とある昼の一時 [#eb6a4054]
「クリーマさんにメッセージのお届けですよぉーっと!」
スパティウムの一角の家に、一つの影が――
キキーーーーッ・・・
ドォン!;
――突っ込んだ。
「ん〜、また壊してしまいましたね。失敗失敗」
「毎度毎度のことですが、どうにかなりませんこと?」
「竜車と馬車と速達は急に止まれないのが信条なもので。」
「相変わらず調子のいいこと・・・。まあ、いいですわ。」
「心が広くて助かりますねぇ。はい、ご伝聞です。」
「ありがとう、確かに受け取りましたわ。」
いつもどおりのやり取り。
いつもどおりの手紙。
「お茶でもどうかしら?」
「あぁ、いいですねぇ。偶にはゆっくりするのも」
いつもどおりじゃない返答。
「あら。珍しいのね、貴方がゆっくりされるなんて。」
「まあ、そういうときもあっていいじゃないですか。」
「そう。なら、少々お待ちになって。」
どっかりとソファーに足を組む。
いつもは見なかった光景。
背中を向けてはいるが、非常に気になる。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
沈黙が包む。
湯を沸かす火の音と、茶器のこすれる音だけが会話していた。
「・・・あの子は頑張っていますか?」
「えっ?・・・ええ、今日も一人で世話をしていますわ。」
「あの子が来てからもう20年経ちますねぇ」
「そんなに経っていませんわ。私はともかく、貴方もお生まれになっていませんでしょう?」
「あぁ、これは失礼。でも結構経ってますよね?」
「そうね・・・もう、6年くらいかしら・・・」
万物と言葉を交わす少年。
6年前、彼を襲った惨劇。
心も裂かれ、全てを恐れていた少年が、今では大きく変わったのだ。
「・・・貴方と会ったのも、それぐらいの頃だったかしら?」
「あぁ、そういえばそうでしたっけねぇ」
「呆れた・・・竜の群れに突っ込んで襲われていたのは何処の何方だったかしら?」
「さぁ、何方でしたでしょうか?」
「都合のいいこと・・・。まあ、いいわ。」
かちゃかちゃと茶器が音を奏でる。
こういう珍しい日は、いい茶葉を振舞ってもいいかもしれない。
最終更新:2012年03月27日 18:58