僕の言葉は君達に分かりやすいように翻訳され、伝わることだろう
だから今から僕が話す言葉は表面だけではないことを頭に置いて聞くように
・・・かつて、君たちが生きている『世界』の前に、別な『世界』が存在していた
その『世界』は広大無辺でなにもなかったが、様々な命が存在していた
『僕たち』はその『世界』では特別な存在だった
命では決して持ち得ぬ力を持っていた
限りなく永劫に近い寿命をもち、『世界』を動かす力と理を担っていた
『そんな存在』が命から敬われるようになるのは最早『世界』の必然なのかもしれない
そしてその『存在』はその力を『世界』の為に、命の為に使い始めた
智恵、実り、光、教え…
命が望むものはできる限り何でも与えていった
『彼ら』と命は常に寄り添いあっていた
しかし困ったことが起きた
豊かになったことで、命たちは利便さに慣れ、欲に溺れ始めた
甲に与えれば乙が望み、丙が妬み丁がそれ以上を手に入れる
そして命たちは争い始めた
『彼ら』はすぐに命たちに争いを止めるよう言った
そしたら命たちはこう言った
「ならば我らに貴殿方と同じ力を下さい。何でも出来るその力を。さすれば我らのこの欲は満たされることでしょう」
『彼ら』はその願いを断った
「我らは生まれながらにしてこの力を持ち、しかしお前たちは持っていなかった。これは世界が望んだことであり我らには覆せぬ理である」と
それを信じることが出来なかった命たちはふつふつと怒り始めた
今まで何でもしてきてくれた『彼ら』が、初めて命たちの願いを断ったのだ
『彼ら』と命は常に寄り添いあっていた
それ故に互いを親しい存在と認識していたそれぞれの齟齬が浮き彫りになった瞬間だった
というより、今まで当たり前にあったものを突然奪われたような感じだったのだろうと思う
そんな満たされぬ命たちに囁く存在が出てきた
それはかつて命たちの願いにより退けられた『影』であった
影は命たちに言った
「きゃつらめは力を独占し、世界の主導権を握り、永久にお前たちの上にたつであろう。それはお前たちの自由の束縛を意味する」と
そして命たちは限りない自由と力を求め『影』と手を結び、今度は『彼ら』と争いを始めた
それこそが「影」の目的だったのだ
自分達を奈落へと追いやったすべてのものたちへの復讐
「影」の思惑通り、その戦争でたくさんの命とたくさんの「彼ら」がいなくなった
そして『世界』は心と共にすさみ始め、ゆるりと衰退し、崩壊の音をたて始めた
・・・そうして長い長いときの果てに
終末が訪れた
世界にも限界があったのだ
しかし人はついにそれを理解することもないまま、争いは絶頂期に入っていた
それは最早人に成り代わった影との戦いだった
滅び、崩れ行く世界にすべてを飲み込まれながら『僕達』は最後まで戦い続けた
「・・・・これが、『世界』の終わりだよ。」
牢屋に捕らえられていたジュニアたちの前に現れ、世界の真実ともいえるものを聞かせたのは、都市王と言われる人だった。 その長い話をきいていたジュニアは、質問をする。
「・・・じゃあ、あたし達が今生きている世界は、二つ目の世界?」
「正確には前の世界を基に新たに構築された世界だね。それでも、今の君たちの世界はとても脆くて小さい。・・・前の世界に比べたらだけど。」
「・・・じゃあ、あんた達は、『神様』なの?」
「君たちの世界ではそういうのかもしれない。けれど、その表現は正しくないかもしれない。」
「でも、世界を見守っている役目があるんでしょ?異世界とか、人智とか、そういうものを超克したところに、あんた達はいるじゃない。」
「僕達はね、君たちが呼吸をする術を最初から身につけているように、僕達はこういうことをすべき存在だというのが最初から漠然と理解していたのさ。じゃあそんな僕達を作ったのは誰だと思う? 君たちのいう『神様』というのは万物を創造しうる始まりの存在なんだろう?」
「それは最初の神様が・・・。」
「じゃあその最初の神様は何処から来たの?誰が創ったの?」
そう云われてしまっては質問していたジュニアも、それを見守っていた一行も押し黙るしかなかった。
「・・・そう、僕にもわからないんだ。もしかしたら君達が僕達の存在を知らずにいたように、僕達にもそういった上位的存在がいるのかもしれない。けれどももしそうだった場合、その上位的存在はどこから来たのだろう。その疑問の無限流転が続くだけ。 もし、その無限流転に解をつけるのだとしたら。」
「したら?」
「『世界』だ。」
かしょん、と彼らを閉じ込めていた牢の錠が外れる音がした。 そうして彼らに背を向け、都市王は一言。
「僕がこうして君達を逃がそうと思ったのも、『世界』が望んだからなのかもね。」
そう言って歩き出し、姿を消した。