多くのものを、取り零している。 大事な何かを、忘れ去っている。 そんな気がしてならなかった。 “彼”の――“水木”の魂は、大きな欠落を経ている。 白く染まった髪が示す意味を、水木は未だ理解できない。 この世界に招かれてから、ずっとそうだった。 何かを失い、忘れ去ったことへの喪失感。 何かを託され、それを果たさねばならないという決意。 その二つの感覚が、胸の内に強く焼き付けられている。 水木という男が、“聖杯戦争”を戦い抜く覚悟をしたのも。 きっと、それがきっかけだったのだ。 誰かと、約束をした。 幼子と少女。そして、もう一人。 ――必ず、生きて帰ってこい。 その言葉を、誰にぶつけたのか。 水木は今もなお、思い出せない。 それでも。その約束だけは。 必ず守らねばならないと、水木は感じていた。 ――“あいつ”から、託された。 ――“俺”も、生きなくてはならない。 夕焼けの下で、彼は意志に突き動かされる。 その意味が、その者が、一体何なのか。 それさえも知り得ぬまま、水木は歩み続ける。 まるで現世への未練を抱く、“幽霊”のように。 かつ、かつ、かつ――からん、からん。 踏みしきる歩が止まり、小金の音色が響く。 大都市の片隅。雑居ビルの狭間の路地、その向こう側。 喫茶店の扉が開かれ、客の入店を知らせる鈴の音が鳴ったのだ。 店の中へと入る直前。 遥か遠くから、喧騒が聞こえた。 何かを言い争う、怒声や絶叫のような。 まるで理性を失った獣の叫びのような。 血生臭い騒ぎを前にした悲鳴のような。 平和な日常には似つかわしくない“暴力の匂い”が、ほんの微かに吹き流れた。 ◆ ♪ONE, TWO, THREE, FOUR…… ♪ONE, TWO, THREE, FOUR…… ♪FIVE, SIX/COME ON…… ◆ 小さな窓から、微かに夕焼けが漏れる。 朱色の照明にぼんやりと照らされた店内は、夜のように仄暗い。 古めかしいアンティーク仕立てで統一されたシックな内装。 外観以上に広い店内にはジャズが流れ、静謐な空気が漂う。 低いテーブルが並び、洋風の模様があしらわれたソファ席が添えられている。 店内は、煙草の匂いが染み付いていた。 全席喫煙可能。今時珍しい、昭和風情の漂う店である。 それ故か、中高年以上の男性客が主な層となっているそうだ。 通路を歩きながら、水木は薄暗い店内を横目で見渡す。 仕事の話をしているスーツ姿の壮年男性達や、時間を持て余した老人達の姿が見えた。 夕方ということもあり、数は疎らではあったが。 それでも今となっては見慣れた光景だった。 この世界の常識を身に付けていった水木だったが、それでも落ち着くのはこの空気だった。 煙草の匂い。仕事漬けの男達の匂い。馴染み深い匂いが充満している。 時代も常識も“昭和”からは掛け離れた“この世界”。 水木はその中へと突然に放り込まれ、迎合を余儀なくされた。 見知った顔も無ければ、記憶さえも欠落している。 絶えず孤独を背負う彼にとって、こういった場が一つの安らぎとなっていた。 自分が在るべき世界を、時代を、少しでも忘れずにいられる。 この世界――聖杯戦争の舞台。 此処から、生きて帰らねばならない。 焼き付けられた想いが、水木の背中を確かに押している。 そして水木は、最奥の席へと座る。 ソファに身を委ねて、一息を吐き。 それからすぐに座席へと訪れた男性店員に対し、注文をする。 ブレンドコーヒーを一杯。店員は一礼し、その場を去っていく。 去っていく店員の背中を見つめたのち、水木は虚空を見つめる。 無心の表情で懐から煙草の箱を取り出し、その一本を摘む。 指先で運んだ紙煙草を口に咥えて、ライターで着火した。 ――ふう、と一服をする。 深々と肺で吸い込み、煙を味わう。 やがて暫しの沈黙を経て、口から灰色の吐息を吐き出した。 店内に染み付いた匂いに入り混じるように、煙が静かに漂う。 “待ち合わせ”をしていた。 己のサーヴァントが、じきにやってくる。 喫茶店で一服をしながら、来訪を静かに待つ。 まるで上司を待ち続ける部下のような、奇妙な感覚だった。 静寂。沈黙。――上の空になれる、束の間のひと時。 それが終わりを告げるのも、そう遠くはない。 かち、かち、と。時間は過ぎていく。 店内に掲げられた古時計が、針を進めていく。 何分。何十分。気がつけば、注文した品も届いていた。 時計を何度か確認しながら、水木は喫茶店で黄昏る。 彼はただ、待ち続ける。 己の“従者”の帰還を――。 ――のそり、のそり。 そして、ある時。その気配はやってきた。 古風な内装に包まれ、煙に満ちた店内。 その“怪人”は、姿を現していた。 鮮やかな赤と黄色の巨大な面長の頭部。 フジツボにも似た丸い両目に、水色の胴体。 先割れたヒレのように尖った両手。 背中には蛸を思わせる吸盤が幾つも貼り浮いている。 まるで人の形を成した海洋生物のような、異形の姿。 疎らとはいえ、幾らかの客が居座っている店内。 されど“怪人”は、その通路を堂々と歩いて行く。 客は彼を見向きもしない。存在にすら気付いていないかのように。 異形の姿をした訪問者に、誰も疑問を持とうとはしない。 悠々と歩いて行く“怪人”は、そのまま水木の居座るテーブルの前に立ち。 彼と向き合うように、どすんと向かい側のソファ席に腰掛けた。 既に届けられたブレンドのコーヒーを啜りながら、水木は目を細める。 「また煙草かね?良くないな、水木くん。健康を害してしまうよ」 「冗談のつもりか。お前からすれば好都合だろ、“メトロン星人”」 「はっはっは、その名で呼ぶのは止めてくれたまえ。今は"フォーリナー”だ」 尤も、この場にいる人間は気にもしないだろうがね。 水木と向き合う“怪人”――“フォーリナー”はそう呟き、片手をスッと上げる。 それから少しの間を置いて、男性店員が再びテーブルへと訪ねる。 「紅茶を頼むよ」 「かしこまりました」 フォーリナーは何てこともなしに、店員へと注文する。 それを承った店員は何事もなく頭を下げ、再び去っていく。 ――スキルによる認識阻害か、あるいはNPCに対してのみ“人間への擬態”を行っているのか。 ――ここでの会話も、何故だか周辺に漏れることはない。 その理屈は水木には判然としないが、対するフォーリナーは飄々とした態度のままソファに背中を預けている。 サーヴァント、フォーリナー。 “降臨者”の英霊。人類史の外側、外惑星からやってきた侵略者。 故にこのクラスが当てはめられたという、正真正銘の宇宙人。 それが“葬者”である水木の召喚した従者だった。 宇宙人。その素性に、水木は確かに驚きはした。 しかし同時に、そういった存在を驚くほど順応に受け止めていることに彼自身も気づいていた。 まるで日常の影に潜む“怪異”の存在を、既に知っていたかのように――。 「……フォーリナー。首尾はどうだった」 「“冥界化”の進行を確認したよ。小規模ながら、各地で着実に交戦が始まっているようだ」 フォーリナーの報告を聞きながら、水木は再び煙草を取り出す。 口に咥えた煙草に火を付け、二度の喫煙を行う。 偵察。隠密。諜報。戦闘の目撃――被害。死傷者。 彼が仕事の中で得た情報が、淡々と告げられる。 それはこの街の平穏が、戦禍と隣り合わせであることを意味するものであり。 そして水木という男が、この街で“戦争”に身を置いていることを意味していた。 煙草の味は、微かにでも気晴らしになる。 頭の中を掻き毟るような感覚を、紛らわせてくれる。 過去の体験は、今でも記憶の奥底に爪痕を刻んでいる。 悪夢は続く。悲嘆も、憎悪も、諦念も、命ある限り背負い続ける。 あの死地を生き延びた瞬間から、それは運命付けられてしまった。 あの時とは違う。あの戦いとは様相が違う。 搾取と支配。犠牲と理不尽。その縮図を強いる“軍隊”という構造は、此処には存在しない。 あるのはただ、葬者と英霊という二人一組の主従関係のみ。 たった一つの生還の席と、万物の願いを叶える願望器。 それを巡る闘争が繰り広げられるのが、この聖杯戦争という舞台。 誰が仕組んだ訳でもない。誰が強いた訳でもない。 ただ其処に在り、歯車のように回り続ける“システム”。 それこそが、この聖杯戦争という儀式。 国家の利益と覇権の為に駆り出された“あの戦争”とは、まるで違う。 その上で水木の中で“戦争”に対する躊躇いはあった。 顔も知らぬ他の誰かと争い、命を奪い合う。 忌むべき行為であることに、間違いはなかった。 嫌悪も、拒否感も、胸中に込み上げてきた。 しかし、それでも。 この世界が“そうである”ことを。 今はただ、受け入れざるを得なかった。 脳髄に刻み込まれた知識。情報。 戦わなければならない。 そうしなければ、生き延びる道さえも閉ざされる。 水木の焦燥を煽り、腹を括らせるには、十分だった。 その狭間にて、葛藤と苦悩を背負いながらも。 “生きて帰らねばならない”という一点は、譲れぬ指針として打ち立てられていた。 ――君は戦争を知っている。極限の中で生き抜く現実に触れたのだ。 ――だからこそ、腹を括って受け止める覚悟も飲み込めている。 ――流石だ。頼もしいものだね、水木くん。 以前、フォーリナーから言われたことが脳裏を過ぎる。 拭えぬ悪夢と共に、言い知れぬ不快感が蘇る。 それでも、今は共闘しなければならない。 サーヴァントは、この世界を生き抜くためには不可欠の存在なのだ。 だからこそ、せめて手綱を握らねばならない。 彼がこの聖杯戦争で勝手な真似をしないように、絶えず釘を刺さねばならない。 己にそう言い聞かせながら、水木は内心の感情を割り切る。 「……了解した。引き続き偵察を頼む」 「ああ。君には今後も手を貸すつもりだよ」 複雑な表情を浮かべる水木に対し、フォーリナーはあくまで飄々と答える。 それからほんの少しの間を置いて、彼は再び言葉を続けた。 「人間とは“信頼”の生き物だ。我々も大切にしようではないか」 ――まるで“以前の会話”をからかうような一言に、水木は微かに眉を顰めた。 そのことに対し、文句の一つや二つでも伝えようとしてみたが。 直後に、男性店員が再び顔を覗かせてきた。 手に持った丸盆の上にはソーサーに乗せられた白いカップ。 煎れたての器からは湯気が立っており、香ばしい薫りが漂う。 「お待たせいたしました」 「ありがとう」 店員から差し出された紅茶を、何事もなく手に取るフォーリナー。 その姿はいつの間にか“人間”のものへと変化しており。 慣れた手つきでカップの取手を掴み、優雅に茶を啜っていた。 スーツを纏った中年男性へと擬態した姿で、まるで地球人のように紅茶を嗜む。 ずず――会話は途切れ、茶を飲む音だけが響く。 店内では、相変わらずジャズのサウンドが流れ続ける。 沈黙の中で音色が奏でられ、水木は何も言えずに黙り込む。 やがて諦めたような表情を微かに浮かべて、水木もまたカップを手に取る。 器の中に幾らか残ったコーヒーを、ゆっくりと口の中に運ぶ。 黒く染まった液体は、既にぬるま湯のようになっていた。 夕方の喫茶店。スーツ姿の男二人。 コーヒーと紅茶を嗜み、黙々と時間が流れていく。 この世界では、“戦争”が起こっている。 それはかつて経験したような死地とは違う。 この平穏の陰で、“怪異”は根付いている。 まるで“妖怪”のように、それは日常の影へと潜む。 ◆ みなさん、あなたの周りで不思議なことは起こっていませんか。 ご家族やご近所さんに、何か変わったことはございませんか。 目で見えるものだけを信じてはなりません。 本当のことは、いつだって目に見える世界の裏側にあるのですから。 “人ならざるもの”もまた、日常のすぐ傍にいるのかもしれません。 テレビの前のみなさんも、どうかお気をつけください。 怪異というものは、人の理解を超えた世界にいるのです。 それが妖怪であれ、はたまた宇宙人であれ……。 ◆ 過去の記憶が、フラッシュバックする。 それは、この聖杯戦争が始まったばかりの頃。 水木が己のサーヴァントと交わした遣り取り。 『フォーリナー』 夕焼けの薄明かりが差し込む、アパートの一室。 畳の敷かれた部屋の上で、水木は問いかける。 『ひとつ、聞かせてほしい』 自らのサーヴァントの背中を見つめながら。 水木は、ある疑問を投げかける。 ――脳裏に蘇るのは、硝煙の匂い。 理不尽な命令。理不尽な搾取。理不尽な死。 その狭間で垣間見た、権力と支配の構造。 多くの者が散っていった。多くの命が踏みにじられた。 力ある者は責任を捨て置き、不条理から逃れていった。 戦争。理不尽に始まり、理不尽に終わった、過去の悪夢。 犠牲になるのは、いつだって末端の弱い者達だった。 やがて、極限の死線を生き延びた果て。 帰還した本土。強者は貪り、弱者は虐げられる。 何も変わらない。戦時下も、戦後も、全ては同じ。 軍国の規律は、資本という権威へと形を変えて生き続ける。 かつては、己も力を得ようと出世を求めた。 これ以上、踏み躙られないために。奪われないために。 されど今は、そんな野心も何処かへと消えていた。 醜い社会の構造に組み込まれていくことを、拒絶していた。 もう沢山だった。力に縋る怪物になろうとするのは。 一族の子孫さえも利用した■■を見て、幻想から目が覚めたのだ。 記憶は相変わらず、藪の中に潜み続ける。 水木は既に、己のサーヴァントの過去を“夢”で知っていた。 ――フォーリナーは狡猾な侵略者だった。 彼は言った。“人間を滅ぼすには信頼をなくせばいい”。 故に人間同士の信頼感情を破壊し、地球の自滅を狙った。 彼は社会の規範に、道徳に、目を付けていた。 社会の権威に絶望し、諦めを抱いた水木は、それ故に問いかけた。 弱者を虐げ、■■族さえも虐げ、のさばる人間のことを――。 『お前の目から見て……』 これは遠い遠い未来の話。 誰かが、そんなふうに揶揄をした。 『人間は、信頼し合ってるか?』 フォーリナーは、沈黙していた。 水木に背中を向けて、胡座を掻いて床に腰掛けていた。 彼の視線の先に置かれているのは、一台の小さなテレビ。 映像の中で、アナウンサーが淡々とニュースを読み上げている。 事件。政治。経済。国際情勢――報道が繰り返される。 この日常に根付く混沌を、宇宙人は無言で眺め続けている。 『水木くん』 やがてフォーリナーは、静かに口を開いた。 『君は――』 ニュースを見つめながら、彼は淡々と呟く。 『未来が生きるに値すると、信じたがっているのだね』 それは、水木への答えではなく。 侵略者が抱いた、純粋な感想だった。 されど水木はその一言に、静かに目を見開く。 『水木くん。私はね、地球にそれほど未練はないんだよ。 私は数多の星を侵略したが、最後にこの地球で失敗したのだ。それが全てさ。 聖杯で得られるものがあるなら、求めてみるのも悪くないとは思っているがね。 召喚に応じたこと自体は、率直に言って気まぐれでしかないのさ』 黙々と語り続けるフォーリナー。 その言葉には熱は篭らず、事実のみを客観的に並べているようだった。 『だが、どうやら君は未練に溢れているようだ』 その語り口から翻すように。 フォーリナーは、水木へと言葉を突きつける。 『戦争を生き延び、戦争を背負い――その果てに君は何を見た?』 懐かしい光景が、水木の脳裏をよぎった。 思い出せない。霞が掛かったように、朧げな残像。 されど確かに彼の記憶に、刻み込まれていた。 誰かを背負い続けていた。 走って、走って、必死に駆け抜けて。 誰かを守り抜こうと、息を切らしていた。 二つの命。二つの意思。託された祈り。 ――誰が、願った。 ――誰から、託された? その正体は、今もなお思い出せない。 この世界に招かれるまで、己が何をしていたのか。 そして、何のために走り続けていたのか。 それを掘り起こすことは、未だに叶わない。 それでも、確かに。 この忘却の奥底に、一つの決意が宿り続けていた。 ――生きなければならない。絶対に。 それだけが、実感として残されていた。 貧困も戦争もない、安らかな未来。 幼い誰かに、夢のような話を語った気がした。 そんな世界で生きていく道を、願われたような気がした。 そんな世界に命を繋ぐ役割を、託されたような気がした。 その輪郭は、紛れもなく其処にあるのに。 それでも、その実態を掴むことができない。 まるで“幻惑”の中を彷徨うような感覚だった。 それは、きっと。 誰かに対する“信頼”であり。 誰かに対する“哀しみ”だったのだろう。 【クラス】 フォーリナー 【真名】 メトロン星人@ウルトラセブン 【属性】 混沌・悪 【パラメーター】 筋力:C 耐久:D 敏捷:C 魔力:C+ 幸運:D 宝具:C 【クラススキル】 領域外の生命:A 外惑星からの降臨者、あるいは侵略者。 人類史の外部より現れし“異星人”そのもの。 宇宙より遥々地球へと来訪した逸話から、同ランクの「単独行動」スキルと同等の効果を持つ。 【保有スキル】 気配遮断:A サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動や擬態に適している。 完全に気配を絶てば探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。 ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。 フォーリナーは後述のスキル「変化」と組み合わせることでNPCやマスターへの擬態も可能。 変化:B 人間の姿へと化けて暗躍を繰り返し、最後は“光の巨人”と直接対決した逸話の具現。 自らの肉体を自在に変化させるスキル。 人間の姿へと変化することでNPCに擬態できる他、外見を把握しているならば他の葬者やサーヴァントにも化けることが出来る。 但し相手が持つ特殊能力を再現することはできず、あくまで外見の変装に留まる。 また原典同様、肉体の巨大化による自己強化も可能。 しかし魔力消費の膨大さ故に「サイズは10m前後」「巨大化の維持は連続して数分程度」が限界となっている。 巨大化の最中は自身の筋力・耐久・敏捷がワンランク上昇し、格闘ダメージが向上する。 正気喪失:C 人間の理性を破壊する工作を行った逸話を基にしたスキル。 周囲にいる他者の精神に影響を与え、疑心や不安を顕在化させやすくする。 フォーリナーはこのスキルを応用して他者の認識を阻害し、自らの存在や行動、また密談などを悟られにくくしている。 謀略の影:B フォーリナーは生前、狡猾な策略で数々の惑星を侵略してきた。 策謀・諜報・工作・隠密行動などにおいて、常に優位な判定を取れる。 逃走:C ピンと伸びた姿勢で両腕を大きく振る走法によって、その場から全力で離脱する。 あらゆる能力やバッドステータスを振り切り、一定確率で敵からの完全な逃亡を果たす。 ただし敵の攻撃で大きなダメージを受けた場合など、妨害や判定次第では逃亡に失敗する。 【宝具】 『狙われた街』 ランク:C 種別:対街宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:- レンジ内の対象に『赤い結晶体の魔力』を付与させる。 魔力を付与された者は感情や理性を奪われ、周囲にいる存在を敵とみなして殺傷するようになる。 この宝具で理性を奪われた者は低ランクの神秘を帯び、下級の使い魔のような状態と化す。 葬者に対しても効果を持つが、サーヴァントとの魔力パスの影響で一時的な凶暴化に留まる。 飲食物や煙草などの嗜好品、また薬物など、人間が体内へと摂取するものに魔力を付与させることもできる。 魔力を付与された物質を摂取した者も同様に理性と感情を奪われて凶暴化する。 例えば自販機の飲料に魔力を付与することで、“自販機を利用した者を無差別に凶暴化させる地雷”を生み出すことも可能。 『暁に霞む街』 ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:30 “人間の信頼感を惑わし破壊する幻覚宇宙人”としての伝説が昇華された宝具。 戦闘中に自動発動し、フォーリナーは不可視の電波を周囲に放ち続ける。 この電波を受けた敵は精神へと干渉され、絶えず不信感や疑心暗鬼に襲われることになる。 自らの思考・感情・感覚が常に揺らぐことにより、戦闘時の判断や連携さえも疑念の中で幻惑される。 また心眼や直感、第六感など、当人の“感覚”に起因するスキルを全て無効化する。 効果は戦闘終了と共に解除されるが、精神汚染の影響を強く受け続けることで以後もバッドステータスが続く場合がある。 なおフォーリナー自身が電波の標的から外した者は宝具の効果を受けない。 『茜色に翔ぶ円盤』 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:- 戦闘機大の“空飛ぶ円盤”。 光弾によって対象を攻撃する他、自動操縦による飛行が可能。 また機体を二つに分離してそれぞれ自律行動を行うこともできる。 【人物背景】 「我々は人間が互いに[[ルール]]を守り、信頼し合っていることに目を付けたのだ」 「地球を壊滅させるのに暴力を振るう必要はない。人間同士の信頼感をなくせばよい」 狡猾な策略による地球侵略を狙った宇宙人。通称“幻覚宇宙人”。 煙草に人間の頭脳を狂わせる『赤い結晶体』を混入させ、人間同士の相互不信を招くことで自滅させようと目論んでいた。 最後はウルトラセブンにその目論見を暴かれ、夕焼けの下町にて倒される。 原作での戦闘シーンは少ないが、本企画においては基本的に格闘攻撃で戦う。 また2代目メトロン星人が放ったショック光線のように、両手から魔力を光線として放つことができる。 【サーヴァントとしての願い】 かつては地球侵略を狙っていた。 とはいえ今となっては既に執着も薄れている。 聖杯には関心があるが、召喚に応じたこと自体は単なる気まぐれである。 【マスターへの態度】 好奇心の対象。暫くは協力関係を結ぶつもり。 しかし事の次第によっては自分の思惑を優先するつもりではある。 【マスター】 水木@鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 【マスターとしての願い】 果たさねばならないことが確かにあった。 だから、今はまだ死ねない。生きて帰らねばならない。 【能力・技能】 太平洋戦争に従軍し、そして生き延びた。 また哭倉村で怪異の存在に触れたことから、死霊や妖怪などの怪異に対して鋭い感覚を持つ。 そのため通常の人間よりも魔力や妖力の存在を察知しやすく、尚且つ一定の耐性を持つ。 【人物背景】 昭和31年(1956年)の帝国血液銀行に務めるサラリーマン。 過酷な戦場での理不尽な体験、当時の指導者達が戦後も権力を貪っている不条理により、“弱者は踏み躙られるばかり”と考えて出世を追い求めている。 製薬会社「龍賀製薬」の作り出す“血液製剤”の秘密を探るべく哭倉村へと赴き、龍賀一族を巡る怪異に巻き込まれる。 時間軸は本編ラスト直前、ゲゲ郎の妻を連れて村から脱出した後~救助隊に発見される前。そのため、髪は白く染まっている。 哭倉村での体験は殆ど思い出せなくなっているが、それでも“友との約束”などは朧気ながらも記憶に刻まれている。 彼は自らの記憶の忘却に対する焦燥と不安を抱き、それ故に生きることへの執着を背負っている。 【方針】 まだ迷いや葛藤もある。 それでも、生きて帰ることは絶対に譲れない。 【サーヴァントへの態度】 侵略者という出自故に警戒している。 ただし、サーヴァントがいなければ生き抜けないことも理解している。 可能な限り連携を取るが、危険と判断すれば令呪で縛ることも視野に入れる。