「やれやれ、最後まで騒がしい連中だったな。」
静寂に包まれたその場で最初に声を発したのは秦広王だった。 もとの世界へ、あるべき姿で帰って行った、自分達の愛する世界の住民達。そんな彼らを、これからもずっと見守ってゆくのだ。 秦広王に同意するように、そうですね、と微笑ったのは祇園王だ。長い袖を優雅に口元によせて。
「なんだか懐かしい気持ちになりましたわ。」
「ほんにほんに。」
同じように団扇を口元によせて優雅に笑うのは五官王だ。彼・・・身なりはどう見ても女だが・・・と同じように、皆、祇園王の言葉に同意する。
「・・・いつか」
その中で、ぽつりと泰山王が呟いた。
「いつかまた、あの時のように、彼らと交流する世界がやってくるのだろうか。」
「・・・どうだろうねぇ。」
それに答えたのは都市王だ。いつもどおりの無表情で泰山王の顔を覗き込んで。
「世界が望めばいつかそういう日がくるかもしれないし、こないかもしれない。でしょ?」
「・・・そうだね。僕達は、その変化を見守り受け入れていけばいい。」
今日の出来事を忘れずにね、と二人は笑いあった。
・・・そんな二人を見守っていた閻魔王が振り返る。
「・・・よく我慢したね。タカムラ。」
閻魔王はそういって、鳥居らしきものの柱の後ろに、ずっと隠れていたタカムラを呼んだ。 それでやっとそこから姿を現したタカムラは仏頂面でいたが、すぐにそれも歪んで、泣き出した。
「・・・まだまだ子供だねぇ。」
そんな彼をみて愛しい苦笑をもらしながら、閻魔王は泣きじゃくるタカムラをそっと抱き寄せた。 あの世界から切り離されて、ここでずっと悠久の宿命に身を委ねてきた彼を、閻魔王は特に可愛がり側で育ててきた。 時が満つるまで、決して互いに会ってはならぬ宿命(さだめ)。それが「彼ら」に架せられた希望と絶望。
それでもタカムラは、大切な人のために奔走した。
「・・・君たちは、本当に強いんだね。」
なんて愛しいんだろう。 この子供がもっと幼かったとき、そう・・・時が満ちるまでこの子を我らがもとで育てると約束したとき、閻魔王はこの子供に愛を注ぐことを誓った。 あの世界の誰からも、もらえない子だから。
「・・・さぁ、戻ろうか。」
閻魔王に撫でられ、ひとしきり泣きじゃくったタカムラが少し落ち着いたのをみると、閻魔王は他の王に振り返ってそういった。 それに頷いた彼らは、一緒くたになってぞろぞろとその場から引き返し始めた。 談笑し、タカムラを慰め、寄り添って。皆、なんだかんだで閻魔王に負けないくらいこの子供が愛しい。 彼らにとってタカムラも、紛れも無いあの世界に属する愛すべき存在であり、自分たちが育てた子供なのだから。
・・・背中をそっと押され、タカムラも歩き出す。 その温もりを感じながら、彼はすべての始まりと、まだ手の届かない大切な人の笑顔を思い出していた。