『
白夜の匡』の探索の歴史は長い。
一度は檻の中に幽閉されていた人類も、今日では
位相深度4の最奥にすらその
開拓
の手を伸ばすに至った。
しかし、『白夜の匡』には未だ手付かずの領域が存在する。
延々と続く大地の果て、龍血の絶海。
彼方に屹立する『崩壊』の爆心地、『塔』。
極北に存在するとされる亜空の『黒点』。
しかし、未だ到達すら困難とされるそれらに比べ、遥かに身近にある禁域が一つ存在する。
即ち『白夜の匡』の上空。
天蓋を覆う『剥離限界』である。
〈概要〉
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『白夜の匡(イルミナ)』における上空は禁域である。
その理由は単純で、大気中の龍血『源流』は高度を上げれば上げるほどその濃度を上昇させるからだ。
過去に《淵越の釣舟(ヴェルーリヤ)》主導の実験として、漿値を計測する位相深度計(レベルガイド)を上空に打ち上げ、その数値の上昇率を測定する観測実験が実施されたことがある。
結果から言えば、上空1kmを超えた数秒後に位相深度計は使い物にならなくなった。急激な光臨によって内部から構造が破壊、観測不可能となったためである。
現在では、上空200mを超えた時点で地表の位相深度+1相当、上空400mで+2相当、上空800mで位相深度+3相当の龍血濃度となることが数々の実験の結果として知られている。
例を挙げると、位相深度4における上空200mの龍血濃度は位相深度5に相当する致死領域であると考えられる。
また、上空1km以上は龍血濃度の上昇率が800m以下とは比較にならないほど急激に上昇することが判明しており、上空1kmを超えた時点で人類の生存は
如何なる既知の手段
を用いても絶望的との見解が得られている。
超高濃度
と呼称してもなお余りある極限環境において、あらゆる既存の龍血現象は掻き消されてしまうことだろう。それはすなわち、血統の失効を指す。
こうした高濃度の龍血の霧が空を覆っている関係上、常識的に考えれば『白夜の匡』は暗闇に覆われている筈である。
しかしそうした予測とは裏腹に、『白夜の匡』の空は常に白夜状態、すなわち太陽光に匹敵するだけの灰の淡光を大地に降り注がせている。
この現象については未だ原理が未解明であり、上空の探索はその超高濃度の源流によって妨げられているため、研究が進んでいないのが現状である。そのため、更なる技術開発と上空の探査が切望されている。
〈補記:天候〉
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濾過結界の内部では完全に管理された天候システムが運用されているが、『白夜の匡』においては源流の影響のせいか通常の天候事象は発生しない。
ただし『白夜の匡』上空には雲のようなシルエットが確認されており、通常の雲と同様に浮遊・移動を行っている。また、見かけ上では2km程度を雲低としていることが判明している。
稀にこの雲は檻の上空を覆うことも存在するが、濾過結界内に侵入した事例は存在しない。そのため基本的に無害とされている。
ただし『白夜の匡』における
雨
は死の象徴であることに注意が必要。詳細は #2 位相深度 を参照。『龍雨』を発生させるのは特定の雲(積乱雲の様な形状)に限定されるため、雲の形状の観測は『白夜の匡』の探索において時に生死を左右する。
[以下、回析課にのみ情報開示]
近年の実験により、上空で
雷鳴
に酷似した音が新たに観測された。観測地点は凡そ地上から2kmほど。この観測結果から、『白夜の匡』を照らす淡光の正体が上空5km以上の領域で発生している
龍血のプラズマ化
による発光であるとの仮説が提唱された。
未だ確証を掴むことはできていないが、龍血の性質解明に繋がる可能性があるとして注目されている。
追記:全ての実験は凍結されました。『死孵濫觴(オブリビオン)』に関する一切の情報は規制されています。
最終更新:2025年04月24日 17:28