龍血




龍血、それは『白夜の匡』を支配する異常因子。
接触した万物を不可逆的に変質させる性質を持つ猛毒にして、 龍血消費文明 である現代文明の根幹を成す動力源。
石油・電力といった他動力を遥かに凌ぐエネルギー効率を誇る龍血は、既に人類にとって必要不可欠な資源と言っても過言ではない。
実際、一部の檻を除き、殆どの人間の生活は龍血によって駆動する龍血機器に大きく依存している。インフラは当然、檻を成立させる濾過結界すら龍血によって動いているのが現状だ。
未だその性質や構造については未解明の要素も数多く、殆ど未知のブラックボックスであるにも関わらず。

一方で、龍血は生物学的にも人類にとって必要不可欠な存在である。『鴻臓(アビス)』の存在が何よりそれを証明している。
この臓器は大気中の猛毒の龍血『源流』を濾過・精錬し、人類の体内を循環する『通過エーテル』を精製する役目を持つ。
では、この『通過エーテル』を人体から取り除くとどうなるのか?
結論。通過エーテルが尽きた時点で『鴻臓壊死』と呼ばれる暴走を引き起こし、最終的に死に至る。
軽度の消耗であれば回復の余地は存在するが、完全に通過エーテルが枯渇した状態から生還した例は存在しない。
唯一の例外としてスピラーレの『礼賛公授』が挙げられるが、たとえ『礼賛公授』を受けたとしても龍血の存在しない環境下に人類は耐えられない。微小量の大気中の龍血を『鴻臓(アビス)』で濾過し、エネルギーを得るというシステムが人類生存の前提条件として存在するからである。

この様に、人類と龍血は切っても切れない関係にある。故にこそ、我々の先祖は龍血の効率的な利用方法を模索し、龍血を前提とした消費文明を構築するに至った。
同時に、ヒトの身で龍血を支配する手段すらも。





《龍血運用》
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ヒトとその他の動物とを決定的に分かつ要素は何か?と問われて思い浮かぶのは何だろうか。火の発明、二足歩行、文化性。そのいずれでもない。
『鴻臓』の存在?論外だ。昆虫ですら『鴻臓』に似た器官は保有している。そうでなければ、大気中に微小に含まれた龍血には耐えられない。
答えは 支配
龍血の支配 こそが、人類を人類たらしめる決定的な要因である、というのが現代における通説だ。
奇しくも我々と同様に、そして全く異なる手法で龍血を統べた『夜行』────我々の天敵と共通した要素。
正確には 龍血の支配 に加えて 高度に発達した知性 が条件として付随するため、夜行が人類としてカウントされることは無いが。

では、龍血の支配とは具体的に如何なる定義が為されているのか、と言えば、実は十一の檻が開通した二十年前に確立されたばかりである。
定義したのは《淵越の釣舟(ヴェルーリヤ)》の機鋼挺(クエラ)のとある先代長官。各檻に散逸された龍血運用を統合し、一つの区分として完成させた龍血研究の先駆者。
前提として 龍血の支配 、すなわち龍血運用は総数五からなる異なるアプローチに大別される。
一つ、邂化。
二つ、凝血。
三つ、血統。
四つ、纏イ。
そして第五式、██。

現行人類は総じてこれらの龍血運用の少なくとも一つ以上に適正を保有しており、完全な形で行使することは適わずとも、体内の通過エーテルに意識を向けることでそれを操作することができる。
それは例えば、身近な龍血駆動の家電に『通過エーテル』を注ぐことで起動させたりだったり。或いは上述した五つの手法を駆使して戦闘を行うような、人類種としての特権。
────龍血を支配できない人類は存在しない。
────それが如何に優れた知性を持とうとも。
この定義には未だ根強い反対意見や、「人類種の可能性を狭める愚かな定義だ」という声も数多く存在するが、実際、この例から'先天的に'漏れた事例は確認されてはいない。同様に、人類以外にこの定義に合致する生物も。
今は、まだ。





○邂化(オルタネート)
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第一式。
『凝血』および『血統』の発動にはこの『邂化』が前提プロセスとして存在しており、『邂化』を経由しない場合の第二・第三式の出力は一割を切るとされる。
言わば大半の龍血運用の前提となる 起動技術
機械の電源を入れる動作、とも喩えられる。
この『白夜の匡(イルミナ)』において強者と弱者を明確に区分する境界があるとすれば、まず間違いなくここだろう。

体内龍血の起動。
体内を巡廻させることで龍血を練り上げ、術式に焚べる燃料としての"質"を瞬間的に上騰させる精錬技術。

身体の各組織に龍血を巡らせるという性質上、膨大なエネルギーの結晶たるそれに過剰に晒されることで副次的な運動機能の上昇補正を受けることが出来る。
────というか、そちらがメイン。
最終的な補正の効果程度は術者の練度に依存するが、高い練度で行使される『邂化』は驚異の一言に尽きる。
筋力・耐久性の向上をはじめ、高い自然治癒力の獲得。
反射神経の飛躍や、視力の向上。
常に体内龍血を失い続けるため持続力こそないが、その消耗も『凝血反応』や『血統』に比べれば微々たるもの。
手軽な近接戦闘能力として汎く扱われている、非常にオーソドックスな手法である。

『邂化』の習得自体はそこまで難しくはない。
無論それなりの努力と理解は求められるが、他の運用方式に比べ、習得において才能の占める割合は格段に小さい。
然るべき訓練さえ積めば誰でも弱々しい邂化は習得できる、とさえ言われるほど、邂化は基本的な技能だ。
先述した人類を定義する上での主要要素でもある。

しかし想像の通り、『邂化』は練度が全てだ。
"龍血を練る"動作そのものを鍛えることで、無論限度はあるが、運動機能の上昇補正は飛躍的に向上する。練度の差が開けば、その補正の差は天と地ほどにまで広がる。
更に、練度に応じて出力・変換効率の上昇が齎されるのも大きな特徴である。これは通過エーテルという限られたリソースで如何に戦うか、を重視されるこの世界において圧倒的なアドバンテージとなる。
尤も、それは全ての人間に共通する大前提であり、故に限られた強者同士の間で練度に大差が生まれることはそうそうない。
一部の例外、『邂化』に特化した天才を除いて。





○凝血反応
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第二式。
第一式を前提とした拡張運用。
通過エーテルを第一式で精錬した後、体外に放出して自在に操作する高等技術。第一式を失敗する人間は少ないが、第二式は類稀なる集中力と空間把握能力が求められる 技巧 だ。
その発展性は多岐に渡る。
凝縮した龍血による砲撃をはじめ、障壁の展開、簡易的な武装の構築などが代表例として挙げられる。
第二式の有無によって、戦闘面での創造性が大きく拡張されると言われるのはこのためだ。
臨機応変な対応に優れている。
利便性と拡張性が桁違いに高い。
限られたリソースを消耗してもなお、有り余るほどに。
戦いを彩る、血と血が飛び交う独創の世界。

こんな謳い文句がある。
第一式は強弱を隔てる。
第二式は優劣を隔てる。
第三式は勝敗を隔て、
第四式は生死を隔てる。

第二式で上回れば、相手より優れていることの証左となる。そう言われるほどに、第二式によって戦いを 操る ことは、人々の瞳に強く焼き付く。無論、勝負の相手にすらも。

第二式には天賦の才能が必要とされるが、実際には鍛錬がものを言う側面も存在する。例えば体外で固形化した龍血の強度は、第二式を使い慣れた人間ほど強いというデータが存在する。
無論、個人の体内龍血の性質に応じてポテンシャルは変動するため、才能が占める割合は大きいものの、第三式・第五式ほどではない。

第二式には幾つか更なる発展技術が存在する。
その代表例が『形状融解(リリース)』だ。
外に放出した龍血を回収して自身の体内に回帰させる、超の付くほどの高等技術。完全なる才能の領域。
源流で満ちたイルミナでこれを行えば即座に全身が光臨するが、檻の内部であれば話は別だ。限られたリソースを失うことなく、ほぼ無尽蔵に『凝血反応』を行使することができる。
リソースが限られている側からすれば反則級の技術。
ただしこの『形状融解』は体外で凝血が他の物質と混ざってしまうと回収が困難となるため、「相手の凝血に自分の龍血を混ぜ合わせる」ことで回収を阻止するという対策が確立されている。
まあ、その対策をも上回る外れ値も存在するので、完全な対策は実質的に不可能と言ってもいいのだが。
なお、『形状融解』を更に発展させた外法として『人為光臨』が存在するが、《淵越の釣舟(ヴェルーリヤ)》では当該秘匿技術の詳細までは特定出来ていないため、ここでは割愛する。

ちなみにその他の発展技術として、『凝血反応』による固体化を永続させる特殊技法や、『凝血反応』を遥か遠方まで届かせる応用技術などが存在する。
また、技法ではないものの、光臨分類五番『融液』による凝血自体の性質変化による影響なども顕著であり、総じて個人の特色が色濃く反映されるのが第二式であると言える。






◯纏イ
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第四式。
特殊な立ち位置にある第五式を除き、唯一第一式の発動に依存しない運用。
その概要は「体内龍血を周囲へ拡散し、防護膜として運用する」高等技術。
もう少し定義的な表現をすれば「自身という肉体(フィルター)を経由する龍血の外部出力」、だろうか。

発動時、所謂オーラのような様相を取り、多くの場合は淡い緋色の"もや"として視認される。
また、熟達者のそれであったり、他にも瞬間的な感情の昂りがあった際、「その者の固有のイメージ」がヴィジュアルとして錯覚される現象も確認されている。

第四式こと『イルミナでの生死を隔てる』"壁"について、謳われる所以はそれが「外部の龍血を受け流す」ことを望まれて確立された技術である点に全て詰まっている。
龍血という膨大量の情報に対し、「体表を基準とした周辺領域を自身の生命情報の超高濃度体で染上げる行為」とも言い換えられる纏イは、その影響を尽く希釈する。空間のメモリを先んじて圧迫することで後発のデータが存在出来る余地そのものを無くす、といったイメージ。  

複雑に言うが、即ちそれは対龍血において最も実用的な防衛の一つであり、そして極端に限られる『光臨の回避』を実現する手法であると認識しておけば良い。
加えて言えば、その中でも『人為光臨』や『夜の王(アルドロメール)』などの特化的かつ代償的な手段と比較して、『纏イ』は現代最も身近なアプローチであることを最大の特徴としている。
特別な儀式や喪失を一切必要としない、身一つとセンスだけで成立するシンプルさ。今日のイルミナ情勢を象徴する戦争である『需渦(ジュカイ)』において最も普及する潜行手段がこれを基にした『憂舵(ウダ)』であることからもその簡易性は窺える。
ただし、求められる才幹はそれこそ「特別」と称すべきであるほどの深さとなる。
「自己概念の拡張」或いは「自他境界の改竄」とも称される第四式は、ともすれば第二式を上回るほどの 感覚 の領域だ。
尤も、成功率に多大な難が介在する他の手段と比べ、希少性という点で大差はないが。


「才」という名の具体的な要求環境について、よく「"外"に体内をイメージできるか」といった喩えが用いられる。
というのも、周辺に自身龍血を循環させ一定の流れを保つという行為は、一見容易なようで第一式を経ずにそれを試みようとすると、それこそ想像以上に至難であることが理解できる。
これは邂化(強化)状態か否かで脳が扱える情報量に大きな差が生まれるためであり、後者の場合、纏イを展開・維持するのに要する情報は人の身にはあまりに膨大に過ぎるのだ。
邂化を経由すればこの限りでもなく、扱える人間はそれなりに増えるのだが、そこは第四式を戦闘手段と捉えるか潜行手段と捉えるかの違いにもなってくる。 

そもそも第四式にも微量ながら消費は発生し、一般に位相が深くなるほど龍血の消費は激しくなる。
自然回復量と釣り合う檻内部や低位相から深度が上昇するにつれ展開が揺らぎ、些細なきっかけで崩壊してしまうほどに脆くなってゆく中で、邂化を併用するとなるとその消費量は正しく致命的。
後述するように戦闘時においても第四式の利点は幾つか存在するが、少なくともそれらは「イルミナでの生死を隔てない」、副次要素に過ぎない。

その「利点」とやらだが、前記した『対龍血の防衛膜』は筆頭と呼べるだろう。
血統を始めとした汎ゆる龍血干渉を減衰させ、仮に隔絶的な実力差があれば無効化さえする。或いは物理的(非龍血的)な干渉についても、取るに足りない飛び道具などの規模までは強引に焼切ることが可能。
その他にも、高密度の『纏イ』を展開する派生技術や、『纏イ』を瞬間的に広域に展開する("飛ばす"ニュアンス)ことで龍血的な反響定位を行ったりと、単なる戦術としても有用とされている。

また、別記すべき事項として『夜行第八號』が及ぼす『イルミナ全土の電磁気異常』への対策となり得る側面がある。
言わずと知れたイルミナ下で電磁機器の使用が封じられる状況の元凶。当然の話をするが、この異常現象も元を辿れば龍血干渉である。
特にこの異常はイルミナという全体を包括することに傾注しており細部の掌握には至らないという点も相まって、第四式の稼働中、あくまで個人規模であるが上記の制限を免れることが可能である。
ただし、劣化版の『憂舵』ではこれらの副次効果を受けることはできないことには注意が必要。あくまでも『憂舵』は龍血防護の手段であり、その枠組を出ない。
最終更新:2025年04月24日 17:22
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