小説

―レオン長編『賢狼はかく語りき』 〜前約〜 レオン編―

狼と男・1

レオン(…あれだけ頑張ったのに…。 結局…一撃も当てられなかったのは…悔しいなぁ……)

―ヴァールの家へと戻る道を独りとぼとぼとレオンは歩いていた。

「…お疲れさん、レオン。 どうだった、久しぶりにサンクチュアリの人達に会ってきた感想は?」

―レオンの視線の先で、彼の名を呼んだ男を聞き、俄かに彼の顔が微笑んだ。 どうやら顔見知りらしい。 しかし、レオンは直ぐに少し暗い顔をして、男の質問にこう答えた。

レオン「皆…全く変わっていませんでした。 …多分…もう、僕の居場所くらい分かっている筈なのに…誰も来ないんですし…。 あそこで、僕がどうなろうが…きっと、ヴァールさん以外はどうでも良い話なんだと…そう思いたくなります。」 「お前さん…そのヴァールって人には可愛がられているようだな。」 レオン「えぇ……と言っても、耳と尻尾を触られて…反応するのが…面白いってだけですから…。 今の僕そのものが必要であるとも…分かりません。」

―そう、レオンは苦笑した。 自分以外に同じような姿をした人がいるし、 その人も同じように可愛がられているんだろうから…そう、レオンは付け加えた。 するとその男は暫く考えた後、レオンにこう話を切り出した。

「そっか…。 …なぁ、レオン…ちょっとお前さん暫くうちの世界で静かにしてなよ。」 レオン「え…?」 「本当に、『お前自身』が必要かどうか……俺があいつらにちょっと試してやる。」 レオン「…どうやって試すんですか…?」 「それはだな……。」

―と、男はレオンに試す方法を話した。 しかし、レオンは首を傾げてこうその男に返した。

レオン「でも…それだと…すぐにバレません…?」 「どーだかな。 だけど、いくら努力して強くなって、あいつらに自分の力を認められない上に、 本来のお前の性格に気に入らないって思われているんだろ?」

―どうやら男には、バレない自信があるようだ。 

「お前自身が変われ…って言われても、あの時のショックはあまりに大きすぎるが故に、そう簡単には変われないんだろう…? 俺にはその気持ちは分かる。 …第一、何度かそうなりかけたからな。 そのたびに、ジラルドやパラケルスなんかに助けてもらった。 …ヴァジュラ・アナストラ夫妻にも一度助けてもらったっけな…。 だから、皆を俺は信じたいって思ってる。 …ただまぁ、魔王夫妻は甘いからな…だから、俺は汚い役を自ら演じてるってだけさ。」 レオン「そんな…あなたはそれで良いんですか?」

―レオンが彼の事を心配した。 しかし、男はふっと笑ってから、空を見上げて、レオンに答えた。

「良いんだよ。 俺は俺の世界だけじゃなく、エグゼナも護りたいんだ。 良い奴らばっかりだからな…。」 レオン「………。」 「…また同じ事になった時に、お前を死なせたくねぇ。 だから…あいつらに教えてやるんだ。 『所詮…お前達が必要としているのはレオンじゃねぇ…とな。』」

―男の目はしっかりとレオンを見つめて、そうはっきりとレオンに言うと、彼は戸惑った顔をしつつもこう答えた。

レオン「僕じゃ…ない…?」 「あぁ…きっとそうだろうよ。 …レオン、これから起きる事は…お前の心に深い傷を負わせてしまうかもしれない…。 だけど…俺と…エグゼナの仲間達だけは信じてくれ。 …俺達は、お前じゃなきゃいけないんだとな。」 レオン「分かっています…僕の悩みを…真摯に聞いてくれたのは…今でも感謝しきれないくらいですから…。」

―レオンがそう答えると、男はありがとうと言い、彼の頭を優しく撫でた。

「だからレオン…お前は自分らしく生きるんだ。 シャドウやゼオフィクス、最近じゃブラッドだって…お前の実力を認めてくれてたじゃないか。 サンクチュアリじゃなくても、お前の居場所はあるんだぜ?」 レオン「でも…それも、ごく一部の話だから…耳と尻尾が隠せない僕は……まだ半人前なんだから…。」 「実力はもう軽く1.5人前くらいは行ってると思うんだけどなー。 よし…んじゃまぁ、今日のところはうちに寄りな。 『今は』お前さんが気に入っているヴァールって人の話も、お前さんから直に聞いてみたいしな〜♪」 レオン「え…? あ、は…はい…分かりました…。」

―男が興味のある話題に対して、レオンは少し顔を赤くした。 すると男は首を傾げてこう尋ねた。

「およ…なんか聞いちゃいけない様な内容だったかな?」 レオン「い…いえ…そういうわけでは…。 とっ、とにかく行きましょう…?」

―顔を俄かに赤くするレオンに押され、男はレオンと共にその場を去っていった。

そして数日後、サンクチュアリで、昔の様に性格も明るく、人懐っこいいつものレオンが、戦場で見かけるようになったそうだ。

最終更新:2012年03月27日 18:54