過去の面影 [#x6c25249]



「ハンター」
それは、対魔獣戦闘を行えるほどの実力を持つ、
一部のヒトにだけ与えられる特別な称号である。


――マウォルス皇国北部、旧ラダンハイム地区

「・・・・・・今回はここか?」

「うむ、どうやらこの周辺のようだなぁ」

かつて一つの街であったその場所に、黒い法衣に身を包んだ大男と、全てが漆黒のヒトが立っていた。

「・・・出現、したのは?」

「報告によればシツライが1頭のようだな。ここまで近づかれると、増える前に何とかせんといかんからなぁ。ハッハッハ」

魔獣が現れたのは何時からだったか。
戦争中もお構いなく、その猛威は振るわれ、被害を広げていた。
それを止めるため、大陸規模で通用する、「ハンター」が作られた。

「・・・・・・・・・」

「・・・どうした。」

「んん? ああ、何。少しばかり昔を、な」

「・・・・・・お前が物思いするのは、珍しいな・・・」

「ハッハッハ、相変わらず辛辣だなぁ!」

「・・・・・・事実だ・・・お前らしくない」

「ハッハッハ・・・まあ、偶にはそういう時もあるもんだ・・・」

三十年ほど前。
この地は非常に大きな、皇国二番目の規模の都市だった。
高い建物が並び、商業で発達していた街は――


「・・・・・・・・・血の一週間、か・・・」



「・・・うむ。」

――たった一週間のうちに、食いつぶされてしまっていた。

ウルカヌスとの戦争。
魔獣の襲撃。
示し合わせたかのように発生したそれは
大切なものを悉く奪っていった。

「あの一週間で、戦友を失い・・・大切な人たちを失った。まあ、戦争では仕方ないのだがな。」

「・・・・・・魔獣・・・」

「ああ。私達が戦っているときと同時にきたからなぁ。いや、あやつらも上手いものだな、ハッハッハ!」

「・・・・・・・・・」

「ハハハ・・・消えていった彼らの分、私はしっかりせねばならんからなぁ。」

「・・・・・・いいのか?」

「・・・まあ、未練がないといえば嘘にはなるが・・・既に過去さ、どうにもならんよ。」

まぶたを閉じれば、蘇る街並み。
耳を澄ませば今でも、聞こえる喧騒。
遠い過去の思い出に、心中で十字を切る。

「さぁて、物思いはこれくらいにして、仕事といこうかな!」

「・・・・・・ああ・・・」

響く咆哮。
復讐や仇討ちではない。
ただ、護るために、今は力を振るう。
二度と繰り返さぬために。
最終更新:2012年03月27日 20:00