「君たちは新たな道を選択した。」
「過去に貴方がたが否定した存在を、受け入れ、共に生きてゆくと。」
「我々はもう一度、君たちを信じることにする。」
「あの世界に生きるお前達を見守り、愛してゆこう。」
自分達とは違う存在たちが、一言ずつそういうと、その13人の中で一際小さな影・・・泰山王が歩み出る。 彼はこれから元の世界に帰るであろう一行を見渡してから、テトへと歩みより、その手を取った。
「では君にまず、世界を返そう。」
彼がそういうと、ふわりとテトの周りに淡く光を帯びた九つの宝石が浮かび上がる。 それは奪われたテト自身の力だった。いつも側にいた存在たち。 そして宝石が一際強い光を放つと、本来の姿を取り戻す。
「テト様っっ!!!」
「みんなっ!」
宝石へと姿を返られていた召喚獣たちは、元の姿に戻るや否や、嬉しそうにテトに駆け寄る。 テトもそれを嬉々として受け入れ、うっすらと目じりに涙を溜めて、傍らにいた妹を抱き寄せた。 妹のジュニアも帰ってきた家族同然の存在に抱きつき、撫で、喜ぶ。
「おかえり・・・おかえりっ・・・!!」
自分が愛した、奪われた世界が、帰ってきたのだ。やがてジュニアの喜びの声は潤み、泣き声へと変わる。そんな幼い彼女からもう離れまいとするように、みんなが寄り添う。 そうして彼女たちに奪ったものを返した泰山王はそこから離れ、入れ替わるようにして閻魔王が歩み寄る。その手には真っ白な卵があった。 優しい微笑みを浮かべてしゃがみ、彼女たちと目線を合わせた。それに対しテトたちは真剣な顔つきとなり、それに向き合う。
「では次に、君たちが受け入れてゆくとした存在たちを手渡そう。」
「・・・・はい。」
神妙に頷くテトに対し、閻魔王は微笑みを湛えたまま話す。
「最後にもう一度問おう。君たちはこの出来事を通し、世界の理というものに触れた。そしてかつての世界を受け入れ、共に生きてゆく道を選んだ。しかしながらここでの記憶は君たちの記憶には継承されない。それでも、この道を選ぶ?」
「はい。」
力強く、テトは答えた。そして自分を助けに来てくれた人たちと、妹と、己が力を見渡してから答える。
「記憶に留められなくとも、強き想思は魂に刻まれ、幾度巡ろうと受け継がれてゆく。そう教えてくれたのはこの世界で、前の世界で、貴方たちです。それに、みんながいるから。」
「・・・そうか。ふふ、愚問だったかな。ごめんね。」
「いいえ。心配して下さってありがとうございます。」
逆にお礼を言われてしまった閻魔王は、優しいね、と一言だけ漏らし、卵を手渡す。テトの両掌に収まった優しい暖かさを帯びたそれを知らないはずなのに、何故か酷く懐かしい思いに駆られた。
「これが・・・。」
「そうだよ。あちらに帰ったら彼女は数日で孵るはずだ。その時には彼も世界と調和のとれた姿で出てくるだろう。 ・・・この子たちを、よろしくね。」
「・・・確かに、承りました。」
そう言ってテトたちは誓うように深く頭を下げた。それにまた微笑んでから閻魔王が離れ、仲間のもとへ戻っていく。
「そしてこれは、これからを生きる君たちへのプレゼントだ。」
そうして、都市王がテトの後ろを指差した。 それにあわせて一行が後ろを振り返ると、まるで夕焼けに照らされたような長く長く伸びた彼女達の影がある。 その影の終わり、否、テトの影の天辺と言えば良いだろうか。そこから更に伸びる影があった。 ゆらゆらと陽炎のように揺れ、地面に落ちることなく宙に浮いているそれには、ぽっかりと空いた顔がある。 驚きに大きく見開かれたテトの眼から、とうとう涙が零れた。驚いたのは彼女だけではない。その影はもう、失ってしまったはずのものだったのだから。
「・・・・・・あれ?」
一方影のほうは何が起こったのかわからない様子で、間抜けな声を出す。 何も変わらないその様子に、またジュニアの涙が零れ、新しい喜びが彼女らの身体中に溢れる。
「シャドーッ!!!」
「ハイィッ!?」
楔とされた彼の名前を呼んで、テトたちは一斉に駆け寄った。肝心のシャドーはやはり何が起きたか理解できていないようだが、それでも飛び込んできた彼女達を戸惑いながら受け止める。
「え、ええと・・・オレ・・・・。」
どうして消えたはずの自分が今こうして生きているみんなと邂逅してるのだろうか。戸惑いながら自分に駆け寄ってきた仲間達と、主とその妹と、その後ろで見守ってる主の知り合いたちを見やる。
「シャドー。」
「ん?」
「人型になれ。」
「は?」
「いいから。」
「お、おう・・・?」
フラディに声をかけられ、有無を言わさぬその声に、おとなしく黒の短髪青年の姿になる。 するとフラディも同様に人型となると、つかつかと早足で彼に歩み寄り・・・。
バキィッ!!
「ぐぼぉっ!!??」
思いっきり右ストレートで殴られた。しかも顔を。 いきなりのやりとりに他のメンバーはびっくりしてぽかーんとしてるし、何より一番驚いたのはシャドーだった。殴られた勢いでまるでお約束のギャグのように吹き飛んで地面を滑った後、すぐさま身体を起こす。 容赦ない痛みに戸惑いなんてぶっ飛ぶ。いきなり何すんだよ、と怒鳴ろうとした時。
「おかえり。」
フラディはシャドーを殴った右腕を構えたまま、仏頂面でそう言ってきた。 彼なりの照れ隠しの手段なのだと、シャドーは理解している。その相変わらずさに思わず笑いが込み上げてきて、それをかみ殺すようにして。
「・・・ただい、まっ!!」
自分は左ストレートを打ち込んだ。
・・・しかしそれはするりとかわされてまたシャドーがびっくりする番だった。
「何で!?」
「何がだ。」
「何でかわしたの!?ここはメロス的展開じゃなかったの!?」
「いや我は殴られたくないし。」
「いきなり殴られたオレにとっちゃ理不尽っ!!」