ラグドール | にゃんはろ~!魔法使いさん、フルル! |
モノローグ | 今日もラグドールは、前の日と同じ時間に工房の窓辺へ現れた。 |
ラグドール | チェリーパイ、来てるかにゃ? |
魔法使い | えっと、いない…… |
フルル | 今日もいないの? |
ラグドール | そうだにゃ…… |
ラグドール | もしかして、ラグドールが怒らせたのかにゃ!? |
魔法使い | そんなことないと思うけど…… |
ラグドール | にゃん……チェリーパイがいないなら、今日も魔法使いさんとコンビを組むしかないにゃん。 |
ラグドール | ……って、え?魔法使いさん、何で嫌な顔をしているの?ラグドールの助手になるのが嫌なのかにゃ……? |
魔法使い | そうじゃなくて、ただ…… |
モノローグ | 昨日はラグドールと走り回ったから、今でも足がだるくてしょうがない。こんな状態でまた走らなきゃいけないなんて考えたら、さすがに…… |
モノローグ | とにかく、これは魔法使いがやるような仕事じゃない。 |
ラグドール | しかたないにゃ。魔法使いさんが嫌なら、助手の助手にお願いするしかないにゃん。 |
フルル | 助手の助手って……まさか私? |
ラグドール | そうだにゃん! |
フルル | 「ハローキティ」のプレゼントを配りに行くんだよね?行く行く! |
モノローグ | フルルは快くラグドールの「助手の助手」になり、幸運にも私は休める時間を手に入れた。 |
モノローグ | お茶を1杯入れ、この冬のひと時をゆっくりと満喫しようと思ったとき、微かに窓を叩く音が聞こえた。 |
チェリーパイ | こんにちは、[魔法使い]。 |
魔法使い | あ、チェリーパイだったの?ラグドールが探してたよ。 |
チェリーパイ | 知ってる。私がここにいること、秘密にしてくれる? |
魔法使い | ……あなたたち、まさか本当にケンカとかした? |
チェリーパイ | ううん、ただ…… |
チェリーパイ | ラグドールみたいな妖精と、どう付き合えばいいか分からないの。あのコ……ちょっとテンションが高すぎるから。 |
モノローグ | チェリーパイは憂鬱そうな顔で、本気で悩んでいる。 |
チェリーパイ | 私、ひとりで行動しようと思ったんだけど……すぐつまずいちゃった。 |
チェリーパイ | 「乙女心」ってどうやって集めればいいのか、わからなくて。 |
チェリーパイ | ロゼットさんからは「乙女心」を集めてほしいと伝えられたけど、どうやって集めればいいかまでは教えてもらえなった。 |
魔法使い | え?ラグドールは確か……「ハローキティ」のプレゼントを妖精たちに贈れば、「乙女心」を集められるって言ってたけど? |
チェリーパイ | あのコも私にそう言ったわ。でもそれって結局、推測でしかないと思うの。 |
チェリーパイ | 「ハローキティ」のプレゼントをみんなに配れば、本当に「乙女心」が生まれるの? |
チェリーパイ | ロゼットさんがほしいのは、魔力のようなエネルギーだと思うの…… |
チェリーパイ | こういうエネルギーを集めるには、装置みたいなものが必要だと思うの。集めた「乙女心」はどんな容器に入れたらいいの?どれくらい集まったって、どう計算すればいいの? |
チェリーパイ | どう考えても分からなかった。オーナーさんに聞いても、何も教えてくれなかった。ロゼットさんの代わりに依頼を伝えるだけだから、って言われて。 |
チェリーパイ | だから……[魔法使い]に聞くしかないの。 |
魔法使い | そ、そんなことは私にも分からないけど…… |
魔法使い | でも、よく考えてみて。ロゼットさんの依頼って、2つに分かれてるじゃない? |
魔法使い | 「『ハローキティ』」のプレゼントをみんなに配る」ことと、「『「乙女心」』を集める」こと。(*1) |
チェリーパイ | 確かに…… |
魔法使い | 「乙女心」を集める方法が分からないなら、先にもう1つの方をやってみるというのはどう? |
チェリーパイ | まず、「ハローキティ」のプレゼントをみんなに配ることから……? |
魔法使い | とりあえずやってみるのも、悪いことじゃないでしょ? |
チェリーパイ | うん…… |
モノローグ | チェリーパイはうつむいた。どうやら、考えを巡らしているようだ。 |
モノローグ | チェリーパイは、ひとりでいるのが好きな妖精だ。そんなコにとって、自ら他の妖精に声をかけてプレゼントを配って回るのは難しいことかもしれない。 |
魔法使い | そうだ。一緒に散歩しない? |
チェリーパイ | ……いいけど。 |
モノローグ | 私たちはあてもなく、ゆっくり森の中を歩いた。冬将軍が到来し、森は静まり返ったように思える。まだ雪は降っていないが、空気は冷たく、季節の変化を感じさせてくれる。 |
チェリーパイ | [魔法使い]、何か聴こえる? |
モノローグ | チェリーパイに言われ、微かに楽器の音色が聴こえるのに気づいた。 |
魔法使い | 誰かが演奏しているのかな……ちょっと見に行かない? |
チェリーパイ | …… |
モノローグ | チェリーパイは少しためらいながらも、こくりと小さく頷いてくれた。 |
モノローグ | 楽器を音にたどり、私たちは曲がった細い道に入った。やがて開けた場所にたどりつき、ようやく見つけたのは、弦を弾くイチハツの姿だった。 |
イチハツ | あなたたち、どうやってここへ……コホン。 |
イチハツ | ごめんなさい、こんな場所で会えるとは思わなかったので、ちょっと驚いてしまいました…… |
イチハツ | ごきげんよう、[魔法使い]さん、チェリーパイさん。 |
イチハツ | ……あら? |
モノローグ | 何を見たかはわからないが、イチハツは少しハッとした様子だった。 |
魔法使い | 何を弾いていたの? |
イチハツ | えと、今年の冬を祝うために新曲を作ろうと思いまして…… |
魔法使い | 完成するの、楽しみにしているね。 |
イチハツ | …… |
魔法使い | イチハツ? |
イチハツ | え、あっ。申し訳ありません、少しぼんやりしておりました…… |
魔法使い | ああ。新曲が楽しみだって行ったの。完成したら、ぜひ聞かせてね。 |
イチハツ | ええ……はい、ありがとうございます。 |
イチハツ | 音楽もですが……今年の冬は、何だか今までとは違うような気がします。 |
モノローグ | それからイチハツと少し雑談をしたが、ずっと上の空の様子だった。彼女の視線は、たびたびチェリーパイに向いていた。 |
チェリーパイ | ……えっと、私、顔になんか付いたりとかしてる? |
イチハツ | え?い、いいえ、なんでもありません。どうぞお気になさらずに。 |
イチハツ | …… |
モノローグ | 何やらモジモジした様子。どう見ても「なんでもありません」なんかではない。少しの沈黙のあと、やはりイチハツは再び口を開いた。 |
イチハツ | ……あのっ、チェリーパイさんが着ているのは、「ハローキティ」の服でしょうか? |
魔法使い | (やっぱり、気になったのはそっちか……) |
チェリーパイ | うん、「ハローリリエ」の執行委員になって、この服を着ることになったの。 |
イチハツ | この2日間、「ハローリリエ」の執行委員が「ハローキティ」のプレゼントを配っているって聞きましたけど……もしかして、あなた? |
チェリーパイ | ううん、それはラグドール。あのコも執行委員だから。 |
イチハツ | そうだったのですね。 |
チェリーパイ | …… |
イチハツ | …… |
チェリーパイ | イチハツは、「ハローキティ」に興味があるの? |
イチハツ | えぇ?そ、そんなことはありません……少し気になっただけです! |
イチハツ | そういったかわいらしいものは、私には似合わないものですから。 |
チェリーパイ | 興味があるのなら、試してみても悪くないと思うの。 |
チェリーパイ | [魔法使い]も、「とりあえずやってみるのも、悪いことじゃないでしょ?」って言ってたし。 |
チェリーパイ | ここで待ってて……すぐに戻るから。 |
モノローグ | 言い終わると、チェリーパイは来た道を戻って行ってしまった。残された私とイチハツは、ぼう然と立ち尽くしていた。 |
イチハツ | チェリーパイさん、一体何を…… |
魔法使い | 「ハローリリエ」の執行委員として、やるべきことをしに行ったんじゃないかな。 |
モノローグ | 予想通り、チェリーパイはハァハァと息切れしながら戻ってきた。少しクタクタにも見えたが、かえって、今まで放っていた近寄りがたい雰囲気も和らいだような気がした。 |
チェリーパイ | あげる。 |
イチハツ | これは……「ハローキティ」のぬいぐるみでしょうか? |
チェリーパイ | 部屋のベッドに置いても大丈夫だよ。嫌いじゃ……ないよね? |
イチハツ | 嫌いだなんてとんでもありません!ものすごくかわいいです。ただ……ベッドに置くなんて…… |
チェリーパイ | イチハツが気に入ってくれたなら、それでいい。 |
チェリーパイ | それに、似合わないなんて思わないよ……ぬいぐるみを持ってる姿、とてもいい感じ。 |
イチハツ | うん…… |
イチハツ | 家に置くだけなら、ど、どのみち誰にも見られませんし……たぶん……大丈夫だと思います…… |
モノローグ | ようやく納得したイチハツは、「ハローキティ」のぬいぐるみを抱いて、微笑んだ。 |
イチハツ | 本当にうれしいです。ありがとうございます。 |
チェリーパイ | どういたしまして。 |
チェリーパイ | 私も……うれしい…… |
モノローグ | …… |
モノローグ | イチハツと別れて、チェリーパイと共に帰り道を歩く。 |
チェリーパイ | 私、「乙女心」を集められたのかな……? |
魔法使い | 集められたかどうかはわからないけど、「『ハローキティ』のプレゼントをみんなに配る」という仕事なら、うまくできたと思うよ。 |
チェリーパイ | この仕事……思ってたより、難しくないかも。 |
チェリーパイ | やっぱり、オーナーさんの言う通りだった。 |
チェリーパイ | 「どうしたらいいか分からない時は、魔法使いのところに行きなさい」って。 |
チェリーパイ | ありがとう、[魔法使い]。 |
チェリーパイ | これからどうすべきか、分かってきた気がする。 |
*1 原文ママ