とある野営の一夜
突然ですが野宿をすることになりました。
空は既に深く沈み、満天の星の海原には三日月の船が静かに浮かんでいる。
地上では赤い星がユラユラ揺らめき、パチパチとはじけて声を上げている。
星の周りでは幾つもの影が横になり、あるものは寄り添い、またあるものは寝癖の悪さに潰されながらも眠っている。
その中心では二つの影が向かい合うように座っていた。
一つの影は全ての髪を後頭部へ流し。
もう一つの影は黒い法衣に銀の髪をこぼしていた。
「こうして火をはさんで向かい合うのは何年ぶりだろうかな。」
「ふふ、本当に・・・久しぶりですね・・・」
パチパチと木が弾ける。
それ以外に音はなく、沈黙が辺りを包む。
「・・・・・・フフ・・・」
「? どうした?」
「いえ・・・貴方に初めてあった時も、こうして焚き火をはさんでいたなぁと思い出しまして」
「ああ・・・懐かしいな。あれからもう10年近く経つか・・・。」
「ええ・・・。私は仕事ばかりの特殊戦闘員で・・・」
「俺は、まだフリーの傭兵だった頃だな・・・。」
「ふふふ・・・あの頃は二人とも、仕事熱心でしたね」
「良く言えば、そうなるがな。今だから言うが、いけ好かない奴だと思ったな」
「あら、それをあなたが言いますか?あの時は今以上に無愛想でしたのに」
「言うな・・・自覚はある・・・」
「ふふふ・・・」
燃える薪を動かす。
崩れる薪、舞う火花、弾ける木々の音が響き、闇へと溶けていく。
「あれからも、何度か一緒に戦ったな」
「ええ・・・」
「・・・・・・」
「・・・いつからか・・・」
「む?」
「いつからか私は、あなたに会うのが、楽しみになっていました。」
「・・・フッ」
「む、何故笑うのでしょうかそこで?」
「いや、何でもない」
「もう・・・」
些細な関わりだった。
十もあるかないかの、僅かな出会い。
それでも、鮮明に残っているあのときの記憶。
やがて戦いの場は離れ、会う機会もなくなり。
次に会ったときは―――
「気がつけば、互いに大きく変わっていたな・・・」
「ええ・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
思わず、沈黙が二人を包む。
それは互いに承諾し、内に秘めた、過去の思い。
「・・・あれで・・・」
「・・・?」
「あれで、よかったん・・・だよな」
「・・・ええ。あれで・・・よかったのです」
「そうか・・・そうだな」
パチパチと薪のはぜる音が小さくなっていく。
時の進みを知らせるそれに、再び薪をくべる。
「・・・先に寝ておけ。次の当番は俺が起こしておく」
「ええ、お願いしますね。それじゃあ、お休みなさいませ・・・」
「ああ、おやすみ・・・」
しかし、それでも何時かは月は地の果てにその身を落とし、再び日の光が空を染めていく。
なんてことないたった一晩の、なんてことない対話は、日々の記憶の中へと音も立てずに埋もれていく。
最終更新:2012年03月29日 02:38