保釈嘆願書(山崎弁護士代作勝目弁護士取次) 傷害被告人 大杉栄 右者拘禁中に有之、願人は其事の理否曲直を更に知り不申候が、願人は曩に警視庁後援の下に被告を家宅侵入として告発し、首尾よく検事局送りと相也し候も、何故か直ちに釈放と相成候故、願人は被告と協定し今月中に被告現住の願人所有家屋明渡を受くる事と相成茲に初めて漸く安堵仕り候。 然るに天なる哉命なる哉、被告は又々拘禁の身と相成り願人の喜びも束の間、警視庁折角の厚意は却て贔負の引倒と相成誠に憤慨に堪へず候。 就ては何卒願人に御同情早速被告を御釈放被下、明渡実行の上如何様にも御処分被下度及嘆願候。 大正八年八月一日 願人 室田景辰 東京区裁判所 御中 <山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>