ブレインに憧れて

真っ青な空の下の河川敷で、一人の少年が寝そべりながらカセットを聴いている。
そこへ彼の母が近づいてきた。
「貴史、トラック来たから手伝ってちょうだい!」
貴史はラジカセの電源を切って母の方へ走っていった。

「旦那!この荷物はどこへ?」引越しセンターの男が貴史の父に問いかける。
「じゃぁ、悪いが2階に運んどいてくれ」
「はいよっ!」荷物を運んでいる男は貴史の存在に気づき、声をかけた。
「兄ちゃん、ブレイン好きなのか?」荷物のダンボールからはみ出ているポスターを見て聞いた。
「ええ、まあ・・・。」シャイな貴史はこれだけしか言えなかった。
引越しセンターの男はニヤリと貴史に微笑み、いそいそと荷物を持っていった。
ブレイン・・・、つい最近衝撃的なデビューを果たしたロックバンドだ、彼らに憧れバンドを始める少年も大勢いた。
貴史もブレインのファンだった、しかし彼は今までサッカーに夢中になっていて、音楽のことに関してはなんの知識もなかった。
だから彼は愛用している小さなラジカセでブレインの曲を聴く程度だった。

「ふぅ~、やっと引越しが終わったわね。」夜も更け、荷物を全て運び終わった村上家は一息ついていた。
「貴史、明日から新しい学校だな、友達できるといいな」
父の言葉に貴史は何も返さず、自分の部屋に入っていった。
貴史は決して悪い男ではなかった、運動神経もよく、頭も良かった。
しかし非常に暗かったのだ。だから人と話すことはなく、友達といえる人は一人もいなかった。
貴史はベッドに入ってなにか考え事をしていた。
やがて貴史の視線は引っ越してきて一番最初に貼ったブレインのポスターにいっていた。

翌日、寝坊した。
両親に怒鳴られながら、朝ごはんも食べずに自転車をこいだ。
学校には迷わず着いたものの、間に合わず。

「えー、千葉から転校してきた村上君だ。さぁ、君も挨拶して!」いらいらしながら先生は貴史の背中をポンと叩いた。
「えっと・・・村上貴史です・・・よろしくおねがいします・・・」貴史にはこれだけで精一杯だった。
「じゃぁお前はあそこの席だ」
貴史は先生の指差すほうへ歩いていく。
「さて、ホ-ムルームを始める・・・」貴史が席に着いたのを確認すると、先生はホームルームを始めた。
先生の目を見計らって、貴史を後ろの席の奴がつんつん突いてきた。
「何だよ・・・」
貴史は嫌々振り向くと、ボタンを全部開け、真っ赤なTシャツを着、髪の毛を逆立てた妙に目つきの悪い男がこちらを見ていた。

「やるじゃねぇか、転校初日から遅刻なんてよ」
「いや・・・」貴史は男と校舎の屋上で話していた。
高所恐怖症の貴史はその高さと、この悪い雰囲気を漂わせた男に呼び出されたことでビクビクしていた。
ポンッ!と男は貴史の肩に両手をのせてきた。
ドキドキと貴史の胸が高鳴る。
「・・・・・・」なみだ目で男と見つめ合う貴史。
「気に入ったぜ!お前!」その瞬間に貴史は男の腕から解放された。
「貴史ってったか、俺赤間!赤間大地!」
貴史はだんだんと落ち着きを取り戻し、そっと赤間を見る。
「俺よ~、力と威厳はあるんだけど、友達いなくってさ~、ずっとだれか転校してくんの待ってたのよ! そしたらタカ、お前転校してきたってわけよ!」
彼は力強く腕を組み、青空を見つめながら大きな声で喋っていた。
「タカ・・・?」
「お前なかなか骨のありそ~なやつだからさ!友達になってやんよ!」大地はまた貴史の肩を両腕でしっかりとつかんだ。
「あ、あの・・・赤間さん」
「大地でいいよ!」
「だ、大地・・・さん」
「さんいらない!さんいらない!」
「だ、大地・・・」貴史は苦笑いでそう言った。

放課後、二人は部活を見学していた。赤間も部活に入っていなかったので貴史に付き添った。
まずはサッカー部を見た。
「君、蹴ってみる?」と、キャプテンらしき人が言ったので、貴史は無言でボールを受け取り、サッカーゴールを見た。
するとたまたま立っていたゴールキーパーが貴史に蹴ってみろという合図をしたので、貴史は思い切り蹴ってみた。
するともの凄いスピードでボールはグランドを駆け抜け、みごとにゴールに入れて見せた。
ア然・・・。その場が一斉に静まり返った。
大地もこれには驚いた。
「すげ~じゃね~かタカ!見直したぜ!」
「うぐっ!」貴史は大地に背中を強く叩かれた。
「おい、お前サッカー部は入らないか!?」キャプテンらしき男が言った。
貴史もいいかなと思った、その時、
「だめだめ!俺サッカー嫌いだもん、走るの嫌だもん。悪~なぁキャプテンさんよ」
両手を振りながら大地は貴史とサッカー部の間に入った。
「どけよ!お前なんか誘っちゃいねーよ!俺たちは貴史くんを誘ってんだ!どけよ!」
「どけだぁ~?お前一体誰に向かって言って・・・。」
たちまち取っ組み合いの喧嘩になった。
貴史は止めようと思ったが、無意識のうちにグランドを出て、校門まで来ていた。
「何なんだよあれ、全く、いい迷惑だ」ぶつぶつ言いながら歩いていると、どこからかブレインの曲が流れていた。
「何だろ・・・」貴史は音のするほうへ歩いていった。

校舎の中だった。廊下にブレインの曲が響き渡る中、キーボードの音がブレインとは別に聞こえている。
音のする教室に着いた。
ドアには今にもはがれそうな、セロテープでとめてある紙に汚い字で軽音楽部と書かれていた。
「何だろ・・・。」貴史はドアを開けた。
開けた瞬間にキーボードの音は消え、一人の少年が驚いたようにじっとこちらを見つめている。
数秒の沈黙の中、ブレインの曲だけが静かに流れていた。
「もしかして、新入部員・・・?」
「いや・・・」困った顔で返事をした貴史だったが、視線を横にずらすと目に入ったブレインのポスターを見て、困惑の表情が消えた。

「そっかぁ~、転校生かぁ~、わかるなぁ~。」
「え?」
貴史は二人並んで窓辺に座っていた。
「いや、俺も中学校の時にね。」
「そうだったんだ。」
貴史はなんとなく嬉しい気持ちになった。
「ブレイン好きなの?」
貴史はポスターを見ながら聞いた。
「好きだ何てもんじゃないよ~LoveだぜLove。毎日ここでブレインの曲練習してんだぜ!」彼が自慢気に言う。
「さっきのって、ブレインだったんだ。」
「え、わかんなかった?」
「ちょっとね・・・。」
「あぁ~あっ!」彼は右手で顔を隠し、上を向いた。
「やっぱ無理だよなぁ~、ブレインてさ、人気はあるんだけど楽譜とか売ってないからさぁ、わかんなくって」
「テレビにも出てないよな、ホント、謎のアーティストだよ」貴史が嬉しそうに言うと。
「君も?」
「ああ、毎日聴いてるよ」
「だよなぁ~!」
「どの歌が好き?」
このとき貴史は初めて生き生きと喋っていた。
「誰のファンなのよ?」
滅多に喋らず笑顔も見せない少年が
「え~、マジで??」
心の底からコミュニケーションを楽しんでいた。

「高いな・・・」
貴史はその少年、森守と学校の近くにある楽器店にいた。
「モリ、これでも一番安いのか?」貴史はピカピカ輝いているエレキギターを見つめている。
「ブレインの使ってる種類だろ?ジャガーだとこれくらいはあたりまえだよ」
「そうか・・・」

(ジャガーのギターってあんなに高いんだ・・・)貴史は一人、朝来た道を自転車を引いて歩いていた。
(でも、やっぱブレインはすごいなぁ、どこにでもファンがいるんだ)
そんなことを考えながら歩いていた貴史に、一匹の猫が近づいてきた。
貴史は以前、猫を飼っていたことがあったので、猫の前にしゃがんだ。
「お前どこの猫だ?かわいいなあ」貴史が猫を優しくなででいると、後ろから女の声がした。
「チロ!」猫はその声のする方へ一目散にかけていった。
貴史が後ろを振り向くと、同じくらいの女の子がこっちをみていた。
貴史は悪いことをしたのかと思って、すぐに立ち上がった。
「ご、ごめん・・・、かわいい猫だね」

「フランスに?」貴史は出会った女の子、京子と帰り道の河川敷を歩いていた。
「ええ、バレエのプロになるにはすごく近道なの。でも親が許してくれなくて、やっぱり無理なんだって、諦めかけてるんだけどね」
「プロ目指してるんだ、バレエ上手なんだね。」貴史が微笑みかけると、京子は無言で首を横に振った。
「でもさ、諦めることはないと思うよ、夢があるから毎日が楽しいんだし」
「そう思う?そうだよね。私諦めるの早かったね」
「そうだよ、だからもう一度両親にお願いしてみれば?」
「うん!私やってみる!」京子は貴史に微笑みかけると、チロを抱いて走り去っていった。
「頑張って!」貴史はその後姿に言った。

貴史はベッドにもぐっていた。
(あぁ~、お小遣いじゃ足りないしなぁ~、ど~しよっかなぁ~)
感情のままに動いた足が布団を蹴飛ばしていた。
「あ、いけね・・」貴史は布団をなおした。
ふいに視線がブレインのポスターに向けられる。
(夢があるから毎日楽しいか・・・)
「夢ね・・・」貴史は再び布団にもぐりこんだ。

ジジジジジ・・・・!!!
し~ん・・・
目覚ましの音がやっとやみ、貴史は目を覚ました。
「8時かぁ~・・・。」
貴史は昨晩机に座りながら眠ったらしく、起きた瞬間に勉強をしているかのような姿勢になった。
しかし机にひろがっているのはアルバイトに関する広告ばかりだった。
貴史は立ち上がり、何枚か広告を持って家を飛び出していた。

自転車をこぎ、電車に揺られ、長時間歩き、一軒一軒アルバイト先を当たっていた。

帰り道、いつしかの河川敷で貴史は溜息をついていた。
河に向かって投げた小石がピシャピシャと5回ほど跳ねて沈んでいく。そのたびに貴史の心も沈んでいった。
貴史は最後にもう一度小石を投げるとゆっくりと立ち上がり、下を向いてのそのそと歩き出した。
そこへ一台の自転車が現れた。夕刊を積んでいるところを見ると、新聞配達らしい。
貴史は下を向いて歩いていたので、自転車の存在に気づかなかった。
そして不運なことに、自転車側もよそ見をしたり、大声でブレインの歌を歌ったりなどで貴史の存在に気づかなかった。
たちまち激突した。
貴史は軽く飛ばされ、相手は自転車から放り投げられた。
二人は河川敷に向かって、転がり落ちた。
「って~~・・・」二人がそう言う。
「悪~な・・・、ケガはね~か?」新聞配達の男が聞く。
「大丈夫・・・」貴史はそう言いながら滑り落ちてきた自転車に積まれている夕刊をみた。
「新聞配達・・・」

二人は貴史の家とは正反対の方向の大きな大きな坂道を歩いていた。
「でもなぁ、聞いてみるだけだからな、うちは人手足りてんだから」自転車をひきながら新聞男、良が言う。
「頼むよ、どうしてもお金が必要なんだから」
「まさか、カツアゲか?」冗談で言う。
「いや、ちょっと、ほしいものがあって」
「へぇ~、・・・ん?」
貴史と良の足は止まった。
チンピラたちが道をふさぎ、貴史たちを見つめている。
「通行料はらいなよ~。」背の高い男が言った。
「何だぁ?お前ら」良が自転車を止めて前に進んでいく。
貴史はビクビクしながらそれを見ていた。
「払わないの?払わないならシメちゃうぞ」真ん中のパーマがかった男が言った。
「やってみろよ!」良は7人に飛び掛った。
貴史はとっさに逃げようと思ったが、3人ほどの人数に回りこまれた。
「おい!何やってんだ!?」大地が貴史を囲んでいた奴を次々に薙ぎ払っていった。
「大地・・・」
「タカ、何だコイツらは?」
「知らない・・・、急に絡んできたんだ」
「そうか、タカ、一暴れしよ~ぜ!」
「は?」

「聞いてみるだけだからな」3人は新聞社に来ていた、新聞社といっても小さなところだった。
「ああ、頼む」と貴史。
「右、じゃね~や、左に同じ」と貴史の右に立つ大地。
「ふぅ~・・・」良は溜息をつきながら2人を中へ案内した。

「良、遅かったなぁ、また喧嘩か」通りかかった良の先輩が、3人の顔を見て言った。みごとに3人とも腫れ上がっている。
「はは、室長どこっすか?」
「さっき印刷室にいたよ」
「どうもっす」良は軽く一礼すると、「こっちだ」と2人を案内した。

部屋中に印刷機の音が響いていた。
「室長、ちょっとお話が・・・」良は部屋の入り口にいた中年の男に言った。
「ん?」男は3人の醜い顔を見て「う~ん・・・」と唸った。

それから1ヶ月が経った。
貴史、大地は放課後、たった一人の軽音楽部を訪れていた。
「入部届けね、はい、確かに受け取りました」貴史と大地は森に入部届けを手渡しした。
「で、どうする?楽器はここにはないぜ?」
森の言葉に、貴史と大地は顔を合わせ、微笑み、背中からギターを一本ずつ森に見せた。
「ジャガーのギターじゃないか!すごい、しかもブレインのデザインと同じだ!」森は驚いた。
「これで、バンドが組めるね」嬉しそうに貴史が言った。
「うん!」森も大地も笑顔溢れていた。
ガラガラガラッッッ!!
その時、勢いよく部屋のドアが開いた。
「遅れました~」良だった、偶然同じ高校だったので、貴史が誘ったのだった。
「良!」
3人は新しいメンバーを加え、早速演奏することにした。

「では行きます、曲はブレインで、ストライクゾーン」良の合図により、演奏が始まった。
ジャンジャン・・・。
ラーラーララー・・・。
しかし貴史と大地はうつむいたまま演奏を始めようとしなかった。
「ストップ、ストーップ」良は森に言うと、2人に駆け寄った。
「ど~しちゃったのよ~、え~?」
「実は俺たち・・・」と貴史。
「弾けないんだ・・・」と大地。
「はぁ~~??」

「いいか?じゃぁ次はE、Eいってみるからな?Emに人差し指足しただけだから、行くぞ?」
良は一生懸命貴史と大地に教え、森は一人離れて自習練に励んでいた。
「はい、次はC~♪」

日もすっかり暮れ、あたりは薄暗くなっていた。
4人は駐輪場で話していた。
「うお~!指が痛ぇ~!!」
「我慢しろ、そ~やってうまくなってくんだ。アコギなんてもっと痛いんだぞ」良が大地の肩をポンと叩いて言った。
「でもやっぱりいいね、大勢で一つのことをやるっていうのは」
「いい気分だな今日は!」
「おれもそう思う、部員が一日で3人も増えちゃったもんね~」
「そっちかー!」大地が笑いながら森をボンボン叩いていた。
その後しばらく喋って、4人は別れた。

「いってきまーす!」貴史は自転車にまたがって母に言った。
「ちょっと貴史!お弁当は!?」
「あ、あ、いってきまーっす!!」貴史は母からお弁当をもらうとすぐに出発した。
「貴史、朝練だって?」ネクタイを締めながら父が言う。
「軽音楽部に入ったらしいけど・・・あの子ちゃんと弾けるのかしらね?」
「生き生きしてていいじゃないか」ネクタイを締めながら父が言う。
「そうね。さてと、洗濯でもしようかしら」
「あ、あの、母さん?ネクタイ締めてほしいんだけど・・・いっちゃった・・・」

「よ~、タカ!」教室に入るなり、大地が貴史に声をかけた。
「おう大地、昨日はギター練習したかよ?」
「いや、昨日は寝ちまってよ、それに夜だと近所迷惑になるしな」
「電気通さなきゃ大丈夫だろ」
「そっか」
二人は荷物を机に置き、用具をしまいながら話していた。そのうち、貴史が机の中になにか入っていることに気づいた。
(手紙・・・?)貴史は読んでみた。
"授業後 屋上で待ってる”これだけだった。
貴史は何事か見当もつかなかったので、手紙のことは大地には黙っておいたが、部活には遅れるとだけ言っておいた。

「只今より、軽音楽部の練習を始めます!」
「は~い!」森の一声に大地と良が返事をする。
「大地、貴史は?」
「何か、遅れるってよ」
「ふーん、じゃぁマンツーマンで特訓だな、大地」
「お、おう」

(ギター弾きて~!)貴史は屋上に立っていた。
「遅いなあ」誰かを待っているかのようなセリフを言ったとたん、ビュッ!と貴史の足元にほうきが飛んできた。
カランカランッ!
貴史は飛んできた方向を見た。
「あっ!」そして驚いた。
「ごめんね~、遅れちってよ・・・あっ!」
「先公にたばこ没収されててよ・・・んっ?」
でてきたのはこの前のチンピラたちだった、彼等が貴史を呼び出したようだ。
しかし何やら様子が変だった。呼び出した本人達が貴史を見て驚いていた。
「お前等、この前の・・・」
「じゃぁもしかして・・・お前が村上貴史か?」
「そうだ、これよこしたのお前たちなんだな?」貴史は例の手紙を見せた。
「その通りだよ貴史くん」
「てめ~、大将の女に手出しやがって!」
「何のことだよ」
「しらばっくれんじゃねぇ!京子ちゃんのことだよ!」
「京子・・・ああ、別に手なんか出してなんかねぇさ!」
「この野郎・・・やっちまえ!」
一番背の高い男、大将の一声で残りのチンピラが貴史を囲み、あっという間に貴史は気を失ってしまった。

「あーっ!違う違う!何回言ったらわかんだよ!それはGだって言ってんだろ?Cを弾けって言ってんだよ!」
「だから、そうじゃないって!人差し指はここだろ!」
「ちゃんと弦押さえろ!音が出てないんだよ!」
大地に対する良の熱心な指導には決して悪気はなかったのだが、ついに大地が反抗した。
「もういいよ!どうせできなくったって死にゃしねーよ!」
「何言ってんだよ!俺たちチームじゃねぇか!お前一人のせいでメチャメチャになっちまうよ!」
良がこう言った後、大地はギターを乱暴に置き、
「あ~そうかい、じゃぁやめてやるよ!モリ!俺は退部するぜ!」
こう言い残すと大地は部屋を後にした。
「はぁ・・・」
「まぁ気を落とすなよ、そのうち戻ってくるって!」森が言った後、大きな足音が近づいてきた。
「ほら、戻ってきた、おかえり~」
「うるせぇ!ギター忘れたんだよ!」大地はギターを持つと、また去っていった。
「全く・・・」
「まぁまぁ」
「だいたい、貴史はどこ行ったんだよ!」

日がどんどん暮れていくにつれて貴史はどんどん眠くなっていた。
顔を血だらけにし、ずっと屋上に寝そべったままだったのだ。
「ちきしょう・・・!」

「結局貴史は来なかったな」
「大地も戻って来なかったしな」良と森の会話の背後で、「ゲホゲホッ!」と咳払いが聞こえた。
「貴史!」良と森は驚き、すぐさま近寄った。
「誰にやられたんだよ!?」
「この間の・・・あのチンピラに・・・」
「ええ?あいつ等、この学校だったのか・・・!野郎ォ!!」良は拳を思い切り握った。
「気にするな、じゃぁまた明日な」そう言うと貴史は良と森の手を振り解き、自転車にまたがった。
「貴史!」良は貴史を大声で呼んだが、貴史に聞こえなかったのか、無視されたのか、貴史は振り向かなかった。

「ただいま・・・」貴史は誰にも聞こえないように小さく言うと、自分の部屋にこもった。
(ちきしょう!)くっと床を睨みつけるが、視線をすぐ上に向ければ、輝かしきブレインがこちらを見て笑っていた。
貴史はブレインをみつめ、無意識にギターを手にした。
ポロロン・・・ ポロロン・・・
貴史はギターを弾いて、いら立つ気持ちを少しずつ治めていった。

次の日、大地は休んでいた。
貴史は昨日の大地と良の一件を知らないので、風邪かなと思う程度だった。

「では、今から軽音楽部の練習を始めます」
「・・・・・・」森の号令に、貴史はいつもだが、いつも元気の良い良が無言のままだった。
「貴史、ケガ大丈夫?」
「うん、もう大丈夫」
「大地は?」
「休んだ」
「そっか」森は良に視線をやった。
今までに見たことのない、良の沈んだ顔だった。
「リョオ」森の声にやっと気づき、なにやら考えていた良がやっと口を開いた。
「よし、貴史、始めるぞー」良は一人、いつも練習している窓際に向かって歩いていた。
貴史は森と目を合わせ、急いで良についていった。

ポロロン・・・ ポロロン・・・
「上達したな、貴史」
「昨日朝まで弾いてたんだ、ギターを弾くと、心が落ち着く、嫌なことをみんな忘れられるんだ」
貴史のなにげない言葉に、良は納得した。
「お二人さん~」そこへ森がやってきた。
「お二人はブレインの曲の中で何が一番好き?」
「ストライクゾーン」声を合わせていった。
「だよね~」森は何枚か紙を持ってきていて、それを貴史と良に渡した。
「お、これは!」
「ブレインの、ストライクゾーンの楽譜だ!」
「すげー!こんなものがあったなんて!」
「へへ~、昨日徹夜して作ったんだよ!」
「え!すげーな森!」
「いやいや、良、早速弾いてみてくれ」
「おう!任せとけ!」そういって良は楽譜を譜面台に置いた。
しかし不運なことにそのとき風が吹き、たまたま開いていた窓から楽譜が外へ飛んでいってしまった。
「あー!」
「しまった!」
3人はあわててベランダに出て下を見た。
「あった、あそこだ!」貴史が指を指した。
「すまねぇ!ちょっととってくるわ!」良は急いで部屋を出て行った。

「あったあった」良は楽譜に駆け寄った。
「ん?」楽譜まであと数歩というところまで行ったが、良の視線は変わっていた。
「あいつら・・・!」そう、貴史をやったチンピラグループがいたのだ。
「おい!」次の瞬間、良はグループの大将に蹴りを入れていた。
「いてぇ!」その声を聞いた他のチンピラが良の存在に気づいた。
「てめぇ!何しやがんだ!」
「お前等こそ、俺のダチをよくもやってくれたなぁ!」
「あ、こいつ村上貴史の仲間だぜ!」
「何だって!?」
「このぉ、やりやがったなぁ!みんな、やっちまえ!」ようやく立ち上がった大将が命令する。
激しい喧嘩の音、そして飛び交う大きな声に、2階にいる軽音楽部員の2人が気づき、下を見る。
「リョオ!」貴史と森は急いで下へ下りていった。

「お、貴史くんじゃ~ん、またやられに来たの?」
「大丈夫か?リョオ・・・」貴史は良をかばうように立ち、チンピラたちを睨んだ。
「この野郎・・・!」貴史が飛びかかろうとした時だった。
「まぁ待てよタカ」
「ん?」
大地だった、しかも金属バットを持っている。
「大地!」
「久々に遅刻しちまったぜ」大地は貴史ににっこり笑って見せると、チンピラたちをキッと睨んだ。
「おい、今日んところは見逃してくんね~かな、こっちは部活があるんでよ!」
大地は金属バットを大きく上に上げて見せた。
「そ、そうだな・・」
「また、またなっ・・タカちゃん・・・」
そういうとチンピラたちはビクビクしながら去っていった。
大地はそれを見届けると落ちている楽譜を拾い、良に渡した。
「先生、ギター教えてください」
「大地・・・」良と大地はしっかり握手をし、仲直りをした。
「リョオ、俺なぁ、昨日の夜から今までずっと練習してたんだぜ!練習の成果見てくれよな!」
「お、じゃぁ・・・」良は3人の顔を見て言った。
「じゃぁ合わせてみるか!」
「おー!!」

「おおぉぉぉぉぉ~~~!!スッットッライクッゾォォンッ!!」良の合図で演奏が始まった。

それから何日か過ぎた・・・
ガラガラガラッ!!
「ちーっす」元気よく部室に入ってきたのは良だった。
「おい、もうちょっと、静かに、入ってきたら、ふんっ!ど~なんだよ!」
自分のギターの手入れをしながら大地が言った。
「あれ?モリは?」
「まだ来てない」貴史が良に近づきながら言った。
「ったく、しゃーねー部長さんだぜホント」
良が背中からギターを下ろした時、
「おーい!おーい!」森が大急ぎで入ってきた。
「なんだなんだ?」
「はぁ、はぁ、あのさ、伊賀先生がね、今度の学園祭で、4人で演奏しないかって!」森が息を切らしながら言った。
「おぉー!!俺たちが!?」
「学園祭で!?」
「演奏できんのか!?」
「うん!」
「よっしゃぁぁー!!」4人とも大興奮であるが、そこへ貴史が水をさすように言う。
「でも、伊賀先生って・・・」
「俺たちの担任じゃね~か?」
「そう。貴史たちの担任であり、この軽音楽部の顧問でもあるんだ!」森が貴史と大地に言う。
「この部活、顧問がいたのか!?」すっとんきょんな顔で良が言った。
「まあいいじゃない!学園祭で演奏できるんだからさ!」
「そうだな!顧問なんていてもいなくても同じだもんな!」
「そういうこと言うなよ」
「でもよ、なんかプロになった気分だな!」
「な!ブレインになった気分だぜ!」
「俺たちだけのステージだ・・・!」
「わくわくするなあ!」

それぞれの想いを胸に、貴史たちは早速ステージの内容を決めることにした。
「何演奏する?何歌いたい?」
「おい、それよりチーム名だろ」
「やっぱ俺ブレインの曲がいいな、今までも練習してきたし」
「俺もそう思う」
「待て、チーム名が先だ」
「何曲くらい演奏できるかなあ?」
「えっとね、伊賀先生は2時40分くらいから始めてくれって言ってたよ」
「おいおい!学園祭は3時までだぞ!20分しかねーじゃねぇか!」
「20分でもいいじゃない、俺たちのステージに変わりはないんだからさ」
「おーい!!」
急に立ち上がった大地を3人が注目した。

「M、S、M、A、俺たち4人の苗字をイニシャルにした文字だよ。」
「これを並べ替えてチーム名を作るのか~。」
「なあ大地、チーム名なんか別に後でもいいんじゃねぇか?」
貴史が満足気な大地に言った。
「何言ってんだよお前~、大切なことなんだぞこれは~」
「ム、ムスマ・・・」
「そう読むのか?」
「さあ・・・」
「MAMSだとどうよ?」
「マ、マムス・・・?」
「何だそれ?どういう意味だ?」
「さぁ・・・」
「でもいいんじゃねぇか?マムス」
「うん、いいと思う」
「どこが?」
「俺は何でもいいよ」
「じゃぁ決定だな、俺たちはマムスだ!」
「やっぱ変だぜおい」
その後俺たちが過ごした時間はあっという間に過ぎていった。

どんな格好で演奏するのか?
何を演奏するのか?
曲のつなげ方は?
ここのソロがほしい。
みんな真剣に話し合った、もちろん俺もだ。
正直言って、今迄で一番楽しかったかもしれない。
俺にとって赤の他人と過ごす時間がこんなに楽しいと感じられたのは生まれて初めてだった。
ただ一緒にいられればいい、そう思った。
今俺には友達がいる、そして大好きなロックがある。
神様、この人たちとの出会いをありがとう・・・。

「よしわかった、じゃぁ俺はストライクゾーン歌うわ」
「おう、その間に俺たちはパワー溜めてるからさ」
「パワー・・・?」
「うん・・・まあいいや」
楽しそうにステージの構造を練っている良、大地、貴史のそばに森がやって来た。
「ねえ、ちょっと曲作ってみたんだけどさ」
「曲?」森の言葉に、みんな手を止めて駆け寄る。
「俺たちの、オリジナルってわけか?」
「ブレインの曲じゃないんだよな?」
「もちろん!」良と大地の言葉に胸を張って森は言って見せた。
「マムスの曲、"ブレインに憧れて”!」
「はぁ~?」
「ブ、ブレインに憧れてだぁ?」
「何じゃそりゃ?」
「いいか?俺たちが今こうやってるのも全て、俺たちがブレインに憧れてるからなんだぞ? ブレインに憧れてたからこそ俺たちは出会うことができたんじゃないか」
「いや、俺はたまたまタカが前の席に転校してきて、たまたまリョオと出会って、たまたまタカと一緒にギター買ったんだけど・・・」
「俺は河川敷で貴史ひいちまって、んでバイト紹介して・・・」
「とにかく!俺たちがブレインに憧れてることに変わりないじゃないか!俺たちは学園祭でもブレインの曲を主にやるんだからさ!」
「そうだな」
「まあいいや、楽譜ちょうだい」
森が3人に楽譜を配ると、4人は急に静まり返った。
「ランランラン・・・」
「フンフフーン・・・」
「なるほど、いい曲だな、お前すげーよ!」
「タイトルはちょっと変だけどな」
「うん、とても高校生とは思えないよな!」
「へへへ」
「よし、じゃぁ俺サビの部分歌うわ」
「いや、俺が・・・」
「じゃぁ俺が一番歌うよ」
「じゃぁ俺は二番か」
良、大地、貴史は次々に自分のパートをとっていった。
「おいモリ、三番作ってくれ、お前のパートなくなっちまったからよ」という良の言葉に
「いや、俺音痴だから、いい」
「こんな曲作れるってのに、音痴なもんか!なぁ?」
「うん」大地と貴史も音痴を否定する、そこで良は考えた。
「じゃぁこの一番歌ってみろよ」
「わかったよ、そのかわり笑わないでくれよ」
「笑わない笑わない!」
「笑いません」
「よし、俺たち演奏するからよ、頼むぞ・・・」
「おう」
ジャァァァーン・・・ ジャァァァーン・・・ ジャァァァーン・・・ ジャァァァーン・・・
キィィィィィィン・・・ キィッ・・・ キィィィィィィン・・・ キィィィィィィン・・・
トゥリララーン・・・ ガァァァーン・・・
「あ゛お゛い゛ぞら゛は あ゛ぁ゛っ゛ どごま゛でー づづい゛でい゛る゛の゛がー  じろ゛い゛ぐも゛ば~♪」
「こりゃぁひでぇな・・・。」
「わざとっぽいけどな」
「ああ」
「最後まで歌わせてやれ、これで最後かもしれんぞ・・」
「どごま゛でもー!!」

そして本番前日・・・
「えぇ~、いよいよ明日は本番です。今日は真っ直ぐ帰って、早く寝て、明日のステージを最高に盛り上げましょう!」
部長挨拶として森が一言言うと、4人は円陣を組んだ。
「おい、これは明日でいいんじゃねぇか?」
「いや、雰囲気が雰囲気だ、やっちゃお~ぜ」
「よし・・・・・明日のステージ・・・絶対に成功させるぞォォォォォォ!!!!」
「オラァァァァッ!!!」

(いよいよ明日かぁ~)貴史は胸を躍らせ、帰り道を歩いていた。
そこへ京子の猫がやって来た。
「お~、チロ~!」貴史はチロを抱き上げた。
「久しぶりだな~、元気にしてたかオイ!」貴史がチロを激しく撫でていると、京子がやって来た。
「貴史くん」
「あ、お久しぶりです」

いつしか二人は、この前二人が別れた場所、河川敷辺りを歩いていた。
「あの、京子さん」
「はい?」
「俺、明日学校の学園祭で、ギター弾いて歌うんですよ!」
「え?貴史くんが?」
「はい!」
「すごいね~、ギター弾けるんだあ」
「ええ、まあ・・・あの、見に来ませんか?」
「是非!」
「あ、ありがとうございます!」
貴史にとって、女の子とまともに喋ることは初めてだった。
貴史は高鳴る胸の鼓動を “恋” だとは思わなかったが、とてもいい気分だったことに間違いないだろう。

「貴史ー!ご飯よー!」村上家中に、この声が響き渡るが、貴史の返事はなかった。
何故なら貴史は自分の部屋でギターを弾き鳴らし、振り付けも激しく、大声で歌っていたからだ。

ジャァァーン! ジャァァーン! ジャァァーン! ジャッ! ジャッ! ジャァァーン! ジャァァァァーン!!!
ガチャッ!
「貴史ごは・・」
貴史「あ、母さん・・・」
時が止まった・・・。

そして迎えた学園祭当日。
「うぉぉぉぉっ!!スッットッライクッゾォォンッ!!」良の一声でマムスのステージは唸りをあげた!
ジャァァーン!! ジャァァーン!!
キャァァァー!!
一曲目、成功。
思わず4人とも客ではなく、メンバー一人一人の顔を見ていた。
貴史ももちろんそうだった、そしてメンバーを見終えると次に観客を見た、すると一番後ろの席に京子が座っているのがわかった。
(来てくれたんだ・・・)貴史は嬉しかった。
「二曲目~、オンリーダァーッシュッッ!!」良の合図で二曲目、オンリーダッシュが始まった。
ジャァァーン! ジャァァーン! ジャァァーン! ジャッ! ジャッ! ジャァァーン! ジャァァァァーン!!!
キャァァァー!!
「センキュ~ッ!センキュ~ッ!」大地が一声、そして観客席から一斉にアンコールがかかる。

アンコール! アンコール!

「へへっ!アンコールだってよ」良がマイクのスイッチを切って大地に言う。
「俺たちだけのマムスサウンド、聴かせてやるかぁぁぁっ!!」
「行くぜぇぇぇーーー!!俺たちのォー、オリジナルソング!!ブレインにあこが・・・」
「あぁーっっ!!」
その時だった、急に貴史が叫んだのだった。
驚いたあまりに、観客はおろか、同じステージの3人まで静まり返ってしまった。
なぜ貴史が叫んだのか、全員が貴史の視線の先を見た。
それは京子があのチンピラグループに連れ去られているという光景だった。
あちらもこちらの視線に気づき、思い切り走り出した。
思わず貴史まで走り出した、そう、観客を薙ぎ払いながら・・・!
マムスサウンドに酔いしれた観客のムードは一気に消え去り、ざわざわとざわめき始めた。
「一体何なんだよなの野郎ォは!?」大地がステージを降りた。
「おい!お前アンコール曲はど~すんだよ!?」良が聞いた。
「ど~するもこ~するも、逃げるっきゃねぇ~だろぉが!」
大地は貴史の走っていった方向へ向かって走り出した。
「ちっ!しゃぁぁねぇぇなぁ、パ~ティ~はお預けだっ!ごきげんよ~!!」
良も観客をなぎ払い、大地を追った。
「あ~、も~、ど~すんだよも~!!」森も走った!

大地、良、森はすっかり貴史を見失ったが、貴史はチンピラたちを追い詰めていた。
場所はあの河川敷だった。
「お前たち、京子さんをどーするつもりだっ!」
「貴史くん!助けて!」京子は大将に腕を捕まれ、自由に動けなくなっていた。
「貴史、お前が俺の京子に手を出したからいけないんだ!」
「出してないって行ってるだろ!」
「じゃぁなんでステージすっぽかしてまで追っかけて来るんだよ!」
「うぅ・・・!」何も言えなかった、それから貴史は何を言われても黙り込んでしまった。
しかししばらくすると、「京子さん!」誰かがやって来た。
やけに背の高い男だった。青色のスーツを着ている。
「京子さん!どうしたんですか!?」考えられないこの光景に、彼はしどろもどろしていた。
「お前、誰だよ!」大将が聞いた。
「俺は京子さんのフィアンセだ!その手を離せ!」
「フィ、フィアンセ?」大将はショックのあまり力が抜け、京子を離してしまった。
「京子!」
「徹さん!」
さっぱりわけがわからなかった、それは貴史にも同じことだった。
(あの大将はもともと、京子さんのなんでもなかったのか・・・?)
(じゃぁ俺も京子さんの・・・)
貴史は心の中でそう思った、そかしそれは大将も同じだった。
「お前・・・俺の勘違いだったみたいだな・・・」いつの間にか大将が隣に来ていた。
「だから言っただろ・・・」
二人は京子を見た。
二人の視線に気づいた京子はそっと口を開いた。
「貴史くん、私これからフランスへ行くの・・・、徹さんと一緒に。 貴史くんと大将のおかげで決心がついたのよ、両親も説得できたしね」
(貴史くんと・・・大将・・・?)貴史も大将も同じことを考えていた。
「夢があるから毎日が楽しい・・・その言葉にどれだけ勇気づけられたことか・・・二人とも本当にありがとう!」
(・・・・・まてよ、もしかして・・・俺とこいつは・・・)
(同じことを考えてたってことか?)
二人は顔を見合わせた。
「じゃぁ何で京子さんを連れ出したりしたんだよ!?」
「お前が学園祭に託けて京子さんのフランス行きを止めようとしたからだろ!」
「はぁ?なんで俺が止めるんだよォ!」
「お前が京子さんを自分のものにしようとしたからだろ!?」
「なんだと!?との野郎ォ!」
「やめろ!」
「リョオ・・・」いつの間にかそこには良を始めとする3人が来ていた。
「貴史、お前わかったか?」良の一言に、貴史は食って掛かった。
「全くわけわかんねぇよ!」
「ようするにだなぁ、お前と大将は同じことしてたんだよ。 どっちも京子さんが好きで、お互い取りあっこしてたってわけだよ」
「と、取りあっこ?」
「そうだよ。お前はその気がなくたってな、こっちから見りゃ立派な取り合いなんだよ。」
「俺はただ・・・!」
「貴史!お前、恋したことねぇだろ」
「な、何を・・・」
「よぉく覚えとくんだな、それが恋ってやつだ。人は恋をして強くなってくんだ」
そう言うと良は京子と徹に近づいた。
「後は俺たちでなんとかしますから、急いで空港行ってください。まだ間に合うはずですから」
「ああ、悪いね。じゃぁ、行こうか京子」
「・・・・・」
「京子?」
「貴史さん!」
貴史はゆっくりと振り向いた。
「アンコール曲・・・聞き損ねちゃった・・・、聞かせて・・・くれるかな・・・?」
貴史は微笑んだ。

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最終更新:2022年08月28日 00:16