白夜の匡(イルミナ)における支配種。
既存の生命体系から逸脱した未知の生命体。
超高濃度の龍血環境下に適応した彼等は、龍血濃度(漿値)に応じてその肉体強度を変化させる特異な性質をもつ。漿値が1以下の濾過結界内では殆どの種が虚弱死してしまうが、漿値が500を超えた段階で常人には手に負えない程の脅威と化す。
また、強靭な肉体構造と獰猛な性質に加え、一部の個体は『血統(ボックス)』と酷似した現象を扱うのも大きな特徴である。
この世界における人類の天敵であり、現状で判明している最優先の行動原理は「人間を襲う」ことである。
その目的は生命維持の為の捕食であるとの見方が強いが、過去には一度の食饌としては過剰な数の人間を害う事例も存在し、種全体の習性として纏めてしまえるほど研究が進んでいないというのが実態。
また、その原理は未解明であるものの、夜行は総じて人類を感知することに特化しているという特徴を持つ。ここで重要なのは、源流の濃霧が広がるこの大地において、人類は夜行を感知し難いが、夜行からは人類を容易に察知し得るという事実である。夜行による被害はその急襲によるものが非常に多くを占める。
その外観には哺乳類から魚類、絶滅種から幻想の類まで、人類史に語られてきた汎ゆる"生命の概念"が持つ特徴が個体毎の配合で無秩序に共存しており、中には歯車や配線等の最早生命ですらない要素を含む無機物性の個体も存在する。
既存の生命の系統樹の何れにも該当しないどころか、一頭一頭が単独種とされるなど、旧来の学術では到底理解の及ばぬ存在であり、現在においてはまともな分類法すら確立されていない。
現在最も主流な分類として、《淵越の釣舟(ヴェルーリヤ)》によって各檻(ケース)に伝来した区分法である『#5_危機等級』が広く用いられている。
〈特性〉
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夜行(ヤコウ)の生態は未だ未解明な部分が多いものの、現在判明している特徴も幾つか存在する。その一つが生息分布である。
基本的にヤコウの分布は檻(ケース)の周辺、或いは漿値の大きい領域のいずれかに集中しており、それ以外の地帯に分布するヤコウは縄張りの争奪から逃れた、比較的脅威の低い種が多い。
檻(ケース)付近に分布するヤコウは漿値の関係上、対処が容易な程度のものが多いが、檻(ケース)から不定期に出てくる獲物、すなわち人類種を隠れて襲う程度には狡知に富んでいるため、油断は禁物とされている。
また、漿値が大きい領域に棲むヤコウに関しては何故漿値が大きい領域に棲むかは不明であるものの、漿値が大きい領域であればあるほど強大なヤコウであることが多い。現在最も有力な説では、龍血はヤコウにとっての栄養源、或いはヤコウの肉体強度を向上させる効能を備えていると考えられている。尤も、通常の生活を送る分には後者のヤコウは縁がない存在ではあるが。
また、その他に判明している事実としては、龍血に対する適合性が存在する。ヤコウの生体組織は総じて龍血による光臨に対して耐性を有しており、無害化に成功している他、体内に存在する心臓部は一種の『龍血駆動器官』とも言える独自の発達性を有しており、これらがヤコウが血統に似た権能の行使を可能としている所以との学説が存在する。
なお、繁殖行為等については凡例生命と同様に行うものと考えられているが、人類の監視下でそうした行為を観測する試みは尽く失敗しているため、確証は未だ得られていない。また、無機物性のヤコウがどのように繁殖行動を行うのか等といった疑問を筆頭として、多くの謎が残されたままである。
ちなみに、夜行は同種同士で群れを成すことはあっても別種同士で群れを成すことは少ない。基本的に別種同士は縄張り意識の関係でお互いを牽制する関係を構築する。ただし直接的な敵対行為は行わず、夜行同士の戦闘の観測例は存在しない。
〈残留物〉
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夜行の特徴の一つに、その揮発性がある。
生命活動を停止したヤコウの死体は絶命から数分かけて
揮発
していき、最終的には肉体の殆どが消滅してしまう。このため、ヤコウの死体に適切な加工・保存処理を行わなかった場合、ヤコウの討伐から得られる残留物は限りなく少量に限られてしまう。なお、こうした加工・保存処理技術は基本的に各檻(ケース)の統治組織の名のもとに秘匿されているため、一般には流布していない。代表的な加工処理の例としては揮発・気化したヤコウを特殊な炉で錬成する蒸霧領ダヴェドの[ヤコウ還元炉]が、保存処理の例としては淵越の釣舟(ヴェルーリヤ)の秘匿技術である揮発防止処理が挙げられる。
中でもヤコウの死体は龍血による光臨の影響を受けないため、白夜の匡を探索する際の装備の素材として非常に重宝されている。
〈体内構造〉
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夜行の体内構造は既存生命のそれとは隔絶しており、完全に系統が異なる構造を保持している。臓器の配列は高度な独自性を保有しており、体内には複雑怪奇な循環系を持つことが多い。
また、構成物質は総じて檻の内部には存在しない未知の物質であり、夜行の生命活動が停止すると揮発する性質を保有している他、超高性能の龍血に完全な適合を示す。
中でも特徴的な構造は、人体で言うところの心臓にあたる臓器である。この臓器は夜行の種類を問わず必ず存在しており、『核』と呼称されることが多い。龍血駆動機能、すなわち血統や邂化と同等の効能を発揮するこの器官は、人類の保有する臓器である『鴻臓(アビス』との類似性が指摘されているが、そのメカニズムは真逆と言っても良い。
『鴻臓(アビス』が龍血の濾過・精錬を行う器官であるのに対して、こちらは龍血の凝縮・励起を行う器官である。凝縮された龍血は人類種の体内龍血を凌駕する性能を発揮し、結果として夜行が行使する権能(血統に酷似する)は人類種の操る血統を凌駕することが多い。この臓器の位置・規模は夜行によって様々だが、総じて深い紺碧の色相を持つ。
なお、その他の臓器としては消化器系・呼吸器系等の臓器が存在している模様だが、基本的に個体によって存在したり存在しなかったりと統一性がない。厳密には『核』の他にもう一つ、『洞』と呼ばれる黒色の臓器が全ての夜行に共通して発見されているが、その臓器の機能は不明である。捕獲した夜行に対して行われた実験では、この『洞』を破壊しても夜行に大きな変化は見られなかった。
最終更新:2025年04月24日 17:17